バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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「ルパン一味へ」ルートに決定しました。



純黒の悪夢④

 

 日本に帰ってきて急ぎコナン君のところに戻れば、公安がキュラソーの身柄を確保したようで病院は騒然としていた。

 一方的に案件を横取りされたことに抗議する捜査一課が険悪な空気を出している。

 それを意に介しもしない公安部……風見を中心とした警視庁公安部のメンバーがぴしゃりと最後通告を述べる。

 

「これはお願いではなく命令です。ご理解いただけますか」

「………我々に情報を共有することもできないんですか」

「はい」

 

 目暮警部の譲歩にも頑として応じず、ある種模範的な公安警察として風見さんは陰険そうにメガネを上げた。

 根は素直かつ実直な人なのに、ああも嫌味かつ威圧的に振る舞えるとは、人とは分からないものである。

 

 その周囲では優しいお姉さんを取られた少年探偵団たちがキャイキャイ騒いでいる。

 キュラソー本人も困った顔でいるあたり、相当に小学一年生のパワーという洗礼を受けたようだった。

 

 「安室さんも言ってよ!」と歩美ちゃんに全身だいしゅきホールド──右足に掴まるパンダ状態──を決められたが、この件について私ができることは何もない。

 ははは、愛いやつらめ。残念だがその女性は風見オジサンにまかせなさい。

 おお、元太君よ私を中心にぐるぐる回るでない。

 

 ふと。

 こうやって子供たちを愛でることもこれからは難しくなるだろうことを思い、私は郷愁に似た不可思議な感覚に浸った。

 囁くように「元気でね」と言えば、上手く聞き取れなかったのか光彦君が「?今何か言いましたか、安室さん」と純粋無垢な瞳で聞き返してきた。

 

「なんでもないよ。病院で走り回るのは危険だから、廊下は歩こうね」

「はい!」

 

 元気のいい返事だ。

 私はくしゃくしゃと光彦君の頭を撫ぜ、そのまま警察官たちが無言で牽制し合うとげとげしい空間に足を踏み入れた。

 目暮警部のわきをすり抜け、風見さんにそれとわかるようににっこりと笑顔を向ける。

 

「どうも」

「ッ、!?」

 

 軽く会釈すれば、風見さんがこちらを見てぎょっとした。

 が、その動揺も一瞬だった。

 次の瞬間には平時のお堅い仏頂面に戻り、性格の悪そうな仕草で目を細めた。

 

 流石は公安警察のはしくれ。あれだけのことがあったというのに、その動揺を瞬時に抑え込んでみせたのだ。

 

 しかし、風見さんの隣にいた公安警察はそうではなかった。

 どうやら周囲にいる公安部の連中は風見さんの部下らしい。

 私が子供たちと一緒にいるのを見て、驚愕して狼狽えている。

 まるで殺人犯が子供を人質にとって暴れているのを目の当たりにしたかのような表情だ。

 

 風見さんがちらりと目線をこちらへやってから、次に廊下の窓から病院の裏を流し見た。

 これ即ち「病院裏にあとで集合」の意味だ。

 降谷さんが「風見のくせに俺を呼び出すとはいい度胸だ」と冗談めいて笑った。どうやらこちらも調子が戻ってきた様子で何よりだ。

 

 すると佐藤刑事が公安部の民間人への挨拶も返さない様子に鼻白みながらも、私へと話しかけてきた。

 

「あら、安室さんじゃない。どうしてここへ?」

「コナン君が不審な女性を見つけたと聞きまして。念のため確認がてら依頼の途中で抜け出してきたんです。それにしても物々しいですね。何か事件でもあったんですか?」

「それが……私達も分からないのよ。公安部が突然出張ってきて。一体あの人が何の事件に関係しているのやら」

 

 佐藤刑事が怒り半分、困惑半分に唸っている。

 

 こう毎度毎度顔を合わせていると佐藤刑事ともずいぶん親しくなれたけど、日本警察がフォックステイルの素顔として降谷さんの顔写真を公開するのもそう遠くないはずだ。

 その時の佐藤刑事の反応が恐ろしいやら楽しみやら。

 

