バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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覚醒

 

 家に帰って深層心理に潜った瞬間、胸ぐらをつかまれて思いっきり殴られた。

 

 水に浮かぶ体勢ゆえに力が入らなかったのか大した威力ではなかったが、それでも相手はボクシングの使い手。

 気合の入ったパンチを思わず右手のひらで受け止めたらジンと痺れた。

 というか、本当に目が覚めてたのか降谷零。

 ようやく私もお役御免だな。よかったよかった、なんて呑気に嬉しがってる場合でもないのが悲しいところ。

 

「っ、降谷さ」

「なぜ殺した!!!」

 

 私の話を思いっきり遮るように降谷さんが絶叫する。

 

 深海のような深い青だったここの景色は、いつのまにやら赤黒く濁って外の様子も見えなくなってしまっていた。

 口に入る血の味が不快だ。まるで血の海にいるようだ。

 

 怒号にも似た凄まじい迫力で睨みつけられ、私は少しばかり怯んでしまう。

 これはどう見ても面倒くさい勘違いをしているっぽいぞ。どうする私。

 

「あいつは、ヒロはこんなところで死んでいい人間じゃなかったのに!あんな、あんな無残に、」

「ち、違います!諸伏景光は生きています!」

「見え透いた嘘をつくな!」

 

 激高した降谷さんがもう一度拳を振り上げる。

 くるりと回り込んで取り押さえれば、憎悪すらこもった悍ましいほどの視線をもらった。視線だけでナイフでめった刺しにされているような気分になる殺気並みの眼力だ。

 

 というか、ここに来るまでの間に諸伏さんと私が会話するシーンもあったよね?

 降谷さんだってそれは見てたんじゃないの……いや待て。ここが赤黒く濁ってから降谷さんてば外が良く見えていないのでは?

 

 えっ、じゃあ私が親友・諸伏景光殺しの犯人だと思われてるってことか?あの粘着質で有名な降谷零に?

 嘘でしょ誤解にもほどがある。

 諸伏景光は死んでないし、何なら今頃公安の用意した施設でのんびり潜入の疲れを癒している頃だろう。

 いや、その前に私の付けた爪痕を治療するため病院で傷を縫ってるところか?

 なら完璧な無実とも言い難いところだ。きっと痕になるだろうし、申し訳ないことをした。

 

「お前は……俺はすでに潜入捜査官でも何でもない!ただの唾棄すべき悪だ!クソ野郎だ!」

「待ってください、話を聞いて」

 

 降谷零の目にはあまりの怒りにか涙すら浮かんでいる。

 悔しさと、悲しさと、憎しみと、自己嫌悪と。あらゆる感情がカクテルのように涙を虹色に煌めかせる。

 わぁ…泣いちゃった!じゃない。こんな雄々しいちいかわが居てたまるか。

 

 というか、もしかしてスコッチが殺された衝撃で目が覚めたのかこの人は。

 

「死ね、死ね死ね死ね!俺が殺す!よくも、よくもヒロを!」

「本当に待ってください誤解ですから本当に!」

 

 タコ殴りにされてはたまらない、と私は慌てて逃げだした。

 深層心理を泳ぐのにまだ慣れていないのか、鬼の形相で私の後を追おうとするも心理の水をかき分けられず距離はどんどん離れていく。

 逃げるな、卑怯者!と後ろから声がする。突然炭治郎になるのは笑うから止めてくれ。

 その声を極力無視し、私は一心に水面を目指した。

 

 降谷さんが話を聞いてくれるようになるまで、ひとまずそっとしておこう。

 しばらくすれば諸伏さんともコンタクトが取れるようになるし、危険だが隙を見て直接会うこともできるはずだ。

 そうすれば自ずと降谷さんの誤解も解けるはず。

 

 心の底から急浮上しながら、私はどうしようもねぇ現状に特大のため息をついた。

 どうすんだよこれ。スコッチと会えるようになるまでの約一か月間、どんな顔して主人格に会えばいいんだ。

 

 ざばり、と水面に顔を出す。意識が急速に現実へと引き戻される。

 

 瞬間。

 ぐわん、と視界が揺れた。

 

「ぐっ……う、ぁ…。主人格、何を…」

 

 中で全力で暴れているらしい気配がビンビンにする。

 嵐の船に乗っているような凄まじい眩暈と吐き気に立っていられない。

 これマジでまずいんじゃないか?

 

 その時。

 玄関ドアのチャイムが鳴った。

 来客?いったい誰が…と吐きそうになりながら無理をおしてげっそりした顔で玄関ドアを開ければ、目に飛び込んできたのは喪服かってくらい真っ黒なスーツと同じく黒の帽子の幹部、ウォッカであった。

 

「よぉバーボン、平気か?さっき報告に来た時体調悪そうだったが大丈夫……って酷い顔色じゃねーか!?」

「……ウォッカ。ご心配かけ、て、すみません。どうぞ中へ」

「待て待て待て、すぐに寝ろ!俺のことはいい、歩けるか!?」

「なんと、か」

「無理すんな!ベッド……じゃなくて布団はこっちだな、とりあえずここに敷くが構わねぇな!」

「そんな、自分、で」

「いい、そこでじっとしてろ!しばらく様子見てあんまりひどいなら躊躇わず救急車を呼べよ!保険証ぐらい偽造したやつ持ってるだろ!」

 

 なんだこれ、風邪で様子見に来てくれた幼馴染の彼女とかの概念の擬人化か?

 

 この際だ。遠慮なくウォッカの敷いてくれた布団に倒れ込む。あーー目が回るんじゃあ。

 どうやら降谷さんが表に出て来ようとしては失敗してもがいているらしい。

 何故出れないんだろうか。私が表に出ているとそれが邪魔で人格交代できないのか?

 

 掠れて血がにじむような叫びが遠く耳を穿つ。

 お前が、俺がヒロを、ヒロを殺した!

 だから誤解だっつってんだろうがよォ!待って暴れるのやめてください吐くからお願いしますお願ウォロロロロロ。

 私が何をしたってんだ……。

 

「飯はこの家にはあるか?なければ食べやすそうなの買ってくるぜ」

「ありがとう、ございます。作り置きがあるのでそれを」

「おう。チンしてやるからひとまず何か飯を腹に入れろ。お前、どうせ任務前から何も食ってねぇだろ。それとも食えねぇようならポカリ買ってくるぜ」

 

 これは早急に誤解を解かないと本気でまずい。

 ウォッカに親身に看病されながら私は今後の公安との調整について思案を巡らせた。

 

 危険を冒してでもスコッチに会わないと、下手をすれば体調不良で任務をトチりかねない。それどころかデラックス版胃腸風邪みたいな不調で昇天なんて悲しすぎる惨劇もあるかもしれない。

 

 ああ、幼馴染ウォッカとかいう概念ありがてぇ…ありがてぇ…。

 なんて中途半端な感想を反芻しつつ、今日の朝日が昇るのである。

 

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