バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
東都にひっそり用意してあったセーフティハウスに到着した私たちは、アパートの鍵を開けてやや埃っぽい室内に足を踏み入れた。
掃除されていない部屋にはうっすら埃が積もっていたので、畳とその周辺だけをハンディタイプの掃除機で軽く掃除する。
そして、あーっ、とおじさんくさい声で畳へ直接寝転んだ。
藺草の匂いはすでに飛んでしまっていて、若干カビ臭いような匂いはお世辞にも快適とは言い難い。
私は風見さん達との会話を思い出し、はぁとため息をひとつ吐く。
これで、ひとまずエッジオブオーシャンについては問題ないだろう。
あとは無人探査機のはくちょうの落下の件だが……。
降谷さんが眉間に皺を寄せ、深層心理の屋敷の居間で足を組んで話しかけてくる。
───なぁ、どうする?どうせNAZUに不正アクセスがあるんだろう?
───今のところ八方塞がりです。エッジオブオーシャンの爆破が実行されていればそれをきっかけに引っ張れましたが、それもないとなると
実際、今できることはほとんどない。
NAZUに直接セキュリティホールを教えるのも手ではあるが、犯人が健在である以上事の先送りにしかならない。
暗殺は早くて楽な手だが、やはり原作知識などという不確かなものを元に先んじて殺すのは倫理的に問題が多い。
はくちょうが落ちてからなら逮捕は如何様にもできるが、今度は探査機をどうやって止めるかが問題になる。
なんらかの手で斬れないかとも考えたが。
探査機の落下速度は、大気圏突入時で秒速12km。
それからは大気の影響でぐんと減速するが……とても人間に太刀打ちできる速度じゃない。
計算で大まかには分かっていたとはいえ、アレにサッカーボールをジャストヒットさせたコナン君は立派な人外である。
魂を目の細かい刃のネット状に具現化し、探査機を待ち構えるのも考えてはみた。
しかし、それでは切断自体は多分成功するだろうが、細かくなった破片によって地上に散弾銃がばら撒かれるだけだ。
もし魂を大気圏上まで伸ばしてその上にネットを張ることができれば、はくちょうは大気圏内で燃え尽きて安全に処理できるだろう。
中の貴重な資料もおじゃんだが、人命には代えられまい。
とはいえ、私の魂が成長したと言っても1km以上も魂を伸ばすのは無理だ。
結論。なんともならない。
ここまで来ると日下部検事の始末が安定な気がしてきた。
無辜の民を一人殺すのも二人殺すのも変わらないって言うし。闇堕ち闇堕ち。
畳の上に大の字になったまま、私たちは無力感にぼんやりと天井を見ていた。
と、その時。
ピンポーン、と玄関のチャイムが静かなセーフティハウスの空気を揺らした。
瞬時に緊張を取り戻し、降谷さんが体を僅かに起こして入り口を鋭く見据える。
この住所を誰かに教えた覚えはない。
入り口にセキュリティのない安めのセーフティハウスのため誰でも入って来れると言うことは間違いないのだが。
マンション全戸を狙った訪問販売だろうか。
だが、それにしては妙な気配だ。
玄関に近づき、後手に警棒を構えながら慎重に扉を開ける。
そこには思いもかけない人が、何でもないような顔で居座っていた。
「あなた、まだ日本にいたのね。近くにきたから寄ってみたけれど、前より存在の格が上がっているようね」
「あ、紅子さん!?」
黒い長髪に江古田高校の制服と思われるセーラー服を靡かせて、凛と佇む姿は薔薇とも百合とも表現できる。
ただの女子高生にしては妙な女王様感を醸し出すその女性の名は小泉紅子。
ファンタジー中のファンタジー。
赤魔術の正統継承者にして魔女である。
紅子さんが私を見て悠然と微笑んだ。
「流石は高次より来たりしもの。ルシュファー様には及ばないけれど、並の神格を超える膨大で純粋なエネルギー……。羨ましい限りだわ」
「はぁ。いえ、お久しぶりです紅子さん。どうかしましたか?」
「立ち話もなんだし、少し上がらせてもらうわね」
「え、あ、ちょっと勝手に上がるのは…まぁ構わないですけど」
ずんずん部屋に入り、勝手に机の横の座布団に陣取った。
流石はマイペース魔女様。ワールドイズマインである。
「で、改めて。何かありましたか、当代の赤魔術の継承者さん」
「何か、と言うほどのことでもないけれど。ルシュファー様からお告げがあったのよ。この東都に危機が迫っているようだから、念のためにね」
「危機、というと?」
私は首を捻った。
どれだ?どの危機だ?