「首都高もあれでしょう?これだけの大事件だから、裏に何か大きな組織がいても不思議じゃないんだけれど……ウチ(捜査一課)はおろか、組対(組織犯罪対策部)も何も知らないって言うし」

「で、公安案件だったというわけですか。彼らの秘密主義にも困ったものですね」

「本当にそうなのよね!」

 

 軽く「NOCリスト流出の件を連絡しなかっただろう」とあてこすれば、はたで聞いていた風見さんが土気色の顔で胃のあたりを押さえた。

 これがいわゆるパワハラという奴である。

 内側で降谷さんが「風見ぃ…お前あとでどうなるかわかってるんだろうなぁ…」と悪い顔で笑っている。

 あの反応からして風見さんはNOCリストの顛末について何も知らなかったろうに、みんなして虐めてくるとは哀れなことよ。

 

「なら、公安が相手では僕がいても教えてはもらえなさそうですし、クライアントとの約束がありますので僕はこの辺で」

「ええ、安室さんも気を付けて」

 

 挨拶もそこそこに佐藤刑事とは別れて、わざと時間がかかるよう病院の階段をゆったりと降りていく。

 すると奥にいた黒田管理官と頷き合い、「我々は少し出る。お前たちはここで待機していてくれ」と部下に言い置いた風見さんが病院エレベーターに乗って一階まで下りていく様子が確認できた。

 

 とん、とん、とん、と米花中央病院の階段を降りていく。

 エレベーターもエスカレーターもあるここでは、わざわざ非常階段を使う客は少ない。

 

 一歩ずつ軽快に、踊るようにとんとんと階段を下りていく。

 反響する革靴の音がリズムを刻み、私たちの決意をそっと祝福してくれる。

 

 騒がしい1Fロビーを通り過ぎ、駐車場に面した裏通りへと人波を逆走する。

 自動ドアを出れば、トラック等の搬入用の出入り口の近くに大きなロータリーと駐車場が備え付けられている。

 その脇に、風見さんと黒田管理官の姿が見えた。 

 

 風見さんがうつむいたまま、こちらと目線を合わせようとしない。

 顔色は相変わらず悪く、握りしめた拳も震えている。

 

「……降谷さん」

「───これを、受け取ってください」

 

 風見さんの言葉を遮り、降谷さんは黒田管理官へと一通の封筒を差し出した。

 降谷さんは一礼し、折り目正しく……しかし確固たる意志をもってその白い封筒を手渡そうとしている。

 

 何の変哲もないコンビニで買った白封筒だ。

 その中に入っているものを正しく理解できたのか、風見さんの顔色がまた一段青くなる。

 

 黒田管理官は封筒から中に入った一枚の用紙を取り出し、日の光の下ぱらりと開く。

 そこには規程に沿ったフォーマット通りの書式で、PCで作成されたと思しき特徴のないお堅い文字列が並んでいた。

 氏名、降谷零。所属、警察庁警備局警備企画課。日付、××年××月××日。退職事由、───。

 

 それは、既定の用紙に記入された退職届であった。

 

 黒田管理官は手元の用紙から顔を上げて、降谷さんへと問いかけた。

 

「どうする気だ」

「少なくとも、公安は降谷零という存在を必要としていないことは確かですから。僕は僕なりに日本のためになる道を探します」

「そうか」

 

 降谷さんは相手が黒田管理官だからか、改まった「僕」という一人称を使った。

 普段の一人称が「俺」なのは、恐らくは私と区別をしやすくするために気を遣っていたのだろう。

 原作でも基本彼の一人称は「僕」だ。

 

 こうして少しずつ、私という存在は彼から何か大切なものを奪っていくのだ。

 一人称という自由。公安という職業。

 

 黒田管理官が重苦しそうに口を開く。

 

「……止められず、済まなかった」

「いえ、僕らがやり過ぎたのは確かですから。処分も当然かと」

 

