バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
夜を五色に彩る観覧車が美しいその曲線美を暗い夜空に映している。
優美なそこに響くは激しい銃撃音。
肌を市販のファンデーションで白めに偽装し、黒髪のかつらをつけての簡易な変装は意外とうまくいった。
元の降谷零が特徴的な見た目であるが故、ぱっと見でこの姿が降谷零だと気付くものは少ないだろう。
水族館周辺にベルモットがうろついている可能性も考慮して、念の為変装していたが……今後指名手配されるにあたっても必要となってくるかもしれない。
夜逃げの準備を済ませてきた私は、現在夜の東都水族館に来ていた。
ジンの方には急遽電話をかけて「嫌な予感がするのですぐに日本から離脱します。知り合いの刑事に妙な反応をする人間がいたため、万が一があるかもしれませんので」と言って日本離脱の許可を得ている。
返事は「気を付けろよウルフドッグ。サツは意外と狡猾だからな」とのこと。
やはり持つべきものはジンからの信頼よな。話のスムーズさが違う。
これで一応、東都水族館に私っぽい人が現れてもアリバイ工作としては成り立つだろう。
今後の私の動きとして間違った情報というわけでもないしな。
ちなみにだが、キールは直前にキュラソーから来たメールで無罪放免となっている。
恐らくは原作通り、コナン君と阿笠博士がキュラソーのスマホをハッキングして偽情報を送信したのだろう。
時刻は3時間ほど前のこと。
ちょうど私がキールを追い立てているところだったので、タイミングとしてはバッチリであった。
あともう少し遅ければキールを殺害に見せかけて離脱させなければならなかったからな。間に合ってよかった。
鉄爪に嬲られた傷跡だらけのキールは「だから私はNOCじゃないと言っていたじゃない!冗談じゃないわ!」と一緒にいたRUMへ向かってハチャメチャに怒っていた。
私に向かって怒らない辺り、あくまでウルフドッグは道具という認識なのかなぁと思う今日この頃。
別に怖すぎて私には噛みつけないとかそういう話ではないと思う。たぶん。おそらく。
その後、「今回だけですよ、キール」と老獪で食えない笑みのRUMを残して東都へUターン。
キールの撤退が遅れたのは、元々来葉峠の一件からジンに疑われており、本巣のCIAと密に連絡が取れていなかったのが原因だと思われる。
しかしそれも怪我の功名。
事前に逃げ出さなかった点でRUMもキールを白と判断したようだ。
全身毛を逆立てた猫のように私を睨むキールになんとも言えない気持ちになりながら、私は後ろ髪を引かれる思いで東都水族館に戻って来たのであった。
現場はもうすでに鉄火場と化していた。
組織の戦闘ヘリが遠慮なく銃をぶっ放し、本来原作で爆弾解体の人員であったはずの降谷さんがいない状況でそこがどうなっているかはまったくわからない。
軽く作業員の服と帽子を着用し、全速力で観覧車内部の非常階段を駆け上がる。
道中ちらっと見えた影に駆けよれば、コナン君が必死の形相で配電盤に偽装された爆弾を解体している途中であった。
「コナン君!」と叫べば、彼は驚いたように目を見開いた。
「安室さん!まだ日本にいて大丈夫なの!?……じゃなくて、爆弾解体って出来る!?」
「───俺の方なら心得がある。どうした?」
「この爆弾、複雑すぎて僕じゃ解体しきれないんだ。任せてもいい?」
「勿論。君が頼るのはいつも安室の方ばかりだからな。たまには俺も頼ってくれ」
途中までコナン君が解体してくれたおかげで、全解体までの時間はそうかかからないはずだ。
だが、このままでは観覧車の滑落は免れない。
コナン君の策でヘリのバランスを崩したとして、苦し紛れに銃撃で観覧車の片方を落とすのは必定。
それを止めるため、子供たちを守るため……このままではキュラソーは死ぬだろう。
するとその時、手早く爆弾を解体中の降谷さんが私に話しかけてきた。
───この爆弾なんだが、あのぶんぶんと小うるさいヘリに投げつけられないか?銃撃音がひどすぎて気が散って仕方が無いんだが
───で、できますけどダイナミック処理方法過ぎません!?
───お前の腕力で投げつければ簡易ミサイルみたいになる気がする
それはそうだが、いくら何でもパワータイプ過ぎないか?
