バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

166 / 333
速水玲香誘拐事件②

 

 取引日当日。

 私は現在、金田一君が一億円を持って少し離れたところを歩むのを静かに追跡している途中である。

 

 獣の如き気配の消し方で静かにそろりそろり。

 人混みでの追跡ならば降谷さんの方がずっと上手いのだが、こうした田舎町になると私ぐらい雑な気配遮断でちょうどいい空気になる。

 

 時刻は朝の7時ジャスト。

 

 公衆電話をとる金田一君を、通路の向かい側から見ていれば。

 

 突如、ガシャンと荒っぽく受話器を置いて金田一君が走り出した。

 犯人側のミッションが始まったらしい。

 

 大通りを挟んで薬局に飛び込んだ後、またすぐ店を出て北側をまっすぐに走っていく。

 どうやら原作通り「4km先にあるバスターミナルへ行け」と指示されたようだ。

 

 私は少しだけ逡巡した後、頷いた。

 突然の4km走は普通の高校生男子にはキツかろう。

 まだまだ山越えの指示もあるし、今ぐらいはショートカットしてもいいはずだ。

 

 通りを全力疾走する金田一君の横にすっと並べば、彼は随分と驚いて目を見開いた。

 

「あんた!っ隠れろ!あんたが出てきたら犯人に見つかるかもしれな…」

「大丈夫。この曲がりくねって障害物も多い道を4kmも頑張って見張ってる犯人なんていないよ。じゃ、失礼して」

 

 ひょい、と金田一君をおんぶする。

 この程度を4kmなんて軽い軽い。

 ルパンの仕事で逃走する時は20kmほどを戦闘ヘリに追いかけられながら死ぬほどの全力疾走をしなくちゃならなかったこともあるしね。

 

 背負われた金田一君が背中でジタバタと暴れている。

 

「待った待った待った!!いくらなんでもこれは絵面がよくない!あんたが男だってのはわかってるけど今は女の姿!!!」

「それぐらいは我慢すること。まだまだ道は長いんだから」

 

 そうして悠々と次の目標まで辿り着くと、私は彼を放り投げるように下ろしてあげた。

 「ぐえ!」と金田一君が道に放り出される。

 

「じゃ、僕はまたゆっくり見張ってるから。頑張ってね」

「あーーーもーー!……さんきゅー室井さん。助かった」

 

 金田一君は一拍置いてから、真剣な顔をして礼を言った。

 まったくもってカッコいい子である。

 

 とはいえ、この狂言誘拐における身代金受け渡しは「必ず失敗するように犯人側が企画している」。

 狂言の誘拐であるからして、そもそも身代金の受け取りは前提としていないのだ。

 

 即ち、金田一君が身代金を受け渡すことのできる可能性は万に一つもない。

 

 そうして金田一君の奮闘を見ていれば、隣で降谷さんが私を見て唐突に文句を言った。

 

───なんかお前から貰った触手、ずっとポケットの中でグネグネ動いてて鬱陶しいんだが。なんとかならないのか?

───ちょっと管轄外なので分かりかねます

───お前以外どこに管轄があるって言うんだ。ちょっと押さえれば静かになるか?

 

 金田一君今頑張ってるだろうが!!見ていてやれよ!

 

 など思いつつ降谷さんを見れば、降谷さんは「鬱陶しい!」と言ってポッケの生地の上からじたばた動く触手を手でむぎゅりと押さえつけた。

 途端、触手は打ちひしがれたように震え、しおっと萎びれてしまった。

 

───おお!大人しくなったな!

───ちょっとコレ絶対ショックを受けて縮こまってるだけじゃないですか!?可哀想ですよ!

───そうか?触手の機微は分からんな…

 

 可哀想な触手はしおしおと小さくなって震えている。

 降谷さんに鬱陶しいと言われたのがショックなのだろう。

 おお可哀想に……。

 

 とかなんとか言っている間に、バスから飛び降りろやら道もない山を登って鬱蒼とした森の中の吊り橋まで1時間以内に来いだとか、金田一君も犯人から無茶振りを受けていた。

 

 訓練を受けている私や降谷さんなら特段これと言ったことはない内容だが、一般人にそれをやれだなんて無茶が過ぎる。

 4kmの全力疾走に加えてバスから飛び降り、未開の森の走破1時間に終わる。

 言葉に表すとスゲェなこれ。

 

 それでも、元来人並みはずれたバイタリティを持つ金田一君はそれをずんずんとこなしていく。

 森をかき分け山を歩くことなんて想定していないだろうに、半袖で枝やら何やらで腕に怪我を負いながらの行軍だ。

 

 途中「俺は大丈夫だからな」と独り言を呟く場面も見られたが、あれは私へ向けてのメッセージだろう。

 まったく頭が下がる。

 他人のためにあれだけのことができる人間は、世間広しと言えどそうはいない。

 

 初めの4kmを背負われてキャンセルしたからか、吊り橋まで足を深く怪我することなく歩いて到達することができたようだ。

 

 ゼエゼエと肩で息をしているが、まだまだ余裕がありそうだ。

 「出てこい!!」と犯人へと叫んでいる。

 

 降谷さんがほうと感嘆の息を漏らした。

 

───凄いガッツだな。ああいうのが将来警察官になってくれると嬉しいんだが

───ですね。PR企業とかに勤めてる場合じゃないですよ彼は。抵抗してもどうせ事件に巻き込まれるんだし、この際動きやすい警察官になるべきですよね

───ん、PR?なんだ、あれは将来そんな会社に勤めるのか。風見に言って目をつけさせておこう。大卒後は公務員試験を受けさせるようにな

 

 などと金田一37歳の事件簿のフラグを潰しながら会話していれば。

 

 その時、目の前で釣り橋の縄が切れた。

 間髪入れず樹上からワイヤーを金田一君の手に巻き付け、肩が脱臼しないよう優しく持ち上げる。

 

 軽く遠心力で彼の体が両端の木々に叩きつけられたが、枝葉がクッションになったのかうっと呻く程度で済んだ。

 これを見越してワイヤー先端の金具を特殊な柔らかいものに変えておいてよかった。

 

 同時に「金田一!!!」と様子を伺っていた剣持警部がすっ飛んできた。

 

 私のことがバレる前に私は手元側のワイヤーを木にくくりつけて切断。

 そのまま猿のように木々を渡り撤退する。

 

 後ろで剣持警部が「待て!」と叫んだのが聞こえた気がするも無視。

 

 そうして私は本日の業務を終えたのであった。

 




・切り離された触手
幼稚園児ぐらいの知能。
近くに具合の悪そうな人がいると心配して近寄ってきて治そうとする性質がある。
ただし、短気なので無礼を働かれるとすぐ怒る。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。