バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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シェリー

 

 ここはシェリーの所属する研究所だ。

 

 そこそこ広い敷地内に薬剤にまつわる研究設備が立ち並び、黒の組織がこの研究にそこそこ金をかけているのがわかる。

 

 さて、私がここに来ているのは組織からの命令だ。

 私の肉体の秘密を探るために血液やら何やらを各種検査機にかけるとかで、本日は採取のために研究所に来ている。

 実際、秘密なんて高尚なものはないのだが、それはそれ。

 組織としてもそんなトンチンカンなことを言い出した理由があるのだ。

 

 それは最近になって外部に着実に広まってきたバーボン改造人間説だ。

 なんでも、狂犬バーボンは組織が作った改造人間で、その高度な生命科学を利用して1からデザインした結果を実戦投入で確かめているのだと。

 

 おいおい仮面ライダー脳もいいかげんにしてくれ。

 マジなわけあるかいな……と思ったがこの世界にはルパンが居る。

 完璧に否定するには前例のハチャメチャ具合が真実味を帯びすぎている。

 

 で、組織は周りから舐められないようにそれ相応の……つまりは改造人間をガチで作れるような科学力を欲し始めた、というわけだ。

 世界観がほぼギャグである。誰も何も言わないのかコレ?

 

 降谷さんは血液等の肉体情報を組織に握られることに難色を示していたが、残念ながらトップからの命令は絶対。

 それに、シェリーとの接点を持つため、ひいてはこの現状から助け出すための起点になるかもしれない、と言うことで納得した様子だった。

 

 何に使うのかも分からない巨大な機械がウォンウォンと回転音を響かせている、研究棟の一室。

 私はシェリーの前で軽く身体測定用の体重計に乗り、苦笑した。

 

 はあ、とシェリーが呆れたようにため息をつく。

 

「本当に化け物なのね、貴方。握るだけで握力計を壊すなんて」

「化け物は言い過ぎです、シェリー。僕だって傷付くんですよ?」

「どうかしらね」

 

 先ほどは検査前の運動能力検査ということで、学校の体育で行うような短距離走やら握力測定やらが行われた。

 ついでに聴力検査、反射神経のテストも含まれていて、意外と盛り沢山の内容だ。

 

 当然、肉の身体を十全以上に扱う私にかかればオリンピックもびっくりのトンデモ結果を叩き出した。

 

 100メートル走なんて六秒台だからね。

 走り幅跳びも15mくらい行くし。たしか世界記録が8m台だったか。

 内側で降谷さんが「アメコミヒーローの実写化とかだろお前」って呟いたのは忘れていない。

 貴方も同じ肉体を持つものですよ、降谷さんや。

 記録用紙持ったまま背後に宇宙を背負うんじゃない。

 

 しかし化け物とは何だ化け物とは。

 むくれた感じで抗議すれば、シェリーは鼻で笑った。

 検査結果の用紙を挟んだバインダーを机の上に置き、私へと向き直る。

 

「組織の血塗られたウルフドッグ、凶爪のバーボンがずいぶんと謙虚じゃない?」

 

 なにその二つ名ダッッッッサ!

 え、絶対登場から数コマで五エ門に倒されるタイプの雑魚じゃん。

 実際数コマで倒される実力差だろって?そっすね……。

 

 心の水底で降谷さんが「凶爪…やはり組織において特別な立場にいるのは間違いないな。裏社会において対外的にもネームバリューが──」などなど、思考に耽っている。

 降谷さんはどうしてこのネーミングセンスがスルーできるのか。それが分からない。

 

「……恥ずかしいですよ、そりゃ。実力が伴っているか不安で仕方ないです」

「殊勝なのね。それだけの並外れた身体能力があれば驕り高ぶっても誰も何も言わないでしょうに」

「ただ暴れるだけの獣ならばそれでいいでしょう。ですが、コントロールの利かない狂獣など本能に縛られる虜囚に過ぎない。そうでしょう?」

 

 シェリーは消え入るような憂い顔でふっと微笑んだ。

 

「貴方、ルパン三世のところで戦闘技術を学んでいるって聞いたわ」

「おや。もうその話が出回ってるんですね」

「ジンの自慢話は聞き飽きたもの」

 

 口が軽かったのはジンらしい。ホント奴は狂犬好きだな。

 シェリーがその瞳を伏せる。

 まるで星に恋焦がれるかのような、熱と諦観とが入り混じった夜の気配を漂わせながら自嘲する。

 

「……貴方は自由なのね」

「え、ええと…?」

「夜闇を駆ける大盗賊と共に歩み、組織を足場に飛び立ち、野を駆ける獣のように自由。深海に縫い止められた哀れなサメとは大違いだわ」

 

 組織の嗜み、詩人ポエム。

 私の苦手な分野だ。最近は中で降谷さんがカンペ出してくれるようになったから気の利いたポエムも言えるようになったが。

 何でみんなこんなにスッと詩が出てくるの?

 

「私、太陽なんてずっと見てないもの」

「貴方にもきっと現れますよ、貴方の太陽が」

「無理ね。深海の底に日は昇らないわ」

 

 宮野志保は自嘲して首を振る。

 

 ところがどっこい。

 シェリーの救い手はこの世のタイトルロール。全ての中心、主人公。

 この世界においてあまねくを照らすは救世主ではない。

 光の魔人、江戸川コナンその人である。

 

「深海を抜けて朝日を見上げればいいんです。海は広いのだから、泳ぐ自由を誰も否定できはしませんよ」

「あら。組織の忠実な犬である貴方が裏切りを唆すの?悪い人ね」

「僕は僕のために組織にいるだけですから。貴方は貴方のために組織を抜けていいはずだ」

 

 理想論だとシェリーは笑った。

 その笑顔は少しだけ先ほどより明るい。

 いかに儚くとも夢を語ることは心を軽くするものだ。

 

「貴方、また来る時は事前に連絡しなさい。茶菓子ぐらいは用意してあげるわ」

「ありがとうございます。僕も、きちんとした手土産を用意しておきますね」

「そうしてちょうだい。あの和菓子も悪くなかったけど、そうね。フサエブランドのバッグとかがいいわ」

 

 ニヤリ、と何かを企むような笑みだ。

 ずいぶんと緊張もとれたようだ。初めはガチガチに警戒していたのに、肩の力が抜けている。

 

「お言葉の通りに。そういえば、来月フサエブランドの季節限定新作が出るらしいですね」

「!あら、詳しいのね」

「ははは。仕事上の知識でしかありませんが。品が良かったので覚えていました」

「そう……バーボンのお眼鏡にかなうなら十分ね。手土産はそれで頼むわ」

「かしこまりました」

 

 優美に一礼して研究室を後にする。

 この後は別室で血液検査だ。担当者が変わるため、シェリーとこのあと会う機会はない。

 しかし、近場なので後日手土産を持って遊びに来るぐらいは咎められないだろう。

 

 ───シェリー、か。ヘルエンジェルの娘さん。彼女もこの組織に囚われているのか。

 

 降谷さんが思い悩む声が透き通る水底から響いてくる。

 

「また来ます、シェリー」

「ええ」

 

 昼食のため研究室を出れば、ミンミンと蒸し暑い風にうるさい鳴き声がハーモニーを奏でていた。

 季節は夏。

 

 赤井秀一のNOCバレはすぐそこだ。

 

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