バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
さて。
此度のクエンチ事件による死者はゼロ。
勇敢な行動で皆を助けたとして私は表彰される運びとなるとのこと。
私は現在、病院駐車場に設置された仮設テントの下でぼんやりと警察の取り調べが終わるのを待っている。
表彰の件については、はじめは私も辞退しようとしたのだ。
しかし、先ほど現場に現れた土気色の顔の白馬警視総監に体が折れ曲がる勢いで頼まれては嫌とは言えない。
もはやあれは表彰を受けてくれと懇願されたと言ってもいいレベルだった。
どうも世論の印象を操作して警察組織への批判を逸らす狙いがあるらしい。
この間のアクアタワーといい、鈴木会長誘拐未遂といい、失態続きだから警察も辛い立場だよね。
なんなら東都環状線も爆破されてるし。
日本の対テロオペレーションはボロボロだぁ…。
元職場を思ってか、降谷さんもゲンナリした顔をしている。
また、リニモの試乗も続行らしい。
政治渦巻くこのイベントを軽々に中止にすることもできず、幾人かの要人は予定を切り上げて帰ったものの基本的には強行するようだ。
それを語る白馬警視総監の顔と言ったら、つい降谷さんが「心中お察しします」と沈鬱に漏らしたほどだ。
ちなみに公安も動いているのか風見さんも聞き取り調査に来ていた。
もちろんこれには降谷さんが声をかけた。
「健勝そう……とは流石のお前もいかないか。苦労しているようだな」
「降谷さん、はは。最早立ったまま意識が飛びそうです」
「それは危ないから小まめに仮眠をとったほうがいいぞ。ぶっ倒れると逆に周りの迷惑になるからな」
「心得ました」
微妙に殺伐とした会話だ。これが公安の通常運転というやつか。
しかし、何日寝ていないんだろうってゾンビみたいな顔で人員が動き回る様はほぼほぼバイオハザードである。
そして事件実態を把握するにつれて顔色はますます青くなった。
死にそうな目にあった海外の偉い人の上品な京都言葉(英語ver.)にも晒されるし。
そりゃ皮肉の一つも言いたくなるだろうが、下っ端にいうのは可哀想だからやめてやってくれ。
隣では転倒した際に頭部に怪我をしたのか、豊かな髭を蓄えた中東風のおじさまがガーゼを貼ったまま穏やかな顔でニコニコしている。
おお、あれは絶対に外交で一言言ってやろうという顔!
しばらくすると風見さんが病院裏口の物陰でコソコソしていると思ったら、懐から取り出した胃薬の瓶から薬を飲んでいるところだった。
気持ちはわかる。
そのあたりで、事情聴取を終えたコナン君がとてとてとこちらへやってくるのが見えた。
「やぁ、目暮警部と高木刑事は元気そうだったかい?」とコナン君へと手を振って話しかける。
「はは、もう疲労困憊って感じだったよ。立て続けだったもんねぇ、大規模テロも」
「だろうね。近年の治安についてTVが特集を組むのも仕方ないところだよ。後で果物でも差し入れしようかな」
「僕もいつもお世話になってるし、そうしようかな」
ただ小学生が警視庁捜査一課の警部さんにいつもお世話になること自体が意味不明なんだよなぁ。
などと思いつつも口には出さない。
コナン君が思考を切り替えたのか、鋭い視線を地面に落としてポツリと思案した。
「犯人の狙いは誰なんだ?この場にいる人なら心当たりなんて山ほどある人ばかりだろうけど」
「権力者は常に誰かに恨まれるものだからね。でも犯人はクエンチを起こさせた後、館内の換気システムにハッキングしていたみたいじゃないか」
「少なくとも、システム知識に覚えがある人物か、そうした知識を持つ人物のバックアップを得ているか、か」
現在、井上修は警察に締め上げられている。
白鳩舞子は彼の残したシステムをなんとか使えるようにして犯行に及んだものと考えられる。
意外と情報共有をしていたのか、それとも追い詰められたが故の執念か。
少なくとも、15年前の事件をなぞらえるのは止めて、なりふり構わずマッケンジー会長の命を狙いにきたのは間違いないだろう。
