バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
「あーーーーー……」
「おい、大丈夫か安室。息してるか?」
「うーー……うぁー……」
次元さんが私の顔に水をかけ、パタパタと顔の前で手を振ってくれたが、残念ながら私は譫言をこぼすより他まともな反応を返すことはできなかった。
本気でみっちりしごかれ、言語能力をなくしている今現在。
死線を数度といわず千や万ほど潜らされ、心身ともにボロボロだ。
全身浅い切り傷だらけで血塗れ、汗もぐっしょり。
紅白の着物はボロボロになってしまっている。
それを一顧だにせずずずっと茶を啜っている五エ門師匠は、じろりと倒れ込む私を見て言った。
「未熟。技量は見れるものになったが、まだまだ精神の修養が足りぬ」
「あい……ししょー…」
「その黒い触手はお主の未熟の現れ。よくよく身に刻むことだ、安室」
「だからって物理で身を刻まなくとも……」
思わず口答えすればぎん、と睨みつけられ、私は閉じた貝のように口をつぐまざるを得なかった。
また打ち込み一万本は嫌でござる!
本気の五エ門師匠のまるで見えない太刀筋で膾斬りにされるのは嫌でござる!
実際、私が目覚めてからの苦境は涙なしには語れない。
起きている間は降谷さんと手分けして一味分の飯を作り、家事掃除を行い、それが終われば五エ門師匠と修行三昧。
ヘトヘトで動けなくなれば、その間を使って二人がかりで深層心理の武家屋敷を後片付けだ。
淀んだ空も掃除をして怨念渦巻くしめ縄などを撤去すれば、なんとか洗濯物を干せるぐらいには天候も回復した。
空気の澱みも若干解消され、水もきれいになって池の鯉も嬉しそうにぴちぴち跳ねた。
水が回復して、各種乾燥機やら洗濯機やらも回せるようになったのは意外と大きい。
これが終わらねば現実の家事がちっとも楽にならないので、重い体をおしてでも動かねばならなかったからだ。
回収した注連縄やお札は、神域の庭で丁寧にお焚き上げを行った。
なんか呪われたら怖いし、などと漏らせば「お前が呪いの元だが」と真顔の降谷さんにツッコまれた。
悔しかったのでオンドロドロと何枚か黒いお札を具現化して嵩増ししてやったら、降谷さんにきっちりと怒られた。
無念。
ちなみに、お焚き上げしたところなにか黒い怨念のようなものが炎と一緒に立ち昇ったのはご愛嬌。
それらは炎を黒く染め上げ、絶叫に似た音を立てながら黒く灰になって消えていった。
あれが何かはわからないが、たぶん私の恨みつらみとかその辺だと思われる。
また、増設した倉庫や食料品店の方はお札まみれになっていたので降谷さんと二人で剥がして突入した。
中は幸いやや埃がかぶっていること以外変化はなかった。
そういえば、うっすらとした意識で大切な空間はお札で封印して立ち入らないようにしていた気がしないでもない。
などと、掃除に修行にと盛りだくさんだったのだ。
こんなふうにへたってしまうのも仕方ないと言えるだろう。
───おい大丈夫か安室、そんなへたった姿を五エ門さんに見せていると明日の修行が倍にならないか?
───あっあっはい大丈夫ですこの程度なら元気満々ですよぉ全くやだなぁ師匠ったら
───死んだイカが死後硬直の関係でバタバタ激しく動いたみたいな絵面だな……
ビシッと体をブリキの人形のように起こせば、五エ門師匠はむすっとして大きなため息をついた。
へへっ、師匠私は元気ですんで明日の地雷原走り込み追加200周はご勘弁を!
地雷原走り込みでは、一度触手を先行して這わせて地雷を処理するズルを行ったところ、ド叱られた挙句200周追加で走らされたのだ。
これが辛いのなんのって、一瞬でも気を抜けば即死なのだ。
肉体も気力もボドボド。ボドボドなせいで誤って触手を何本か漏らして、さらに100周追加の無限ループ。
夕日がどっぷりと沈みお月様が煌々と夜を照らしてもまだ走り終わらない恐怖。
おお……神は死んだ……!