ルパンとコナンを合わせると危機って割と身近なものだから、若干心当たりが多すぎる気がしないでもない。
「ルシュファー様からのお告げはこうよ。二色の波が爆炎を呼ぶ。ハロウィンの悪魔が渋谷を火の海とする。なんのことかはわからないけれど、気をつけることね」
「…………なるほど」
ハロウィン、爆炎、とくれば間違いなくコナン劇場版「ハロウィンの花嫁」だろう。
危険度で言えば歴代でも上位に入る話だ。
街を彩る装飾全部を特殊火薬にして設置した前代未聞の爆破威力で、渋谷を丸ごと吹っ飛ばそうとしたのだから。
それはもう何百万人死ぬのかわかったものでない。
それに魔女がわざわざ忠告するくらいだから、原作とはまた異なる事態が起こる可能性も否定できない。
私は神妙な顔を作り、深く魔女に頭を下げた。
「ご忠告ありがとうございます。それなら忠告ついでに聞きたいことがあるのですが」
「なにかしら」
居住まいを正してきっちりと視線を合わせる。
この訪問は渡りに船だ。
「近々、無人探査機のはくちょうが何者かにハッキングされ、東都に落下します」
「………なるほど。ここの所の妙な占いの結果はそれが原因だったと言うわけね。それで?」
「何か魔法的な手段で防ぐ方法はありませんか。今のところ、僕達には取れる手段がほとんどありません」
魔女は予想外のことを聞いた、と言う顔でパチクリと瞬いた。
「貴方ほどの神格にできないのなら、あくまでルシュファー様を通して力を振るう私にできることなんてないと思うのだけど」
「え……いや、神格とはいいますけれど、僕何もできませんからね?精々魂を具現化する程度ですし」
というか神格って何だ。やはりクトゥルフが?
と疑問符に首を捻っていれば、紅子さんに何を言っているかわからないみたいな顔をされてしまった。
どうやら本気で私が神様的な何かであると思っているらしい。
「基本的な存在の転移は?」
「無理ですね」
「祝福と神罰は?」
「無理ですってば」
「化身の顕現と管理ぐらいはできるのよね?」
「化身ってなんですか化身って。僕は一人しかいませんけど」
当然のように私が神らしいことぐらいできると思っているようだ。
できるかそんなん。
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした紅子さんが、口をぽかんと開けたまま呆然とシンキングタイムに入ってしまった。
「……幼い幼いと思ってたけど、本当に幼い神なのね、貴方」
「まず神じゃないですね」
「いくらなんでも基礎的な力の使い方ぐらい覚えた方がいいわ。だれか知り合いの神はいないの?」
私の話聞いてくれよ。
あと神ってそんなポンポンいるもんなの?
───俺の別人格が神に昇格してしまった……いやまぁ、他ならぬ俺の別人格なんだからそのくらい当然か
───え、待ってくださいゼロそんな変な方向に納得しないでくれません!?僕は一般的なゼロの別人格Aです!
───一般的な別人格ってなんだよ
真顔で降谷さんが問い返してきた。
うるせー!そんな期待値ぐんぐん上げられても都合よく超能力は生えません!
それといくらプライドエベレストでも別人格が神になったら違和感ぐらい抱いてくれ。
自尊心高すぎか?
天上天下唯我独尊。そのくらいでこそ降谷零だと言えるのかもしれない。
降谷さんが肉体の主導権に滑り込み、ずいっと会話に割り込んで口を挟んだ。
「心の中に世界があるんだが、やっぱりアレも安室の力だったりするのか?」
「……あなたは依代の方ね。誰しも皆心に己だけの世界を持つものだけれど、もしそれが自由に変えられたり足し引きできたりしたなら、間違いなく幼い神の神域となっているわね」
「ほう……そうか」
初知りシリーズ第N弾、深層心理の武家屋敷は私の力だったらしい。
知らなかったぜ…いやまじで。
紅子さん来ると真面目に世界観おかしくなるな。
TO BE CONTINUED …