いや、投げたブーメランで木を切り倒すほどの力で爆弾を投げれば、それはまあ質量的な意味も含めて結構な攻撃力になるとは思うが。
遠くに気配が一つ、アクロバティックにものすごい勢いで下へ降りていく。
アレがキュラソーなのだろう。
子供たちをかばって、ひいてはコナン君たちをかばって、彼女は死地へと向かってひた走るのだ。
外ではルパン達が張っているはずだ。
彼女の身柄はルパンに任せればいい。あとは私たちが彼女の犠牲無くして、観覧車を止めればいいだけ。
───解体完了、だ。凄いな彼は、底意地の悪いギミックを除いてほとんど解体してあったぞ
───よかった。では、この爆弾は持っていきますか。上の見晴らしのいい場所なら気にせず投げられますからね
───お、本当に投げるのか。面白くなってきたじゃないか
面白いってなんだよ。
ミスったら私たちが爆死だぞ…いや、爆弾を投擲武器にするってちょっとわくわくすることは本当だけれど。
爆弾を赤井秀一のものらしいライフルバッグに詰めて、小さな子供と大人の二人組、すなわちコナン君と赤井さんのペアの元へと走り出す。
階段を何段飛ばしに駆け上がり、銃撃の止んだボロボロの観覧車内を抜けて。
コナン君たちは、垂れ幕が破れて夜空に浮かぶ戦闘ヘリが良く見える位置にいた。
「やあ、コナン君。爆弾は解体しておいたよ」と声をかければ、コナン君はほっと一息ついたようだった。
赤井さんがくいと親指でヘリを指差し、かすかに笑った。
「安室君か。どうだ、あのヘリも君なら爪で落とせないか。前に地下鉄を盛大にバラしていただろう」
「あのヘリまでジャンプするすべがありません。フックをかけても紐が銃撃で千切れてしまうだろうし。というか、僕が落としたって秒でバレるようなことはしませんよ。中にはジンが乗ってるんですし」
「全員始末してしまえばいい。ああ、だがロープが千切れてはどうしようもないな。何事もズルはできないというわけか」
冗談めかして肩をすくめる姿は様になっていて、まるで洋画のワンシーンのようだ。
降谷さんが内心で痰が絡んだような顔をしている。ホント貴方赤井さんの事嫌いだな。
「そうでもないですよ。僕たちはこの爆弾をあの軍用ヘリに投げつけるつもりですから」
「!それは……当てられるのか?」
「当てます。腕力に不足はないし───俺もコントロールをミスるつもりはない。同時にコナン君は花火ボールを打ち上げて爆発音を偽装してくれ」
「……分かったよ。この後の処理を公安が隠蔽しやすくするためだね。降谷さんもお人よしなんだから」
「俺はどうする?」
「爆発でよほどのことが無い限り仕留められるとは思うが、万が一がある。赤井は花火に乗じてローターを撃ち抜く準備をしておけ」
「了解。爆風で激しく揺れるヘリのローターを狙撃、か。簡単に言ってくれるな」
「次元大介ならできるが。お前は無理なのか、FBI?」
降谷さんが鼻で笑う。
もう降谷さん公安ですらないのに……どうしてFBIを敵視するのか……。
いや、ただの犯罪者がFBIを敵視してるんだから一周まわって健全なのか?