しかし、そのおかげで触手の制御は万全だ。
もううっかり出してしまうこともないし、こっそりズルしようと努力したおかげで意識すれば触手を透明に戻すこともできるようになった。
まあ、これについては五エ門師匠にすぐに見つかって追加200周を課されてしまったわけだが。
と、その時ふと私のスマホがヴヴヴと鳴り立てていることに気がついた。
どうやら昼間から幾度か鳴っていたようだが、修行中で気づかなかったようだ。
「はい、安室です」
『安室さん無事!?あの変な黒い触手に襲われなかった!?』
「あ、コナンくんか。僕は無事だよ。というか、僕が震源地だったと言うか」
『はぁ!?』
電話に出てみれば、相手は世紀の名探偵、コナン君だった。
なんでも、コナン君はあの触手にはまさぐられなかったようで、ひとまずのところ無事らしい。
どうも当時のことを思うに、コナン君に触れるのを触手が嫌がっているようだったらしいのだ。
そのおかげで妙なカルト宗教がわらわら寄ってきて大変だとのこと。
『選ばれし神子だとかなんとかさぁ!毎日毎日探偵事務所までやってきて宗教活動するし!本当に良い迷惑だよ!!』
「そりゃ大変だ……それ、高木刑事あたりには相談したかい?」
『そりゃあね。目暮警部に言って事務所周りを巡回してもらうようにしたら随分減ったけどさ』
「うーん、警視庁を顎でこき使うあたりさすがコナン君って感じだよね」
『仕方ないでしょ!蘭姉ちゃんも随分怖がってたんだし!変なお守り買わされそうになったって!』
コナン君はプンスコと怒って地団駄を踏んでいる。
光の魔人の嫁に詐欺行為とかカルト系詐欺師も無理をしてらっしゃる。
どうせ目をつけられて後でムショにぶち込まれるんだろう。
南無阿弥陀仏。
『で、あれはやっぱり、前の山に出た変な幽霊みたいなそっち系の話なの?何か事情を知ってるっぽいけど』
「そうだよ。正真正銘のオカルト。探偵の領分じゃないさ」
『……そう。ならいいや。僕はノータッチとするよ』
「えらくあっさりだね」
『僕は人の事件を人として解決するのが仕事だからね。オカルトとかSFとかには興味がないんだ』
「人を若返らせる薬も相当SF…」
『シャラーーップ!!!』
コナン君に怒られてしまった。
人の事件を人として解決する、は彼の信条なのだろう。ホームズの掟というべきか。
あの世の理はあの世に任せ、埒外の事件はその専門家に任せる。
潔い判断だが、たぶんコナンくんの光の魔人具合からするとオカルトにも結構適性がある気がするんだよなぁ。
と、そこでルパンがするりとスマホを私から奪い取り、にししと笑った。
「じゃ、棲み分けってことで一つ。オメーは面倒極まりない人間の悪意を処理する。俺様は人が見る夢の澱に対処する。どうよ?」
『ルパン三世か。……いいぜ。そういう面倒な悪意の糸を一つずつ紐解いていくのが、探偵の仕事なんだからよ』
「言質とーった。今後は面倒ごとはオメーにパスすっからその辺覚悟しとけよ」
『!?ちょっ、そうは言ってねーだろうが!』
にひひひひひ、とルパンはいたずら小僧のように笑って電話を切った。
この人も何を考えているかわからぬ御仁である。
「ま、俺らも今回後手後手だったからな。力の制御の方は五エ門にみっちり仕込んでもらうとして」
「うむ」
「ゔっ……はい、精進します」
明るい空気に真剣な色を。
おちゃらけた気配に混じる本気の影を、
ルパンは落ち込み項垂れる私に聞こえぬよう、静かに落としたのだった。
「……俺らでも何かしら手を打つ必要があるかもな。あいつがいつ自分を抑えられなくなっても良いように」
次回はハロウィンの花嫁の予定