バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
待ち合わせは江古田高校近くのおしゃれなカフェだ。
遠くの学区からはるばる足を運んだらしい様々な制服の女子高生達がたむろし、キャアキャアと噂話に花を咲かせている。
私はそこで待つ魔女、小泉紅子さんのいる席へと向かい、そっと微笑んでみせた。
「お待たせしました。今回は時間をとっていただきありがとうございます、小泉さん」
「構わないわ。幼い神、高次より来たりしものの頼みですもの」
紅子さんがそっけなく紅茶を口に運んだ。
どうやら先に飲み物を頼んでいたらしい。
私もウェイターさんを呼んで軽く飲み物でも注文することにする。
ここはチェーン店らしいシンプルな味わいだが、値段に比してクオリティも満足度も高い店だ。
降谷さんが「俺はオリジナルブレンドがいい」と言ってきたので、頼もうとしていたアメリカンを取りやめてオリジナルブレンドを頼んだ。
「単刀直入に言えば、神性の高まりに由来する人格変容をなんとかしたいんです」
私の言葉がカフェの喧騒に溶けて消える。
ぱりっと紅子さんが付け合わせのクラッカーのような菓子を口にはこんだ。
そしてお次に運ばれてくるのは色とりどりのケーキセットだ。
ベリー系三種のムース、レモンのタルト、濃厚なチョコレートの盛り合わせだ。
思ったよりガッツリ食べるつもりらしい。
「なんとかって、すればいいじゃない。神なら当然、己の形は己で決められるわ」
「そんな簡単なら初めから相談してませんよ。これでもいろいろ試しているんですよ?」
神性を私から引き剥がせないかと多重影分身の真似ごとに延々時間をかけてみたり、ヨーガに力を入れてみたり。
当然それらは失敗、モヤモヤと何か力が伸びるだけで分裂はできなかった。
次は変容を抑え私のままでいる訓練として瞑想もしてみた。
効果はまるで実感無し。
効果がわかりづらいものであるからして仕方のないことではあるが、降谷さんと一緒に顔を見合わせてくしゃくしゃな表情をするより他なかった。
「最近、僕の分体である触手を入れた彫刻が出回っているのは知っていますよね」
「ああ、世間で話題の『難病の子どもを治した奇跡の彫刻、タタリ様像』よね。本当にお人よしよねあなたは。あんなふうに祝福を安売りして」
「一応いいお値段はついてますよ?一般的なサラリーマン程度じゃとても手が出せないレベルの金額です」
「金なんて所詮人の尺度。神には関係ないわ」
「まぁ………理屈はわかりますが」
とん、と机の上にやや小ぶりのバージョンのタタリ様像を取り出し、置いた。
お値段約1億円。廉価版で作りが粗いのが特徴だ。無論触手も入っている。
興味深そうに紅子さんが彫刻を覗き込んで。
指でぐにっと、中の触手を引き摺り出した。
無理やり引き摺り出された触手がピィ、と怯えたように萎縮して震えている。
魔女にかかれば触手を像から出すことぐらいお手のものらしい。
触手が紅子さんの手の中で逃げ出そうともがいている。
かわいそうだが私たちのため、そのまま紅子さんに見分されておいてくれ。
「弱っちいけどちゃんとした化身じゃない。これができるのなら人間でいることなんて容易いと思うのだけれど」
「どういう意味です?」
困惑顔の紅子さんの様子を見るに、本当に簡単に解決できるはずのことらしい。
私は情けなく詳しく説明を求めた。
「これは貴方の一種の現れよ。とするなら、同じ要領で『人間の貴方』を作ってそれを本体に据えてしまえばいいのよ」
「な、なるほど?」
「神なんて元来無形なんですもの。自己改造なんてお手のもの。だから神は時々アヴァターラ(化身)を人間に生まれ変わらせて人の世に混じるのよ」
「………」
言っていることはわかるのだが、ファンタジーすぎて方向性がまるで見えない。
とはいえ、紅子さんのいう事ならばそれが確かなのだろう。
「すこし、試してみようと思います。」
「ええ。そうしなさいな。貴方は地上に現れた最新の神格ですもの。そう簡単に自重に潰れる事があってはならないわ」
どうでもいいが、さっきから後ろの席の女子高生達が私たちを見て「彼氏かな?」「すごいイケメン!いいなぁ」「えー、でもなんか遊んでそうだわ」なんてキャピキャピな会話をしている。
素顔で来たのは間違いだったかもしれない。
あと遊んでそうとは失敬な。
降谷さんは女嫌いの地雷男なのでほとんど自分からは遊んだりしないぞ!
紅子さんが相変わらずぐにぐにと触手を弄びながら口を開く。
触手は泣きが入ってきたようでエグエグと涙を堪えている。おお、可哀想に……。
「貴方から力を借りる新しい赤魔法も開発済みよ。特に治癒の魔法は素晴らしい成果がでたわ」
「えっ……なにそれ知らない……あ、先日女性に虚空から話しかけられたような気がしましたが、それが紅子さんでしたか」
「ええ。神格の力を借りる精霊魔法の一種よ。特に貴方は祝福にオープンだから、簡単に力を借りられるのがいいわね」
「でも、ただ乗りする魔女がいるといけないから代償の一つや二つ設定しておいた方がいいわよ?」と心配そうに言われるも、私は難しい顔をするにとどめた。
いや……化身で困ってるのに魔法の対処とかどうやればいいねんて。
あ、紅子さんが触手を離した。
ピィピィと泣きながら触手がこちらに戻ってくる。
そして「なぜ助けなかったんだ」と言わんばかりに腕を触手でペシペシと叩かれた。
すまんて。魔女相手にそんなことできるわけないやろがい。
───なんにせよ、この触手のような化身を自在に作れるようになる事が先決か。先は遠いな
───ですね。まったく、どうすればいいことやら。
内心ため息を吐き合う降谷さんと私は、紅子さんに礼を言ったあとスマートに2人分の代金を払い、喫茶店を後にしたのだった。
ケーキセットお値段3000円。
レシートを見て、桁が二つほど上でも問題なさそうなのに、なんて金銭感覚の狂ったことを考えていたのは秘密である。