バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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祟りのその後

 

 はっ、と目が覚めたら、隣国ブラジルに構えたアジトであった。

 

 古びてチカチカした電球と、シミだらけの天井が私を歓迎する。

 近くのソファにいたルパンが私の様子に気が付き、身を乗り出して私を覗き込んだ。

 

「やーっと目覚めたか、安室」

「ここは……というかマモーは?なんかすごい数のマモーをぶっ殺す夢を見たんですが」

「それ夢じゃねーんじゃね?」

 

 呆れたようにルパンはため息をついた。

 

 つけっぱなしのTVが最新の情報だ緊急のニュースだとがなりたてる。

 どうやら、黒い蛆虫の集合体みたいな凄まじい化け物が世界各地を蹂躙したらしい。

 

 そんな大事件が私の寝ている間にあったなんて。

 なんだか記憶を掠めるものがあるが、うまく思い出せない。

 

 ぽやっとニュースを聞いている私に、ルパンが肩を落としてもう一度大きなため息をついた。

 

「これ、オメー。おわかり?」

「…………えっ」

「オメーがマモー相手にブチギレて触手わしゃわしゃ出しまくったの。本気で覚えてねーの?」

「えっ、えっ???」

 

 だんだんと思い出しかけてきた。

 怒りのあまり祟り神化して大暴れしまくったような、降谷さんを内側に閉じ込めて本人にド叱られたような。

 黒歴史を量産したような、なんだか倒れたくなるような記憶の群れがじわっと私を襲いくる。

 

 私は一つ頷いた。

 

「うーん、よし。もう一度寝ていいですか?」

「良いわけあるか!オメーには今晩の飯を豪勢に作るっていう罰が待ってんだからよ!」

「はい……」

 

 ルパンにピシャリと活を入れられて、私は仕方なく腹を決めた。

 これから何を言われるのかはわからないが、せめて責任は取ろう、と。

 

 布団の中の服装は倒れた時と同じ、紅白の着物と注連縄姿だった。

 だるい体に気合を入れて、一思いに布団から立ち上がる。

 よいしょ、と!

 

 その勢いでずるっと腰回りから溢れたのは、20本ほどの黒い邪悪そうな触手であった。

 それらはぬたぬたと床を這い、べたつく粘液を残した。

 

「おわぁぁああああ!?」

「ば、バカお前、お漏らししてんじゃねーよ!」

「その言い方は名誉毀損ですよ!?あっあっ、なんか変なの出た、しま、どうやってしまうんですか!?」

「知るか!とりあえず掴んで中入れろ!」

 

 ルパンがぬたぬたと不気味に這い回る触手を掴んで私の腰へと押し戻した。

 一応戻っていくようだ。

 自分で中に回収してみてわかったのだが、どうやらこれは変質・具現化した魂の一部のようだ。

 

 全て体内にしまってからそーっと出してみると、一本の長い魂のムチが赤黒く具現化してグネグネと生物的に蠢いた。

 

 や、闇堕ちしてしまった…私の魂が……。

 

 はっと気がついて急いで深層心理の底も見てみると、なんとびっくり。

 美しかった武家屋敷は陰鬱に雲の垂れ込めるホラー系お化け屋敷へと様変わりしていた。

 

 黒く呪詛がみっちり書き込まれた注連縄があちこちに張り巡らされ、おどろおどろしいお札が障子を封印するように偏執的に大量に貼られている。

 池は濁り、草木は枯れ果て、困り果てた錦鯉が隅っこのやや綺麗な水に縮こまっていた。

 

 そして庭に一次避難していた降谷さんが、ブルーシートの上に布団を引いて倒れ込むようにして寝ていた。

 

「ぜ、ゼロ!?無事ですか!」

 

 急いで駆け寄れば、ギギギギギ、とげっそりした顔で降谷さんがこちらを見た。

 

「……無事なわけあるか!なんだあの触手の群れは!」

「ま、まさか降谷さんも私の触手に襲われて…!?」

「いや、ひたすらもみくちゃにされて撫でまくられた。24時間ずっとだぞ…愛玩動物でも吸うみたいに遠慮なくやりやがって……」

「あっはい」

 

 深層心理に現れた黒い触手は、ひたすら降谷さんを撫でまくっていたらしい。

 そういえば当時夢の中で、マモーへの怒りを抑えるため可愛い人形を手の中で撫でていた気がしないでもない。

 実際すごい癒されたから、降谷さんの犠牲は有意義だったと言えるだろう。

 許せ降谷さん……。

 

「それで、起きたみたいだな。お前が無事でよかった」

「いえ。私もすみませんでした。ご迷惑をかけたみたいで」

「いいさ。俺も思考をまとめたかったしな」

 

