バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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遡行起点:純黒の悪夢
ルート分岐:公安残留

良い旅を、高次よりこぼれ落ちたるもの。


ルート分岐B:公安警察と心の底
気付いたら記憶喪失になっていた


 

 目を覚ますと、見知らぬ和室にいた。

 

 記憶が混乱しているようだ。

 ええと、最近何があったんだっけ?

 と言うか今日はいつだ?ここはどこだ?

 

 改めて確認しよう。

 

 私は名もなき転生者にして憑依者。

 ある日、気がつけば降谷零として潜入捜査の任に就かされておりびっくり仰天。

 

 何故か心の底で眠る降谷零本人の代わりに、せっせと黒の組織の仕事をすることになったのだ。

 

 つまり降谷零成り代わり系憑依転生。

 常人に降谷零の代わりなどできないのは明らかであるからして、普通に大惨事である。

 

 まぁ、そうして組織の仕事をするようになって、はや一年。

 ……のはずなのだが。

 

 ここ最近の記憶、つまり今日昨日に私が何をしたのか記憶がない。

 まるで無いわけではないが、あやふやで、雲を掴むようにぼんやりとしている。

 

 少なくとも、私が寝る前に何をしていたか全然思い出せない有様だ。

 ウォッカと会話…していた…ような?いや違うか、えっと……?

 

 混乱のままひとまず辺りを見渡せば、どうやらそこは水の中のような不可思議な空間であった。

 部屋全体が水の中に沈んでいる、と言うべきか。

 

 雰囲気は降谷さんが眠る心の袂、深層心理に近いだろう。

 

 身体の真の持ち主である降谷零は、私が身体に入った衝撃か何なのか、身体の中で覚めぬ眠りについていた。

 そうして眠る降谷さんがいたのが、この深層心理。心の袂にある水底である。

 

 あそこもこんなふうに呼吸のできる水が広がっていたはずだ。

 とはいえ、私の知る深層心理にはこんな風に建物などは存在しないのだが。

 

 そのまま私のものらしき下駄を履いて外へ出ると、見上げた空には外の様子が映っている。

 ランニングしている、のか?

 誰かの視点が空一面に広がる、異様な景色だ。

 だがそれでも恐怖に似た感情は湧いてこない。

 ただ不思議な安心感だけが胸に広がっている。

 

 ふと、空から声が響いた。

 

────いつ起きたんだ?

 

 それはまさしく。

 身体の本来の持ち主、降谷零の声であった。

 

 私の袂でずっと寝たままであった宿主にして主人格。

 それが今、内側に潜った私に代わって表に出ているということなのだろう。

 

 私は驚愕に息を呑む心を押し込めて、恐る恐る、空へ向かって口を開いた。

 

───あの……降谷さん、ですよね?

 

 訝しげな身じろぎが水底を揺らした。

 どうやら不審に思われてしまったようだ。

 

───ん?どうしたんだ安室。何かあったのか?

───いえ……。

 

 いやいやいや、寝てたんじゃなかったのか貴方!?

 いや待て、違う、この場合最悪の可能性だと……どう答えればいい?

 

 私は焦りのまま急いで思考を回して、なんとかおかしなことにならないよう回答を捻り出そうとする。

 

 降谷さんの口ぶりからして、私と降谷さんは知り合いのように思われる。

 これは本格的にまずいことだ。

 つまり、私は今ちょっとした短期記憶がなくなったんじゃなくて。

 

 かなりごっそり、記憶喪失になっている可能性があると言うことだ。

 

 長らく私が黙ったままだったのにいよいよ不審さを募らせたのか、降谷さんが深層心理の底に降りてくる。

 どうやらワークアウトを一時中断したらしい。

 

 空に浮かぶ外の景色が見えなくなったから、どうやら橋の欄干に背を預けて目を閉じたらしい。

 

 こちらに近づく降谷さんに焦りが加速する。

 

 考えられるとすればだ。

 私が記憶を失っている間に降谷さんは目覚めていて、その上結構絆を結べるほどの時間を共に過ごした、とか。

 

 楽観的な見方をすれば……。

 私が眠る降谷さんに声をかけている時期も実は降谷さん側に意識があって、目が覚めてすぐ私に親しげに話しかけてくれているという可能性もないではない。

 

 だが、聞いていてわかる限り、声に滲む親愛はそんな薄い親しさではない。

 これは学生時代以来の親友とかその辺にかける親密さだ。

 誰かと私を勘違いしているのか?

