バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
盗みに来た怪盗KIDは、軽く腹に一発いれたところで逃げられてしまった。
殺すわけにもいかないし、手加減するにも最近力が増しすぎて調整がうまく利かない。
今回は蹴りが軽すぎたらしく、軽く体が浮くぐらいでまるで力が入っていなかった。
ここのところ、抱え込んだ八百比丘尼の血が魂に浸潤してきているらしく、私の魂はデブるばかり。
そのおかげで魂と肉体の均衡が崩れ、筋肉が破れるほどの膂力が簡単に出てしまう。
降谷さんの肉体を間違っても傷付けられない以上、私も意識して力を抜かざるを得ず。
まったく面倒極まりない。
とはいえ、身を翻して跳躍で逃げおおせたKIDの動きもさすがの一言であった。
私も変装している身の上で気配感知を伏せている以上、それを元に追跡するわけにもいかない。
初仕事が失敗とはなんとも情けない限りだ。
部屋にあった大きな木材の机を蹴りで真っ二つにしたあたり、私の強さ自体は疑いようもないと皆に感じてはもらえたようだが。
無論、壊した机は弁償した。
悲しいことだ…。
その後のKIDの要求は早かった。
100億を用意しろ、みたいな割と典型的な犯罪者の要求を予告状と同じ紙面をもって突きつけてきた。
この100億は原作を見る限りKIDの気圧トリックと逃走のためで、元より手に入れる気はさらさらなかったと思われる。
取引ではお力になれることもない。
「私は少し出ます。あとは皆さんにお任せします」と言い置いて部屋を後にしようとすれば、慌ててスタッフのうちの一人が声をかけてきた。
「ララさん、いいのですか?」
「ええ。ここには警察の方もいらっしゃいます。僕がいては邪魔にはなっても助けにはならないでしょう」
その言葉を聞いてふん、と中森警部が品定めするような顔をした。
まあ、警察としては部外者なんて面倒臭いばかりだよな。
あ、そうだ。
今の私の偽名はララだ。室井ララ。
赤井と安室を半分にしてララァを足す。3分クッキングなお名前なり。
かなりのキラキラネームだが、まぁ多少は仕方あるまい。
次郎吉氏は私の後ろ姿をチラリと見て、「うむ。頼んだぞ室井よ」とだけ言って黙った。
このお爺さんも食えないことこの上ない。いったいどこまで読んでいるのやら。
その夜。
夜に報道陣に紛れて少し離れたビルの屋上で待っていれば、上空を通過するKIDと目が合った。
無事一仕事終えたあとのようだ。
「やぁ、少し時間をいいかな」
「うげっ!?」
声をかければ、KIDは露骨に嫌そうな顔をした。
それでも翼をたたんで素直に降りてくるあたり、やはり根は純粋なのだろう。
降りてこなかったらフックを引っ掛けて引き摺り下ろそうと思っていたから、手間が省けて何よりだ。
とりあえず一発目は挨拶がてら立ち位置確認からだ。
「確認なんだけど、ひまわりを狙う第三者からひまわりを守ってる?」
「いや、そんだけ分かってんなら俺に何の用だよ!つかなんで日本にいるんだよ…出国したってニュースでやってたぞ」
「それ、怪盗KIDの君が言う?」
ブスッとむくれるKIDの少年らしい顔立ちは幼げだ。
指名手配されて久しい怪盗KIDが言えることではないのはよく分かっているのだろう。
気を取り直したのか、KIDは咳払いして私に問いかけてきた。
「んで、名探偵は俺のSOSを受け取ってくれんだろうな?」
「いいや。まだいろいろ考え中みたいだよ」
「はー!?」
KIDは憤慨した。
彼は彼で今回割と死にかけているからな。
飛行機を爆破されたりニューヨークで警察に撃たれまくったり。
今回の不自然な予告状は怪盗KIDの純粋なSOSだったのだろう。
それを分かってもらえなかったら、そりゃ怒りもするはずだ。
「俺の必死のメッセージをまだ読み解けてねーのかよ名探偵!いーや、こんなん名探偵じゃねぇ!ただの探偵で十分だ!」
「ははは。まあ、彼だって調子の悪い時ぐらいあるさ」
しかし、確かに今回のコナン君は何処となく上の空というか、身が入っていない様子が見受けられる。
