バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
あの後、クルーザーで駆けつけた本庁刑事たちによる詳しい事情聴取がある前にトンズラすることになった。
魂で体を包んだ魚泳ぎでの大脱出劇だ。
泳ぎに使ったのは深層心理内の池に封印してあった錦鯉だ。
正式には、この錦鯉型AIを改良して肉体と魂を適切に動かせる補助装置として使ったのだ。
これは降谷さんと私の合作で、適度な息継ぎと完璧な肉体操作で、海の中でも無理のないスピードを出せる優れもの。
表に出していると目のハイライトがなくなるのが玉に瑕だが、多少のことは仕方あるまい。
こんな海の中で見た目を気にする必要もなし。
そこまで大きな問題ではなかろうよ。
───まったく散々だったな。せっかくの洋館旅だったのに。しかしあの白身魚のムニエルは思いの外美味かった。あのパセリのレモンソースがポイントか?
───今度家でもやってみましょうか。あれはたぶん白ワインも入っていますし、大体再現できそうです
───そうか!楽しみだ。お前の作る飯は美味いからな
視界を横切る魚群を眺めながら、降谷さんが上機嫌で夕飯に思いを馳せている。
せっかくのご所望だ。来週あたりに作ってみることとしよう。
あと、全然良いのだが美しい海の景色を見て思うことがそれか降谷さんや。
カラッと晴れた天気に海の中を自在に泳ぐのは気持ちよかったので、少々寄り道もしつつ。
およそ30分程度で遊泳の旅は終わり、陸に着くことができた。
その後は警官に捕捉されないようささっとトンズラだ。
近場の空港からベネズエラへと飛んで、懇意にしていた偽造カード職人のところへと向かう。
目的は頼んでいた江戸川コナンのパスポートを受け取るため。
30時間ほどの旅はファーストクラスを取ったので意外と快適だったが、やはり遠いのは否定できない。
どうしてもバキバキになる体をうんと伸ばし、飛行機を乗り継ぎやっと着いた空港を出て目的地へ。
取引会場は、路地裏に作られた陰鬱なバーのようなところにある。
勝手知ったると言った感じでどんどん入っていけば、気だるげなおじさんが奥からのっそりと出てきた。
髪は伸びっぱなしの大爆発、服はレゲエのオッサンじみたズタボロ具合。
おまけにサングラスをかけてのお出ましだ。
初見の人間は誰しもがうっと後ずさるが、腕は確かだ。
「はいよ、約束の品だ」
「ありがとうございます。うん、ばっちりだ。さすがはルパンに紹介された方ですね」
「下手なことに使うんじゃねーぞ。まだほんのガキじゃねーか、その顔写真。まさか拉致じゃねぇよな?」
「違いますよ。その写真の彼に頼まれて作ったんです。いわゆる無国籍児ってやつですね。海外旅行したいらしいんですが、パスポートが作れないからと」
「はぁー…なるほどね」
それだけきいてぴらっと手を振り、また眠そうに奥へと戻っていく。
偽造パスポートをバッグにしまって、私はそのままバーカウンターに座ってスマホを取り出した。
通話先は江戸川コナンその人である。
「コナン君?」
『あ、安室さん!?もしかしてパスポートできたの?』
「うん。今から行くから、たぶん明後日の朝には着くよ」
『わかった。今回は本当にありがとう!』
「いいってことだよ。それと一応なんだけど、今から送る住所に蝶ネクタイ型変声機を送って欲しい」
『……?なにに使うの?』
若干の猜疑心の滲んだ声だ。
悪いことに使うんじゃないかと疑っているらしい。
使うこともあるかもしれないが、まぁそれはそれ。
今回は本当に親切心なので心配無用というものだ。
「僕が君にパスポートを渡すのは良いけど、その時家族がいないと変だろう?だから僕が君の母親…江戸川文代に変装して手渡しすれば無理がない絵面になるかなと」
『そっか、確かに…』
「それと、もしよければイギリスで単独行動しやすいように母親役でついていこうか?現地に着いたら家族水入らず、と偽装して現地解散とか」
『!!!い、いいの?そんな、迷惑じゃ……ほんとにいいの?』
そわあっ、と声から喜色が隠しきれていない。
目がキラキラ輝いているのが電話越しでも分かるようだ。
うむうむ、善きかな善きかな。
ただ、今のは私の思いつきで勝手に出た一言なので降谷さんにはことわっておくべきだろう。
大抵二人で半々に動いているが、この頃降谷さんは中に引きこもりがちだ。
表に出るのをめんどくさがっているとも言えるかもしれない。
───すみませんゼロ、勝手に決めてしまって
───気にすることはないさ。俺は中からお前のエンジョイしている姿を眺めるのが趣味なんだ。思う存分楽しんでくれ
───ぐ……
にやー、と笑う降谷さんの顔は実録安室透24時を楽しむ隠居のようだった。
ずるい、それは私がなるはずだったのに…。
「じゃあ、詳しい日程がわかったらまた連絡するよ。コナン君もイギリス旅行、存分に楽しむと良い」
『うん!ありがとう安室さん!!!』
年相応の元気いっぱいな返事を聞いて、私は若干の鼻歌を漏らしながら日本行きの飛行機の予約画面を開いた。