バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
公安のお偉いさんとの会合は来週に決まった。
渡したあのメモの内容に仰天したのか、すぐに連絡はついた。
なにせ──いや、よそう。確かなことは言えないのだ。あまり不用意に口を開くのは推奨されない。
人事は尽くした。あとは天命を待つのみだ。
というわけで現在、私は呑気にY◯uTubeで生配信をしている。
配信はいつもチベットスナギツネの被り物だ。
私達のチャンネルの正式名称は「狐の彫刻コーナー」なのだが、そのおかげで巷では「チベスナチャンネル」として親しまれている。
チャンネル登録者数は約2000万人ほど。
登録者の多くは海外の視聴者で、彫刻なんてニッチな内容にしては多くなったほうだろう。
これも最近の私達の立派な気晴らしだ。
多くの人が私達の作品を賞賛してくれるのは素直に嬉しいし、創作意欲も湧く。
私はごほんと咳払いしてカメラの前にたった。
「さて、今回は黒曜石を原材料にネットで人気の『タタリ様』を作っていきます」
「タタリ様」なんて言ったが、日本の神社本庁ではもっときちんとした厳かな名前が付いているはずだ。
だが各国で「悪魔」だったり「悪霊の主人」だったり色々な呼び方がされているので、ひとまずは日本でもメディアで連呼され、よく知られている名前で行くこととする。
一神教世界観ではほぼサタンの手下扱いだったな……タタリ様(私)。
「今回の原材料である黒曜石は割れやすいので、扱いには注意しましょう。不意に割れてしまわないよう、刃を入れる時も斬岩の要領で慎重にね」
壁に貼った降谷さんのラフ画通りに適当に刃を入れていけば、いくつものコメントが自動音声で流れた。
"斬岩とかいう謎技術"
"人間は岩は切れないんだよなぁ……"
"あの全3回の講座、今小学校でめっちゃ流行ってるらしい。男子が束になって公園で練習してるの見た"
"アバンストラッシュ定期"
随分いろいろ言われているようだな。
特に再生数が多い斬岩講座だが、やはり「人間卒業試験」やら「鬼殺隊向けの修練法」だとか陰口を叩かれている模様。
だが、実際私が五エ門師匠から教えを受けて師匠に許可をもらって載せているものなので、まず斬岩するなら間違いない内容のはずなのだがなぁ。
ポツポツと雑談をしながら、私はゆっくりゆっくり気をつけて彫刻の右側を仕上げていく。
「一応ですが、斬岩には意外と筋力も必要なので、身体の出来上がっていない中学生以下の挑戦は推奨していませんからね」
"斬岩は筋力の問題だった……?(宇宙猫)"
"ワイ筋トレガチ勢、斬岩に挑戦するも無惨に散る"
"無理なんだよなぁ"
"そう言ってる間にもするする彫刻できてくやん。生放送だから視聴者に見える速度で彫ってくれてるのサンキュー"
タタリ様を削り終え、軽く削りカスを刷毛で落とすと、ぐるりとターンテーブルを一回転させた。
高さ1メートルほどもある大きな黒曜石の塊に、わっと襲いくるような触手の束が緻密に掘り込まれている。
「さて、今回の作品、百分の一スケールのタタリ様彫刻、完成です!今にも動き出しそう、をコンセプトに触手一本一本に丹精込めています」
その言葉と共に、コメントがわっとついた。
"神社に御神体として奉納できるじゃん"
"無駄にリアルで草"
"こんなネタ彫刻作ってるけど普通に花彫るだけで億が動く彫刻家なんだよなぁ"
"まーたチベスナ先生が振り込めない詐欺してる"
最近だと斬鉄の技術を使って作っていることがよく知られてきたため、メディアやネットでは「狐の彫刻師の正体は日本のサムライ!?」なんて言われるようになってきた。
正体がバレることはないだろうが、ちょくちょくTV出演依頼なんかも舞い込むようになって若干困っている。
有名になるというのも困ったものだ。
配信を終了させたあたりで、玄関の安っちいインターホンが鳴った。
どうやら来客らしい。
「邪魔するぜ」といって入ってきたのは黒いスーツに黒い帽子の黒づくめ男、ウォッカである。
ウォッカは入ってすぐ目の前に飛び込んできた大きなタタリ様の彫刻にビクッと肩を戦慄かせた。
「うおっ!?!?ってこれ、彫刻か。驚かせやがって!」
「タタリ様の彫刻です。配信のために作ったんですが、良い出来でしょう?」
「流石世界的彫刻家だな、一瞬マジの触手が来たのかと思ったぜ……あの時はひでぇ目に遭ったからなぁ」
「ははは。障害物を透過するので逃げられませんからねぇ」
