バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
「で、どうするの?夕暮れまでもう時間が無いよ」
相も変わらずゲラゲラと騒ぎ立てている幽霊マダムを尻目に、コナン君がまだ青さの残る顔で問いかけた。
太陽は山々の間に身を隠す一歩手前。もう15分もしないうちに日も暮れることだろう。
私は年季の入ったワンボックスカーを降り、その場で屈伸した。
「ひとまず、僕が突貫してくるよ。幸い武器には当てがあるし」
「えっ、ちょっ、待って、安室さんって霊能力者とかそういうアレなの?」
わざわざ一緒について降りてきたコナン君が、視界の端に映るマダムに嫌そうな顔をしている。
いかにも、っていう見た目だもんね…。見れば見るほど恐怖が半端じゃない。
「うーん、霊能力者かどうかは分からないけど、魂に関しては一家言あるよ。一度目の襲撃で追い払えたのも武器があったからだし」
「それを霊能力者って言うんだと思う。僕、安室さんはそういうの信じないタチだと思ってた」
「二重人格にはいろいろあるんだよ。魂がないと説明がつかないこととか、そういうのがさ」
実際私と降谷さんの魂は別々で、その魂が具体的なイメージを伴って触れ合う場所として深層心理の空間が作成されている。
幽霊を見たのは初めてだが、見えてもおかしくはないと思っていた。
そういえば五エ門先生も一度幽霊を見たことがある、みたいなことを言っていた気がする。
ルパンワールドなら幽霊がいても何もおかしくないしな。まじっく快斗には魔女も出ることだし。
コナン君が「僕にできることある?」と口調は子供ながら視線は工藤新一の鋭さを秘めて聞いてくるが、なにをしてもらうかについては少々悩ましい。
「そうだな……ここで待っててくれないか。できれば車の外に出たまま、立ってるだけでいいから」
「え……そんなんでいいの?」
「うん。危なくなったら逃げて君の後ろに隠れる」
「ちょっと!!!僕を盾にする気!?僕はいたいけな小学一年生だよ!?」
「どうしてそこまで堂々と小学生ぶれるんだ、偽小学生君」
別にそんなんじゃないってといっても信じないようで、ぷりぷりと肩をいからせて怒っている。
本当にそんなんじゃないし、なによりコナン君に危険は一切ないから問題ないのだがなぁ。
「何故かあの赤色のマダム、君のことが嫌いみたいなんだよ」
「……はあ?」
たぶんコナン君が「光の魔人」だからなんだろうが、まったく凄まじいまでの効果だった。
なにせ初撃で襲われた時、誤ってあのマダムがコナン君に触れた瞬間「ぎぃゃああああ」と悲鳴を上げて焼け爛れていったのだから。
私は身を守るので精一杯だったというのに、コナン君は寝こけたままだし。
とはいえ、降谷さんが車の運転中だったから事故らないようにするのが大変だっただけで、こうして車から降りたフリーの状況なら互角以上の戦いができるとは思っている。
……うん、冷静に考えるとどうして私は幽霊とタイマン張ろうとしてるんだろうね。
ジャンルが行方不明だよ。
「じゃ、行ってくるよ。早めに蘭さん達を何とかしないと影響が残らないとも限らないからね」
「ああ。気を付けて。……ったく、蘭のことこれから笑えねーぞこんなの…」
コナン君が小さくぼやく。
蘭ちゃんはホラーが苦手だったようだが、この分ではコナン君も多少思うところが残りそうだ。
実在しないと思っていたから怖くなかったのに、実在する脅威として出現したんじゃ恐怖の方向性が違ってきてしまう。
古びたトンネルに一歩足を踏み入れれば、異常なまでに冷えた空気が肌をねっとりと嬲る。
トンネルの内側の壁には不格好な鳥居の絵と、その鳥居に首をくくる棒人間がいくつも白いチョークで描かれていた。
これも因習村の風習だろう。
なにせ、ご神木の近くに書かれてあった絵とそっくりだからな。
降谷さんと私の魂を練り上げ、体表から出した部分を物質化させる。
不可視の爪は鋭利且つ特殊。物理的に切り裂くほか、触れた魂を液状化させ吸収することも可能だ。
液状化の方は危険性も含めてもう二度と使う気はないが、霊体に対する特効も期待できるだろう。
瞬間。
ゴキブリじみたカサカサした動きで高速でマダムが接近してきた。
私の顔を覗き込もうとぐるりと上体を曲げる。
そこで、軽く無防備な目を爪で一閃。
マダムは目から血を吹き出しながらもんどりうった。
噴出する血の量がやけに多い。これは……なんらかの意味があるのか?
