バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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ヒロとの再会

 

 降谷さん起床より一週間。

 ようやく公安との調整がつき、諸伏さんと会える日がやって来たのだ。

 

 この一週間は酷い目にあった。

 体力の限りを尽くして暴れまくる降谷さんのせいで私はずっとカエル並みにゲロゲロだった。

 

 ちょくちょくウォッカがポカリと食べやすいお粥の類を持って来てくれるので大変助かったが、ほぼ外出もまともにできない有様だった。

 

 一度ウォッカがアイリッシュを伴って来てくれたのだが、その時のアイリッシュは自分で来たくせにビックリした顔をしていた。

 「お前も人間だったんだな、バーボン」なんて感慨深げに言うものだから、私は思わず憤慨してしまった。

 バリバリの人間ですけど!なんなの組織が手がけた改造人間って!

 

 悪い悪い、と心底楽しそうに笑って「詫びだ。俺の使ってるトレーニングメニュー抜粋。格闘技を学びたいんだろ?」とメモ用紙の束を渡してくれたからすぐ黙ったけれど。

 あざますアイリッシュ!

 大切に使わせていただきます!!

 

 ちなみにだが、一応組織には酷い感染症で寝込んでいるということでお休みをもらっている。

 ああ休日って素晴らしい。

 私の代わりに仕事を押し付けられた下っ端の方はご冥福をお祈りします。

 私以外に銃弾の嵐を避け切れるとは思えんからな。悪人といえど突如無茶振りされて可哀想に…。

 

 と、そんな感じで一週間は矢のように過ぎていった。

 ちなみにだが、降谷さんは日が経つにつれ大人しくなっていった。

 初めは体力が尽きたのか、とも思ったがどうやら違いそう。

 彼ならば、やろうと思えば休憩を挟んでもっと長く暴れることができたはずだ。

 

 私の言動を振り返って冷静になってくれたのだろうか。

 

 深層心理に降りれば直接対話して確かめることもできたかもしれないが、その選択は危険すぎたため断念した。

 降谷零のあの時の精神状態を思うに、私が降りて万が一降谷さんがヤケになって自死を試みなどしたらえらいことだからな。

 そんなことになってしまえば、諸伏さんに申し訳が立たない。

 

 一週間ぶりにパリッとした服に着替え、拠点を出る。

 ここは表向きに使ってる仮の住まいで、付属のボロ鍵は私でも十秒でピッキングできるザルセキュリティだ。

 そのため形ばかりとしか言いようのない施錠をして、鍵をバッグにしまう。

 一週間ほったらかしにされたRX-7はわずかに埃が積もっていた。

 

 向かうは最近営業開始したばかりの探偵事務所。

 日色探偵事務所だ。

 

 車で数時間走った地方にある、コンビニ近くのボロいプレハブの平屋。

 それが諸伏景光……ならぬ、日色ヒカルの現在の住まいである。

 無駄に広い駐車場に車を停め、クーラーの効きも悪そうなその建物のドアチャイムを鳴らす。

 

「安室です」

『………ああ、ようこそ。入ってくれ』

 

 聞こえて来た声は諸伏のものだ。

 ぴくり、と私の身体が不随意に動いた。なんだ?

 

「お邪魔します。……随分様になりましたね」

「その場しのぎにしては中々のものだろう?ベルモットのようにまるきり別人とはいかないが、場を整えるだけでも十分目眩しになる」

 

 ニコッと人の良さそうな笑みを浮かべ、諸伏さんは「さ、こっちへ座ってくれ」と私を歓待してくれた。

 

「それではお言葉に甘え────ヒロ?」

「ん?」

 

 ぱしり、と口を押さえる。勝手に口が動いた。

 まさか降谷さんか?

 

 素早くその場で意識を深層心理へと落とし、降谷さんの様子を確認する。

 やや濁りが取れた水の中で、彼は茫然自失のまま目の前の光景に見入っていた。

 

 ぐいっと手を取り、不意打ち気味に彼を意識の底から一気に外まで放り投げる。

 驚愕の表情が一瞬見えたが、まぁ今回ばかりは許して欲しい。

 

 ほら、久しぶりの再会だろう?