憤懣やるかたないという様子のKIDがキーキーしているので、「じゃあ僕の方からコナン君へ伝えておこうか」と提案すればKIDはすぐにぶすくりと黙りこくってしまった。
他人から解答を教えられる名探偵、というのは解釈違いらしい。
難しい男である。
そろそろ本題に入ろう。
私はさりげなさを装って遠く夜景に目を向けた。
「あ、そうだ。君、学友に白馬探って子がいるだろう?ちょっと紹介して欲しいんだけど」
「!?!?!?!?」
彼は盛大に吹き出した挙句、激しく咳き込んだ。
実に苦しそうだ。
「な、え、いや?」
「ははは、僕もルパン一味だからね。このぐらい探り出すのは苦ではないよ」
これは嘘半分で本当半分。
事前に私と降谷さんの2人で怪盗KIDを洗っていたのだが、実際はかなり難航した。
遅々として進まない調査にイライラしていたら横からルパンおじさんが口笛を吹きながらやってきてニンマリと笑い。
「おーっと俺様手が滑ったー」などと言いながらヒントをパラっと見せてくれたりしたのだ。
これに怒り散らしたのは降谷さんで、「俺を信用していないのかルパン!」とブーブーとシュプレヒコールを上げていた。
ルパンはといえば回転椅子に腰を下ろしたまま「悔しかったらこの程度の仕事は1日で終わらせるこった。にししし」と子供のように回りながら答えるのみ。
可哀想に、また弟子が虐められている…とやや同情する五エ門先生と完全に観戦モードの次元さん。
この頃の次元さんは小さなメガホンなどを持って遠巻きに「やれ降谷!気合い見せろー!」などと野球の試合でも見るようにヤジを入れるのだ。
可哀想な降谷さんは余計にポコポコ怒り、躍起になって技術習得に精を出している。
はたしてルパンを超えられる日が来るのか。
それは誰にもわからないのである。
閑話休題。
私に個人情報をかすめ取られたと気がついたKIDは、実に鋭い目つきでこちらを睨んでいる。
「………何のつもりだ」
緊張した顔に焦燥と不安が見え隠れする。
まだ若く経験も少ない男だ。腹芸の方はまだまだらしい。
「白馬探偵の父親に用があるんだ」
「……犯罪者であるウルフドッグが警視総監に何の用だよ。暗殺でも企ててんのか?」
「まさか。単に直談判しようかと思って」
「直談判?」
KIDが片眉を上げた。
どうやら私の正体についてはまだ知らないらしい。
ここは信頼関係を結ぶべき時だ。手札の公開は適切かつ誠実に行ったほうがいいだろう。
私はやや乾いた唇をペロリと舐めた。
「ほら僕、元公安だろう?」
「!?!?!?!?初耳だけど!?!?」
「まぁ、ウルフドッグは公安の仕事でやってたんだけど、このたび足切りされてね」
「………そうかよ」
「普通に損切りされる分には僕としても異論無かったんだけど」
「ねーのかよ。そこは反論しろよ」
「日本のためなら裏切りすらも受け入れる潜入捜査官の献身さ。美しいだろう?」
「おいおい、自分で言うか?」
「まぁ、冗談冗談。ただ、今回の場合公安内部で不正と汚職があったみたいで」
軽く流すような会話に、緊迫した空気。
私は拳を握り、瞳を伏せた。
「流石に。それは、飲み込めそうにない」
「………」
そうか、とKIDはもう一度だけ言った。
「……すぐには無理だが、白馬に少し話を振ってみる」
「ありがとう。頼むよ」
話は終わりだ、とばかりにKIDは立ち上がった。
夜の東都は夜景が美しい。
地上の星と呼ぶに相応しい喧騒と光に照らされ、KIDがマントを翻す。
「こうなった以上、奴はレイクロック美術館での展示を狙うはずだ」
「そうだね。あそこの美術館は僕も監修してるんだ。火を放たれるのはご遠慮願いたい」
「手広くやってんな…」
KIDがやれやれと首をふった。
そしてハンググライダーを広げる。もう行くようだ。
「じゃあ、良い夜を、怪盗KID。あと言っとくけど、僕はパンドラとは関係ないからその辺りよろしくね」
「分かってるっつの。つか最近になって変な噂出過ぎだろアンタ。なんだよ不死の血って」
「あ、それはホント」
「そこは嘘にしとけよ!?一番嘘であって欲しいポイントがホントなの意味わかんねー…」
などと、ぐだぐだ締まらない会話をしつつ、本日の夜はお開きとなった。