 その裏にどんな思惑があるかは分からないが。

 端を発したのは、私の大量殺人に間違いあるまい。

 暴走したバーボンを止めるため、という名目で切り捨てが行われ……あわよくば死んでくれないかと計画が練られた。

 

 これは事実だが……それを座して受け入れなければならないかと言えば、そうではない。

 私達には抵抗の自由があり、また同時に日本を愛し続ける自由がある。

 

「ですが。……組織の情報を僕があなたに送り付けるのは個人の勝手ですよね?」

「ふ、なるほどな」

「組織は潰します。日本から害悪を取り除くため、力を惜しむつもりはない。どこの道に進もうと、僕の忠誠は変わらず桜の代紋とともにある」

 

 桜の代紋、すなわち五角形の旭日章。警察の紋章である。

 逮捕権も無い。警察でもない。それどころか、裏の組織に身を置くただの大量殺人犯というのが今の肩書だ。

 客観的な正義なんてそのどこにもありはしない。

 

 それでも。

 

 私たちはルパンの後姿を間近で見て。

 嘆く姫君を助ける姿に、世界を揺るがす巨悪を討つ姿に、弱者に寄り添うその思いに。

 

 そこに確かな真実と正義の片鱗を目撃したのだ。

 

「お前はこれから、正式に国際指名手配犯となる。捕まれば実刑は確実だ。そして、日本警察もまたお前を捕まえることに全力を尽くすだろう」

「覚悟の上です。……フォックステイルは新参とはいえルパン一味。そうやすやすと捕まえられはしませんよ」

 

 「ならいい」と黒田管理官は少しだけ笑った。

 

「お前には敵が多い。特に、ルパンに苦汁をなめさせられた組織は数知れず。それが我々(公安)と結びついている可能性も否定できない。他国がここまで日本の計画に協調したのもそれが原因だろう」

「……そうですね。大きな利権をつぶしたことも一度や二度じゃないですし」

「やりすぎだ。もっと大人しくできなかったのか」

「ルパン一味に大人しく、は無理がありませんか」

「……まぁ、な」

 

 「あの」とそこでようやく風見さんがおずおずと口を開いた。

 何か言いたげにこちらを見るのに、ちっとも言葉が出てこないらしい。

 開いては閉じを何度か繰り返し、風見さんは何とか言葉をまとめたようだ。

 

「貴方を、上司として、人として尊敬しています。これからもずっと」

「………ありがとう、風見。お前もがんばれよ」

 

 「俺より偉くなってみろ」と降谷さんは柔らかく笑い、風見さんは苦笑して「それは流石にちょっと難しいかもしれません」と応えた。

 ノンキャリで警視より上なんて無理だ。とはいえ、言うだけならタダだろう。

 

 あっさりと降谷さんは踵を返し、すたすたと歩き去っていく。

 これが今生の別れとは限らないが、そこには近しい何かがある。

 

 私はくるりと降谷さんと交代し、一度だけ振り返って彼らに一礼した。

 はっと息を呑む音がして。

 

 ただ、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 あとはコナン君と合流して手早く情報共有の時間である。

 

 キュラソーの色を利用した特殊な記憶術のこと、ほかのNOC達の顛末、組織の動き。

 語ることは色々あったが、どれも時間が無いため手早くまとめた。

 なにせ夜逃げを本格的に準備しなければならないからな。規制線が敷かれる前に日本を出発しなければ面倒なことになる。

 

 なので長くなりそうなこの話は後回しになって……できるなら面倒だし話したくないけどやっぱり話さなきゃダメだろうなと逡巡して、重たーい口を何とか開き……。

 

 私はコナン君を上目遣いで見やった。

 

「それと、なんだけど」

「なに?」

「あのー、えーっと、つまり……───辞表を出した。今後は好き勝手動くと伝えておいたから、君もそのつもりで」

「ぶっ!?!?」

 

 私があまりにも言いよどむものだから、見かねた降谷さんが横から口を出した。

 ああ!そんな率直に言うなど!コナン君がどれほど荒ぶられるか!

