バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
速報。
都内で偶然会った金田一君に、バイトの手伝いをして欲しいと頼まれた件。
「よ、室井さん。あんたのしてくれた変装メイク、上手く行ったぜ!」
「それはよかった。けど君も体を張りすぎじゃないか?わざわざバイトでそこまでするなんて」
「いーっていーって!」
人気女優、速水玲香そっくりのマスクを施された金田一君がニッと屈託なく笑う。
場所は速水さんの所属芸能プロダクション事務所一室。
そこで私たちはあるライブ終わりのブリーフィングを行っていた。
金田一君の変装は飛び入りで私が手配したものだ。
やはり若いだけあってまだ体格もそこまで骨張っておらずギリギリ服を着込めば速水玲香そっくりに仕上げることができた。
その姿で金田一君は速水さんに代わりファンを引きつけ、囮となる大役を果たしたらしい。
これには遅れて部屋にやってきたマネージャーの安岡さんも感心しきりだった。
「本当に凄いねぇ!これが本場の特殊メイクってやつかな!」
「いえいえ。僕は齧った程度ですので」
「どうかな、うちの事務所で働かないかい?芸の幅が広がるし、社長もぜひにときっというだろう!」
この変装技術はかなりの特殊技能なので、当然施した際驚いた彼らに根掘り葉掘り聞かれている。
仕方ないのでアメリカのハリウッドで働いていたことがあったと咄嗟に説明したのだが。
幸い、実際ハリウッドでベルモットのお手伝いをしていたこともあったし、その時の写真も見せれば場は大盛り上がりだった。
「おーっ、本物のハリウッド女優!クリス・ヴィンヤードだ!」
「凄いぞ!マスコミに滅多に出ない彼女の姿がこんなふうに見られるなんて!」
と、わらわらとスタッフが寄ってきて大変だったものだ。
女優の仕事にプライドを持っているベルモットは、仕事中はふとした仕草も視線の動きも美しい、
どこを写真に撮られてもいいように気を張っている、と言ったらいいだろうか。
そのプロ意識には素直に尊敬するほかない。
さて。
この後は時代劇の撮影があるらしい。
女性が二人、順番にセッティングされた舞台へと入ってくる。
私を見てフンっと鼻で笑ってキツそうな性格を見せたのはベテラン女優三田村さんだ。
ただし、濃ゆい人の多い芸能界隈においてはまぁさほどアクの強い人とは言えないだろう。
それをいうならベルモットの方が100倍捻くれているし。
もう片方は美雪ちゃんだ。
どうやら急病の子がいたらしく、代役で出ることになったようだ。
素が美人さんなので素朴な雰囲気も相俟って非常に可愛い。
美雪ちゃんにデレデレと見惚れる金田一君へ、私は声をかけた。
「それにしても、よく街を歩いている僕を見てバイトの手伝いなんてさせようと思ったね?」
「だってさ……あんた暇そうだったじゃないか」
「暇そうって。その通りだけどさぁ」
実際には大量のタタリ様彫刻が嫌になって出てきただけなので暇でもなんでもないのだが、それはそれ。
また飽きるほど同じ物を彫るくらいなら暇で十分である。
一個5億もするというのに呆れるほどの売れ行きだ。
どうも購入者から家族の慢性腎臓病が治っただとか、階段で転けたはずが気付けば一番下のフロアにゆっくり降ろされていただとかという話が出ているらしく。
噂が噂を呼び、個人宅に飾る富裕層が増えているのだとか。
ぼーっと時代劇の撮影シーンを金田一君と二人で見ながら、これが「速水玲香誘拐事件」の幕開けなのかと考えていた。
翌日夜、私は緊急で電話一本で金田一君から呼び出された。
「ってわけで、俺が身代金の引き渡しに指定されたんだ。付き合っちゃくれないか」
「君ねぇ……別にいいけど、探偵ってのはどうしてこうも人使いが荒いんだい?」
「悪ぃ悪ぃ!」
金田一君は反省していない様子で頭をかいた。
速水玲香は原作通りに「道化人形」と名乗る人物に誘拐されたらしい。
身代金は一億円。
金を出したのはあの怖い性格のベテラン、三田村さんだとのこと。
どかっと椅子に座る金田一君が目を細めてこちらを見る。
「あんたが前に俺にくれた彫刻のモチーフは、「人を誘拐するピエロ」だった。これは偶然か?」
「偶然だね。それ以外の何があるっていうんだい?」
「……まぁいいさ。あんたほどの単純武力と頭脳を持つ人なら、助っ人として十分以上。これほど心強いことはない」
そう言ってパイプ椅子から立ち上がり、彼は私に頷いてみせた。
もう行くらしい。忙しないことである。
約束の場所は中原駅、時刻は明日の7時となっている。
後はその時刻を待つだけ、ということらしい。
───身代金目当てはこれだから手間がかかるんだ。半端に選択肢がこちらにあるのも面倒極まりない
───ですね。海外だと身代金交渉もあるらしいですが…日本では事例もノウハウも少ない
───先回りして特定して処分できないのか?
───可哀想なのでそれは難しいですね
降谷さんが「……可哀想?」と訝しげに言った。
そう。
今回の犯人は非常に可哀想だ。
速水さんはとばっちりだが、殺人自体を私が止める気はさらさら無い。
我らは我らの意思で人を助け、我は我らの意思で人を助けない。
つまり、そういうことである。
・小ぶりなタタリ様彫刻
棚の上にも飾りやすい小さめサイズ。
「毎日撫でていたら糖尿病だったのが通常値まで急速回復した」「子供の喘息が治った」などの口コミが広がっている。