バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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100万ドルの五稜星③

 

 埃っぽい空気が鼻につく。

 ずらりと壁一面に並んだ巨大な計算機と、散らばった資料。

 埃の積もった机には古のキーボードに、何の用途を果たすのかもわからない機械の部品が散らばっている。

 

 そんな、荘厳ささえ感じる遺跡の如きそこを、コナン君たちは呆然と、あるいは神妙に見つめていた。

 

「これが斧江圭三郎の宝だよ。昔の暗号解読機。戦時中はともかく、今じゃ武器商人やらマフィアやらが狙う価値はまるでないってことさ」

 

 そう言い切ると、「価値はあるんやないか?」と暗号の読解途中と思われる資料を覗き込んで服部君が言った。

 

「……こいつは……凄いもんやで。函館の新たな観光資源っちゅーても過言でないな」

「だね。一般公開すればわんさか観光客が押し寄せる素晴らしい雰囲気感だ」

 

 実際、私がここへ来たのも観光と言って差し支えない。

 ようやく起きてきた降谷さんが部屋の様子をスケッチしながら口を開いた。

 新しく深層心理内に具現化した豪華な装飾の椅子にふんぞり返り、中々に偉そうに言い放った。

 

───二日酔いの対処ご苦労。大義だった

───お大尽様過ぎる!!私はちっとも酔えなかったのに降谷さんだけ思う存分パカパカ飲むのズル過ぎません!?!?

 

 私の叫びもどこ吹く風。

 降谷さんは椅子の横に置いたクラシック調の丸テーブルに御神酒の瓶をドンと置いた。

 

───俺がお前に飲ませた御神酒、効いただろう?

───!

───自分で飲んでて、多分そうじゃないかと思ったんだ。家に帰ったら二人でまた飲もう。お前とサシで飲むのは楽しそうだ

 

 足を組む姿は威圧的なのに、その瞳は随分と優しく穏やかだ。

 私でも酔える酒を探していたことは間違いないのだろう。

 なにせ御神酒の具現化を言い出したのは降谷さんの方だからだ。

 

 たぶん、私が1日素面で寂しそうにしているのを気にして、前々から考えていたのだと思われる。

 

 私は少しだけ笑った。

 

───………そうですね。二人とも酔い潰れるわけにはいかないので交代で、ということになりそうですが

───はは。ままならないな

 

 横ではKIDが「寝た子を起こすな」と英語で書かれたメモを手に取り、瞳を伏せている。

 あれは彼の父である盗一氏の字だが、それをKIDが察しているのかは定かでない。

 

 KIDは嘆息して巨大な暗号解読機を見上げた。

 

「起こさずそっとしておいてやりてーところだけど。こんなふうに騒ぎになるんなら、いっそ函館市か財閥に任せちまった方がいいかもな」

「だな。今日の朝にあった斧江財閥の弁護士の久垣さん殺人事件が気になるところだけど」

「そいつは名探偵に任せた」

 

 KIDが黒羽盗一氏のメモを回収してからぐるりと踵を返した。

 彼も帰るようだ。

 

 私もそろそろお暇しようとコナン君へ声をかける。

 

「じゃあ解散。僕はもういくよ」

「えぇ!?だってまだ謎は何も……」

「いやだって、僕も犯罪者だよ?宝に関しては子供を連れた一般人が函館山に迷い込んで、そこで大掛かりな装置を偶然見つけた、ということにしておけばいいじゃないか」

「いやそれはそうだけど。安室さんはいいの?」

「前から言ってるけど、こういう保存に困る物は博物館に任せておけ、が僕のポリシーなんでね」

 

 さほど私に興味がなさそうな服部君が、床に散らばった資料を踏まないようにそーっと部屋の周りを確認してポツリと呟く。

 

「この場合権利関係ってどないなるんや。元々は斧江財閥の持ちもんなんやろ?」

「さあ……それより、カドクラをどうするかだな。この事実を知れば向こうから引いてくれるとは思うけど」

 

 探偵二人がうんうんと唸っている。

 間違いなく謎はひとつ解けたが、それに伴って解決すべき課題が三つも四つも増えてしまった形だ。

 

 まぁ、そこは知らぬ知らーぬ。

 一応刀を狙って函館市内でドンパチする事ぐらいは防げるだろう、という程度である。

 

 探偵たちを置いて外へ出れば、もう日はどっぷりと沈んでいた。

 夜の函館の空は明るく、地上の光を反射しているかのようだ。

 

 ふと、ついでなので函館山からの夜景を見にいくか、と思い立つ。

 

 山の麓にあるロープウェイは歩いて少しばかり距離があるが、これもいい運動だろう。

 てくてく、と一人暗い夜道を歩いていく。

 遠い喧騒がここまでこだまして、ここが観光地だということを示している。

 

 すると歩く道すがら、一人で夜空を見上げる福城聖の姿を見つけた。

 彼は今回の殺人事件の犯人の息子であり、キーパーソンたる人物だ。

 居合道の達人で、かつ医大生という中々のハイスペックさを持つ。

 

 私は福城君をちらりと脇から確認し。

 

 そのまま、何も言わずに通り過ぎた。

 私達に何の接点もなく、また彼は現在何の罪も犯していない。

 

 すれ違う彼の姿を振り返ることなく、私はスマホを取り出してひとつ電話をする。

 

「ああ、ルパンですか?先日はありがとうございました。圭三郎の宝、無事に何とかなりそうです」

『そりゃ良かった。ま、寝た子をそっとしとくにゃ被害が出過ぎた。これもまぁ時の運ってな』

「そうですね。……それで、お礼に面白い酒を手に入れたんですけど、ルパンも飲んでみませんか?」

『面白いぃ?それ俺が飲んでも大丈夫なやつか?』

 

 おっとルパン、さすが鋭い。

 私が神域内で具現化した食べ物に酷い副作用があった以上、飲み物だって警戒して然るべきだ。

 特に古今東西、神秘的な伝承が絶えない酒というアイテムなのだ。

 飲んでどうなるかは正直わからない。

 

「うーん、まだ僕達以外が飲んだことが無いのでわからないんですよね。でもルパン、そういうの好きでしょう?」

『俺で人体実験しようなんざふてぇ野郎だ!乗った!』

「その流れで乗るんですか…いや、それでこそルパンですが。一応味は保証しますよ」

 

 日本酒をベースにしているが、こう、今まで飲んだことのないような概念に直接訴えかけるような味わいだ。

 「美味い」という定義をそのまま押し付けられた感じがするというか。

 

 そのあたりまで話したところでちょうどロープウェイに到着した。

 乗り場は人でまだまだ賑わっていて、少しばかり夜景への期待感が高まる心地がした。

 

 美しい函館の街を見下ろして、二人で本日の思い出としよう。

 




・御神酒を飲んだルパン
「味はすっげー美味かったんだけどな。情けねぇミスで負ってた怪我も治ったし。でも、一週間酔い潰れるのはいただけねぇよ」
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