バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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本編 血の刻印③

 

 どでかい種もわからぬワニやら、たくましいドーベルマンやらが闊歩する屋敷にて。

 

 ここは氷室の根城である屋敷の一つだ。

 警備は日本の家屋らしからぬ厳重さで、どちらかと言えば警備員よりも動物による警備網が多め。

 人がたくさんうろうろしているのを氷室が嫌ったからかもしれない。

 

 そこを私たち4人、すなわち次元さん、五エ門さん、私、降谷さんで探索していると、そこで1人の少女を見つけることができた。

 

 名は美沙。

 

 麻紀ちゃんのお姉さんにして、八百比丘尼の血を継ぐ不死者である。

 私たちが美沙さんをなんとか助け出そうとしたそのときであった。

 

 切れ味ゆえに無音。

 しかして戦慄すべき殺気。

 

 障子を切り裂いてたわむシャムシールが如き細身の刃が私たちに迫る。

 

 驚いて飛び退くと、その向こう側にいたのは粘ついた笑みを浮かべる、氷室のボディガードの男であった。

 

 原作知識によると、確か名前は影浦だったか。

 氷室の部下にして達人級の剣士だ。

 

 しばらくは混戦であった。

 次元さんの銃撃を二刀ある剣の片方で弾き、もう片方で神速の斬鉄剣を受け切る。

 どころか押し込み押し返し、五エ門先生は防戦一方だった。

 

 まさに激戦。

 2人を相手になおも圧倒する影浦の信じられない強さに、私たちではとても立ち入る隙がない。

 というか普通に無理。

 あそこまでいくとバトル漫画の領域だ。かめはめ波でも持ってこない限り私に勝機はない。

 

 と、そこで戦況が動いた。

 五エ門先生の放った小刀が影浦に弾かれ、美沙さんの喉を貫いてしまったのだ。

 

 五エ門先生が動揺したところを、影浦は容赦なくシャムシールのような薄く細身の刀剣で突き刺した。

 脇腹を突かれた五エ門先生が苦悶の声をあげて片膝をつく。

 

「五エ門先生!」

「来るな安室!お主では勝てん!」

 

 劣勢の中飛び出したはいいものの、五エ門先生すら防戦一方の達人相手に私が敵うはずもなく。

 一合、二合と打ち合って技量の差を嫌というほど思い知る。

 

 駄目だ、私程度の技量では撤退する隙すら無い。

 額に冷や汗が垂れる。

 完全に失策だ。自分から虎の穴に飛び込む馬鹿野郎だ。

 

 にやり、と影浦が笑う。

 

 瞬間。

 軽く幻惑の一振りを打ち払ったところ、無防備な胴体を派手に切り裂かれてしまった。

 

 熱するような痛み。そして窒息。

 両肺が血で埋まり、折れた肋骨もそのままに大量出血する。

 

───な、馬鹿、な……息ができな…

───ゼロ!気をしっかり持ってください!今縫合します!

 

 素早く糸状にした魂で肺を縫い、骨を固定する。

 血は薄く平く伸ばした魂を皮膚のように貼り付けることで止血。

 肺胞一つ一つに物質化した魂を挿入して溢れた血液を追い出し、実体化を解いて気道を確保。

 

 ぶっつけ本番の大事業だ。

 「ほう?」と私の決死行を興味深そうに影浦が見つめている。

 

 傷がひとりでに塞がっていくところが不思議なのだろう。

 だが魂を飴細工のように扱って負担がかからぬはずもない。

 

 だんだんと意識が暗く落ちていく。

 降谷さんの方は降谷さんの方で出血多量が響いたのか、もはや呂律もままならない。

 

 敵を眼前に意識消失とか、次に目覚めたらあの世だった、を本格的に覚悟せねばなるまい。

 これは九割がた死んだな。

 死ぬ時は本当にあっけないものだ。私の失敗で降谷さんを巻き込んでしまったことだけが心残りだ。

 

 せめてもと降谷さんの魂を抱え込み、私の転生に加えられないか試行錯誤する。

 ああ、時間がない。意識が暗く沈んでいく。

 

 影浦を挟んで出口側に立つ五エ門先生と次元さんならば、私達を置いて逃げることぐらい容易いだろう。

 

 

 叫ぶ五エ門先生達の声を最後に、私達の意識は深い黒に囚われていった。

 

 

 

 

 

 目が覚めたら、そこは実験施設のようだった。

 

 ッシャオラ生きてる!!

