バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
───行けたか?
降谷さんが隣から(遠く離れた神宮外から)私に声をかける。
私は出来立ての人間アバターを通して隣にいる降谷さんに返事をした。
───うーん、想定と違いますが…多分うまく行ってます
───それはよかった。ほら、よもぎ餅の方は食えるか?
───いただきます。……あ、味がする!美味しい!
神域内の神宮中央、本殿内に位置取り、私は現在人間を模して作った分霊、通称アバターを遠隔操作している。
人間アバターにて現実世界のよもぎ餅を頬張れば、アバターを通してよもぎ餅の独特な風味と餡子の甘みが私にも伝わってくる。
感覚としては、なにか一枚フィルターを噛ませたような感覚だろうか。
普通の人間ならどんなふうに考えるかがクリアに感じられ、かつ遠くなってしまった現世が肌に近く感じられるようになるというか。
そう、神性の高まりと共に最近また味がわからなくなってしまった私なのだが。
苦労の甲斐あり、ようやくアバター越しなら美味しくいただけるようになったのだ。
便利便利。文明の勝利と言っても過言ではない。
私は本殿の豪華絢爛な部屋で本性を曝け出しながらまったりと横になった。
神性の高まりすぎで体が重いのが面倒なところだがある程度は仕方あるまい。
透明な触手が大量に部屋内を蠢き、景色を歪ませる。
降谷さんがあらかじめ用意してあったカンペを読み上げた。
───じゃあテストするぞ。例えばの話だ。俺が野良暗殺者によって切りつけられた。命に別状はないが、出血量は多い。本体のお前はどう考える?
───僕の覡が二度と傷つかないよう神域内に治療・隔離してから、敵を一族郎党に至るまで祟りましょうとも。全身がだんだん奇形になっていく呪いとかいいですね
───フィルター越しに考えたら?
───敵を素早く処理後、急いで降谷さんに応急処置をして病院に連れて行きます。というかやば、フィルター無しの僕ラディカル過ぎません???
───よし。うまく行ったみたいだな
なんとなく釈然としない気持ちになりながら「よかった正気に戻れて」という思いと「覡を傷つける神敵なんて神罰が妥当だろ」という思いが同時に私を悩ませる。
この感覚をどう言ったらいいものか。
役に入り込むというべきか、古の用語を使うなら成りチャに近い感覚だろう。
キャラの皮をかぶっていると言うか、若干の気恥ずかしさと嬉しさが同居するような……。
うーんだめだ、これ以上は私が古代人だという事がバレてしまう。
わたしは首を振って煩悩を振り払った。
わたしの動きに合わせて本殿内の空気がざわりと蠢く。
念のため本体たる私はこの神宮内に溜め込まれた神性がいつ破裂してもいいように、本殿内でまったりぐうたら生活を送ることに決めている。
ようやくやってきた降谷零実録24時……と思ったもののアバターの操作が意外と大変なので案外忙しかったりするのである。
───さて。時間もいい頃合いだし飯にするか。メインの方ももう焼き上がるだろうし
───今日は鯛の塩釜焼きでしたっけ。ほんと凝り性ですよねゼロは。あのふわふわに蒸し上がった白身が塩と絡んで美味しいんですよね
───だろう?和紙を噛ませることで塩辛くなり過ぎずに皮も食べられるようになるんだ
今日の夕飯は降谷さんが担当だ。
キンメダイの塩釜焼きがメインで、酢橘を添えて。
塩釜の造形は私が外側を整えて多少の造形を施した。
料理も見た目から、という事だね。
白米と一緒に食べれば実にやわらかくまろやかな塩味が舌を和ませる。
付け合わせはほうれん草とにんじんの胡麻味噌和えだ。
と、そこでピンポーンと古い時期に大量生産されたドアチャイムが鳴った。
どうやら大家さんが親戚から送られてきたというみかんをくれるらしい。
ここはメゾン木馬から遠く離れた安アパート。
気のいいおばちゃん大家さんが何かと世話を焼いてくれる、意外といい物件だ。
部屋中に漂うおいしい匂いに釣られて視線を動かした大家さんは、机の上に並ぶ塩釜焼きをみつけたらしい。
「まぁ!」と顔をくしゃくしゃに綻ばせた。
「安室ちゃんは本当に料理が得意ね!」
「恐縮です。材料を買い過ぎてしまって、おばさんもおひとつどうですか?」
「えぇ、悪いわよぉ、こんな立派なキンメダイの塩釜焼き…釜の形も可愛らしいこと!壊すのも勿体無いわ」
「僕一人では食べずに処分するしかなくなってしまいますから、どうかお構いなく」
「そういうのなら……いつも本当にありがとうね安室ちゃん」
わたしが塩釜焼きを包んで袋に入れて無理やり押し付ければ、心底申し訳なさそうに大家さんも受け取ってくれた。
一応、通報しないでねという袖の下な意味も含まれているのだが、私たちの正体に気づいていない大家さんがそれを察せられるはずもなく。
意外と気付かれないものなんだよな、素顔で出歩いても。
まさかこんなところにTVで報道されていたような犯罪者がいるはずがない、という思考のバイアスが働いているのだろう。
ルパン達もよく堂々と素顔で歩いているけどバレてないしな。
大家さんと多少の雑談をしてから大量のみかんをでんと部屋の端へ置き、ひとまずご飯に戻ることとする。
メインディッシュのご開帳だ。
一思いに塩釜をハンマーで砕けば、中からふわふわに蒸し焼きになったキンメダイが姿を現す。
と、そこで盛大にバキバキと壊された塩釜に、部屋の隅にいる触手5、6匹がヒィッと恐れ慄いた様子で身を寄せ合った。
自分の家を壊されるトラウマが反応してしまったらしい。
彼らは依代である彫刻が不慮の事故で壊れたり失われたりして焼け出されてしまった触手達だ。
どうも帰巣本能があるようで、こうして家無し子になると私の元に帰ってくる。
帰宅後は個々人の希望で私の深層心理の触手群の中に帰るものもいれば、現世に残ることを希望する触手もいる。
この触手達は現世残留を選んだので、こうしてセーフティハウスで飼っているということである。
降谷さんがチラリと触手達を見て言った。
───こいつら、食事とかできるのか?
───なんか五感は全てあるっぽいので食べられるとは思いますが…
───ならやってみるか。ペットの餌付け
降谷さんがキンメダイの白身を少し摘んで渡せば、恐る恐る相談し合って触手はキンメダイを口に含んだ。
6匹で器用にキンメダイを分け合っているようだ。仲良し仲良し。
キィキィ…?キィ!キューン……!
なにやら美味しさに感動しているらしい。
6匹の触手は雑談しながら舌鼓を打ち、嬉しそうに触手を振っている。
料理中も降谷さんの後ろで菜箸を取ったり冷蔵庫からタイを取り出したりと可愛いお手伝い枠として活躍してくれたから、その褒美でもあるのだろう。
降谷さんがうんうんと頷いた。
───完璧にペット枠だなコレ。キモいけど賢いし世話もかからない。じゃあ、俺たちも冷めないうちに早く食べよう。せっかくのキンメダイなんだからな
───そうですね。あ、やっぱアバター越しだと美味しい…。ほっぺ落ちそう。さすがはゼロ
───当たり前だ。俺が作ったんだからな。
まったりと過ごす本日、私達は一応の形で神格問題の解決に成功したのであった。
・キンメダイの塩釜焼き
リアル調の踊り鯛の形に整えられた塩釜。
割るのが勿体無い出来栄えだが、本人は「粗塩だと細部まで作り込めないのが難点ですね…」などと思っている。