バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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緋色の弾丸⑤

 

 真空超伝導リニアモーターカーが、東京の芝浜駅を目指して多くの乗客を乗せ、時速1000キロで走っている。

 

 切る風すら無く真空の中を無音で走るその姿は弾丸にすら例えられ、人々は窓からの絶景を歓声と共に眺めていた。

 それは日本の技術の粋。国威を示すための絶好の機会であるはずだった。

 

 そこで、世界の要人たちの前で。

 凶行に及んだ白鳩舞子の罪が白日の下に晒される。

 

 白鳩舞子の携帯は今現在壊れている。これは意図的にクエンチを起こした際、MRIによって電子機器が壊れてしまったからだ。

 名前は石原真のアナグラム。これは15年前の事件の関係者であることを示唆する。

 そして今しがた……マッケンジー会長を背後から拳銃で撃ち抜こうとした、現行犯という決定的な証拠がある。

 

 「違うかな、シラハトマイコ」とマッケンジー会長が驚きに騒然とする要人たちの前で滔々と推理を披露する。

 元から昴とコナンから推理を聞かされていたのだろう。

 素早くSPに取り押さえられた白鳩舞子は悔しそうに口をつぐんでいる。

 

 白鳩舞子が射殺されなかったのは、初手で拳銃がはたき落とされて無手になったから。

 つまり偶然でしかない。

 

 それを私は持ってきていたもう一つのぬいぐるみ……手乗りサイズのタタリ様ぬいを撫でながら、ぼんやりと自席で見守っていた。

 またこんなクリティカルな事件が起きて、きっと世間からの突き上げは酷いことになるだろう。

 警察もおいたわしや、なんて他人事で黙祷を捧げるお気楽さよ。

 

 これでもし降谷さんが現職だったら、想像を絶する忙しさに陥ることは確定である。

 良かったのやら悪かったのやら。いや、こんなことになるのなら現職であればきちんと暴発前に対処するか。

 

 上機嫌で隣に座る現職の大統領バーンズ氏がこそこそと内緒話をするように私に話しかけてきた。

 

「流石は元FBI長官じゃないか。私の跡を継ぐのが彼なら私も安心できるというものだ」

「ですね。手回しも良く、SPの配置も無駄がありませんでした。ご自身の命を囮にするのはいただけませんが……」

「勇敢さの表れだろう。カメラがないのが残念だ。非道なテロに負けぬ強いアメリカを演出するには十分だからな」

 

 後の選挙戦を意識しているのだろう。

 バーンズ氏は顎に手を当ててから、ようやっと私の手の中にある物に気付いたのか目を瞬かせた。

 

「それはシュミット議長に渡していたものと同じぬいぐるみかね?」

「はい。EU議長にお渡ししたもののミニバージョンです。効果は変わりません」

「なんとも羨ましいことだ。『TATARI』の新しい形式をいち早く手に入れるのは。嫉妬してしまいそうだ」

「ご安心を。これは失敗作ですので、きちんと成功したものを後ほど正式なルートでお渡しすることを約束しましょう」

 

 今回のぬいぐるみは手のひらサイズにストラップ付き。

 バッグのファスナーにかけておける利便性があるので、旅行時などにもってこいだ。

 

 みーっみーっ!と鳴きながらぬいぐるみが手の上で動き回る。

 

 手のひらサイズは流石に小さかったのか、触手がはみ出してしまっている。

 そういう意味での失敗作だ。流石に触手がはみ出てるものは売り物にはなるまい。

 それでも本人は満足らしく、みーっ!!と鳴いて上機嫌そうだ。

 

 バーンズ氏が訝しげにみぃみぃ鳴く不審なナマモノを見つめて問いかけてくる。

 

「こんなふうに鳴くのが普通なのか?私の見たのは彫刻の方だが、あちらは動きも鳴きもしなかったと思ったが」

「私も原理は分からないのですが、ぬいぐるみだと動きも鳴きもするようです。これもタタリ様のご意志なのでしょう」

「ではこれは本物の精霊の声、と『TATARI』とは日本語で神罰を意味していると聞いていたが、想像していたより可愛らしいのだな。まるで子猫のようだ」

 

