バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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ゼロの執行人①

 

 東京サミットの開催時期が近づいている。

 

 話題の統合型リゾート施設エッジオブオーシャンも公式HPが公開され、ネットでも話題となっている。

 予約をとった者、観光の予定を立てる者。エトセトラ。

 

 これ即ち「ゼロの執行人」開幕に違いない。

 

 私はぼんやりTVを見ながら畳敷のスペースに設置した豪華な座椅子でゴロリと横になった。

 ルパン達はいない。

 他の仲間を呼ぶまでもない小さな仕事の途中なのか、それともまったりどこかの美女の紐になっているか。

 詳細は分からないが、動くにはちょうど良いタイミングだろう。

 

 私はTVを消してすくっと徐に立ち上がった。

 

───ゼロ、一大事です。エッジオブオーシャンが爆発する気がします

───そうか。すまんが今デザインに集中しているから後で…………爆発!?!?

 

 深層心理の底、新たに注文のあったジュエル・イースターエッグの模型の前でうんうん唸っていた降谷さんが吹き出した。

 

 今回の注文者はオイルマネーに潤う中東の大富豪だ。

 これで2作目の注文で、どうやら私の仕事ぶりに甚く感激したらしくパトロンになろうかとご提案までもらってしまった。

 まあ、そのときは丁寧に辞退申し上げたが。

 

 気前のいい富裕層の青年が犯罪の片棒を担ぐ羽目になるのは、私としても気分がいいものではないからな。

 

 ようやく態勢を立て直した降谷さんが、武家屋敷内に作った降谷さん用工房スペースでちゃぶ台をひっくり返しながら立ち上がった。

 描きかけの図面が床に散らばる。

 ああ、降谷さん足元、足元の図面踏みそう…!

 

───いやどういうことだ!?あそこは東京サミットの会場だぞ!…テロ、ということか?

───詳細は現地に行ってみないと何とも……僕の勘も万能じゃないので

───なら行くしかないな。風見に至急連絡を入れよう。

 

 もはや私の根拠のない話に理由すら問わないらしい。

 完全なる原作知識だから詳しく聞かれても「勘です」以外に答えようがないが……こうして信用されていると実感できるのは嬉しい限りだ。

 

 実は、私達、風見さん、黒田管理官との間にはまだ生きたホットラインが存在している。

 緊急事態があった時や組織の方に進展があった時に使う決まりとなっている。

 

 すぐにスマホから該当の電話番号を探し出し、珍しく降谷さんが表に出て電話をかけることになった。

 

「風見、俺だ。エッジオブオーシャンについて話したいことがある」

『……え、降谷さん!?無事ですか?なんかTVで珍妙なマスクを被って、いえ、そうでなく!何かあったんですか!』

「まだ証拠はない。今から急ぎ日本に飛ぶつもりだ。現場を見たい。手配を急いでくれ」

『ッ!それは……わかりました。最善を尽くします!』

 

 ちょっとチベスナに言及しかけた風見さんは、それどころではないと途中まで出かけた言葉を飲み込むことに成功したようだ。

 風見さんえらい。

 アレを被ってるとどんな場面でもダイソン並みに話題を吸い込んでいくのに。

 

 私としても、エッジオブオーシャンの爆発はなるべく避けたい。

 あそこの中央には降谷さんがデザインに一週間もかけた巨大彫刻モニュメントが立っているのだ。

 高さ8メートルもあり、平和と安寧を意味する鳩と植物の彫刻が入った逸品だ。

 

 狐の彫刻家について番組で国籍が日本だと明かしたら、正式に組織委員会から依頼があったのだ。

 無論、私たちは二つ返事でOKした。

 

 日本の顔となる建物に関われるのは嬉しい限りだからだ。

 

 どことなくぼんやりとした顔をしていたことが多かった降谷さんも、エッジオブオーシャンの爆破と聞いて今回ばかりは気合が入った様子。

 

 私はこっそりと微笑んだ。

 

 やはり日本を守ってこその降谷零なのだろう。

 この頃引きこもりがちな降谷さんを無理やり外に出すのも逆効果かと思ってそっと回復を待っていたが、こんなふうに積極的になってくれるとは。

 

───飛行機の予約取れました。1時間後に出発すれば間に合います

───助かる!さっさと荷物をまとめて出発するとしよう。あ、動画の方はもう投稿したんだったか?

───すでに投稿済みです。ですから特にやり残したことはないですね

 

 動画、というのは商品PRも兼ねて公式HPとして運用しているY◯uTubeチャンネルのことだ。

 

 TV放送が思ったより反響があったので気軽に始めたのだが、まさかまさかの凄まじい視聴者数。

 ビックジュエルの解説から彫刻実況まで実にニッチな内容だったはずなのだが、今のところチャンネル登録者数はとどまるところを知らないようだった。

 

 なお、収益化はしていない。

 そんなんで稼いでも私たちの総資産からすれば雀の涙以下だからだ。

 

 配信内容について詳しく見ていくと、彫刻のスーパースロー映像だったり、これまでに作った作品の紹介だったりをまったりしつつ。

 時々良い宝石の仕入れ方や価格帯を解説している。

 TVの時と同じくチベットスナギツネのマスクをかぶって丁寧に解説していれば、視聴者からのコメントも沢山ついた。

 

 特に人気なのは「初心者でもできる!彫刻の始め方!」だ。

 ねっ簡単でしょ?等と沢山コメントがあって、動画は大変賑わった。

 

 などと考え事をしているうちに降谷さんはテキパキと最低限の荷物を揃えたようだった。

 着替えやモバイルバッテリーなどをまとめ、軽い布製の旅行用バッグに詰め終えれば、ぐるりと辺りを軽く見回す。

 

───さて、いくか。爆弾なら解体すれば良いが、まだ未設置だと面倒臭いことになるな

───爆弾以外の手……つまり火付の類である可能性も否定できません。

 

 見るからに降谷さんが生き生きとしている。

 やはり天職は公安なのだろう。

 それを私が奪ってしまった、と長い尾を引きずるように後悔があとを引く。

 

 ここのところ随分傷心していたから、その隙を狙って私の魂の破片をドンドコ摂取させていたが……魂に精はついただろうか。

 魂に力があれば、多少の気の落ち込みも改善するのでという名目だったが。

 また、肉体もつられて多少は強靭になるだろうという打算もあった。

 

 次の死後もできればご一緒したい、という欲も無いではないが……やはりそれを決めるのは本人の意思でなければならない。

 

 ちらり、と降谷さんが私を振り返った。

 どこまでも真っ青な空と水が広がる深層心理は、かつての赤く濁った汚水とは比べ物にならないほどに美しい。

 

 夏を模した日差しが燦燦と目を焼いている。

 

 降谷さんが私へと振り返り、少しだけ笑った。

 

───心配かけてすまない。俺は大丈夫だから、そんな顔をするな

───……あんまりクヨクヨしてるとルパンに言いつけますから。そのつもりで

───それだけは止めてくれ。何をどれだけ言われるかわかったものじゃない

 

 そう言ってほのかに笑い合う。

 日本に発つ時間が近づいてきている。

 

 身の回りの物はOK、斬鉄爪の偽装OK、準備万端、時を待つのみ。

 

 さあ、何としてでも止めねばなるまいよ。

 




・Y◯uTubeチャンネル
チベットスナギツネ面の男が淡々と彫刻を仕上げていくチャンネル。
図面のラフスケッチを見せたり、時々使ってる宝石の産地なんかも教えてくれる。
「正しい斬岩方法」と銘打った斬鉄の亜種を全3回に渡って解説しているが、これまで再現に成功したという報告は一件もない。
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