バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
ジン捕獲作戦が決行され、それがうっかりキャメル捜査官のミスで失敗。
諸星大こと赤井秀一がFBIのNOCとして組織から追われることとなった本日夜9時。
私はその時点で、現場から車で3時間かかるシェリーの研究所にいた。
ここ最近の任務だからとはいえ、間が悪いにも程がある。
───あのいけすかない男、FBIだったのか。日本での捜査許可は取ってあるんだろうな?
───気にするところはそこではないと思いますよ、主人格。
口に出さずに降谷さんと密談する。
この密談は誰にもバレようがないのが良いところで、ジンとの会話の途中だって指示を仰げる優れものだ。
同時にシェリーの方にも話が届いたらしく、ガタリと椅子を蹴っ飛ばして立ち上がるほど酷く動揺していた。
「あの男…お姉ちゃんを騙して……ッ!!」
「宮野明美の方は僕が──」
「無理よ!あの男を組織に引き入れたのはお姉ちゃんなのよ!いくら貴方でも庇い切れるわけがない!」
それを言われると弱い。
私は武力特化だから立場は尊重されるものの発言力があるわけではないのだ。
深層心理の底で降谷零も沈鬱そうに首肯している。
あとは死んだと見せかけて公安で保護するくらいか。
しかし公安が彼女を助ける理由がない。
彼女は何のNOC等の背後関係もないただの組織員。
司法取引するにしても特段の情報を持たない。
そこは降谷さんのほうの交渉力でなんとかゴリ押しできるかもしれないが…。
「どうしよう、お姉ちゃんが、お姉ちゃんが死んじゃう」
「ひとまず僕が現場に急行します。危険だから貴方はここに」
こくり、と幼気に彼女が頷く。
かなりキているな、これは。急がなければならない。
───車は俺が運転する。少しばかり荒っぽくなるが構わないな。
───ええ。頼みました。
荷物もそのままに素早く車へ乗り込み、人格を交代する。
瞬間、RX-7がトップスピードで広い駐車場から飛び出した。
山間部に隠れるように立つ研究所だ。周囲は峠で、急カーブと強い勾配が続く。
それを流れるようなドリフトで攻めていく姿はさながら白い彗星である。
というかまんま頭文字D。
豆腐屋のパンダトレノには流石に及ばないかもしれないが、ゲスト出演したっておかしくない走りっぷりだ。
ただし、距離の問題は如何ともし難い。
到着までの時間が3時間が2時間になっても間に合わないことに変わりはない。
これはRUMも関わっている案件なのだ。
時間を大切にする彼がいる限り、事は迅速に行われ……私達が間に合う事はない。
そして。
到着した頃には埠頭も真夜中。
取引相手はおろか周囲を張っていたであろうFBIもすっかり姿を消していた。
廃工場はもぬけのからだ。
足元にはわずかな血痕が残っている。
今は日本警察がポツポツと現場にブルーシートと立ち入り禁止テープを残すのみだ。
時刻もあって、野次馬すらいない静まり返った夜闇の中。
事件現場を遠目から見る女性の姿がポツリと一つ。
宮野明美だ。
「どうもー」
「ッ!?貴方は…組織の処刑人、ウルフドッグ!」
ばっと勢いよく身を引き、持っていたバッグを盾にして思いっきり警戒された。
降谷零と宮野明美は幼馴染だと思ったのだが、彼女は覚えていないのか?
良かったのやら悪かったのやら、中で降谷さんが複雑そうな顔をしている。
「ライはすでに逃げたようですね」
「……そうね」
「身柄を拘束させてもらっても?」
こうなったらもう彼女を私が始末したと見せかけて保護するしかないだろう。
シェリーには恨まれるかもしれないが、彼女が阿笠邸に転がり込んだ暁にはきちんと真実を伝えるつもりだ。
その旨をぼかして降谷さんにも伝えれば、怪訝そうな顔をされた。
───俺も情報制限には賛成だが、何故すぐシェリーに保護のことを伝えない?
───彼女が彼女の救いに出会うために、ですよ
───まさかお前、身体能力だけじゃなくてプレコグニション(予知能力)まであるんじゃないだろうな?
無いっすね。原作知識はあるけどそれは密に、密に。
降谷さんも降谷さんで、そろそろ私がたびたび見せる先回りじみた謎の行動に疑問を抱いたらしい。
コレだから探偵属性は怖い。私が迂闊っていう側面が大きいけれど。
宮野明美はガタガタと目に見えて震えて、肩を強張らせながら私を見る。
「………私のことを、殺すの?」
「さて。抵抗すればそうせざるを得ないかもしれません」
「ッ!」
宮野明美が一歩後退りしたところで漫画界の秘技、首トンを発動!
トンっとやって一瞬で相手の意識を失わせるファンタジー技だ。
五エ門先生から教えてもらった技だが、これには降谷さんも「俺だってそのぐらい使える!」と憤慨していた。
まじかよ。ベルモットもそうだけどなんでみんなコレ使えるの?
宮野明美の身体を俵抱きにし、ジンに電話を入れる。
「宮野明美の身柄を確保しました。この際ですしFBIへの見せしめに処分しようと思うのですが、どうでしょう?」
『……ククク、よくやったバーボン。好いた女の無惨なスナッフフィルムでも送りつけてやれ』
「了解しました」
電話一本、ものの10秒で許可が通った。
降谷さんが「ジンは俺のこと信頼し過ぎか?」と目を剥いている。
やはり信頼は力だな。明日飲みに誘おう。馴染みの店にジンの好きそうないい酒が入ったんだ。
───赤井秀一の方はどうします?
───あのいけすかないFBIか。別に普通に偽造スナッフフィルム送りつけておけば良いだろ。迂闊なことしやがって、良い気味だ。
───流石に酷では。FBIからの心象も悪くなり過ぎますし。
───元々俺達は公安だと明かせない立場だ。疑われる要素がなくなって万々歳だろ。
せやろか???
恨まれ過ぎて後ろから赤井秀一に狙撃されかねなくない?
まぁ狙撃ぐらい見えてなくても空気の動きでかわせるけどさ。
あと宮野志保への当面の言い訳どうしよう。
後々挽回はできるけど、絶対死ぬほど恨まれるよね。
「……さて。公安に上手いこと連絡お願いしますよ、主人格。───お前も好きに言ってくれる。だが、ジンに疑念を抱かれる可能性を消し去れたのは大きい」
くるり、と反転。
回転扉で入れ替わるような感覚で降谷さんと表の人格を交代する。
ゆるゆると目を開けたその姿はおそらく、人にはまるで別人になってしまったかのような印象を与えるだろう。
凛々しく意志の強い目元、自信のみなぎる姿勢は強く、口元に浮かぶ笑みは挑戦的ですらある。
電話をとって私には馴染みのない番号に電話を入れる。
恐らくは本来の公安の秘匿回線なのだろう。
公安警察・降谷零として彼は威圧的とも取れる口調で話し始めた。
「……風見、聞こえるか。至急の案件だ。1時間以内に用意して欲しいものがある」