 最近では一貫して「私はタタリ様の力を借りてるだけですよー」的スタンスを取り続けているのだが、一体どの程度まで受け入れられているのやら。

 私のことをドルイド的に見る目も多くはなってきたが。

 彫刻はその力を発揮するための媒体なのだと言い張ることで面倒を少なくしようとはしている最中である。

 

 バーンズ氏が「触っても?」と聞くので、頷いてストラップを外してタタリ様ぬいぐるみを手渡した。

 

「基本的には人懐っこいし、動物と違って牙も爪も病原菌もありません。勿論、動物同様粗末にされると怒りますが」

「確かに、動物虐待は許されざる非道だ。我が国も『TATARI』の扱いに関する法整備を急がねばならないな」

 

 顎のあたりを撫でると、はみ出した触手を振り回しながら元気よくみぃ!と触手は鳴いた。

 愛らしく……触手が愛らしいかは諸説あるが……バーンズ氏の手の甲に擦り寄っている。

 

 そしてバーンズ氏の人差し指にあったささくれを瞬時に治してみせた。

 

「おお、これはありがたい。地味に痛かったんだ。いい子だ、クッキーは食べるかな?」

「食事は必要ありませんが、あげれば喜んで食べますよ。味覚は人に似て、特に苦手な食材もありません」

「そうかそうか!じゃあ…ふむ、細かく砕いてやったほうが食べやすいかな。どれ」

 

 触手はビスケットのかけらを器用に触手で絡め取り、口……のような場所をぬいぐるみから露出させた。

 ギザギザの歯が縦に生えるシュールな見た目だが、ガリガリとビスケットを平らげて喜んでいる。

 みょっ!!とジャンプしながら鳴いて、バーンズ氏の腕に巻き付いた。

 

 そして触手の長さが足りず、腕からずり落ちる。

 

 触手はペショリと膝の上に落下して、己の情けなさにかしおしおと萎れてしまった。

 人懐っこいというか、菓子に釣られた情けない化身の図である。

 

「ははは、よしよし、泣くことはないさ!」とバーンズ氏が拾い上げて優しい手つきで触手を撫ぜる。

 触手はみみみ!!と伸び上がってテシテシとバーンズ氏の胸あたりに触手を当てた。

 どうも言いたいことがあるようだ。必死になってぺしぺしとなにかを訴えている。

 

 ………なに?

 

 ふむ。

 

「なるべく早めに正式なタタリぬいぐるみをお送りしますので、一つは必ず肌身離さず持ち歩くようにしたほうがよろしいでしょう」

「なに?この精霊が何か言っていたのか?」

「タタリ様が言うには、貴方が将来的に命に関わる心臓病に至る可能性が高いそうです」

 

 バーンズ氏はわずかに息を呑んで己の胸を押さえた。

 

「少しばかり歳のせいか高血圧気味だったんだ。せっかくの精霊の忠告、心しよう」

「ええ。アメリカの安寧のためにも、ご自愛なさってくださいね」

「君のおかげだ、精霊君。助かったよ」

 

 バーンズ氏は触手のぬいぐるみを優しく撫でた。

 

 そうしてリニアは途中の駅で緊急停車し、白鳩舞子はマッケンジー氏の指示で日本警察へと引き渡されたのであった。

 

 きっと今回の活躍でコナン君も次期大統領候補と太いパイプを持つことができただろう。

 着々と版図を広げている主人公殿になんだか誇らしい気持ちになりながら。

 

 私はぬい製造を工場委託するならどういう手筈にしようか頭を悩ませるのであった。

 




・小型タタリ様ぬいストラップ
触手がはみ出している失敗作。本人(本触手?)は満足している。
みーみー鳴いてハムスター並みにアクティブに動き回るが、運動能力が低くよく棚の上などから落下して精神的に凹んでいる。
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