 ほっと一息ついた降谷さんが心底安堵したと言う顔で私へと笑いかける。

 私も同じく魂の相棒へと笑顔を向けた。

 彼の姿を見てようやく、真に危機が去ったような気がしたのだ。

 

 外ではルパンが私の表情に気がついたのか私の肩に手を置いてルパンが大きく頷いた。

 

「その様子だと降谷ちゃんも無事みたいだな」

「ええ。私がゼロに危害を加えるようなことがなくてよかった───バカ言え、お前に限ってそんなことあるわけないだろ」

 

 「少しは自分で自分を信じろ」と言う降谷さんの信頼が厚い。

 へにゃりと私は眉を下げて笑った。

 

 ごほん、とルパンが咳払いする。

 いつのまにか私たちの目の前にはホワイトボードが用意され、ルパンの手書きと思しき図案とルパン顔の挿絵が描かれている。

 

「ここいらで現状を説明するぜ〜!」

「?何をですか」

「あー、なんだ。オメーは古代より目が覚めた謎の生物、もしくは宇宙より飛来した謎のインベーダー、ってのが世間での通説だ」

 

 はえ、と間の抜けた声が漏れた。

 

「あのマモーが現れたタイミングから10分ほどで南半球を中心に世界全土を黒い触手が覆い尽くし、世界は大騒動。世界各国の軍が出動したがなんの収穫もなし」

「な、なるほど?」

「で、1時間後には突如として消失。原因も何もわからず、世界は平和を取り戻したのでしたー、ちゃんちゃん!」

「あわわわわわ」

 

 中で聞いていた降谷さんとともに顔を見合わせて青ざめる。

 

 とんでもねぇ……大惨事ってレベルじゃねぇぞ。

 軍の出動だって費用はタダじゃないし、それだけの大ごととなれば各国の首脳らによる緊急の情報交換もあったはずだ。

 空を覆い人をまさぐるが害は与えない触手……無理に逃げようとして怪我をした人もいただろう。

 本能的にそういう人を幾人か触手で助けたような気がするが、全てを救えたとは言い難い。

 

 降谷さんが肉体の主導権に割り込み、ルパンへと問いかけた。

 

「マモーはどうなった?」

「んー、これは俺の憶測だが、死んじまったみてーだな」

「……死んだ?」

 

 眉間に皺を寄せる降谷さんに、私も同じく黙り込んだ。

 あのクソ野郎が死んだのは好ましいが、なぜ死んだのかわからなかったからだ。

 

「南米ボリビア奥地にあった遺跡、そこに一晩経っても触手が残ってたらしくてな。現地人がそこを見に行ったら地下に巨大な研究施設があったんだと」

「!」

「で、触手がたかってたのはその一番奥にあったっていう、培養液に浸かった巨大な脳だったってわけ!今は世界各国の取材陣が押しかけて現地は大パニックらしいぜ?」

「というと、すでにその巨大な脳の死亡は確認されているということですね」

「おう。腐り落ちて変色、半分以上培養液も腐ってたらしい。あの世界を騒がせた黒い触手と関係があるんじゃないか、とまことしやかに噂されてるようだぜ」

 

 Oh……。

 巨大な脳は間違いなくマモーの本体だ。

 私がルパンに止められる前にギリギリで見つけ出し、祟り殺したらしい。

 グッジョブと言うべきか、仕事早すぎと言うべきか。

 

 この際だから触手の主はその謎の巨大脳だった、ということにしたいけど触手柱の発生源がコロンビアだから難しいだろう。

 TVでもネットでも、触手の発生源は間違いなくコロンビアだったと確定できるだろうし。

 

 どうやらネットでは「謎の脳だけ宇宙人を狙う巨大宇宙生物、という戦いがあったのだ」とか与太話が爆発的に広まっているらしい。

 一応それに関した与太話の域を出ないものの。

 ただ、人の想像のつかない埒外の知性を持つ生命がいたということは間違いないとされ、現在は各国で今後の対応の協議が行われているそうだ。

 

「SFじゃないですか」

「バカやろー!半分以上オメーのせいだ!オメーを連れてとっつぁんを撒くの大変だったんだかんな!」

「うっ……失礼しました!」

 

 ビシッと頭を下げて謝れば、その反動でまたペショリと黒い触手がはみ出して力なく床に広がった。

 無言でそれをぐいっと手で押し戻せば、ずるずると中に引き戻すことができた。

 

 隣の部屋にいたらしい五エ門先生がチラリとこちらへ視線をやり、ちゃぶ台の上の茶をずずっと吸って一言つぶやいたのだった。

 

「要修行。明日庭で朝8時からみっちり仕込む。心しておけ」

「はい………」

 

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