 よそ者の私なんかでなく、降谷零本人が言葉をかけるべき場面じゃないか。

 

 およそ四年ぶりに意識を取り戻した降谷さんが、肉の身体をもって目を開ける。

 狼狽えて左右を確認し、両手を握っては開き。

 そして突然の親友の奇行にオドオドしている諸伏景光を視界に収めて。

 

「─────生きてたのか、ヒロ、本当に」

「久しぶり、ゼロ。心配してたんだぞ?」

「ッそれは俺の、」

 

 台詞、と言おうとして、途中で言葉が途切れてしまう。

 安堵と歓喜と怯えと疑問にぐちゃぐちゃに揉まれて、とても言葉が出ないのだろう。

 

 じわり、と肉体に涙が滲むのを水底で感じ取る。

 

「──良かった、ヒロ、生きてて、今までごめん、俺、任務で初めて人を、人を殺して」

「………」

「馬鹿だよな、そんなの初めっから分かってたことなのに、スナイパーのお前の方がずっと辛かったはずなのに、俺は覚悟ができてなくて」

「……ゼロ」

 

 訥々とつっかえるように話し始めた降谷さんの声は震えている。

 諸伏さんが気遣わしげに視線を揺らした。

 

「それで人格を分裂させたって、自分の罪は消えないってのに。自分のこと棚に上げて、お前が死んだって思ったら、喚きたくなるくらい頭がぐちゃぐちゃになって」

 

 感情のままに懺悔する降谷さんの言葉はどうしようもなくとっちらかっていた。

 ふむふむ。

 つまり、彼が意識を失っていた原因は組織の任務で初めて殺人に手を染めたから。

 それで意識を閉ざした彼の中に私が憑依して…それを人格の乖離と誤認、と。

 

 すると、今まで彼がずっと目を覚まさなかったのは私が殺人を続けてたのが精神的重圧となったから、という可能性が否定できない。

 すまない……すまない降谷さん……こんな手段でしか組織で生き残れない私の力不足だ…。

 

「ゼロ、落ち着け。良いんだ、それはお前が弱いわけじゃない」

「だが俺の別人格は、組織で残虐の限りを尽くして」

「俺のことは助けてくれたぞ?」

 

 ばっとシャツをたくし上げ、胴体に刻まれた生々しい傷跡を見せる。

 まだ黒々とした刃傷と包帯が取れていない、大型の獣にでも襲われたかのような惨状に、降谷さんが息を呑んだ。

 中央部の重要な臓器が集中しているところだけ、爪による痛々しい傷が途切れている。

 血糊の袋があった箇所だ。

 

「事前にバーボンと打ち合わせて傷をつける範囲を決めていた。逃走経路も、その後の公安の手配も」

「!!!」

「そうやって、バーボンは組織から絶対的な信頼を得ている立場を利用してNOCの人間を極力助けて来た」

「………時々、夢の中で聞こえて来た声は」

「バーボンの声じゃないか?眠ってるお前に毎日任務の状況とかを報告してるって言ってたし」

 

 息を呑む声が漏れ聞こえ、私は安堵にほっと息をついた。

 誤解もほぼ解けたようだ。

 意識の表層ギリギリまで昇っていけば、先ほど降谷さんが行ったように完全に表には出ず、口だけ乗っ取るみたいなこともできそうだ。

 

 そっと、蓋の一部を押し上げるようにして声を届ける。

 

「俺は今まで酷い誤解を────していたとして、いいんです。貴方が目覚めて良かった」

 

 降谷さんが驚愕に肩を跳ね上げた。これホントびっくりするよね。

 

 私は所詮まれびとで、この世界の住人ではない。

 原作を愛する旅人として、この世界の歓喜、憎悪、病、運命のカタチを見られればそれで十分。

 遠い星空を望むように、私はあなた方の全てを慈しむでしょう。

 

 つまりはビッグマム。いやこれだとグランドラインへくり出す感じになってしまうな。

 良い言い方募集中。

 

「僕のことはお気になさらず。貴方は貴方の思うままにすれば良い───お前、俺の口を」

「バーボンとゼロの両方が喋ってる、のか?」

「ええ。そうですよ───不思議な感覚だ。お前が俺の別人格、バーボンか?」

 

 正確には憑依系転生者なので違うのだが、話がややこしくなるだけだ。

 はい、と肯定すれば降谷さんは眉を下げたようだった。

 

「今まですまなかった。俺の弱さゆえに辛い任務をお前に押し付けた───仕方なかったんでしょう?なら僕は気にしませんよ───そういうわけにはいかない。それじゃあお前にあまりに不義理だ」

「なんかゼロが延々独り言喋ってるみたいで面白いな」

「んー、今大事な話してるから黙っててくれ」

「俺紅茶淹れてくるから、話が終わったら呼んでくれよな!」

「ヒロ……お前はこの4年間で随分自由になったな───自由人しか居ない組織で揉まれた結果ですね」

 

 自由人ヒロのせいでぐだぐだになった空気を胸いっぱいに吸い込みつつ、私は意識の底で微笑んだ。

 良きかな良きかな。

 これだけで、私が頑張った甲斐もあった。

 

 あとはバーボン業務を降谷さんが引き継いでくれれば完璧なんだがな。

 普通の人間に近接戦専門の劣化石川五エ門役なんて無理?

 知らんなぁ。

 一般人の私にできたんだから頑張ってくれたまえ。

 

 などとほくそ笑みつつ、私は彼らの穏やかな空気を共に享受していた。

 

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