バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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番外 オペラ座館殺人事件③

 

 夜が明けて翌日。

 ざあざあと降り頻る雨風に、傘は心許ない天候だ。

 海も散々な荒れ模様。重く滴ってきそうな灰色の空が陰鬱な空気を醸し出す。

 

 そんな中。

 演劇部員2年生、桐生春美の遺体が木にぶら下がっているのが発見された。

 

 悲鳴、悲しみ、絶望。吊るされた死体を見上げて顔を青ざめさせる高校生たちの間で、一人金田一君が声をかける。

 その相手は私──生徒たちの後ろで壁の様子を確認中だ──室井ララだった。

 

「なああんた、何か気付くことはないか?」

「うん?僕ですか?」

 

 金田一君が真剣な表情でこちらへと歩み寄ってくる。

 「音響室のテープに気づいたのもあんただって聞いたんだ」とのこと。

 剣持警部に伝えた証拠品は無事に金田一君の元に届いたようだ。よかったよかった。

 

 それでまた何か気付くことがあれば、ということで金田一君は私に話を聞きにきたらしい。

 

 聞かれたならば情報の出し惜しみはせぬ。

 私はやや咳払いをしてから慎重に口を開いた。

 

 私は見つけたトリックのあと…ワイヤーを止めていたテープを指差した。

 

「あそこ、桐生春美さんの部屋の窓の周囲にテープのような物が張り付いていますよね」

「テープ?っ、まさか…」

「それと、気になって真上の日高さんの部屋も確認してきたのですが、窓に細長い傷がついていました。ワイヤーを擦った跡でしょう」

「……それなら密室トリックにも説明はつく、か」

 

 金田一君は沈鬱そうに目を伏せた。

 彼女を殺したのが歌月とかいう第三者ではなく、この中にいる人物である可能性が高くなったが故だ。

 

 傍で聞いていた剣持警部が首を傾げる。

 

「それってーと、どういうことだ?」

「つまり、犯人は夜中に殺された日高の部屋に侵入して犯行を行ったんだ」

 

 金田一君が日高の部屋を見上げて言った。

 

 頑張って窓枠に紐を固定し、さらに頑張って上階から紐を引っ張り絞殺。

 その後人1人抱えて木の前まで行って、吊し上げるというフィジカル全振りの難行を達成したのだ。

 並の苦労じゃない。普通に死体は木の周辺に遺棄でも構わなかったんじゃなかろうか。

 

 しかし、このトリックで犯人を特定することは不可能。

 せいぜい、女性による犯行は筋力の関係で難しい、といった程度か。

 

 金田一君が私を見る目は非常に鋭い。

 何かを訝しがっているようだが…果たして何が彼の琴線に触れたのやら。

 

 全体像は把握できたのか、降谷さんがむっつりと不機嫌そうな声で話しかけてくる。

 

───気配の位置関係ですでに犯人はわかっているんだろう?トリックの説明は単なる後付けだ

───ええ。犯人は有森裕二ですね。夜中寝ずに見張っておいて正解でした

───まだ高校生だと言うのに殺人になど手を染めて。嘆かわしい限りだ

 

 今夜、自室から気配が移動したのは有森裕二だけだ。

 あいにくそれを証明する方法はない……などということはなく。

 

 私は進み出て剣持警部へと持っていたデジカメを押しつけた。

 

「これ、仕事で使っているデジカメなのですが、録画機能もあるんですよね」

「っ、まさか!」

「ええ。2階廊下に仕掛けておきました。元々は身を守るためではありましたが…確認してみましょうか」

 

 廊下は深夜の間も安全のために灯りがつけてあった。

 よほど緊張していたのか、カメラの前を通る有森裕二の挙動は誰がみても不審感を覚えるに違いない狼狽えようであった。

 そして2階に上がった後はキョロキョロと辺りを見回して、日高織絵の部屋へ。

 

 小さなデジカメの映像を覗き込んでいる皆が皆、愕然とした様子で振り返った。

 

 「嘘だろ…有森…!」「そんな…なんで!?」「嘘でしょう!?」などなど。

 

 口々に悲痛な叫びを洩らしている。

 

 ごうごうと雨に濡れる有森裕二は、しばし沈黙した。

 

「ちくしょう!余計なことしやがって!!」

 

 そして猛然と走り出し、私の腕を引っ張り、首に手を回して大振りのナイフを突きつける。

 実に可愛らしい抵抗だ。

 その心意気に免じて、しばらくは人質役になってあげよう。

 

 深層心理の降谷さんは幼児に絡まれたような、若干困った顔をしている。

 

───鍛えてはいるが素人、と言った感じだな。制圧しないのか?