赤井さんは「安い挑発だ。だが、できないと一言で切り捨てるのも忍びない。やれるだけやってみるさ」とニヒルに笑った。
この爆発については花火の音に紛れさせれば、後日の発表も多少は楽になるだろう。
イベント用の花火に引火して、とか大嘘をついて戦闘ヘリ銃撃の話も沈静化させることができる。
風見さんの仕事も少しは減るはずだ。
「───じゃあ行くよ。僕がいることがばれたらまずいから、銃弾は弾けない。撃たれたら各自避けてくれ」
「無茶言わないでよ!」
「すまんが、俺たちは君とは違う。銃弾は弾けないし避けられない」
「そこはほかにマジで選択肢が無いので頑張ってください。生きたいなら避けるしかないという事で一つ」
などと軽口を叩きあいつつ、爆弾を構える。
深呼吸。息を合わせて、私と降谷さん両方が表面に浮かぶ。
目を開く。腕に力を籠める。
瞬間。
「そぉらァッ!!」
軽く助走をつけ、全身のばねを使っての力を降谷さんのコントロールでもって解放する。
爆弾は過たず戦闘ヘリの胴体へとぶち当たり、チカッと激しい光をもたらした。
次いで強烈な爆風と衝撃波。
ヘリコプターの尾と左側面がばらばらに吹っ飛んだ。
同時に上がった花火が爆発の音を隠しきり、人々の目を奪う。
キャンティが驚嘆すべき操縦の腕でかろうじて体勢を立て直し、残った右側の機銃を回転させようとするが……そこで赤井さんがローターの片側を銃で撃ちぬいた。
いよいよもってバランスを崩した機体が、たまらず海の方へよろよろと不時着をしようと撤退していく。
しぶといジンはあの程度で死ぬことはないだろう。
この場面で組織の忠実なオールラウンダーであるジンを潰せたならばかなり有利な盤面に持ち込むことができたのだろうが、そううまくはいかないということか。
さて。
私が肩をぐるぐるとまわして首をひねり疲れをとっていると、赤井さんが背中越しに話しかけてきた。
「いくのか、降谷君」
「───なんだFBI。まだ話でもあるのか」
それにこたえるのは素早く私を押しのけて表へ浮上した降谷さんだ。
そんな私を押しのけてでも赤井さんと話したかったのか…意外と仲が良い……まで思った瞬間、凄い形相で降谷さんに睨みつけられた。
冗談冗談、ほんの戯れですってば。ほんとに。
赤井さんは塩対応の降谷さんに薄く微笑みかけ、肩のライフルを担ぎ直した。
「改めて言わせてくれ。明美を助けてくれてありがとう。俺は君の正義を知っている。誰がどう思おうが、君たちの理念を知っている」
「……助けたのは安室の方だ。俺は何もやっていない」
「ふむ。言葉選びを間違えたか」
意外そうな顔で赤井さんは息をついた。
そして澄んだ緑の瞳が真っ直ぐにこちらを見る。
「君たちの、正義と真実とを志す思いは何より尊い。そう、俺は思っている」
降谷さんはしばらく沈黙して、それから詰めていた息を僅かに吐いた。
「……FBIのくせに生意気なんだよ」
「そう言う君は公安ですらないようだが?」
「天下のルパン一味だからいいんだよ。働きぶりなら下手な組対(組織犯罪対策部)より上だ」
「失礼、それもそうだな」
二人の間に致命的な因縁はない。
スコッチは生存して、宮野明美は幸せに隠遁生活を送り、宮野志保と時折優しげな顔で連絡を取り合っている。
国境という壁はあれど、それはごくごくありふれた障害に過ぎないのだ。
降谷さんはややあってから笑って、そのまま何も言わずに奥へと引っ込んだ。
後を継いだ私は大きく伸びをして、それからコナン君と赤井さんに小さなメモ用紙を渡した。
「───じゃ、これが僕らの電話番号だから。何かあったらそこに掛けて」
「いいの?」
「いざという時に連絡できなきゃ不便だろうに。警察に漏らさなきゃそれでいいよ」
「心得た。なあボウヤ、俺もビュロウという立派な警察だという事は突っ込むべきか」
「ノーコメント。そんなだから赤井さんは降谷さんと仲悪いんだよ」
「そうか?分からん」
コナン君たちが良く分からない凸凹コントをしている。
先行きは必ずしも晴れやかではないけれど、なんとなく明るい気持ちになってしまう。
スマホがピロピロと気の抜けた音を立てる。
ルパンからの着信だ。
『よぉ、キュラソーちゃんは無事確保したぜ。じゃ、とっととずらかるとするか。オメーの指名手配もそろそろ来るだろうしよぉ』
「ええ。ありがとうございます、ルパン。すぐ合流します」
私は二人にぴらりと手を振り、背を向ける。
気ままに、軽やかに、愉快に、自由に。
それがルパン三世の一味というものであり、これからの私たちの在り方でもある。
そうして、私たちは本日。
渡り鳥のように天高く、イルカの群れのように自由に、日本を飛び立ったのであった。
・RUM
ウルフドッグを危険視している。
裏切りの心配という意味ではなく、「分不相応の兵器を持てば身を滅ぼす」という危機感から来るもの。
組織の影響力に対してバーボンの戦力が分不相応にデカすぎるのを危惧している模様。