バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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RE:純黒の悪夢①

 

 胸騒ぎがする。

 

 検査から一日明けて今日。

 夕方のランニングを降谷さんが終えた頃、私は唐突にそのことに思い至った。

 転生者と言う霊的存在になったが故か、こういうときの私の勘はよく当たる。

 

 降谷さんに一言言って表に出させてもらってからスマホを触れば、すぐに風見さんの連絡先は見つかった。

 

───どうした、風見に何か用事でもあるのか?

───ええ。大したことじゃないんですが、胸騒ぎがしまして

───ッ!!

 

 降谷さんは私の言葉に鋭く声を詰まらせた。

 どうやら四年たっても私の勘は健在で、一応この現実主義の男に信じてもらえる程度には精度を維持できているらしい。

 

 というか、考えてみれば地味に風見さんとは会話するの初めてぐらいの気持ちだ。

 記録によると今までにもきちんと会話したことあるらしいが……。

 ちょっとだけワクワクすると同時に、忸怩たる思いが胸を撫ぜる。

 

 どうして、あの地獄の一年の間に風見さんが見つからなかったのだろう、と。

 

 まぁ、所詮私の勝手な思いだ。

 軽く頭を振って思考を切り替えてから、私は降谷さんのスマホを使って風見さんへと電話をかける。

 

 一コール、二コール。三コール。

 まだ出ない。

 

 そのまま通話は繋がることなく留守番電話に移行してしまったため、通話状態を切る。

 

───風見が出ないなんて珍しいな。急用でもあったのか?

───……

 

 私は何か言いようのない不安を覚えて、思わず眉間に皺を寄せた。

 これは後手に回るとヤバいやつだ。

 前にこんなことがあった時は、あやうく敵アジトと共に爆殺されるところだったからな。

 

───降谷さん、警視庁へいきませんか?

───警視庁?一体どうして…

───胸騒ぎが、無視できず…なにか……大きな見逃しがあるような気がして

 

 口にだしてから、それが無理筋であることに気がついた。

 単なる胸騒ぎでここから警視庁まで出向くのは流石に行き過ぎている。

 時刻ももう夕方だ。明日も朝から仕事が入っている。

 

 口に出してわずかばかり後悔する。

 しかし。

 

 「ならすぐに行こう」と、躊躇する私を押し除けて肉体の主導権を握り、降谷さんはさっさと上着を羽織って外出の準備を整えた。

 

───ま、待ってください、根拠なんて皆無の妄言ですよ!?そんな、もう遅いですし

───他ならぬお前が言ったんだ。他の何より信用がおける。それと、

 

 そこで言葉を切って、降谷さんはムスッとしたまま私に半目を向けた。

 

───俺のことはゼロと呼べと言ったはずだ。お前も俺も「降谷零」なんだ。

───!………それは

 

 あまりに真剣な言葉に、私は思わず言い淀んでしまった。

 私が「降谷零」?あまりに大役すぎて吐きそうだ。

 

 何これ、知らん間に好感度稼ぎすぎかよ私。

 

 降谷さんの方はもう「体をシェアしてることの方が自然」みたいな感覚のようだが、こちらは真相が異物混入事件だと知っているわけだし。

 まったく、奇妙な感覚である。

 あの多くのファンを獲得したコナン界のアイドルがこんなにも近くに、と思うと感慨深いと同時に罪悪感が半端ない。

 

───ははは。そんなの、僕にはもったいない地位ですよ、ゼロ

───冗談で言っているんじゃないんだがな。人の心に聡いお前ならわかってるだろう?

───その上で、ですよ。所詮乖離性同一性障害で生まれた幻想のようなもの。恐れ多くて、あなたの隣になんてとてもとても

───安室!!

 

 割と怖目な声で怒鳴られてしまったが、私は沈黙を維持することとした。

 降谷さんには申し訳ないが、これ以上の負担増加はごめん被る。

 

 この一年で私はもうへとへとなのだ。

 血と、鉄錆と、悲鳴と憎悪に渦巻くそこですり潰されそうになって。

 もう静かに眠りたい。

 

 そのように、非常に利己的な思いを優先する自分に嫌悪感を抱きながら、私はじっと沈黙を貫いたのだった。

 

 

 

 

 

 さて。

 そのままやや険悪な空気漂う深層心理だが、やることは残っている。

 これから行くべきは警視庁。

 

 内側でじっとしていれば、降谷さんは一旦大きなため息をついた後で電話をかけ直す作業に戻った。

 

 念のためもう一度かけても電話にはでないようで、いよいよ降谷さんは警視庁へ向かうことにしたようだ。

 美しい白のRX-7のエンジン音が耳を通して深層心理にまで響いている。

 ゆっくりと安全運転で進む車が風を切る。

 

 米花町の立地だと、警視庁まではそう遠くない。

 

 車で30分もかからず辿り着いたそこで、近くの有料駐車場に車を停めてそこから徒歩で向かうこととする。

 安室の立場だと一応探偵もやっているし、捜査協力があったとかの名目でクロの組織に見つかっても堂々と言い訳出来るのがいいところだ。

 

 ずかずかと奥へ入っていけば当然受付の人に止められるが……降谷さんは平然と警視の手帳を見せて突っ切った。

 というか、警視なのかこの人。原作だと警部だと思ったが。

 まぁどちらにせよこの年で警部ならキャリア組に違いない。

 周囲の人々が戦いて頭を下げている。

 

 そんなこんなで公安部の領域に到着すれば、風見さんがなぜか同僚らしき数人に取り囲まれていた。

 

 ん?これは……スマホを取り上げられてる?

