バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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穏やかな夕食

 

 あの後、平和に水族館に行っているであろうコナン君から何か連絡が来ることもなく。

 

 子供達は遊園地と水族館を阿笠博士と思う存分楽しんで来たそうだ。

 夕方に阿笠博士と夕食を食べに来た少年探偵団にわぁわぁと矢継ぎ早に教えてもらったから間違いない。

 観覧車が楽しかったとかイルカが可愛かったとか。

 お土産に白いイルカのストラップももらったので、お礼に今日の夕飯はポアロで私達の奢りである。

 

 奢りにかこつけて元太君がフードファイターさながらの量を頼んでいるが、私としては楽なもの。

 一般人とは財布の豊かさが違うのだよ、財布の豊かさが。

 

 公安の金は基本使えないが、組織からの給金に加えて宝石花の制作料が入ってくるからな。

 ポアロをまるごと買い取るくらい安いものだ。

 

 ちなみに、一瞬急に知らない子供達に話しかけられてびっくりしてしまった一場面あり。

 原作知識でそれが少年探偵団だと知っていたこともあり、一応不自然にならずに対応できたが……。

 

 やはり観察眼のある人からすれば不自然だったのか、コナン君には鋭い視線を向けられてしまったが。

 

 すぐに降谷さんとバトンタッチして、降谷さんに「キュラソーは入院中だよ」と私のフリをして伝えてもらった。

 この辺の情報共有は密にしていたみたいだし、以前の私を踏襲してもらった形だ。

 

「入院!?何か組織に動きがあったの!?」

「声を抑えて。ああ、昨日警察庁に侵入したのを捕らえたんだ。今後奪還の動きがあるかもしれない」

「そう……『安室さん』も気をつけてね」

 

 コナン君の声が一段、低く挑戦するような含みを持つ。

 

「もちろん。ヘマはしないよ」

 

 平然と応える降谷さんも、しかしどこか面白そうな響きで笑った。

 

 ちなみにこれは「アンタ安室さんじゃないだろ。何があったんだ?」「さて、何のことかな?」という裏の会話を暗示しているものとする。

 どうしてこうも回りくどい言い方をするかな、探偵ってやつは。

 

 というか何故この一瞬でコナン君はわかったんだ。

 私の目から見ても降谷さんの私のフリは完璧だったぞ?

 

 降谷さんの中からもごもごと降谷さん本人が夕飯の牛すじ煮込みを食べる感触を味わいながら、私はぼんやりと想いに耽った。

 

 まだ昨晩、キュラソーに致命傷を負わせた足には重い肉を蹴る感触が残っている。

 終わったことだとはわかっているが、どうにもじくじくと悩みすぎるのが私の悪い癖だ。

 

 情報を纏めるため、深層心理内に佇む巨大な図書館でもう一度書籍を見返す。

 

 なんらかの原因で私は現在、記憶喪失となっている。

 最も新しい記憶は四年前、組織で名もなき組織の側仕えとして働いていた頃のものだ。

 

 しかし現実には組織の処刑人にして強襲役の幹部バーボンとして恥ずかしい厨二ネームを山ほどつけられているという。

 あげく石川五エ門に弟子入りしてルパン一味にまでなっているとのこと。

 

 一応体に染みついた技能は身についたままだが、これは非常に困った状況だ。

 

 対して降谷さんは今までの記憶はバッチリで、私が記憶を失う前日まで何も変わりがなかったことを覚えている。

 

 ……まったく、本当に単に記憶を失っているだけなのだろうか。

 

 死を超えて記憶を保持する転生者たる私が記憶喪失なんて異常が過ぎる。

 もしかしたら紅子様案件…つまりは魔法とかファンタジーとかの可能性もあるんじゃ無いかとも思う次第である。

 

 と、その時だ。

 

 私たちのスマホがマナーモードのまま小さな振動音を立てていることに気づき、降谷さんがわずかに目を細めた。

 ズボンのポケットから取り出せば、電話の相手はジンのようだった。

 

───安室、頼んだ

───ええ

 

 急いで入れ替わり、電話に出る。

 この辺りは事前に打ち合わせしていた通りだ。

 ジンは幹部の中でも特に勘が鋭い。

 私の代わりに降谷さんが電話に出れば、すぐにでも別人であると察されてしまうのは間違いない。

 それ即ち、私たちの命の危機に直結する。

 

