バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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土日はお休みです。


アジトで会議

 

「フォックステイルの正式な一味入りを祝って!かんぱーい!」

 

 どんどんぱふぱふー、とルパンが軽く飾り付けたアジト内で声を上げた。

 わざわざ小さなおもちゃのラッパまで用意したのか、妙にサイズの小さいそれを吹いて安っぽい音を出している。

 

 現在、アジトで酒盛り中。

 メンバーはルパン、次元さん、五エ門先生、ふらっと現れた不二子さん、そしてキュラソーである。

 キュラソーは成り行き上連れてこられただけなので、少々居心地悪そうにソファの端っこで姿勢を正して座っている。

 

 ごちゃっとしたアジト内は片付けや清掃といった言葉とは無縁で、それが余計にパーティー感を醸し出していた。

 

「あ。これ、僕たちからのあいさつの品です。受け取ってください」

「おおー、安室ちゃんてば真面目~」

 

 お歳暮に似せた四角い箱の贈り物を用意していた紙袋から取り出せば、次元さんから「ルパンも見習った方がいい」とヤジが飛ぶ。

 これは各メンバーに用意した特別なお礼とあいさつの品である。

 中身は今朝作ってきた水晶の酒用グラスとおすすめの地酒セットだ。

 

 それぞれデザインが違い、例えば五エ門先生なら上り龍と雲のぐい飲み、不二子さんなら大輪のバラが彫られたワイングラスなど。

 緻密に細部を削り込んで作った透かし模様もあり、ワイン等色のついた飲み物を入れると柄が浮かび上がる仕掛けも完備。

 美しさにおいては比類ないと言い切れる渾身の仕上がりとなった。

 

 早速箱から取り出してルパンが一緒に入っていたにごり地酒を注いだ。

 五エ門師匠もそれに続き、ぐい飲みに「おお」と軽く声を上げてから先ほどまで飲んでいた日本酒を注ぐ。

 不二子さんはちょっと迷った後、軽くグラスにキスをする仕草をして箱にしまった。よく見れば唇もグラスには触れていない。そのままこちらへウィンクをひとつ。

 

 不二子さんへの苦手意識が消えない降谷さんが「うっ」と身をのけぞらせた。

 これがもしベルモットだったなら、降谷さんは盛大に吐き散らす鳥のアスキーアートみたいな顔をしていたことだろう。

 そろそろ降谷さんの女嫌いを治したほうがいいと思うのだが……いったいどこから手を付ければいいのやら。

 

「ささ、キュラソーちゃんも。ワインもブランデーもあるぜ?」

「ありがとうルパン三世。いただくわ」

 

 余った通常のワイングラスに年代物のワインを注ぎ、キュラソーは優しげな仕草でそれを口に含んだ。

 なお、五エ門師匠はぐい飲みを片手に、前に私が作ったレゴブロック初代石川五右衛門を眺めながら静かに酒を楽しんでいる。

 というかまだあったんだそれ。場所取るから撤去しようぜ。

 

 今はもう。

 私の指名手配は、既に行われている。

 

 安室透名義で、顔写真付き。

 降谷零を出さなかったのは、身内の不祥事と知られるのを恐れたためか。

 なにせ潜入捜査のことを伏せてしまうと、警察官として在籍中に悪事を働いていたことになる。

 しかもルパン一味として時価何十億にもなるような莫大な窃盗を繰り返すという大不祥事。

 どれだけの首が飛ぶかわかったものではない。

 

 アジト内に散らばる新聞や雑誌はすでに読み終えた後のものだが、そのどれもが世紀の大悪党、安室透のことを報じている。

 どれほど殺したのか、何を奪ったのか。

 組織の名前を出さない範囲で悪名を強調するように書き連ね、徹底的に非難する。

 

 しかし同時に世間のフォックステイル人気を反映するように、比較的好意的な記事も散見されるカオス具合だ。

 ルパンがそのうちの一つをつまみ上げ、シシシと悪戯げに笑った。

 

「こっちの新聞もあっちの新聞も安室ちゃんのこと取り上げて、ずいぶんと大人気だこと!」

「日本では結構派手に動きましたからね。ネットは『フォックステイルの正体は男だった!』って話題でもちきりみたいですけど」

「妖艶な狐ちゃんなら俺様も大歓迎なんだけどなー」

「───あいにく俺たちは男だ。その手の要素は不二子さんに任せた」

「あら。貴方たちも素養がありそうよ。どう、あたしと一緒に仕事しない?」

 

 はは、ご冗談を。

 私は不二子さんのお誘いを軽く辞退した。

 人間関係の海を飛び回るのは私には荷が重い。馴染むことはできても切り捨てられない私では、いずれその楔で自らを締め付けることになるだけだ。

 

 机に置かれたルパンのワイングラスをキュラソーがまじまじと見て「これ、『狐の彫刻師』の作品よね。時価数十億は下らない品を一体どうやって手に入れたの?」と問いかけてくる。

 記憶喪失に陥る前に比べて彼女もずいぶんと口調が優しい。

 

 前は割とキャンティと似たようなタイプだったというか、強烈なチンピラ風だった性格が一転。

 おしとやかな中に芯の強さがある、鮮烈で美しい人となっていた。

 

 そして同時に、そんな新たな自分を大切にしているであろうことが理解できた。

 それだけ少年探偵団、すなわちただの無垢な子供たちとのひと時は彼女の価値観に大きな影響を与えたのだろう。

 

