バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
やってきました!
都内から車で1時間、その後船で15分ほど行ったところにある小島の洋館ホテル、オペラ館に!
こんな辺鄙なところに赴くことになったのには理由がある。
最近になって、次郎吉氏に紹介された建築物に付随する彫刻の仕事が多くなったのだが。
たとえば鈴木財閥が手掛けるビジネスオフィスビルの前に飾る大きな彫刻だとか、美術館向けの個展用彫刻だとか。
それはもう本職がなんなのかわからなくなるほどの忙しさだ。
頼まれると中途半端な仕事はできない私たちの性格も相まって、そりゃもう忙しいのなんのって。
ルパンにも「彫刻家が本職の傍ら盗人家業でインスピレーションを得ているってやつか?」と言われてしまった。
そろそろ彫刻の仕事も絞らないと本業……黒の組織壊滅に支障をきたしそうだ。
ともあれ。
そんなわけで本日は数ある仕事のうちの一つ、鈴木財閥系列の洋館風結婚式場に飾る彫刻作成のための下準備に来ているのである。
洋館結婚式場は新しく来年のオープンが計画されていて、今は建設中だ。
私は図面と完成予想図を渡され、それに似合う彫刻を作成してほしいと次郎吉氏より依頼されている。
この会場に似合う彫刻、といわれても降谷さんであっても現物の建物を見ないことには中々に難しい。
そこで、日本各地にある同じタイプの洋館を巡ることにしよう、となったわけだ。
明治期に有名建築家に建てられたオペラ座館は、現在財閥で腕を振るっている建築家の曾祖父だとのこと。
それで、その流れを汲んでいる洋館結婚式場のデザインにも通ずるものがあると踏んで見学に来たのである。
つまり3行で言うと、仕事で、オペラ座館を、見に来た、になる。
シンプルイズベストだ。
一泊2日の2人…いや、一人旅だ。
オペラ座館から洋館建築の雰囲気感を掴んで彫刻に生かす。
かっこよく言えば妥協を許さぬプロ精神、本当のところを言えば仕事に託けた保養旅行である。
持ち物は旅行道具と、気兼ねなく写真を撮れるようデジカメ等仕事用具ぐらいのものだ。
とはいえ趣ある洋館で一晩を過ごすのだからレジャーも少しは若干楽しみたいところ。
荒波をかきわけ、さして大きくもないボートで孤島へと向かう。
時間帯の問題なのか、ボートで島へと渡る客は私達1人だけだった。
今日は私の他にも宿泊客がいるとのことなので、単に私たちが早く来すぎただけだと思われる。
どんよりとした空の向こう、水平線に霞むように洋館が立つ島が見えてくる。
予報では天候は特に問題なさそうだったが、少し海が荒い。
このまま持ってくれるといいのだが。
───まさにクローズドサークルの舞台、と言った感じだな。『そして誰もいなくなった』の舞台にぴったりだ
───つまり席についた途端、何者かによる罪状の告発があると。僕らの罪状って多すぎて読みきれそうにありませんね
───はは、大人しく殺されてなんてやらないけどな。
降谷さんは上機嫌でからからと笑った。
潮風にパサつく女性ものの長いウィッグを後ろへかきわけながら波に目を細める。
───この後で天気がマシなうちにぐるっと一周洋館周りの写真を撮ろう。お前の魂の鞭ならドローンがなくても高所撮影できるのが良いところだな
───いや、これはドローンと違って…凄い長い自撮り棒みたいなものですし…それに人に見られたら完全に念力と間違われません?
───自撮り棒はウケるからやめてくれ。実質念力だし間違ってないだろ
自分で言っていてなおウケたのか、降谷さんが背中を丸めて笑いを堪えている。
受付でここまで送ってきてくれたホテルオーナーの黒沢さんと少しばかり雑談した後、チェックイン。
このリゾートホテル・オペラ座館は演劇舞台付きなのだが、そちらは同じ日に宿泊する高校の演劇部員が使うらしく立ち入りはできないそうだ。
高校に演劇部とは珍しい。
どんな感じで練習しているのかな、と私達は一通りの撮影が終わった後見に行ってみることにした。
室内、廊下、1Fロビー、外観、と順にたっぷりと時間をかけて撮影し終えた後、こじんまりとはしているもののしっかりとした作りの演劇舞台へ。
もしよかったら撮影もさせてくれないかと、念のため撮影機材も持って覗き見だ。
相手は学校だから生徒の安全を考慮すれば無理だとは思うが、まぁ念のためだ。
そうして覗いた舞台でまず目に飛び込んできたのは、客席で所在なさげに劇を見学する金田一君であった。
「!?!?!?」
ことここに至ってようやく気付く。
このオペラ座館、「オペラ座館殺人事件」の舞台になったホテルなのか!