どうやらウォッカも私の触手に捕まって本人確認されたらしい。
あれ、一応全人類を対象にマモー確認したからな。ちょっとやそっとでは逃げられまい。
ウォッカは彫刻を見て「この辺とかすげぇな!どうやって彫ったんだ?」「うーん、これが職人技ってやつか!」とひとしきり褒めた後、ちゃぶ台の横に腰を下ろした。
「そうだ、今夜いっぱいやらねぇか。最近お前は忙しいからな。近況報告も兼ねてどうだ?」
「いいですね!いつもの店に予約入れときますよ。最近予約者限定で海鮮丼とサザエの壺焼きを始めたみたいで」
「そりゃいい!俺の分も予約しておいてくれ」
そこでお互い、店の海鮮の旨さについて盛り上がる。
あそこの海鮮系はどれも本当に美味しいんだよな。まさに名店だよ。
ウォッカは最近の新人は不作だったとか、重要拠点のクーラーが壊れて大変だったとかの雑談をした後、私に話を振った。
「で、最近はどうだ、ルパンの所で上手くやってるか?」
「やっぱり大変ですよ、あのレベルの人たちについていくのは。おかげさまで地獄みたいに扱かれてますが、地の力は付いて来てますね」
「お前ほどのやつですら、あのルパン一味に混じるのは大変なんだなぁ…」
はえーと、驚いたようにポッカリと口を開く。
それでもすぐに気を取り直し、ウォッカは私へと笑いかけた。
「だが、嫌になったらすぐにでも戻って来て良いからな。体壊してからじゃ遅ぇし、無理すんなよな」
「ははは。ありがとうございます、ウォッカ。でもRUMがいい顔をしないでしょう?彼は僕のことを疎んでいますから」
「馬鹿言え。あの人はお前に頼り切りになることを恐れているのであって、お前を疎んでるなんてことねーよ!」
「だと、いいのですが」
どうにも最近組織から離されて任務に触れられないようにされているのだ。
RUMの手が回っているようだったから、かのNo.2に疎まれるとはやばいな、と考えていたのだが。
とはいえもし本当に私の力を危険視しているとしても、どうもやりづらいことには違いない。
組織壊滅のための力と技術はすでに身につけた。
あとは資金源かつ組織の要たる「あの方」の所在を明らかにするだけで、独力での組織壊滅が成るだろう。
その肝心要の「あの方」の所在がわからないのではいくら力があっても組織の完全壊滅は難しい。
黙り込む私を見て、ウォッカが私の肩をポンと叩いた。
「そう深刻に捉えるこたぁねぇよ。オメーは組織の唯一なんだ。その事実は動かねぇし、誰にも動かせねぇ」
「……そう、でしょうか」
「そうだ。俺以外の誰が聞いても同じことを答えるはずさ!」
「………」
「それに、兄貴も最近オメーに会えてねぇからかどうにもしょぼくれてんだ。いずれでいいから少しでも顔見せしてくれねぇか?」
「…ふふ。相変わらずですね、ジンは。僕の任務の動画切り抜き集はいい加減捨ててくれましたか」
ウォッカは私の言葉を聞いて、パタパタと手を横に振って苦笑いした。
「あれを捨てるだなんてとんでもねぇ!今でも定期的に酒の席で上映会やってんのに。鉄板なんだぜ、雑魚のアジトを陥落させた日の監視カメラ映像は」
「碌でもないもの見てますね…未熟だった頃の画像なんて捨ててくださいよ」
「いーや、今と違ってケモノみてぇに洗練されてない荒々しさがいいんだって兄貴は常々言ってんだ。捨てられやしねぇよ」
「まったく……」
私は少しだけ笑った。
こんな気の抜けた会話をしていながら、その実私が狙っているのは組織の壊滅だ。
そのことに不満はないし、躊躇いもない。
薄氷の上を踏み行くような薄っぺらな関係でも、残酷に壊れることの決まっている結びつきでも、そこに確かな絆がある。
私は一山いくらで買った安物宝石を二つ、片手で手早く狼の形に彫り上げ、ウォッカに渡した。
手早い中にも心を込めて、安物の中にも祈りを込めて。
「ジンにも渡してください。ここのところ会えなかった詫びです」
「おお!これが噂の狐の彫刻師の作品か!ありがとうなウルフドッグ!きっちり兄貴にも渡しておくぜ!」
「はい。ジンにもよろしく伝えてください」
私は笑顔で応えた。
先ほど、狼の彫刻に触手を一本滑り込ませた。
触手は目は見えないが、耳は聞こえる。
触手を通しての「あの方」の音声は、所在を調べる手掛かりとなるだろう。
ちろり、と背中で透明な触手が蠢く。
狼とは私の代名詞。狼の彫刻とは御神体であり、私の依代でもある。
降谷さんが深層心理の底、手の中で狼の彫刻の設計図を弄ぶ。
───さて。成果が出るといいが
降谷さんは妖艶に優雅に、そう言って嗤った。