バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
いろいろな爆弾の種を放って帰る函館の旅。
現在は帰りの寝台列車に乗り込んでいるところである。
こうなってしまっては、斧江拓三もカドクラも私の知ったことではないからな。
マスメディアはどこから嗅ぎつけたのか、今日の朝刊の一面は「戦時中のお宝が函館山で発見!巨大な機械は歴史ある暗号解読機!!」であった。
ネットニュースでも写真付きで話題となっている。
チラチラとネット記事を見ていれば、写真に映るコナン君を見たネットユーザー達が「あれ、キッドキラーじゃね?」「函館でKID追ってたら違うもん見つけちゃった件」などと言われていた。
有名人なのも困ったものだ。
なお、まだ件の暗号解読機についての所有権は最終決定まで至っていないらしい。
国有地から出土しているし、発見者がコナン君達民間人であるし斧江財閥の宝と言われている品だし。
所有権のバトルロイヤルみたいな状況だが、その結末は国所有になりそうな雰囲気だ。
斧江財閥としても、売る金額より管理運搬費用の方が高そうなそれに苦悩しているらしい。
それを函館の新たな観光資源として利用して地元の活性化を目指す、として手を引く様子を見せている。
刀を集めると財宝の在処を示す、という神秘的な伝承もあって集客力は中々強そうだ。
カドクラはといえば、ホテルスタッフの証言で米国へ向かう飛行機に乗ったことが判明している。
しかも周囲に怒鳴り散らして、かなりのご立腹だったとか。
まぁ、無理もない。
日本くんだりまできて探していた宝がくだらない古の暗号解読機だったんだからな。
武器商人としては踏んだり蹴ったりだろう。
引き続き、函館港で起きた殺人事件を追うコナン君を置いて。
そうして私たちは帰りの寝台列車に乗り込んだのであった。
で、中でバッタリともう一度金田一君と会ってしまうのであった。
「あーーっ!あんた、まだ居たのか!」
「やぁ金田一君。殺人事件解決、お疲れ様」
ラウンジ席に座って飲み物をまったり頼んでいたら、ちょうど現れた金田一君に指を差された。
私は片手を挙げてそれに応じる。
金田一君の後ろにいる明智警視が「おや?」と言って神経質そうに片眉を上げた。
仲が悪いというのに、珍しい組み合わせだ。
「彼がルパン一味にして国際指名手配犯、そして狐の彫刻師の正体。フォックステイルかな」
「そうだよ。っつか、前もそうだったけどあんなめちゃくちゃ高価な彫刻貰ったら俺が破産するじゃねーか!どうしてくれんだ!」
「知らないなぁ。適当に売っぱらってもらっても、然るべき場所に寄贈してもらってもどっちでもいいよ」
「だから気にせず売っておけと言っただろう。寄贈しても所得控除は日本では「購入時の取得価格」で算出される。借金まみれになりたいのか」
明智警視が金田一君を見て鼻で笑った。
スマンね…別に君を破産させたいわけじゃなかったんだが、結果的にそうなってしまって。
金田一君は明後日の方向を向いて「そこはこう、俺を介さず直接フォックステイルから美術館に寄贈されたという形でだな」と口笛を吹いた。
なんだか実に難儀しているようだ。
私は頭をかいて身を小さくして上目遣いに彼らを見た。
「いや、本当に売っていいからね?僕にしては珍しい題材だから好事家に高く売れると思うよ?」
「税関係をクリアしても手元に1億は残るだろう。宝くじが当たったようなものだと思うといいさ」
「あーーー、うん。そうする……」
根がいい子らしく、金田一君は他人からの貰い物を売るのに抵抗があるようだ。
別に本当に気にしなくていいのに。
そこで、じっと私を見つめる明智警視の視線に気がついた。
「まだなにか?」
「貴方が元公安だということは本当ですか?」
明智警視の質問は唐突だった。
どこから手に入れたのか、私達の正体が公安であることを知ったらしい。
ならば。くるりと降谷さんにバトンタッチして私は深層心理の海に沈み、中から様子を伺うのみだ。
降谷さんは硬く冷徹に目を細めた。
「もしそうだとして、何だ?」
「!………最近、警察庁の人事が大きく動きました。次期警察庁長官とも期待されていた人物を含む四人が依願退職したのだとか」
明智警視は一瞬慄いたものの、降谷さんへとまっすぐな瞳で立ち向かっている。
「それで?」
「貴方が動いたのですか。貴方に冤罪を着せた人間たちに、復讐するために」
わずかな沈黙が場を満たした。
それは少し違う、と私は声無き声で指摘する。
殺人の罪は冤罪でも何でもない。潜入中の罪は自分で背負うのが公安の作法だ。
ルパン一味に加入したのも、殺人を犯したのも、全てが全て私の罪だ。
降谷さんが零下の如き凍える声色で答えた。
「テスト問題の答え合わせでもしに来たのか?だとしたら答えはひとつ。お前達に喋ることは何ひとつない」
「………そう、ですか」
「だが」
降谷さんが瞳を伏せた。
一口。机にあった紅茶を口にする。
「自分の行った作業には自分が責任を持つのが原則だ。全てにおいてな」
ごくりと。
明智警視は生唾を飲み込んだようだった。
その静謐な空気をまるで無視して、金田一君が私たちの机の上に広げられているものを指さして言った。
「なぁ、それよりあんたさっきから何してるんだ?」
実は私たちの机の上には将棋が広げられている。
携帯用の折りたためる将棋盤で、安っぽい作りだが意外と頑丈だ。
降谷さんが将棋盤と金田一君を交互に見て怪訝な顔をした。
「なにって、一人将棋だが」
「片方弱すぎないか?ボロ負けしてんじゃん」
「そう言ってやるな。これでも必死なんだから」
「はぁ?」
そう、さっきから私達は二人で将棋をしていたのだ。
無論だが負けているのが私の方である。
掛け値なしの本気で打っているのだが、まるで歯が立たない悲しみよ。
私はくるりともう一度表に出てむすっと金田一君の疑問に答えた。
「将棋が弱くて悪かったね。仕方ないだろう、僕は将棋なんてほとんどやったことないんだから」
「え、いや、あんた一人将棋って」
「ともかく、地獄の傀儡師には用心しておきなよ。警察に捕まったって、脱走する程度の技能は持っているみたいだし」
そう言えば、金田一君はわずかに息を呑んだようだった。
しばらく沈黙した後、慎重に口を開く。
「それは、あいつがまた罪を犯すってことを言ってんのか」
「傀儡師なんだから、本人が殺人を犯すことは少ないんじゃないかな。例えば、傀儡にこう囁いたりしてね……お前の復讐を手助けしてやる、とか」
にこりと微笑んで、懐から取り出した余りものの小ぶりのオニキスへと刃を滑らせる。
わずか数秒。
斬鉄の要領で素早く切り上げられたオニキスは、降谷さんがあらかじめ作っていたデザインにしたがって「大きな袋に人を詰めるピエロ」へと完成する。
これ即ち、地獄の傀儡師の事件、速水玲香誘拐殺人事件を示している。
そしてぽん、と金田一君の無防備な手にピエロの彫刻を置いた。
「はい、あげる」
「あーーっ、また!くそ!売るからな!本当に売るからな!!」
「だから売ってもいいってば」
ワイガヤする場の空気にため息をつき、明智警視が去っていく。
私はさりげなく途中掛けだった盤面を片付けて。
「あっ、自分が負けてたからって片付けるのは卑怯だろ!?」とブーブー言う降谷さんの声を聞かぬふりをして、私は自分のコンパートメントへと戻っていくのであった。