バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
黒の組織としての計画は、突入は交渉が終了した瞬間を狙う、という手筈であった。
前提として、今回の一件は全てがルパンの手のひらの上にあることを押さえておく必要がある。
ヴェスパニア王国から件の鉱石を盗み出したルチアーノと、そのヴェスパニア鉱石を求めるジランバ共和国工作員アラン・スミシーをわざとぶつけて潰し合わせる一大奇術。
それが決まれば、あとはルパンがヴェスパニア鉱石を悠々と取り戻すだけ。
実にスマートなルパンらしい奇策である。
であるからして、今回の私の任務もルパンの策の流れに沿えば自然と達成される。
こそっと影に隠れていさえするだけであら不思議、任務完了というわけだ。
私は倉庫街に響くルチアーノとアラン・スミシーの言い争うような声を聞きながら、キャンティへとインカムで連絡を取った。
「キャンティ、緊急事態です。取引相手の様子がおかしい……交渉が決裂、そのまま今、銃撃戦へ移行しています」
『なんだいそりゃ。まぁアタイらは仕事が楽になっていいけど』
困惑したキャンティが『ドローンはいったん様子見で下げるから』と言ってドローンの操作に入る。私は気配を絶って現場待機だ。
倉庫内では喧騒が続き、ルパンの登場とともに銃撃戦が一層激しくなっていく。
それにつられるように、何処からともなく出現した銭形警部が「逮捕だルパーン!」と威勢のいい叫びと共に車ごとルパンに突貫。
ルパンにひょいと避けられ、そのまま車は道の向こうの海の中へドボンと沈んでいった。
僅か10秒足らずの出現で皆に忘れられない印象を残していく銭形警部、流石である。
若干居た堪れなくなって、持ってきた救命用の浮き輪をこっそり海に投げ込んでおく。
別にこの程度銭形警部なら平然と生き残るんだろうが…黙って見ているだけってのも申し訳ないので。
と、そうこうしているうちにコナン君の手先であるFBIも到着したらしい。
FBIを顎で使える小学一年生とかいう概念に若干の違和感を覚えなくも無いが、今回は目をつぶろう。
つぶし合うルチアーノとアラン・スミシーを纏めて獲物とするルパン、そしてそのルパンを捕り物とするFBI、という構図で一旦倉庫内の空気は硬直した。
戦況のバランスが取れているというか、この辺はコナン君の采配だろう。
死傷者がなるべく出ないように配慮したのだと思われる。
FBIのジョディさんに銃口を向けられているルパンだが、私の隠れている場所に一瞬目線を向けてウィンクした。
……どうやって私の居場所を察知したんだこの人。
獣としての嗜みで気配を隠すのは得意なのに、やはり妙な第六感を持っているとしか思えない。
三者三様の思惑の元、銃を向け合う現場は混迷を極めている。
隙あらば逃げ出そうとしているルチアーノ一派を銃撃で牽制する次元さん。
弾幕をその身一つで無力化する人型兵器・五エ門師匠がその場を制圧、しかし公権力としての手広さと安定性でルパン一味の動きを押し留めるFBI。
あと車ごと沈んだまま浮かんでこない銭形警部。
そろそろ銭形警部の救助に向かうべきか、ちょっと判断に迷うところ。
助けに行ったところを平然と起き上がった警部に手錠をかけられる気がしないでもないし。でも浮いてこない……遅いな…大丈夫かな…。
キャンティが隠しカメラで内部の様子を確認して、インカムの向こう側で暇そうにため息をついた。
『これ、まるっきりアタイらの出る幕ないね。早いとこ切り上げて帰るのもアリじゃないかい?』
「途中でほっぽり出すとジンに怒られますよ」
『あーー、暇。せっかくアンタと一緒にぶちかましまくれると思ったのに。なぁコルン』
『ん。残念』
「まあまあ、明後日の狙撃ゲームでこの憂さは晴らしましょう。そういえばキャンティ、僕の紹介したTVゲームってどうでした?」
『ああ、あのイカが水鉄砲を打ち合うゲームね。中々いいんじゃない?血しぶきが飛び散らないのも悲鳴が上がらないのも気に喰わないけど、なかなか骨のあるやつが多いのはいい』
『キャンティと一緒にやった。意外と楽しい』
私の都合で狙撃ゲームがなかなかできないことに不満があった二人を何とかなだめようと、つい先日私が渡した大手レーベルのシューティングゲームだ。
本職には物足りないだろうが、一般人相手に狙撃ゲームをし出しても困るからな。
ちなみに私はゲーム中でも世をはかなみたくなるほどノーコンで、少年探偵団の皆に散々けちょんけちょんにされている。
「安室の兄ちゃんどこ撃ってんだよ。そっちに敵はいねーぞ」という元太君の真顔の突込みが私の心を傷つけた。知ってるし……そっちに敵がいないことぐらい知ってるし……。
雑談してるうちに事態が動いた。
まるで無力に徹していたアラン・スミシーが素晴らしい腕前でルパンを狙って銃撃したのだ。
あの角度ならギリギリ、ルパンだけでも避け切れたはずだが……コナン君がルパンを庇って肩を撃たれる怪我をしたようだ。
吹き出した血がコンクリートに赤黒いシミを作っている。
「……少し出ます」
『え?ああ。皆殺しにでもする気かい?』
返事もそこそこに、念のため持ってきていた狐面を被って申し訳程度の身分隠しにする。
そして音もなく外側から倉庫の屋根に登り、アラン・スミシーの背後になるよう位置取りする。
このままではコナン君の乗った飛行機内で機銃の一斉掃射が乱れ飛んだ挙句、自衛隊機によって撃墜されてしまう。
あれで生き残っているのは正直言って奇跡だ。
私でも死ねる状況であり、流石に原作を信じて黙して見送るというわけにはいかない。
爪を取り出し、狙いを定める。
アラン・スミシーは悪い人間ではない。情があり、祖国を思う心があり、正しい倫理観を備える。
大量殺人犯の私などよりよほどいい人と言えるだろう。
それでも。
私の希望、この深い闇夜を照らす主人公を害すことだけは許すことはできないのだ。
───ほんの少しでも脳幹をずれれば、失われるのはあの子の命だぞ
───勿論、失敗する気なんてさらさらありませんよ。一撃で痙攣一つ起さず仕留めてみせます
私の気配が分かったらしい次元さんが小さくため息を吐くのが見えた。
五エ門師匠は微動だにしない。
ルパンの表情は動かない。ただ一つ瞬いて、静謐に私を見つめているだけだ。
そして、ヒョウのようにしなやかに無音のままに飛び降り。
息を呑む音。見開かれる眼。
相手の頭の裏から脳幹を狙った一撃が、過たず頭蓋を刺し貫き。
ごとり、と倒れ込むアラン・スミシーの手からぐったりとするコナン君を取り返し、私はほっと安堵の息をついた。
ルパンは足元に転がるヴェスパニア鉱石を拾い、ニヤリと笑ってやれやれと肩をすくめたようだった。
「坊主に嫌われても知んねーぞ?」
「言わないでください。考えないようにしてるんですから」
次回、与太話…幽霊とかホラーとかの箸休め番外編