「『狐の彫刻師』は僕ですよ。それも、元手は大きな水晶の購入代金ぐらいなものですから。キュラソーもいりますか?」

「!?!?……ますます分からない人ね。それだけ世界に名をはせた彫刻家でありながら、ウルフドッグなんて汚れ仕事をしているなんて。金に困ることなんてなかったでしょうに。それとも、公安警察が本職のつもりだったの?」

「そんなものです。まぁ、今は本職を失ってしまったので残る職は彫刻師とルパン一味、組織幹部ぐらいのものですが」

 

 公安警察であること、二重人格であることは既にキュラソーには打ち明けてある。

 

 ただ、その反応の第一声は「公安への内偵?ウルフドッグには向かない任務じゃないかしら」だったが。

 だれが組織が公安へ差し向けた内偵やねん。本職が公安なんだよ。

 

 うしろからしなだれかかる不二子さんが、私へと妖艶にほほ笑んだ。手には私たちの選んだ地酒の入ったグラスがある。

 どうやら普通のグラスで飲むことにした模様。彫刻グラスを大切にしてくれているようで何よりだ。

 

 そのまま「ねぇ、あんなチンケな組織の幹部なんてやめて彫刻で本職にならない?」とお誘いを受けるも、ルパンがワイングラスを持ったまま憤慨して立ち上がった。

 後ろから抱きしめられ、豊満な胸が顔に当たっている。

 

「オメー不二子ちゃんに抱き着かれるなんて羨ましすぎる!!抜け駆けは卑怯だぞぉ!!」

「いやいやいや待ってください困ります降谷さんは女性不信なんですよコレはまずいですって!」

「ウブなのね。それで、返事はどうかしら?」

 

 不二子さんのイイ笑顔にはめっちゃマージン貰おうって魂胆が透けているが、組織を潰した後はそういう道もいいだろう。

 

 降谷さんも凝り性でこういうデザインを作るのが好きみたいだし。

 私も彫刻作業のような細かい工作は好きなほうだ。

 

「その選択肢は老後の楽しみとして取っておきたいですね。───現役のうちは日本を守ることに注力したい。もう公安に籍は無いが、心はそこに預けてあるからな」

「残念。また気が変わったら教えて頂戴」

 

 するりと頬を撫ぜ、不二子さんは私の額に唇で触れるだけのキスを落とした。

 ルパンはさめざめと泣いている。情緒不安定かな。

 

 「若人は不二子ちゃんと抱きしめ合い、俺様は銭形のとっつぁんとさみしくタチ飲み屋台で世間話ってか……」と黄昏れているが、銭形警部と世間話とかナニソレ詳しく話を聞きたい。

 銭形警部とルパンって、ただ追う追われるだけじゃない不可思議な絆があるよね。

 

 「何を話したんです?」と問いかければ、ルパンはゴホンと咳ばらいを一つ。

 あーあーあー、と出した声は見事な変声術によって銭形警部の声を再現してみせた。

 

「『真面目な若者が悪の道に堕ちざるを得なかったのはワシとしても歯がゆいばかりだ。……あの若者を頼んだぞルパン』だとさ。それと、その時に渡されたのがこっちの手紙だ」

「手紙?いったい誰の……」

 

 角2の大型封筒の中をぱらりと開けば、手書きで簡潔な文字の記されたコピー用紙が一枚。

 

 前略

 公安辞めました。

 連絡一つよこさないで姿をくらましたお前を追うため、私立探偵として明美ともども銭形警部にお世話になります。

 草々

 

「!?!?!?!?」

「おいおい、こりゃかなり怒ってるんじゃねーか?」

 

 次元さんが私の手元を覗きこんで面白そうな物でも見るように笑った。

 ナンデ!?スコッチ=サンナンデ!?

 コレはまさかコナン君経由でようやく情報をつかんで、直接連絡をよこさなかった私達への怒りの表明という事か!

 下手をすると工藤優作氏と組んで銭形警部の戦力増強とかいう酷い事態になる気がする。

 

 不味いぞ……これはまずい……と戦慄していると、封筒の中身がこれだけではないことに気が付いた。

 中から出てきたのは一冊の本だ。献本、と書かれたメモが挟んである。

 

 タイトルは『ゼロの爪痕』。

 緋色の捜査官の続編のようだ。作者はもちろん工藤優作。

 血糊を描いたおどろおどろしいハードカバーの表紙に、静謐な字体でタイトルが印字されている。

 奥付の情報から察するに、まだ正式な発売日は先らしい。

 

「俺も読んでいいか?」

「次元さんがですか。こういうのには興味が無いと思ってました」

「そりゃ、タイトルからしてモデルがあからさまだからな。興味も出るだろ」

「必死に目をそらそうとしていたのに……───というか、それよりヒロにどう謝ればいいんだコレ。絶対ちょっとやそっとじゃ許してもらえない文面だぞ…」

「そこは自分で責任取れ」

 

 次元さんはすげなく言い放って本を読む態勢に入ってしまった。

 

 アジトの夜はこうしてゆっくり更けていく。

 明るくやんちゃに。愉快にしっとり。

 

 飲み過ぎて頭痛に悩まされる降谷さんを添えて、明日の朝までゆったりまったり騒ぐのだ。

 




・『ゼロの爪痕』
 公安部の優秀な捜査官である男が失踪した───。
 多くの謎と陰謀の香りを残して。
 …から始まる本格ミステリー。
 ほどよくボカされた元ネタと緊迫したスリル、アクション多めの異色の雰囲気が売り。
 映像化が切望されている。
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