 

 想像通り、コナン君はギャース!!と目を三角にしてお怒りになられた。

 恥じることは何もないと胸を張る降谷さんを添えて。カオスかな。

 

「早まらないでねって僕言ったよね!?!?」

「即断即決が俺の長所だ」

「短所だよ!!」

「───まあ、今回の公安の決定の裏にどんな思惑があろうと、ここまで信頼関係が崩れてしまえば残留してもお互いのためにならないからね。仕方ないよ───とまぁ、そういうわけだ」

 

 「はぁ……」と深海並みに深いため息をついて、コナン君は両手で顔を覆った。

 

「ただの組織幹部かつルパン一味の男という特大の爆弾が生まれてしまった…」

「今までも爆弾だったからそう変わらないよ」

「安室さんも開き直るのは止めて。僕、前に知り合った銭形警部に話をして降谷さん達をICPOの方で巻き取ってもらえないか相談してたのに…」

「───いや、いくら何でも大量殺人の前科がある捜査官がICPOなんて普通に無理だろ。その前に俺達ルパン一味だぞ」

「でも情報を日本警察に流してたじゃない。いや、いろいろ掛け合ったけど結局駄目だったからいいけどさ…」

 

 なんでも、銭形警部の方は乗り気だったのだが、上層部に止められたとのこと。

 これ以上問題児が増えるのはごめんだったのだろう。銭形警部も、あれはあれで上と馴染まない人だからなぁ。

 

 その点、上層部とすぐ仲良くなれるコナン君は鬼に金棒だったらしく、結構いいところまで行ったらしい。

 しかし私が実際問題大量殺人鬼であったことがネックとなり、最終的には話は流れてしまった、と。

 

「───凄いなコナン君は。俺も上とはそりが合わないことがほとんどだったというのに。一体どんなマジックを使えば『いい線まで行く』なんて話し合いができるんだ?」

「僕は普通にお話ししてただけだよ。ちょっと父さんには相談したけど」

 

 親の威光すげーな。いや工藤優作氏ともなればあらゆる箇所に顔が利きそうだけれども。

 そしてそこまでして私をかばってくれた小さな名探偵君にも感謝の念が絶えない。

 

 あとは……今後の話ぐらいのものか。

 

「ひとまず、組織に継続して潜り込みながらメインの籍はルパン一味に置こうと思っているよ。公安や君に組織の情報を流しつつね」

「大丈夫なの?本格的にお尋ね者だよ」

「そこは任せて。ただ、なんにせよキュラソーが組織に奪還されるのだけは阻止しなければならない」

 

 キュラソーが組織に戻れば、芋づる式に降谷零という本名もバレて、結局公安に所属していたことがばれてしまう。

 そうなれば元の木阿弥。

 ルパン一味の手を借りて物理的に組織をつぶすよりほかないだろう。

 

 それもありと言えばありだが、選択肢は多いほうがいい。

 

 私はコナン君に軽く一度ウインクして、真面目そうな顔を取り繕った。

 

「この後公安はキュラソーを観覧車へ連れていくはずだ」

「……記憶を取り戻させようとするのか。そしてそれを組織も読んでいるはず。狙うなら今日、夜の東都水族館か!」

「そうなるね。流石の公安も対僕……ウルフドッグ作戦を展開するのはしばらくは先だろうから、できれば記憶喪失のキュラソーをルパンにぶん投げてから素知らぬ顔で組織に戻りたいところだけど」

「死亡偽装は大丈夫なの?」

「そこはルパンの力を借りる。ルパンへの借りがデカくなってきてるけど、この際仕方ないかな」

 

 ルパンは「気にしなーい、気にしなーい。こういう時ぐらいオジサンを頼るんだっての!」と言ってくれている。

 本当にルパンおじさん様様である。

 後で美味しい穴場の地酒をいっぱい買おう。ルパン用に水晶を斬鉄爪でくりぬいて彫刻を施した酒用グラスとか作ってもいいかもしれない。

 

 決戦は今夜。

 

 私達が日本にいられるのも今日限り。

 まだ日は高い。できる限りのことをして、別れを惜しんで名残惜しんで。

 

 そうして、私たちは羽ばたくのだ。

 

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