───多少は吐き出せたほうが心が楽になるでしょう。吐き出す時間ぐらいなら待っても構わないと思いまして

───そうか、お前は優しいな、安室

 

 子供の面倒を見てあげる優しい相棒、みたいな謎の評価をいただいてしまった。

 まぁ彼は高校生でまだ子供なのも間違いではないのだが。

 うーん、コレジャナイ感が否定しきれない。

 

 そんな煩悩に塗れている間にも、真犯人・有森裕二は滔々とこれまでの恨みつらみ、すなわち彼の恋人がいかに悲惨な目にあったのかを叫んでいる。

 

 だからと言って第三者に手をかけるのはいただけない。

 ナイフが頬に触れそうになって、慌てて顔を僅かに後ろに倒した。

 この局面でマスクが剥がれてしまうのはマジで場を混乱させるだけなので避けたいところ。

 

 一通り喋り終わった有森だが、ターンが回ってきたらしい金田一君に大声で説得されている。

 実に悲痛な感じの緊迫した空気だ。

 それを有森は泣きながら跳ね除け、私に向けるナイフを構え直す。

 

 若干胸焼けしそうだし、動くとするか。

 

「そろそろ、いいですよね?」

「は?」

 

 ナイフを持った手を捻り上げ、そのまま背負い投げ一本。

 ごう、と人一人が一瞬宙に浮く風切り音。

 受け身もまともに取れないまま、犯人たる男は泥まみれのぬかるみに盛大に叩きつけられた。

 

 泥がクッションになって骨折は避けられたようだが、これがもし石やアスファルトが地面だったら半身不随も視野に入っていただろう。

 そしてすかさず駆け寄ってきた剣持警部が有森を取り押さえる。

 非番につき手錠はないから、港にあるロープのあまりで代用されることになった。

 

 ようやく終わったか。長かった。

 ふう、と一息ついていると、金田一君が静謐な表情の中に警戒を携えて言った。

 

「あんた何者なんだ」

「………」

「あの身のこなし、ただの彫刻家のはずがない。推理の方も……いや、捜査と言ったほうがいいか。型に則っていて完璧だった。まるで本職の刑事のように」

 

 なんと答えるべきか。

 しかしあまり金田一君の推理のノイズにもなりたくない。

 これから彼は犯罪コーディネーターとの長い因縁に巻き込まれることになるわけだし。

 

 私は地声を意識して、金田一君の耳元でひっそりとチャーミングにつぶやいた。

 

「NEED NOT TO KNOW……なんてね。久しぶり、金田一君」

「!?まさかあんたっ、国際指名手配犯の、」

「安室透。あるいはフォックステイルと言っていいかな」

 

 コン!と片手で狐を作って微笑みかける。

 背後では皆で吊るされている死体を下ろしたり、雨の降らない室内に避難したりと解散の空気が漂っている。

 犯人の方は縛られたまま無気力に剣持警部に連れて行かれたようだ。

 どこか別室に閉じ込めておくのだろう。

 

「完全に今回の件は偶然だよ。彫刻家としての仕事でこの館に来たら、事件に遭ってね」

「………警戒して損した。別にこの事件との関係は疑ったりしねーよ。動機が無さすぎるからな」

「そうかい?なら良いけれど」

 

 さて、ざあざあと降る雨は次第に強さを増している。

 雨が止んだら泳いで帰るとしよう。

 

 緊張が抜けたからか、金田一君が若干トボトボとした動きで部屋に戻っていく。

 

 私は「あの彫刻、たぶん意外と価値があるから大事にしてくれると嬉しいよ」と声をかけておいた。

 




金田一「NEED NOT TO KNOW、か。あんた、本当は…」
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