それによく見ればマダムの首に絞められたような跡が見える。
すれ違うと同時に片足を切り落とす。機動力をそぐためだ。
霊なんだから足なんぞ使わなくても問題ないかもしれないが……やれるだけやってみるのも悪くは無かろう。
マダムはぎゃあああああ!と絶叫した。
声を聞いた瞬間内側の降谷さんがふらっとしたようだが、私には特に何の効果も無い。
どうやれば消えるのかわからなかったため、そのまま全身をめちゃくちゃに切り刻む。
どうやっても全身の質量より多い血がドバドバと噴き出て、それが弱まると同時にふっと掻き消えた。
あっさり過ぎる。
まさか本命はほかにいるのか?
タオルで返り血をぬぐい、内心で降谷さんもややぐらついた声色で応えた。
───大丈夫ですか?
───問題ない。っくそ、まだ頭がぐらぐらする。首が絞まったような妙な心地だ
───首?ああ……なるほど、そういう流れですか
「大丈夫、安室さん!」
「問題ないよ。これで圏外も復旧……してないね。蘭さん達は?」
「さっきおじさんを揺さぶってみたらむにゃむにゃ言ってた。もう大丈夫そうだよ」
「そうか、それは良かった。あとはエンジンが復活するのを確認するだけか。本命は別にいそうだけど……まあ、僕たちがそこまで深入りする話じゃないしね」
「……」
本命は別にいる。それを聞いて、コナン君は表情を暗くした。
恐らくはコナン君も本命について当たりはついているのだろう。
「あの女の人、首に絞められた跡があったね」
「見てたんだ。ああ、そうか君には望遠機能付きのメガネがあるし、あの距離からでも見えるか」
「うん」とコナン君が犯人追跡メガネの機能を起動させた。さっき見たものを思い返すように。
そうしてゆったりと彼は口を開いた。
「……あの村では、生きたまま舌を抜いた人間を首を絞めて殺し、ご神木のある森に埋めていた。立件できたのは今回の3人だけだけど、捜査次第ではもっと大勢の遺体が出てくる可能性があるよね」
「そうだね。僕たちも、あのマダムは被害者だった可能性が高いと踏んでいる」
「それに、あの女の人からたくさん血が出てたでしょ。多分だけど、『森への捧げもの』という役割からそうなっていたんじゃないかな」
因習村の信仰は恐らく、山に始まる。
「おやまさん」と呼ばれる神様を祭る風習が規定となっていて、それすなわち御山さん、ということだ。
山自体を神格化するのは日本各地を見渡してもよくあることで、たとえば。
ご神木は割と近年になって後付けされたものだと思われる。
秋の実りに特別な意味を見出している記述があるので、山が赤く染まれば染まるほどご利益があった、ということだろう。
生き血を珍重するのは、生物の生き血をささげることでより山が色づく、という理論に基づいているはずだ。
また、古文書から察するに、山の豊穣を願って行われた動物の死骸を吊るす儀式がいつからか過激化。人のいけにえを要求するようになり……近年になり開拓の波が訪れ一旦廃れる。
その伝承が今回、遺産相続をめぐる殺人を隠ぺいするために使われた……という流れだ。
今回の犯人の行動は結構場当たり的でずさんだったので、トンネル内のチョークは犯人の描いたものではないだろう。
悪戯という線も考えにくい。
すると、かなり近年まで人の生贄は続いていたという事になるが……。
「生き血が酒の代わり……あくまで相手は神、ということかな。いやはや、血なまぐさいことこの上ないな」
「そんな有害なもん、UMAで十分だよ。妥協して妖怪だっつの」
コナン君がため息をついてワンボックスカーへと戻っていく。
試しにニヤリと笑って背中から声をかけてみた。
「マダムが現れたのはトンネル中腹…山頂あたりか。いってみるかい?」
「冗談。これをきっかけに粘着されたんならともかく、自分から藪をつつく趣味はねーよ」
地の底は古来から、黄泉の国がある場所とされる。
山頂から比べればここ、トンネル内は十分に地の底だ。多くの人命がささげられた山を貫くトンネル工事。
チョークの絵は、あるいは本物の生贄の『代わり』の役割を果たしていたのかもしれない。
日はついに沈み、あたりには暗闇が立ち込め始めている。
…後顧の憂いを無くすため、本命の方を爪で吸収する、という手もあったな。
そんな風に考えながら、私もコナン君の後を追ってワンボックスカーに乗り込んだ。
エンジンは何の不調も無かったかのように駆動して、私たちが毛利探偵事務所に着くころには午後十一時を過ぎていた。
・バボ主
実は本命の方もやろうと思えば消化できてた。
そうした場合、蛇とトカゲともつかない謎の「おやまさん」と深層心理内で同居することになってた。