 いや、こんな深層心理の奥で誰と誰を間違えるっていうんだ。

 

 なら、残る可能性は一つだ。

 

 私は顔を真っ青にして口篭った。

 緊急事態すぎる。というか何が原因で記憶喪失なんか起きたんだ!?

 

 不審に思われるのも構わず、私は降谷さんに思わず白状していた。

 

───少し、記憶に混乱がありまして

───ッ!?……失っている記憶の期間は?

───最後に記憶している日付はxxxx年の12月4日です

───とすると、およそ四年前か。僕のことを覚えているようだが、部分的に記憶が残っているということか?

───はい。うっすらと、ではありますが。それに、四年前の時点で主人格がここに眠っているのは知っていましたから

───主人格、か。その呼ばれ方は久しぶりだな。

 

 降谷さんが若干の苦さを含んで笑う。

 

 矢継ぎ早に質問をされて、それに正直に答えていけば、私もおおよその事態がつかめてきた。

 四年もの間、私の記憶には穴が空いている。

 断片的には全く覚えていないというわけでもないが……ほぼすっぽ抜けていると言ってもいいだろう。

 

 私は焦りと恐怖に顔を真っ青にして立ち尽くした。

 

 正直ヤバすぎるだろ、この事態。

 組織の仕事はどうすればいいんだよ。使えなくなった下っ端は銃殺刑なんだぞ。

 

 降谷さんも深刻な表情で「一体何が…」と眉間に皺を寄せている。

 

───何か思い当たる節はありませんか?

───いや、俺の方はなにも。以前俺が記憶喪失になった時のように外傷が加わったと言うこともない

───そう、ですか……

 

 降谷さんも記憶喪失になったことがあるらしい。

 蘭ちゃんといい全生活史健忘なんて滅多にない症例のはずなんだがなぁ。

 

 お前は大丈夫なのか?と聞く声の真摯さは、私と目の前の男が深く強い絆で結ばれていることをまざまざと感じさせる。

 

───俺のことを覚えていないから、そんなに他人行儀なんだな

───ま、まぁ

 

 私は曖昧に頷いた。原作知識で性格諸々は知っているが、その程度だ。

 

 降谷零は顔を歪めて、やりきれない思いに拳に力を込めている。

 その顔があんまりにも痛ましいから、私は予想外なものを見たような気持ちで瞬いてしまう。

 

 私……気難しさの塊みたいなこの男から、ここまで心配してもらえるほど好感度稼いだのか。

 

 少し接するだけで分かる。

 彼がいかに扱いづらい人物か──というか、根が人間不信なのだろう。

 他人に気を許さず、自分がこれと認めた人にしか心を許さない、孤高という言葉がピッタリとくるタイプの人間だ。

 自分にも他人にも厳しい、というべきか。

 

 それがここまで認めてくれるんだから、わたしも少々鼻が高くなってしまうというものだ。

 

───僕なら大丈夫ですよ。いえ、大丈夫と言い切るには問題が山積し過ぎてはいますが

───そうだな。何か変化があったら俺にすぐに言うんだ。今のところ記憶喪失の原因がわからないのが気がかりだ

 

 そもそも俺とお前で人格が分裂していること自体、正常とはいえないからな。

 そのようにわずかな自嘲も込めて降谷さんが笑うものだから、私も歪な笑みを返さざるを得なかった。

 

 うーん、本格的に私は降谷さんの一部だと思われているようだ。

 まぁ憑依なんて多重人格と言ってもいい状況だから、そこまで訂正しなくてもいいだろうが。

 

 私はポンと手を打って、さも今思いついたように提案を口にする。

 

───一度、解離性同一性障害の治療という名目で心療内科にかかってみましょうか。公安の伝手であれば「安室透」ではなく秘密裏に降谷零として治療を受けられるでしょうし

───ッそれは、だが……

───記憶喪失を大っぴらにするわけにはいかないでしょう?ですが、治療しないというのも長期的にみて問題が大きい

───………

 

 思ったより凄い渋るやんけ。

 しばらくの沈黙の後、降谷さんはか細く搾り出すような声でわかった、と応えた。

 

 前途多難だ、まったく。

 

 

 さて。

 このように、私は唐突に降谷さんと一つの体で同居して。

 

 時の流れに取り残されたまま、新たな出発を遂げることになるのであった。

 




公安ルート、原作漫画沿いで開始します。
時々劇場版REを添えて。
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