しかし、泊まるタイミングまで一緒とは、また何の冗談だ?
金田一君が覗き見る私の姿に気付き、こちらへと振り返ってとろとろと歩いてきた。
「ん……あんたは…?」
「あ、ああ。不躾に覗いてすまない。僕は室井ララ。今夜ここに宿泊予定の一般客だよ。君たちは演劇部の学生さんだってね」
「はは、俺は単なる見学ですけど」
気まずそうに台本を持ったまま苦笑いしている。
とはいえ、彼は見学というより音響係だったはずだから別にそんな卑屈にならなくとも良いような気もするが。
内心でぼそり、と降谷さんが私に話しかけてきた。
───そういえば、室井ララは僕っ子なんだな
───ゼロ、それ今言う必要ありました?
───いや。さすが俺、僕っ子でもなかなか可愛いじゃないかと思ってな
妖怪プライドエベレスト男は室井ララの出来栄えに満足しているようだ。
うんうん頷いて明日のメイクについて大きな独り言を漏らしている。
実は、室井ララの服やメイク、ファッション全般は降谷さんが手がけている。
降谷さんのセンスの良さが各所で光る流石の出来栄えだが、逆に完成度が高すぎて目立ってしまうこともしばしばである。
金田一君とは安室透としてなら顔を合わせたが、変装の方で会うのは初めてだ。
剣持警部と親しそうだったから、てっきり記念すべき第一話たるオペラ座館は終わっているものと思っていたが。
まぁ、時系列なんて瑣末な問題か、と私は思い直した。
2日前は秋だったのに今春だしな…。というか一年がいつまで経っても終わらないんだが。
「そういや、ここの宿泊客の人ですか?」
「ああ。2階の南西の端の部屋に泊まってる。僕は彫刻家でね、仕事でこのホテルに来たのだけれど、良ければ舞台を撮影させてくれないかな」
「彫刻家?」
見知らぬ人物と話す金田一君に他の生徒も気になったのか、次々とこちらに来た。
進み出た演劇部の部長と名乗る布施という男子が、平静を装いながら若干デレデレと私を見ている。
「オレがこの演劇部部長の布施光彦です。あっちが顧問の緒方先生」
「そっか。初めまして、僕は彫刻家の室井ララ。お近づきの印に、これをどうぞ」
そう言って美女っぷりが素晴らしい顧問の先生へ水晶を削って作った、両手で覆えるぐらいのサイズの天使と死神の彫刻を渡した。
さっき手土産代わりに彫ったものだ。
学生達はその精巧さにおお、とざわめきを漏らしたようだった。
皆の歓心が得られて満足満足。
「ご丁寧にありがとうございます。生徒の個人情報の扱いに気を遣っていただけるなら、撮影自体は問題ありません。もちろん、生徒個人が同意の上ならですが」
「お前達、どうだろう?撮影に同意できるか?」
部長の声掛けに、皆おずおずと頷いてくれた。
優しい子らだ。そのうち幾らかは今回の事件で死ぬのだけれど。
私は笑顔でお礼を言って、何枚か劇をしている風景の写真を撮らせてもらった。
やはり劇場は使ってこそ映えるというもの。
私が撮影している間中、金田一君は背後からじっと見つめていた。
美女だというのに多少とでもデレデレともしないし、あの表情。
まさか私の正体に疑問を持っているのだろうか。
ともかく。
陰惨な殺人事件がこれから起こることは必定。
私は部外者であるし、犯人の復讐を止める義理もない。
細かいことは忘れて彫刻を彫ろう。最低限アリバイを立証することができるよう立ち回れば、勝手に金田一君が解決してくれることだろう。
私は撮影し終わると、演劇部の皆に「ありがとうございました。また何かあったら声をかけてくださいね」と言って演劇舞台を後にした。
奇しくも、私の贈った彫刻はクラシックな天使と死神。
冥福を祈るのには十分だろう。
・天使と死神の水晶彫刻
持ち主である高校側から地元美術館に寄贈されている。
狐の彫刻師作。羽根一枚一枚が感じ取れるほどの精巧な天使と死神の像。
高校生の間ではその経緯から怪談めいた噂も多い、謎めいた作品。