バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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神社建立

 

 あの後、無事に犯人である安岡真奈美は自供し、その後自殺したそうだ。

 私は現場にいなかったから分からなかったが、やはり地獄の傀儡師に犯人は殺された模様。

 私が現場に呼ばれなかったのも恐らくは地獄の傀儡師の工作だろう。

 

 私が現場にいれば犯人を消すことを邪魔されると思ったのか。

 

 剣持警部から後日電話で顛末を聞かされた私は、あの線の細い儚げな犯人の顔を思い出して若干の物思いに耽った。

 

 あの犯人の動機は、強姦された上に騙された恨みだ。

 被害者である夫の安岡は掛け値なしのクズであり、彼女の人生はそれによってズタズタにされたのだ。

 

 電話越しの剣持警部の声が遠く聞こえる。

 

『あの被害者は哀れだったが、これ以上の被害者が出ないとわかったのだけは収穫だったというわけだな』

「ですね。それで、金田一君はどうです?」

『なにやら考え込んでたよ。まだ引っかかるところがあるらしいが……それより』

 

 剣持警部は言葉を切った。

 言葉端が優しい響きを含んでいる。

 

『あの橋で金田一のやつを助けてくれたのはあんただろ。感謝するよ。あいつ無茶してたから、下手すりゃ死んでたかも知れねえからな』

「………なんのことでしょうか」

『別に、俺の何となくだ。気にせず礼は受け取っとけ』

 

 あっけらかんと剣持警部は言ってからからと笑った。

 何でバレたのかは分からない。

 タイミングか、それとも本当に偶然私の姿を森で見かけたのか。

 

 だが、この警部が底抜けに善人だということは十分に理解した。

 私も形だけすっとぼけてみせる。

 

「別に私は何もしていませんよ。彼は彼の力だけで全てを成し遂げたことでしょう」

『そうかもな。ま、あんたも元気でやれよ』

 

 通話を切れば、しんと静まり返った広いアジトが現実として私の耳を圧迫する。

 犯罪から離れ、こうして優しい空気にあたることのなんと心地良いことか。

 

 静寂すらも優しく肌を包むようで、私はふうと息をついた。

 

 とはいえ。

 静まり返っているのは現実空間だけだ。

 私の耳には深層心理内のカーンカーンという伝統的な木組みの音が響いている。

 

 カーン、カーン、カーン。

 まだ続く。もっと言えば早朝からずっと響いている。

 

 私は耐えかねて降谷さんに話しかけた。

 

───もう終わりました降谷さん?何か手伝うことあります?

───あ、悪い、そっちの木材持ってきてくれ。

 

 なんと降谷さん、あの新築の神社に行って以来、一人で神宮を作ろうと日々腐心しているのだ。

 普通は一人で宮大工の真似事など無理に決まっているのだが。

 深層心理内の特性で、ある程度のことは意志の力だけでなんとかなってしまうのだ。

 

 深層心理の神社スペースを歩けば、妙にしっくり来る感じと不可思議な安心感が去来する。

 

 美しく桜が花を散らせ、敷き詰められた砂利はまだ雨も知らぬかのように白く美しい。

 赤く塗られた大きな鳥居を二つ潜り、二つの門を潜れば、そこには大きな拝殿が見えてきた。

 

 右手を見れば宝物殿や神楽殿が別途設けてあり、降谷さんの力の入れ具合にはびっくりする。

 もう本殿や玉垣(神社周りの塀)は完成していて、あとは細々とした手水舎などを作り終えるだけらしい。

 

 降谷さんはと言えば、本殿横の社務所の屋根を作っていた。

 

 地面に例の触手の切れ端を設置し、それに上まで木材を運ばせていたらしい。

 黄色い工事ヘルメットを被って土木工事を頑張る触手はもうヘトヘトで、デロっと端が溶けかけている。

 あっ、触手が石畳の上に倒れた!

 

 私は急ぎ駆け寄って触手を抱き起こした。

 

───ちょっと!?過重労働は法律違反ですよ!この触手に休憩を取らせたのは何時間前ですか!

───んー、覚えがない。今日は朝の四時から作業をスタートしたんだが、夢中になってすっかり休憩を忘れていたな

───この触手が死んだら労災ですからね!ほら君、このお茶飲みますか?

 

 デロデロの触手は限界ギリギリと言った様子で伸び上がり、私がタッパーに出した麦茶の上にバッタリと横になった。

 完全に水死体だ。

 表面からちびちびと水を飲んでいるようだが、だらりとした先っぽはピクリとも動かない。

 

 私は眉を吊り上げて叫んだ。

 祭神の分霊を違法労働でこき使って神殿を建てるなんて流石の覡も許されませんことよ!!

 

───ブラック企業!反対!!!

───すまない、やっぱりクレーンの代わりは大人しく触手じゃなくてガンダム使うべきだった。あれなら疲労しないしな

───ガンダム……いえ、別に構いませんけど…神社をガンダムで…土木工事……

 

 不満か?とむっとした顔の降谷さんに言われたが、私はなんとも言えずモゴモゴと口を動かすだけに留まった。

 いや悪いわけじゃないけど……私のνガンダムは宇宙戦闘用であってだなぁ……。

 

 まあいいか、と私は気を取り直して話題を切り替える。

 なんにせよこの神社の出来自体は降谷さんらしく行き届いていて非常にいい感じだ。

 そうめくじら立てることもあるまい。

 

───今日の夜ご飯出来ましたよ。本物の窯で焼いた窯焼きピザです。付け合わせはタイとホタテのセビーチェ。じゃこと梅のペペロンチーノ付き。今回は海鮮フェアで行きました。

───おお!あれか!すぐに片付けて上へ行く!待っててくれ!

───はい。準備してます

 

 食材費を気にしなくていいのが金持ちの良いところだ。

 ゴロゴロと取り寄せた新鮮なホタテを使ってつくった南国マリネはちょいとつまみ食いしたが絶品だった。

 専門店の極薄の柔らか生ハムをふんだんに乗せた窯焼きマルゲリータピザもいい感じに仕上がっている。

 

 なお、食材たちは現世できちんと調達している。

 こんな形でも唸る資金を世間に還元していけば日本の中小企業のためになるだろう、と降谷さんが発案したからだ。

 推し課金の新たな形態を得て、最近の降谷さんは特に絶好調である。

 

 表に出て作ってあった料理たちを机に並べれば、一人飯ならぬ二人飯の完成だ。

 降谷さんが遅れてやってきて、わくわくと箸を取る。

 

───待たせた!じゃあ食べるか

───ええ。では、

 

 

「いただきます」

 

 

今日も今日とて幸せな食卓が並ぶ、淡く温かい日々なのである。

 




・ガンダム
土木用。深層心理内では宇宙空間と同様に動けるので非常に便利。

・触手
後日、包帯を巻いた触手をブンブンと振って雇用主に抗議した。
労災による休業補償を希望しているようだ。
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