バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
某日。
アメリカの安いビジネスホテルで、諸伏景光は思わず茶を吹いた。
「は?……いやいやいや、ゼロお前、TV出演おめでとう…?」
混乱して言葉が渋滞を起こし、なぜか最終的な出力結果が友人を称える言葉になってしまった。
そうじゃない。
景光は頭をブンブンと振ってTVに齧り付いた。
それは再放送らしく、編集が加えられて一部抜粋がテンポよく進んでいく。
コメンテーターが驚愕の表情で「凄いですねぇ…!」と気の抜けたセリフを口にしている。
"まさに神業!現代のミケランジェロと呼ぶに相応しい絶技でした!"
"あれほどのスピードだというのに、設計やデザインは全て脳内で行なっているというのだから凄まじいですよね……"
"というわけで、実際に粘土を使って脳内だけでどれだけ本物に近づけられるか、出演者の皆さんで挑戦してみました!"
"いや初めから無理とわかってるコーナーを作るのはやめましょう!"
"(笑い声)"
"美術鑑定士のアンダーソン氏をお招きしています。アンダーソンさん、このジュエル・イースターエッグについてどう思われますか?"
"まず、私が思うに図面起こししている本物の狐の彫刻師が映った映像データの段階で美術的価値がありますね"
"そいつは凄い!TV局は期せずして美術品を手に入れてしまったわけだ"
"いや、本当にすごいですよこれ。市場でこれがどれだけの価格で取引されているかわかりますか?投機目的で買うことすら難しい莫大な金額が動いているんです"
"今、富裕層の間では、あの彫刻宝石を持つことは一種のステータスになっているそうですよ。ブローチにしたり、髪飾りにしたりと種類が色々あるんだとか"
"原石の段階で信じられないほど高そうだ……実際、どれくらいのお値段なんだい?"
"原石の値段によってかなりの開きがありますが、数千万円から数百億するケースもあるそうです"
"なんだって?そんなブローチ、怖くてとても身につけられそうにない!"
"あのVTRに出てきたイースターエッグはお幾らぐらいするんでしょうか"
"残念ながら値段は非公開なのですが、あのジュエル・イースターエッグを購入したのは日本の大財閥相談役、鈴木次郎吉氏となります。次郎吉氏からはメッセージをいただいてますので、どうぞご覧ください!"
"「あっあっあ!ワシの購入したジュエル・イースターエッグは美しいじゃろう?…現在、日本にあるレイクロック美術館で常設で展示しておる。他にも狐の彫刻師の作品が盛りだくさんの美術館じゃ!」"
"そこで、スタッフと共に現在狐の彫刻師展を開いているレイクロック美術館に行ってまいりました!"
レイクロック美術館を紹介するコーナーでは、その美しい彫刻作品を紹介しながら狐の彫刻師の謎めいた経歴から正体の考察、仕事ぶりまでをテンポよく放送していく。
なんだか頭痛がしてきて、景光は机に突っ伏した。
何でTVに出てるんだゼロ。
あとその気の抜けた被り物は一体何なんだ。
と、報告を終えてそこでホテルにちょうど帰ってきた銭形警部が「ああ、その番組か」と声を上げた。
「知っていたんですか!?」
「数日前から世界で話題になっているそうでな。なんだ、諸伏君は知らなかったのか?」
「此処のところTVを確認してなくて…迂闊でした。話題、というと?」
「アメリカの番組だが、日本でも紹介されとったはずだぞ。神の手をもつ宝石彫刻家、と題して」
「………本当だ、ネットでも色々盛り上がってますね。いや、大体は宝石の彫刻者じゃなくてシュールな狐の被り物のこと言ってますけど」
軽くインターネットをチェックすれば、狐の話題はSNSでトレンド入りするほどに人気だったようだ。
"チベスナ先生被り物のセンスありすぎる。どこで売ってんのあれ?"
"もうすでに汎用ネタ画像入りしてんじゃん。やはりチベットスナギツネは神。彫刻もできて2度お得"
"次のコミケのコスプレが決まった瞬間であった"
"誰か彫刻のことも話題にして差し上げろ"
……だめだ。
正体の考察はおろか彫刻の話すら誰もしていない。
全ての話題がチベットスナギツネに吸い込まれてしまっている。
ネットでの名称は「チベスナ先生」で固定したようだ。
番組画像の切り抜きとともに「素人は黙っとれ───」などと合成された画像が出回っている。
2枚目の画像に映る妙に表情豊かな金髪のスタッフの横には「あ、あんたほどの人がそういうのなら……」と文字が添えてある。
どういうシチュエーションだこれ。
探していけば幾人かはレイクロック美術館のチケットを取れたことを自慢していた。
前と同じく完全予約制で、身分証も必要らしい。
狐に対抗して馬の被り物を被っていくのだとYoutuberが自慢げに話している。
そしてコメントで「顔隠しての入場はできひんで。前のひまわり展の入場者より」などと指摘されていた。
諸伏は画面をそっと閉じた。
これ以上見ていると頭痛が酷くなりそうだったからだ。
「それで、今からその番組のスタッフ連中に事情聴取に行こうと思ってな。君も一緒に行くか、諸伏君」
「ええ。ご一緒させてください。あと、もうしばらくしたら明美も帰ってきますので彼女も一緒に」
「わかった。事前にワシからTV局には連絡を入れておく」
「ありがとうございます」
諸伏はふぅと一息ついて安っぽいホテルのベッドへと体を横たえた。
狭苦しい部屋の隅には生活必需品の山、そしてバッグの中から取り出したばかりの預金通帳がはみ出している。
降谷零は昔から、加減を知らぬ男であった。
全てのことを完璧にこなすということは、全てのことに全力投球ということに似ている。
諸伏の「同情するなら金をくれ」というどストレートな言葉にだって、降谷は全力を尽くしてみせた。
具体的には、ポンと生涯遊んで暮らせる金を手に入れた。
無論だが各種税金を支払って、かつ世界各地を宮野明美と共に巡りながらで、だ。
その空恐ろしくなるような金額が突如諸伏の手に舞い降りたのだ。
色々諸伏の悩みが深くなるのも仕方あるまい。
あと、この間などは銀行に立ち寄ったら偉い人が揉み手で挨拶に来た。
安い宿屋でカップ麺なんか食べているのは、ちょっとばかり金に手をつけるのが怖かったからだ。
どうなってしまうんだ俺……ゼロの桁が多すぎて財布が爆発するんじゃないか?
なおこれについて宮野明美は「零君、頑張り屋さんだものね」と微笑ましいものでも見るように回答した。
偉大なりしは異性の幼馴染ということか。
パチン、と両手で頬を張って諸伏は自分に気合を入れ直した。
まだ日は高い。
窓から差し込む昼の光の向こう側からチベットスナギツネのあの虚無の顔がのぞいている気がして、諸伏は思い出し笑いしないよう頬の肉を強く噛む羽目になった。
・TIPS
鈴木次郎吉氏がTV局から狐の彫刻師のデータを買取り、レイクロック美術館の館内ムービーコーナー&資料室用に編集しなおしたらしい。