 生きてるならどうとでもできるし降谷さんも無事!

 

 思わず内心でガッツポーズしたが、状況はあまりよろしくない。

 私は裸に近い入院着のまま全身拘束されており、降谷さんは気を失ったまま。

 

 しかも傍に気配が一つ。

 目隠しされているから見えないが、この男は私が意識を取り戻したことに気がついたようだ。

 カツカツと革靴の音を響かせて私の方へも歩み寄ってくる。

 

 「お目覚めかな?」との問いに私は何も答えなかった。

 男はふん、と軽く笑う。その声は氷室のものだ。

 

 たしか氷室は武器商人として数々の兵器を各国に売りつけており、八百比丘尼の財宝を狙うのも新兵器の開発のためだったはず。

 

「影浦から報告があったよ。君も不可思議な不死の能力があるようだな」

「…それはいささか過剰な評価ですね。僕のこれは不死とはとても言い難い」

「なんでもいいさ。君が眠っている間に君の身体は全て調べ上げた。あいにく常人の肉体と相違なし、と出たがね」

 

 残念そうに首を振る気配がする。

 

 それはそうだろう。なにせ、私の行なっている小技は全て魂が由来となっている。

 魂の専門家である転生者として、魂の物質化や形態変化、親和、融合、侵食などなど。

 各要素をファンタジーに実践適用しているだけなのだから。

 

 しかし死の商人たる氷室はそのような結果では満足しなかったようだ。

 

「そこで考えたのだよ。君ならば美沙の血液に適合するやもしれない、と」

「!」

 

 美沙さんの血は細胞を活性化させる作用があり、劣化版八百比丘尼と言っていい性能を発揮する。

 しかし副作用が強く、効果は限定的。

 細胞の活性化自体は確認できるものの、不老不死にはとても及ばない。

 

 まさかこいつ、私に美沙さんの血を注射する気か!?

 美沙さんの血を注射された被検体は皆激痛に大暴れしているんだぞ!?

 それで何人の被検体を無駄にしたと思ってるんだこのマッドサイエンティストめ!

 

「馬鹿な、そんなもの成功するはずがない!止めろ、僕に近寄るな!?」

「結果を楽しみにしているよ。では、実験と行こうか」

 

 目隠し越しでも氷室が微笑んでいるのごわかった。

 やばい!あんな副作用の強いファンタジー血液を注射されたら本気で死ぬ!

 

 注射針が皮膚を貫通する。

 そして血液が針を伝って体内に侵入して。

 

「が、ぎァァアアアアアっ!!!」

 

 血が打ち込まれた地点から火かき棒でも当てられたような痛みが身体中に蔓延する。

 細胞が軋んでいるようだ。

 気絶していたままだった降谷さんが痛みのあまり覚醒し、そのまま絶叫をあげている。

 

 間違いなくやばい、こちらの魂はまだ疲弊したままだというのに!

 無理をおして自らの魂をもう一度緻密に変形させ、美沙さんの血を魂の網で一箇所にまとめ魂内に取り込む。

 

 私がどうなるかわからないが、このままでは最悪共倒れだ。

 魂を拡張して、包んで隔離、という地道な作業を繰り返す。

 

 降谷さんの方は痛みがひいたか、もう一度気絶したようだ。私が肩代わりできたようで何よりだ。

 

 どうやら半霊的な血液らしく、私の魂にまで侵食して魂を肥大化させていく。

 無理やり風船みたいに膨らまされている気分だ。

 

 血液の凄まじい霊的カロリーに、魂ファット、デブ魂になりかけている。

 なんちゃって。寒いギャグしか出てこないほど眩暈がひどい。

 魂を無理やり拡張されて、凄まじい痛みで全身が張り裂けそうだ。

 