 降谷さんも不審に思ったのか、足取りが一段早まる。

 ズカズカと近付く降谷さんに向こうも気がついたのか、口を開かないまでも鋭い視線が幾重も突き刺さる。

 

 降谷さんが手帳を見せながら威圧的な声で問うた。

 

「何をしている、風見」

「!?ふ、降谷さん、どうしてここに……」

 

 どう見ても劣勢のように見える風見さんが、動転したような狼狽えた声で降谷さんに返事をする。

 答えようとした降谷さんを遮って、襟を直した警視庁公安部の人間が口を挟んだ。

 

「警察庁の人間が何のようですか」

「お前達には関係のないことだ。風見、少し用事がある。別室で話そう」

「は、はいっ」

「……困ります。今風見刑事とは大事な話を、」

 

 そこまで相手が言ったところで、降谷さんは一際低い声を出した。

 

「聞こえなかったか。風見裕也警部補に緊急の用がある。後にしろ」

「ッ……!」

 

 やはり若くして警視となった人間からの命令だ。

 逆らえなかったのか、そのまま公安部の人間は黙り込んだ。

 

 しかし、階級社会の警察にあってなぜここまでこの人たちは降谷さんに逆らったのか。

 もしや、降谷さんより上の人間に何か言われていたのか……?

 

 なにはともあれ、連れ出した風見さんは随分と憔悴していた。

 いつからああされていたのかは知らないが、同僚に詰められるのは辛かろうて。

 

「そ、それでなぜ貴方は警視庁に…?」

「虫の知らせだ。それで、なにがあった」

「は……い?」

「お前が巻き込まれている事態の方こそが俺の要件だ」

「は、はい!」

 

 ぱあっと風見さんの顔が明るくなる。

 どうやら自分を助けに来てくれたのだと理解したらしい。

 

「今日の夜、例の組織の人間がこの警視庁に潜入り込んでくる可能性があることを突き止めました」

「!?狙いは?」

「警視庁の保有するNOCリストです。勿論、そこには降谷さんの名前もあります」

「………」

 

 先ほどの刑事達の反応。スマホを取り上げられ、連絡手段を断たれた風見さん。

 上からの命令と思しき状況。

 

 まさか、降谷さんを切り捨てようとしていたと言うことか?

 

「………情報共有感謝する、風見。逃せば最悪、俺の潜入捜査自体が御破算になるところだった」

「ええ。私も、伝えられてよかったです」

 

 降谷さんの青い瞳に温度はない。

 私程度が気づいた可能性に降谷さんが気付かぬはずがないと言うのに、降谷さんは一言もその件に触れようとはしなかった。

 

 NOCリスト流出、黒の組織。警視庁侵入。

 間違いない。これは劇場版イベント、純黒の悪夢だ。

 

 私は、降谷さんに恐る恐る声をかけた。

 

───今夜はどう動きましょうか。

───そうだな。ひとまず必ず捕らえて……その場で息の根を止めるか、もしくは口がきけないようにする必要があるだろう

───そ、れは……

 

 降谷さんが直々に動くのは決定事項らしい。

 それはそうだ。ここでもし取り逃がせば、私たちの正体はばれたも同然。

 あのねちっこいことで有名な黒の組織に一生命を狙われることになってしまう。

 

 だが、ここで降谷さんが出るということは、万に一にも顔を見られてはいけないということ。

 獣の如き身体能力を持つキュラソー相手に、私たち抜きの公安警察だけで対処は…とくに殺さないようにするとなると不可能に近い。

 

 どうせ隠れていてもNOCリストは流出する。

 とすると、あとはキュラソーの処理のみ。

 

 降谷さんの判断は合理的だ。

 

 ………私の心情に、そぐわないだけで。

 

 ここで捕えるということは記憶喪失のトリガーもないということ。

 改心の目がない彼女を野放しにすれば、より多くの被害も予想される。

 

 彼女がどれほど善の心を芽生えさせる可能性があるか私が一番よくわかっている。

 子供達に囲まれ、正しい光の中で微笑む彼女を知るのは、私ただ1人。

 

 これまでも、幹部の下働きとしてキュラソーに接したことがある。

 庭の鳩を愛でるかのように、私に気まぐれにお菓子を放ってきたり、手合わせで汗を流す彼女の組み手相手になったこともある。

 彼女は案外子供っぽく笑うのだとも。

 

 知らず、ごくりと生唾を飲み込んだ。

 

───殺すんですか

───場合によっては。その方が楽だという意味でもな。情報源として生きていた方がベストだが…殺さざるを得なくなる可能性も高い

───そう、ですね。その通りだ

 

 何も知らぬ降谷さんが、そのアイスブルーの瞳を凍てつかせて私の馬鹿な問いに淡々と答えていく。

 

 

 なんにせよ、事前に把握できてよかったと、冷徹に。

 冷酷に。

 

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