バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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旅先で、気付けば書いてる、小説かな
(クソダサ川柳)


世間のタタリ様

 

 夏の日のとある一日。

 今週になっても、引き続きメディアはどこもタタリ様一色だった。

 

 というのも、海外での報道と紛糾が理由として挙げられるだろう。

 日本で起こった騒ぎは、海外でも大々的に取り上げられ、特に一神教界隈の反応はあまり好意的とはいえないものも多かったからだ。

 

 アクアタワーの襲撃騒動。

 そこには海外のVIPも多く参加していたし、事件に巻き込まれ死にそうな思いをした者も多くいた。

 その彼らが皆奇跡を目の当たりにしたのだ。

 

 短機関銃の銃弾に腹を貫かれ死を覚悟した資産家、左腕をバッサリと切り落とされ大量出血したはずの欧州議会の重鎮。

 かれらは口々に「触手が現れて怪我を治した」「アクアタワーに突っ込みそうだったジェット機を受け止めた」と証言した。

 

 その地位の高さゆえに嘘やデマと断じることもできず、かといって素直に受け取るには既存宗教との対立が邪魔をする。

 

 特に他の神を認めない一神教界隈の反発は顕著だった。

 

 緊急で教皇が声明を出すなどして騒ぎの沈静化を図ったほどだ。

 

 ただその見方はブレがあり、あの触手を悪魔と捉える見方もあれば、少数ながら怪物のような見た目をした高位の天使と捉える派閥もあったようだ。

 宗派によって異なるが、基督教あたりだと主にその二種類に分けられるだろう。

 

 悪魔と捉える場合は下記のようになる。

 「サタンが人々を堕落させようと偽りの救いをもたらしたが、神を信じる人々の心がそれを退けた」……というものだ。

 教えのために触手が逃げていき、無事で済んだというロジックだ。

 

 逆に天使と捉える少数派閥は、「キリスト復活を前に高位の天使が降臨し、病人や障害者といった弱者に祝福を授けた」と捉えたらしい。

 特にがんや難病、重度の障害に苦しんでいた信者あたりがそれを支持している模様。

 

 このように、既存宗教の多くがそれを「誘惑」「偽りの救い」と捉えている。

 本物の奇跡が既存宗教に馴染まないのは当然のことであるからして、この流れも自然なことだ。

 

 尖ったところだと、あれが終末の前触れ、偽りの救世主として現れた獣なのだと騒いで終末の訪れに備えるよう街頭で呼びかけるなんて騒ぎも起きているようだ。

 人々がそれを救いとみなして騙されるように怪我を癒して回ったのだと彼らは主張している。

 

 また、宗教とはちょっと違った方向だと宇宙人説もやはり根強い。

 アメリカ等の一部では、あれは地球外生命体の人間を使った実験なのだとまことしやかに囁かれている。

 人類の調査のために人を捕らえて生体のスキャンを行っていたのだ、というのが主な論旨だ。

 政府はそれを事前に把握していた、宇宙人となんらかの取引をしていた、などと陰謀論めいた意見もネット上で散見された。

 

 その論を強化するのが、一度目の触手の発生源であるコロンビアで、触手が出現する前に謎の飛行物体が出現したという目撃証言が多かったことだ。

 ……その飛行物体って、念力で飛んでたマモーじゃね?と私は訝しんだ。

 

 人の病を完治させられるような超技術を持った地球外生命体というのは、真面目に考えれば考えるほど神の実在より恐怖だと思うが。

 喧々囂々の議論がNAZUを中心に公的機関で議論が進められているのは事実だ。

 

 これを受けて宇宙防衛計画とか真面目にアメリカ大統領の口から出ないことを祈る。

 

 

 TVのチャンネルを回しても回しても、番組はタタリ様ばかり。

 そろそろ飽きてきた私はTVを消し、深層心理にて庭仕事に勤しむ降谷さんをふらふらと探し始めた。

  

───ゼロ、ゼロ、そろそろ昼時ですよ。一旦休憩にしませんか?

 

 

 海外の喧騒に対して、日本では基本的に「よく分からん神様的な存在の一つ」としてオモチャにされている。

 

 あの黒い触手は食べたら食感がナマコに似ているだろうとか、タコに似て醤油が合うだとか。

 ネットでは大喜利が開催されているくらいだ。

 

 他の一部の国でもそうだが、多神教は実にまったりとした様子だ。

 新しい神が一柱増えた程度なのでそこまで騒ぐほどのことでもない、ということなのだろう。

 

 神社が満員御礼になってちょっとした商業ブームになっている程度だ。

 

 ちなみに、黒の組織では不老不死につながるかの検討のため全幹部にタタリ様の調査が命じられている。

 

 最近だと、嫌そうな顔のベルモットがタタリ様神社に参拝に行く時に私もお供した。

 で、端から端まで一つずつ御守り等社務所に売っているものを買い占めて行ったのが思い出深い。

 

 境内の写真もバッチリ大量に撮ってある。

 

 ベルモットは写真兼荷物係である私にお守りの山を持たせてから、参道にあるタタリ様彫刻に目をつけたようだった。

 

