バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

18 / 333
絶望

 

 ごうごうと降るような悲しみに、涙が頬を濡らしている。

 

 研究所に到着すると、待っていた下っ端組織員に素早く奥へと通される。

 暴れたという理由で鉄格子の向こう側に放り込まれたシェリーは、どうやらこの施設の最奥、懲罰房にいるらしい。

 

 部屋に入ると、薄暗い廊下と鉄格子に湿ったモルタルとすえた水の匂いが満ちていた。

 

 そこで蛍光灯の明かりを反射する硬質な銀は、ジンの気質を示している。

 長い銀髪が翻る。

 下っ端数人が扉の前で直立不動で佇む中、ジンは凶悪そうな三白眼をニヤリと細めた。

 

 真っ青な顔のシェリーは鉄格子を掴んだまま力無い。

 

「ようやく来たか、ウルフドッグ」

「急な呼び出しは困ります、ジン。僕運転下手なんですから、公道で事故ったら情けないにも程がありますよ」

「そいつは悪かった。こっちも急いでたんでな」

 

 私相手なら正直に謝れる男、ジン。

 これがギャルゲーだったら個別ルートに入っていたところである。

 ジンルートかぁ……一気にゲームの血生臭さが増しそうだ。

 

 ブルブルと震える腕で鉄格子を握り締め、シェリーが悲痛な叫び声を上げた。

 

「嘘、嘘嘘嘘、バーボン!貴方ならって、私、」

「狂犬に何を期待するってんだ?テメェは本当に愚かな女だな、シェリー!」

「バーボン、バーボン!!!」

 

 縋るような声に私は目を合わせなかった。

 合わせたら最後、同情と申し訳なさで表情が歪んでしまいそうだったからだ。

 

「FBIに送るために動画を撮ってあります。ご覧になりますか?」

「用意がいいじゃねぇか。おい、シェリー。大事な大事な姉の最期の姿だ。しっかり見ておけよ」

 

 組織の用意したデータを暗号化するUSBに動画を入れて、部屋に持ってきたノートPCへと差し込んだ。

 PCのデフォルトの映像再生ソフトが立ち上がり、無機質に廃倉庫を映し出す。

 

 宮野志保が目を見開いた。

 

 素人撮影のため手振れもあるし、ピントもうまく合っていない。

 それでも明瞭に映る縛り上げられた宮野明美が、映像の中で暴れている。

 つ、と鎖骨をなぞるように鉄の爪が滑り、そこに一条の浅い切り傷を残す。

 

「お姉、ちゃん」と消え入るような声。

 

 うつり込む金髪は私のものだ。

 『では、さようなら。宮野明美』、なんて。

 動画の中で喜色に満ちた残虐な声が響く。

 空腹の獣が「いただきます」と獲物を前に舌なめずりするような、被捕食者を意図すらせずに威圧する声色だ。

 

 一撃。腹を裂く爪は内臓を引きちぎりながら振りぬかれた。

 押し殺した悲鳴はシェリーのものか。あるいは映像の中の宮野明美か。

 

 ざわりと物足りなさに呻くように爪を蠢かせ、さらに間髪を容れず貫手。

 縛られて動けない宮野明美は一度ビクンと体を跳ねさせ、次いで不随意に暴れまわり、……最後に全身が弛緩する。

 噴水にも似た鮮血の海。ずるりと抜かれる爪は不快な粘つく音を響かせる。

 

 恍惚とした表情の私が、女の死体から心の臓を抜き取って嗤っている。

 それをぶちゅりと、握りつぶして。

 

 動画はそこで終わっていた。

 

 もはや声すら出ないのか、目を見開いたまま宮野志保はずるずると懲罰房の床に崩れ落ちた。

 はっははは!と哄笑を響かせるのはジンだ。

 

「ザマねぇなあの女!ウルフドッグに喰いつぶされるたぁ、ずいぶん上等な死にざまじゃねぇか!」

 

 すこぶる上機嫌なジンは、うつむいたまま何も話そうとしない宮野志保に業を煮やしたのか鉄格子を蹴っ飛ばした。

 ガン、と鈍い音がして「何か言ったらどうなんだ」とジンにすごまれゆるゆると顔を上げる姿が痛々しい。

 幾筋もの涙を流し、宮野志保は一縷の望みをかけるように私を見る。

 

「なんで……ねぇ、どうして……?」

 

 ジンがいるところで聞かないでくれ!せめて二人っきりの時ならもうちょっとましなフォローができたのに!

 主人格!主人格ってば聞いてる!?

 あっ降谷零氏御年28歳、心の中で布団を具現化して頭までかぶって寝たふりをしておられる!

 起きろやオラァ!いくら主人格といえ狸寝入りは許さぬ!

 

 内心の荒れ模様をおくびにも出さず、私はシェリーに微笑みかけた。

 

「なぜ?おかしなことを聞きますね」

「え……?」

 

 こてん、と首をかしげて無垢なまでににっこり笑う。

 

「人を殺すのに、理由が必要ですか?」

 

 それでようやく、彼女も気づいたらしかった。

 ウルフドッグと呼ばれた私の人格設定はたった一つ。

 主人公・工藤新一の真反対。

 人を殺すのに理由を必要とせず、殺すから殺すというシンプルな悪。

 そのシンプルさゆえに………組織はバーボンを疑うことなく受け入れたのだ。

 

 純粋無垢な悪として、私は彼女に微笑みかける。

 それが気を許してはいけない悪だったのだと気がついて。

 涙が、決壊する。

 

「あ、ぁ………あぁぁぁあああああ!!!」

 

 悲しみと憎しみと絶望とが混じり混じった凄まじい絶叫が、つるりとした研究室の壁に反射して消えていく。

 

 はい、終わりですよこれはもう。終わり終わり。

 解散!散れッ、散れッつってんだろ!

 

 降谷さんを心の布団から引きずり出せば、「すまない志保さん、違うんだ、俺は、俺はそんなつもりじゃ…」と錯乱していた。

 それでよく公安が務まるな!

 

 そのあと私がその部屋を出るまで、シェリーは深々と泣き続けていた。

 きっと一人になった後も。昼が過ぎ、夜になっても。

 

 悲しみの涙を流し続けていたのだろう。

 




バーボン「人が人を殺すのに理由が必要ですか」
ジン「スリザリンに一億点!!!!!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。