 私が対応するのとて安全とは言い難いが、その場合最悪部分的記憶喪失を開示してしまえば良いから、その点は楽なのだ。

 

 通話を繋いで、やや緊張する気持ちを落ち着けて第一声を発する。

 

「……何の用ですか、ジン」

『キュラソーがしくじった。いま意識不明の重体だそうだ』

「!?あのキュラソーが、……それは、惜しい人を亡くしましたね。あの記憶能力はラムの力となる唯一無二のものだったのに」

 

 もはや生きていてもどうせ組織が始末するだろう、と言う意味で死者扱いで悔やんで見せれば、ジンは底意地悪い笑いを漏らしたようだった。

 ジンは機嫌良さそうに愉悦の滲んだ声で笑う。

 

『は、死んだ奴を気にするなんざ無駄なことだ。お前も奴のことは忘れるんだな』

「そうします。意味のない感傷でした」

『それより、来週夜はいつもの店だ。任務後を空けておけ』

「っ!ええ、予約を入れておきますね」

 

 記憶を失う前の私が筆まめだったので、この「いつもの店」も確保すべき酒も分かっているのはありがたいことだ。

 どうやら降谷さんが以前全生活史健忘になってしまって、それ以来何があっても良いようにジンやウォッカとの付き合いを事細かに記録していたらしい。

 

 緊張に手汗が滲む。

 今は何故かやけに機嫌がいいようだが、ジンは特に気難しい。

 

 任務中些細なことで殺された下っ端は数知れず。

 目の前で頭から鮮血が噴き出る姿が脳裏にこびりついて離れない。

 恐ろしい。怖い。だが逃げることはできない。

 

 この身は降谷零であるからして────。

 

『楽しみにしてるぜ、ウルフドッグ』

 

 その言葉を最後に電話が切れて、私はホッと息をついた。

 背筋に嫌な汗が伝う。

 本番は先だと言うのに、この分では先が思いやられる。

 

 怪しまれる前に飲み会の初めあたりで記憶喪失は共有するつもりだが。

 それで疑惑を振り切れるかは賭けになる。それにジンに伝えるからには、その前にRUMには伝えておかねばなるまい。

 

 コナン君がよいしょ、と隣で切れたスマホの画面を覗き込みながら興味津々でコチラを見た。

 

「ねえ、『安室さん』。さっきのって組織からの電話だよね」

「……そうだよ。ジンからさ。とはいえ、仕事の電話じゃないから君は気にしなくていいよ」

「仕事じゃない?じゃあ何の連絡なの?」

「君は本当に好奇心の塊だな…。飲み会の連絡だよ。職場飲み会。あるだろ、そういうの」

「!?!?組織の職場飲み会!?!?」

「そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔しなくても。組織だって酒ぐらい飲むさ」

 

 ちなみに今回の参加メンバーは私ことバーボン、ジン、ウォッカのいつメンだ。

 別名スーパー接待タイム。

 ひたすらジンが気持ちよく酒を飲むための空間である。

 

 コナン君はそんな実態を知ってか知らずか、なんとも難しい顔をして「……飲み会」とだけ言って黙り込んでしまった。

 

 悪いか組織が酒飲んで。

 酒の名前の組織なんだから飲み会ぐらいするんだよ。

 

「何だよコナン、食べねーのかよ!」

「歩美のケーキまだかな?」

「元太君、そっちこぼしてますよ!」

 

 子供達がわちゃわちゃと騒ぎ始めたのを見て、コナン君も気を取り直したらしい。

 「オメーら他のお客さんの邪魔になるなよ!」などと保護者感を全開にしながら席についた。

 ちなみに、横では阿笠博士と灰原さんが大人しくナポリタンを食べている。

 

 隣のテーブルでは蘭ちゃんと園子嬢がゆっくり談笑している。

 話題は新一君と全然連絡が取れないことについて。

 コナン君が聞こえぬフリをして一心にカレーを口にかっこんでいる。面白いかよ。

 

 コナン君の正体をすでに知っているらしい降谷さんがその様子にくすくすと笑いをこぼした。

 

 

 ……この平穏を守るためなら。

 私も、いっそう頑張ろうという気持ちが湧くというものだ。

 

 そのように少しばかり心に温かいものを感じて、今日の夜は更けていくのであった。

 




・ジンニキ
飲み会がとても楽しみ。
せっせとウルフドッグの任務記録を見て、飲み会で褒めるつもり。
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