バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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偽装死亡

 

 朝日がまぶしい本日早朝。

 宮野明美を公安へ引き渡し、ついでに公安があらかじめ押さえていた撮影スタジオへとやってきていた。

 

 画像加工と特殊メイクを駆使して、明美さんの処分動画を偽造しようという大胆な計画だ。

 

 監修は私が入った。

 どうせジンが目を通すだろうし、彼が好みそうな画角とか表情とかあるからな。

 私が爪を振るった場合の血の飛び散り具合とかも自然にしなければならない。

 

 今回は映像の真偽を疑われないようスペシャル版、つまり鉄爪での心臓抉り抜きとした。

 血袋に使う擬似内臓をそれ用に素早く作り直して流用。

 いつも通り腹を切り裂いたあと、仕掛けで引っ込む爪を使い上手く使って心臓を抉り出したように見せかける。

 

 女性の身体に大きな傷をつけるのははばかられたが、もし僅かでも宮野明美の生存が疑われてしまえば一大事だ。

 心を鬼にして臓器を傷つけないよう派手に切りつけた。

 無論、使用する爪は熱で滅菌してなるべく感染症を起こさないよう注意してある。

 

 爪で切り裂かれた明美さんの苦悶の表情は演技だけでなく痛みに歪んでいた。

 

 その他仕掛けも全力だ。

 風見さんは準備を本当に頑張ったし、集めた人員もハリウッドの特殊撮影並みの技術者だった。

 

 そんなわけで。

 それらが上手く噛み合い、およそ半日で完成したスナッフフィルムはスプラッタ映画さながらの傑作となったのである。

 

 これならジンも満足するに違いない。

 特に心臓引き抜いたときの私の笑顔とか、スクショをお気に入り登録とかしてもらえるだろう。

 こういう殺人鬼然とした感じ好きだもんな。私は詳しいんだ。

 

 終始疑念に満ちていたというか、ドッキリの企画かと警戒している人みたいな宮野明美は、ハリネズミより尖った警戒心で肩をこわばらせながら撮影に挑んでいた。

 それがまたいい雰囲気を出していたというのが皮肉なものだが、まぁ動画の完成度が上がる分にはかまうまい。

 

 宮野明美はまあ、実に勘の鋭い女性であった。

 一通り作業が終わり、私が降谷零へと人格を交代した瞬間「───零君?」と目を見開いて彼の名を呼ぶものだから、深層心理の海で本当に驚いてしまった。

 

 まさか私が降谷零でないことを感覚で理解していたのか?

 ラブコメ世界の幼馴染って凄ェんだな…。

 とはいえ、積もる話もあるであろう降谷零と宮野明美の二人の会話は会話自体はそこまで弾んだわけじゃなかった。

 久しぶり、今まで助けられなくてごめん、そんな取り留めもないことだけだ。

 あまりにも長い時間と、お互いの置かれた境遇の複雑さが口を重くしてしまっていたのだろう。

 

 しばらく喋った後、宮野明美は「その、大君は?」と自分を裏切った恋人への心配を口にした。

 それが私としては予想外で、思わず口を出していた。

 

「───そんなに赤井秀一のことが大事ですか?」

「ッ!!」

 

 ビクッと宮野明美の肩が跳ねる。

 やはり私たちのことを明確に別存在だと感じ取っているらしい。

 入れ替わりを見せたのはスコッチ以外彼女と風見ぐらいのものだから、どれほど私達が違うか実感としてはわからないのだが……そうまで違うのなら、少々今後の計画を考えねばならなくなるな。

 

「貴方…誰?」

 

 宮野明美が恐る恐る、といった様子で私を見上げる。

 

「僕はバーボン。あるいは安室透と呼ばれるもの。───なぜ口を出した、安室───どうしても気になったもので」

 

 同じ口で会話のようなことをし始める私達に、彼女は目を白黒させてこちらを見ている。

 入り口付近で直立不動の風見が、ただ無言でことの成り行きを見守っていた。

 

「……それって、その、二重人格?零君が?」

「ああ、俺の弱さゆえだ。それでも便利には違いないからな」

「零君が弱いだなんて、そんなの」

「潜入捜査が辛くて人格を分裂させるなんて、弱さ以外になんと表現すれば良い?捜査官失格だよ、俺は」

 

 降谷零が自嘲する。

 実際には私は憑依系転生者であり、彼の別人格などではないのだが……それは秘匿事項って奴なので口をつぐむ。

 私は名も無き降谷零の別人格。そんな感じで頼む。

 

「だからもう一人の俺、安室のことは警戒しなくて良い。あくまで俺だと思ってくれ」

「…分かったわ」

 

 言葉と同時に以心伝心、くるりと入れ替わる。

 私の代わりにトプンと水底へ沈んだ降谷さんは懐かしい日々の証明を前に優しい表情をしている。

 抑えきれずつい、といった様子でピクリと宮野明美の肩が少しだけ震えた。

 

「怯えさせて、すみません」

「いいのよ。私が勝手に怯えていただけだから」

「今も恐怖は拭いきれませんか?」

「……ええ。貴方から感じる血と組織の濃く暗い匂いが、どうしても過去の悪いことを思い出させてしまって」

 

 待て、シェリーも言ってたけど組織の匂いってなに?