 

「ふー、ふー……」

「耐え抜いたか。ではその不死性を確認しよう」

 

 なんとか血の副作用に耐え切った私に対し、氷室は冷静な顔で私に拳銃を向けた。

 

 死……ぬ。

 心臓に一発、肝臓に二発。

 

 不死の能力を獲得できたか確かめているのだろう。

 銃創から大量の出血。重要な臓器が破壊され、逆流した血液が口から噴き出る。

 

 私はもう一度、物質化した魂を編んで傷口を塞いでいく。

 こんなもの仮止めにしかならないが、やらなければ死ぬ。

 決死行、死の川を渡るような気の遠くなる作業を朦朧とした意識でこなしていく。

 そして損壊した臓器に対して、魂に溜め込んでいた美沙さんの血を魂を介して適用。

 

 ピンポイントで与えられた血は効果を発揮し、臓器と肉と皮膚を高速で修復せしめた。

 

「おお!素晴らしい」

 

 だけども、ショックと痛みでとうの昔に気絶している降谷さんの顔色は土気色だった。

 

 殺す。絶対に殺す。

 

 肉体を動かすのも億劫だ。

 魂をずるりと刃の形に物質化する。

 先ほどで拡張のコツは掴んだ。

 

 身体から十重に二十重に、剣山の如く魂の刃を生やしてゆく。

 

 拘束されている体をわずかに揺するだけで、名も知らぬ医療器具と拘束具とは細切れに切断された。

 そのままゆらりと立ち上がる。

 

「な、馬鹿な、その拘束をどうやっ」

 

 最後まで言い切る前に賽の目状に切り裂いてやる。

 

 氷室は何も言えぬままに絶命した。

 返り血が全身を濡らす。

 剣山の如く体から生える不可視の刃が血に染まり、蛍光灯の光を浴びてギラギラと輝いている。

 

 瞬間。

 背後に壮絶な悪寒を感じた。

 素早く魂の触手で体を後ろに引っ張って回避する。

 

「よく避けた…!」

 

 剣を構えるのは遅れて登場した影浦であった。

 主人の無惨な死に特に思うところはないのか、チラリと一瞥しただけでこちらへと視線を向け直す。

 

 相手は五エ門師匠も苦戦した達人だ。しかし、こちらにはアドバンテージがある。

 

 影浦はそのまま剣を構えて突っ込んでこようとしたものの、寸前でぴたりと立ち止まった。

 彼が手近な机を放ると、机はするりと真っ二つに切り裂かれる。

 

 魂で編んだ鋼刃の糸だ。

 完全に不可視のはずなのだが、流石五エ門師匠レベルの剣士。

 朦朧とする意識でフラフラと立っている私に対し、これほどまでに警戒を怠らないとは。

 

「貴様の邪悪な殺気、見えているぞ!妖術使い!」

「………なるほど。殺気を見ているんですね。ご解説ありがとうございます」

 

 その言葉の通り、実際に「視えて」いても何一つおかしくない精度の探知だ。

 殺気を視覚的に感知する特異な感覚の持ち主…ということなのだろう。

 

 私は邪悪に、滴るように嗤った。

 

 次の瞬間、腹に大穴を開けて影浦は自分の血溜まりの上に倒れ伏す。

 

「かっ……な、ぜ……」

「殺気、無かったでしょう?」

 

 当然だ。先ほどのこの男を貫いたのは私ではない。

 杭状に変形、物質化させられた降谷さんの魂なのだから。

 

 すみません。勝手にあなたの魂に手を出して。

 

 よろよろ、ふらふらと魂だけで無理やり動かす降谷さんの体でもって、近場に拘束されていた美沙さんを解放する。

 

 私の姿を見て「嫌!」とガタガタ震える美沙さんを仕方なく気絶させて。

 

 そのまま這う這うの体で、私は逃げ出したのだった。

 




全身血まみれで微笑む男「さぁ、いきましょう?」
美沙さん「い、っ嫌!!!」
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