と、そこで意識が事件から逸れる。
向こうから歩み寄ってきた欧州議会議長が、触手のぬいぐるみを片手に抱えて私に挨拶してきたのだ。
政治の気配を察知してコナン君がするっと姿をくらませた。
逃げ足早いな君。
「無事だったかね、Ms.ムロイ。本当に災難でしたな」
「ええ、びっくりしましたよ。でも皆さんが無事で何よりです」
「日本は長く治安が良かったから、近年の凶悪犯罪増加にまだ対応し切れていないのかもしれないな」
「ははは」
つまりこんな危険な国に拠点を構えるのではなく、安全なヨーロッパへ来ないかというお誘いである。
ビキッと降谷さんの額に青筋が立った。
治安が悪いのは「それはそう」としか言いようがないが、検挙率もバカ高いから日本もいい場所だと思うのだがなぁ。
仕方ないので「日本の水が合っていますので治安が悪くとも離れ難いのが難しいところです」と遠回しに断る。
「そうか、また機会があったらヨーロッパに来てみるといい。こちらも気候が良くいいところだ。それに名だたる過去の彫刻が現存し触れ合えるのだから、君も気にいるはずだよ」
「ええ。また仕事がひと段落しましたら観光に巡ってみようと思います」
多分この後「仕事はひと段落したかな?これは観光地を巡る君のためのチケットだ」とかなんとか言ってファーストクラスの航空券が送られてきたりするんだよ。
しょっぱい顔をなんとか隠す。
それを察しているのかいないのか、表情の読めない欧州議会議長が「それより」と言って手にした触手のぬいぐるみを突き出した。
「このぬいぐるみだが凄いな!動力が入っている様子はないのに独りでに動くし、なにより彫刻と同じ治癒能力がある!」
何をされたのか知らないが、触手のぬいぐるみはピィピィと泣きが入った様子でぐずついている。
あまり触手をいじめないでほしいのだが、ここは政治の場。
多少の犠牲は仕方ないと見て見ぬ振りをすると、触手はショックを受けたように萎れてしまった。
すまん……すまんよ……。
「ええ。中には神格、タタリ様の分霊が入っていますからね。その動きは八百万の神の意思なれば」
「スピリットビーイングの意思か。詳しく聞きたいところだが、まずこれを新しい『TATARI』の形として輸出するつもりはありますかな?」
「今のところはまだ、作成に時間がかかるので考えていませんね」
「例えば君にデザインしてもらった型紙を工場で大量生産した場合、その力は維持されるものかね」
「最後に神の霊魂を込める工程を挟めば問題なく力は維持されますね」
「素晴らしい!!」と議長は私の両手を取った。
そしてもう一度「本当に素晴らしい!!」と叫んだ!
「これは由来不明の悪魔のものではなく、あくまで昔からあるスピリットビーイングの力だ。そしてそれを量産することが可能!これは多くの人にとって素晴らしい朗報になるだろう!」
「ははは。喜んでいただけて僕も嬉しい限りです」
「大量生産契約の際は是非とも私に一報を入れてほしい。融通しようとも」
「なるほど、機会がありましたら」
気配なくすっと近寄って話に入ってきたのはたしか……フィリピンの……偉い人……?であった。
私相手に気配を感じさせないとか、元々どんな素性の人だよとちょっと思うなどする。
いわく、我が国には布製品の製造・輸出には強い基盤があるとかなんとか。
突然話に割り込まれた欧州議会議長は気分を害したのか、ぬいぐるみを持つ手に力が入っている。
腕の中ではピィピィと怯えたように鳴く触手のぬいぐるみが身を縮こませながら震えている。
そして動物のように震えて鳴くぬいぐるみに向けられる隠しカメラは両手じゃ数え切れないほどになる。
うーんやっぱり返してもらおうかなそれ。駄目かな。可哀想だし。
誰も彼もが目をぎらつかせて話をする隙を窺っていて。
結局私が解放されたのは、リニモに乗る直前のことになるのであった。
・TV番組
日本政府の怠慢!頻発するテロリズム!治安の悪化!みたいな特集で賑わっている。
海外でもアクアタワーの件とクエンチ騒ぎがニュースになっている模様。