 つか組織って匂うの?

 

 色々聞きたいことはあれど、今は赤井秀一のことだ。「恐ろしいと感じるのは悪いことではありませんから」と軽く断って、本題を切り出す。

 

「貴方を裏切ったのに、赤井秀一が大切ですか」

「アカイ……誰のこと?」

「諸星大の本名ですよ。FBI捜査官、赤井秀一。世界でも五指に入るスナイパーです」

 

 スコッチこと諸伏景光も手放しに誉める、世界最高峰の狙撃手だ。

 それがどれほどすごいことか私には良くわからないが、降谷さんも「忌々しいが、あいつの腕は評価せざるを得ない」というほどの絶技だ。人外に片足突っ込んでるのは間違いないだろう。

 

 宮野明美はふっと笑って私の言葉に首肯した。

 裏切りに迷わず、愛に一途に。

 

「ええ。大君がなんであれ、私の大切な人だもの」

 

 強い女性だ。

 さすがジンに「組織を抜けたければ10億円強盗しろ」なんて冗談で言われてマジに成功させた人間だ。

 面構えが違う。

 

「僕たちが必ず、妹の宮野志保と赤井秀一との再会の場を設けて見せます。だから、あなたは焦らないで」

「それは貴方にとっても危険な橋になると思うのだけど」

「危険です。が、貴方の想いを無駄にしたくないと。そう思ってはいけませんか?」

 

 彼女の思いに応えるように、同じだけ真摯に、真剣に言葉を紡ぐ。

 ふふ、と彼女は少しだけ笑った。

 

「あなた、思ったより素直な人なのね」

「なるべく嘘はつかないようにはしていますから」

「あら、私の死を偽装だなんて特大の嘘をついておいて、嘘はつかないだなんて信用できないわ」

 

 生来明るい女性なのだろう。

 顔色は良くはない。私の付けた大きな傷も痛むだろう。

 

 それでも、彼女は笑っていた。

 

「そうですね、失言でした。僕は大嘘つきですから、貴女も気をつけてください」

「怖いわね。嘘つかれたら零君に言いつけてやるんだから」

「なんと。それはまずいですね───安心してくれ、バーボンは俺がきっちり見張っておく」

「ふふふ。零君が見張っててくれるのなら安心ね」

 

 なんて冗談を言い合いつつ、ちょうどその時スマホが震える。

 実は最近機種変更したのだ。実に感慨深い。スマホの時代がやってきたのだ。

 

 着信はメールであった。送信者は黒の組織の幹部、ジン。

 

『xx研究所に今すぐ来い。シェリーが喚いている。お前が現実ってやつを教えてやれ』

 

 予定にない緊急呼び出しだ。

 ちなみに時間指定があった場合、一分でも遅れると射殺される危険性がある。これだから銀髪はダメなんだ。

 

 私はスマホをズボンのポケットにしまい、鉤爪をバッグへと戻して立ち上がる。

 不安そうに明美さんがそわそわしているが、大丈夫。

 安心させるようにやさしく頷けば、彼女は肩から力を抜いた。

 

「シェリーに会ってきます。彼女には、辛い思いをさせてしまうかもしれませんが」

「……いつか、会わせてくれるのよね」

「必ず」

 

 そして。

 蜻蛉返りに研究所へと帰る私は、車内ではたととんでもないことに気付いてしまう。

 

 もしかしてこの宮野明美実録(偽)スナッフフィルム、これから志保ちゃんに見せることになるのか?

 

 FBIが見るものだと思って遠慮も何もなく全力で作ったR-18G動画だぞ?

 しかもそれを肉親である宮野志保に見せるなんて、本気でやばくないか。

 憎しみが天元突破して、ある日志保ちゃんに包丁持った捨て身特攻されるまである。

 

 やや青い顔をしていたのは私だけではない。

 心の内の降谷さんも土気色の顔で俯いたまま頑なに顔を上げようとしなかった。

 

 どうすんだよこれ。私なんか宮野明美の心臓抉り出してニヤついているんだぞ。

 顔まで返り血浴びてさぁ。イイ笑顔をしたジンが目に浮かぶようだ。

 

 誰か助けてくれ……。

 

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