バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
渋谷地下にあるナーダ・ウニチトージティの地下集会所にやってまいりました。
まずやるべきことは彼ら、プラーミャへの有志復讐組織たるナーダ・ウニチトージティへの連絡だ。
今日も今日とて集まって情報交換していた彼らの姿を天井付近のパイプの上から確認して、私は一つ頷いた。
するりと彼女らの背後に降り立って声をかける。
「初めまして、ナーダ・ウニチトージティの皆さん」
誰だ、と銃を構えるのはロシア人兄弟の…名前はドミトリー・ラザレフとグリゴーリー・ラザレフだったか。
私の姿を見て、彼らは戸惑いつつも殺気立ったようだった。
「ルパン一味の爪、フォックステイル!?いったいなぜここに!」
声を上げたのは兄弟の兄の方、ドミトリーだった。
私は拳銃という矮小な武器を向けられ、せせら笑って両手を広げた。
「銃を向けないで。僕に敵対する意思はありませんから」
「信じられるか!両手を上げろ!」
「あはは。やだなぁ、あまりそんな態度を取られると……」
首を撫で落とすしかなくなってしまいそう。
ニタリと血が滴るように嗤う。
触手が漏れそうになるのを既の所で堪えて、僅かに首をかしげる。
彼らは慄き、一歩後退りした。
「お前達、さがれ」
そこで兄弟を下がらせたのはナーダ・ウニチトージティのリーダー、エレニカだ。
エレニカは毅然とした態度を貫き、凛とした瞳でこちらを見据えた。
「我らに何の用だ、フォックステイル。お前ほどの大物が我々のような民間組織に用事などあるはずもない」
「そう警戒せずに。僕はただあなた方が狙うあの爆弾犯、プラーミャの情報を提供しにきたんですから」
「!……続けろ」
「プラーミャは現在、クリスティーヌ・リシャールという名前で日本に潜伏しているそうですよ。元警視庁捜査一課の警視正、村中努の婚約者として堂々とね」
そう言うと、エレニカはぎり、と僅かに歯軋りをした。
無理もない。
彼女の仇がのうのうと幸せそうに街を歩き、結婚式まで開こうとしているのだから。
「そしてハロウィンの日にあなた方を一掃しようと街に爆弾を仕掛けることを画策している」
「……それで?」
「もしプラーミャを自らの手で処分したければ、期日までには済ませておくことをおすすめします。貴方がたが遅れるようであれば、僕が始末してしまいますので」
ざわめきは一気に集会所に広がった。
突如目の前に現れたプラーミャの情報、復讐の可能性に流石の彼らも無言ではいられなかったのだろう。
目線を鋭くしたエレニカが私にくってかかる。
「クリスティーヌ・リシャールというのはプラーミャに爆破を予告されている花嫁だろう!それが何故……いや、そうか、これ自体が私達を誘き出す罠!」
「の、ようですね。僕には関係のない話ですが」
「………何故そんな話を私たちに持ってくる?」
「信じなくても構いませんよ。僕はプラーミャが処分できれば、それが貴方がたの手で行われても、僕が直接手を下しても構わないので」
ぐるぐると思考を回しているのだろう。
エレニカが黙りこくると、心配そうにラザレフ兄弟がエレニカを見つめた。
「…お前とプラーミャとの間に確執があるとは聞いたことがない」
「そうでしょうね。僕としても三年前に一度あったきりですので。まぁ、その時は背中と腕を爪で軽く引き裂いてやると逃げていきましたが」
「そうか……じゃあなぜ、今になって?」
「僕の大切な人に手を出したからですよ。流石に、それは看過できない」
ちり、とした怒りが私の背筋を伝い、腑に溜まっていく。
うずうずとした感覚が胸を撫ぜる。
「ほう」とだけエレニカは言った。
復讐者なだけあって、他人の怒りには敏感なのかもしれない。
私の怒りの様子、ただそれだけで信用に足ると決めたようだった。
エレニカは「いいだろう。お前の言うことを信じ、我らナーダ・ウニチトージティはプラーミャの討伐に動くとする」と宣言した。
ならばもう、私達にやれることはない。
くるりと背を向け、私は言い置いた。
「では、僕はこれで。あの女は目障りなので、あなた方が早めに刈り取ってくれることを期待します」
エレニカは大勢の仲間達に囲まれながら、拳を握りしめて宣言したのだった。
「……言われずとも、やってやるさ」
私が次にやってきたのは、都内にあるイベント企画会社や広告代理店である。
あれでナーダ・ウニチトージティはプラーミャを狙うことに注力するはずだ。
命を狙われ、プラーミャの注意は否応なくナーダ・ウニチトージティに向かわざるを得ない。
その隙にハロウィンに街を飾るであろう大量の爆薬を今のうちに回収するのだ。
探偵の肩書を使って虱潰しに探していけば、昼はとっくに過ぎていい時間になっていた。
適当に飲食店に寄って昼飯にすべきだろう。
私は秋も深まる優しい日差しの中、騒がしい渋谷の街並みを見渡しながらポツリと呟いた。
───何か聞かないんですか?
