バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
食の宝庫函館、夜。
およそ11時ごろ。
なんだか飲み屋の帰り道が騒がしく、警察の規制線が人垣の向こう側に見えている。
私はつま先立ちで人垣の向こう側を確認し、警察の姿を見つけて俄かに緊張を取り戻した。
───降谷さーん!なんか事件があるみたいです。山の方に飛んでく白い影もあったし、見たところ怪盗キッドかな?
───ん……そうかぁ、気にすりゅな。今日はオフらからな
深層心理の奥で机に突っ伏していた降谷さんはなんとか意識を取り戻し、ふらふらと頭を揺らしてもう一度酒瓶を握り直した。
この酒瓶は深層心理内で精製した幻の酒、あえていうなら御神酒である。
無論ちゃんと酔う。
外であれだけ呑んだのにまだ飲むつもりらしい。
───あー、飲みすぎましたね。明日は絶対二日酔いですよ…
───そっちぁお前に任せら。二日酔いが治るまれ俺は奥で寝てぅからな
───それはズルってもんじゃないですか!?
べろんべろんの降谷さんは深層心理の屋敷でさっき屋台で食べたカニ味噌の甲羅焼きのコピーをちまちま食べながら酒瓶を呷った。
降谷さん曰く、食事は現実で食べた方が満腹感がある分美味しいが、酒はこの御神酒が一番だ、とのこと。
彼がいうのだから余程の出来栄えなのだろう。
酔えない私には分からないが……ああ、ジェラシー也。
私はため息をついて、傍で放置されているカニ足をせっせとほぐしていく。
そしてほぐした先から降谷さんに奪われ、カニ味噌の具になって消費された。
───降谷さん、そのカニ私のなんですけど…
───お前のものは俺のもの。つまりカニも俺のもの。
───ぶっ飛ばしますよ。もしこれ以降私のむきガニを取ったら触手責めの刑ですからね
───知らんなー
また一つカニを取って、次はカニ酢に付けて美味しそうに頬張った。
実に美味しそうに顔が緩んでいる。また一つ剥きガニを丸ごと口に運んでいく。
いくら降谷さんとて許せぬ!!
じゅるりと透明な触手を繰り出してぐるぐる巻きにすると、降谷さんは居直ったようだった。
口だけぱくりと開けて無言で待機。
しかも呆然とする私に「早くしろ」とまで言い放つ始末だ。
こ、こいつ……自分が動けないからって私に口まで運べと宣っているのか…!
仕方ないので触手でスプーンを取って、降谷さんに蟹味噌を餌付けしながらホテルまで歩いて戻る道中のこと。
なんとびっくり。
コナン君と服部君が連れ立って歩いているところとバッティングしたのだった。
「あ、安室さん!?どうして函館に…」
「それはこっちのセリフだよコナン君。僕らは純粋に観光なんだから。コナン君達は怪盗キッド関連?」
「うん。斧江財閥の所蔵する脇差が狙いらしくて。さっき逃げられちゃったけどね」
「へぇ……脇差か。KIDもいい趣味をしているね。短く取り回しがいいから僕も時々使うよ」
一般的な打刀は長すぎて私には使いづらく感じられたからな。本当は短刀が一番好きなのだが。
と、そこで斧江財閥、脇差と聞いてピンとくるものがあることに気がついた。
まさかこれ、劇場版名探偵コナン「100万ドルの五稜星」か?
まだ魔術列車殺人事件も終わってないのに!
ちらりと降谷さんに視線を向ければ、触手に巻かれたまま完全に落ちていた。
うーん。ダメみたいですね。
私は降谷さんに話を振るのを諦めて、コナン君に向き直った。
降谷さんは触手で降谷さんの部屋の布団の中に入れておいた。
明日の二日酔いについては私は代わらんからな。
「そういえば、ルパンが若い時分に函館に隠された宝を狙ってたことがあったみたいだから脇差について話ぐらいは聞いたことあるけど」
「ッ!!それ本当か姉ちゃん!!」
平次君が素早く食いつく。必死だ。
たぶんKIDには和葉ちゃんの唇の一件で恨みがあるんだろうな。
ちなみに、ルパンについては地味に本当の話だ。
軽い調子で「拍子抜けだったけどもよ、あんだけの設備がまだ残ってんのはロマンがあったなぁ」と話してくれたことがあったからな。
「脇差を三つ集めると、宝の在処を示す鍵が手に入るから、それを元に宝に辿り着いたんだけど。拍子抜けだった、とのことらしいよ」
「拍子抜け……なんやそれ。具体的には聞いてへんのか?」
「僕は興味がなかったからね。それで宝は置いてきたらしいけど」
もしかしたら時代的に、KIDの父親である黒羽盗一氏が盗みに入った後だったかもしれない。
それで盗一氏の残したメッセージに気付いて、ルパンもそれに倣い宝をそのままにした可能性も否定できない。
本当のところは分からない。
でもそう考えると二つの世界が昔から交差しているのを感じられて感慨深いものだ。
「じゃあ、僕はもう行くよ。KIDとの対決、頑張ってね」
「お、おう。もうこの辺は暗いし、姉ちゃん送ったろか?」
「いや。気持ちだけ受け取っておくよ」
そう言って軽く手を振る。
離れていく後ろから「えーーっ、ほんまかいな工藤!?」という声が聞こえる。
コナン君に教えられて、やっと私が安室透なのだと分かったのだろう。
そろそろ、死骨ケ原ステーションホテルでは第二の殺人が起きた頃だろうか。
あちらは特に死んでも気にならない人間だけだが、こっちの函館に関しては下手すれば大量の死人が出るドンパチが行われる。
高遠君も大事な母親の仇を殺すって時にわざわざこちらへ出張ってくることもないだろう。
私は美しい夜景に焼け付く星のない空を見上げ、ため息をついた。
───降谷さん、明日は函館剣道大会を少し覗いてみましょうか
───………
───か、完全に寝入っている…これでよく公安が務まるな……
締まらない空気のまま、屋敷の机の上を片付けながらゆっくりとホテルへと歩いて帰る。
帰路の明かりは優しい。
これからの騒乱をまるで知らない、穏やかな提灯の明かりだけがゆらゆらと街に揺れていた。