「キティ、あっちの彫刻像って貴方が作ったものなのよね」

「そうですよ」

「……あんな化け物じゃなくて、美しい花や鳥を彫ればいいのに」

「ははは。ま、たまにはグロテスクなものも彫りたくなるのは刺激好きな芸術家の定めですから」

「なら、代わりに私に何か美しいものを彫ってはくれないかしら。歌う鳥、揺れる草花のような優しい何かよ」

「勿論、喜んで」

 

 ベルモットは触手が嫌いらしい。

 きっと自らの忌々しい不老を助長する存在だとして忌み嫌っているのだろう。

 

 何の成果も無しではベルモットが可哀想なので、最後に写真の一つに触手を映り込ませ、その時の調査は終了とした。

 

 これでベルモットも面目は立つだろう。

 

 

 そんなこんなもあり。

 私は加速度的に神格を得ていった。

 

「あ、いましたか僕の覡」

「おう」

 

 そういって後ろから声をかけると、降谷さんは中腰のまま振り返らず、背中越しに適当な返事を返した。

 

「今日の昼は野菜の炒め物にしません?夏野菜をたくさん入れたやつ。僕ズッキーニが好きなんですよね」

 

 現在、降谷さんは深層心理の中で庭いじり中だ。

 軒先につるされた風鈴が清涼な音をたてる。

 

 新しく神域に増設中の桜の木の苗木を具現化して、一つ一つ手作業で植えていく降谷さんは汗まみれだ。

 

 ここは神域なので、この桜も数ヶ月もすれば大きく成長して花を咲かせることだろう。

 

 ここ最近、降谷さんは威厳を出すためとか言って神域内に神社を増設するのに夢中なのだ。

 あのタタリ様神社を見て触発されたらしい。

 広くて大きくてすごく豪華な社を建設中だ。

 作りは一番一般的な流造で、大量の資料写真が本宅のコルクボードに張り出してあった。

 

 なんでも、年中桜が舞う美しい桜の社にするらしく降谷さんは随分と息巻いている。

 こういうのは凝り出すと止まらなくなるのが降谷さんの悪い癖だ。

 

 降谷さんが額の汗を拭ってようやく一息ついたらしく振り返った。

 

「いいだろう。要望通り夏野菜の炒め物をつくろうじゃないか。でも明日はお前が海鮮パエリアを作るんだぞ」

「もちろん、腕によりをかけます。ゼロは本当に僕の海鮮パエリアが好きですね」

 

 私のパエリアはどちらかといえば本場より日本人の口に合うよう魔改造された何でもありなパエリアだ。

 具体的にはありったけのエビイカアサリを乗せてオーブンで加熱するスタイル。

 

 お前の腕もプロ並みだからな。下手な店で食べるより美味い、と降谷さんは微笑んだ。

 そう言われて悪い気はしない。

 

 

 なお、肉体は現在大きなタタリ様クッションを抱えて畳の上に横になっている。

 もちもちで気持ちがいい。

 

 どうもこの件でなにやら不心得者がタタリ様を勝手に商標登録したようで、この間昼のワイドショーが騒いでいた。

 今後はそんなことがないように神社本庁が管理を検討しているとかなんとか。

 

 勝手に作られたタタリ様ステッカーにクッションにマグカップにと今の商業界は魔境なので、今後の続報が待たれるところ。

 このタタリ様クッションもそうした野良タタリ様の一つだ。

 

 肉体の横、机の上には作りかけのタタリ様像がほったらかしになっている。

 

 もうここのところ舞い込む依頼がタタリ様像の制作ばかりで飽きて放置してあるのだ。

 

 あの神社で何故か触れた者の傷や病が治るという事例が多発したからか、世界中の金持ちから唸るほど金のある宗教機関までこぞって注文を入れてくるようになった。

 御神酒こそ作ることができるが、本来私の触手にそんな力はないのだがなあ。

 

 だが依頼ならば仕方ない。

 触手を量産するという地味につまらない仕事だが、仕事は仕事。

 

 廉価版につき、一個お値段5億ほど。

 素材から丁寧に仕上げ、一つずつに触手を一本ずつ仕込んでいく作業に妥協はない。

 

 この触手、私から分離するには実は一本ずつ毟らねばならないのだ。

 伸ばした触手を手でブチっとちぎって無理やり押し込む、を繰り返せばにゅるっと気持ちの悪い感じに入っていく。

 

 気を取り直して一個仕上げれば、後ろからひょいと降谷さんが覗き込んだ。

 

───前から思ってたんだが、それ痛くないのか?

───痛覚はありませんので大丈夫なんですが、髪の毛を千切ったみたいな妙な感覚

───そうか。なら頼みたいんだが、一本くれないか

───うん?まぁいいですけど

 

 無造作にちぎって渡すと、降谷さんはそれをまじまじと見つめて。

 ピチピチするそれをそのまま。

 

 ズボッとポケットに突っ込んだーーー!

 

──ゼロポケットにしまって何に使うんですかそれ!?

───いや、特に予定はないんだが、御守り代わりにな

───御守りとは。

 

 私は真顔で問い返したが、降谷さんは満足したのか上機嫌で「食料品コーナーで炒め物用の野菜見繕ってくる」と去って行った。

 分からん……ビチビチした触手がポケットからはみ出てるが……いいのかそれで。

 

 そんな、夏の日の日々である。

 

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