───なにが?
降谷さんは私の質問に分からないふりをした。
───僕の行動について。どう見ても勘の領域を逸脱しているでしょう
───今更だろ。ルパンも勘じゃなくて未来予知の類だって言ってたし。ガンダムといい魔女といい、何が起きてもおかしくないだろ?
まさに今更、と言った様子で降谷さんはあっけらかんとした態度を貫いた。
それでもここのところは異常が過ぎた。
不安がどんどんと大きくなって、胸をガサガサと逆撫でて、座っていられないほどの焦燥感に変化する。
───最近の僕は、変だとは思いませんか。黒い触手は出るわ、神だ何だとややこしい話が出るわ。しかもゼロを、
───俺を?
少しだけ私は口を開くのを躊躇った。
言葉にするのが怖かったのかもしれない。
───僕のしもべだと、覡だと、本気で考えてしまった
───やるな、安室。俺をこき使おうとは!その挑戦受けて立つ!
面白そうな降谷さんの声色に、私の返事は悲鳴に近いものとなってしまった。
───ふざけて言ってるんじゃないんです!!本当に、僕は
ついに口から言葉が出なくなり、重たい沈黙が滞留する。
どうにも落ち着かなくて姿勢が保てない。
モゾモゾと体を動かし、視線を忙しなく動かす。
しばらく経ってから。
降谷さんは静かに、ぽたりと水滴を落とすような優しさで言葉を紡いだ。
───それは逆だな
───……?
───俺はずっと前から、ずっとずっと思ってたよ。お前をしもべとしてこき使ってるんじゃないかって。お前を都合よく消費してるんじゃないかって。
───!
───俺はさ、嫌なこと全部お前に押し付けて、楽して生きようとしてるんだ。違うか?
降谷さんが自嘲する。私は必死になって反論した。
───違います!そんなこと……
───初めての殺人の時。お前に代わってもらって。犯罪を用いてのしあがる薄汚い行為を全部やってもらって。おんぶに抱っこだった
降谷さんが私を正面から見つめる。
まっすぐな瞳が交差する。気圧されそうな澄んだ青い瞳が、私の胸を貫いている。
───だから今、少しだけ嬉しいんだ
降谷さんが私に手を差し出す。
───やっとお前のために動ける。お前を支えることができるんだ
───……そんなの、いつもいつだって支えられていますよ。僕は
───はは、そう言ってくれると嬉しいな
降谷さんは笑って、私の手を勢いよく取った。
そして体の主導権を奪い、スキップでもするように歩きだす。
───何があろうと、お前は俺の相棒だ。それだけは忘れないでくれ
───………ええ。もちろんです、ゼロ
と、いい感じのところに降谷さんがぎょっとして立ち止まった。
───おい、触手が漏れてる!
───え?あっ、まずい、また五エ門師匠に怒られる!
慌てて掴んだその触手は、美しく透き通った透明な色に戻っていた。