バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
原作開始
ついに原作が開始したぞ!!!
ウォッカが飲み屋で「そういえば兄貴がさぁ」といつもの構文で話し始めたのが工藤新一のことだったのだ。
ウォッカの兄貴ネタはマジで百万通りあるからな。
ついついいつものこととして聞き流しそうになったが、よくよく聞いてみればあらびっくり。
後ろから近づくもう一人の仲間に気付かなかった高校生探偵が、珍しく野蛮な武器を構えたジンに殴り飛ばされたというではないか。
これにはさすがの私も肝をつぶした。
なんでも、取引相手の確認のためジェットコースターに乗ったら、前に座っていた男の首が取れたらしい。
首取れるって何。アンパンマンじゃないんだからそうポンポン首が取れてたまるか。
いや原作で知ってるからわかるけど、それにしても字面が酷い。
「で、小生意気なガキが俺らの取引を嗅ぎ付けやがったらしくてな。まったく面倒なことしてくれやがって」
「それは大変でしたねウォッカ。その少年はどうなったんです?」
「兄貴が例の新型の毒薬…アポトキシンとやらを飲ませて処分しちまったよ。今頃死因不明の遺体が上がってるところだろうぜ」
そこまで言って、ウォッカははっと気が付いたように此方を見た。
「オメェに獲物を残しておいてやれなくてすまなかったな、ウルフドッグ…」などと言ってウォッカが申し訳なさそうに頭を下げる。
なんだ?謝られる心当たりがまるで無いんだが。
「お前好きだろ、柔らかいガキのモツを切り裂くの」
「…………」
私は思わずチベットスナギツネみたいな顔で沈黙した。
待て待て待て待て待て!!!
え、どゆこと?私が子供の内臓切り裂くのが好きってクソみたいな設定どこから生えてきたの?
「僕そう言うの選り好みしたことありましたっけ?」
「ほら、お前のファンクラブあるだろ?そいつらがまとめた情報があんだよ」
そういってウォッカはファンクラブのLINEグループを見せてくれた。
直近の私の任務情報を語り合うほか、私の写真だとかファンメイドの鉄爪だとかが高値で取引されている様子が見受けられる。
あげく私の使った使用済みストローとかも出品済みだ。金髪の抜け毛は売約済み。
私は無言で頷いた。
へっへっへ。
殺す。
内側で目の据わった降谷さんがピッと首を切るポーズをした。
そいつらを今すぐ殺れ?
おうともよ。今日限りでファンクラブは解散。メンバーは一人残らずこの世から撤退してもらう。慈悲は無い。
降谷さん由来の見目の良さとキャラ性の強さは自信があるが、こんな変な方向で人気になるなんて予想外極まりない。
とりあえず私がサイコパス顔晒してる写真は全部削除させよう。
逃げた組織員は私が直々に消す。
ここではパカパカ死体が上がるのが日常茶飯事なんだし、多少無残な死体が増えたって誤差だよ誤差。間違いない。
等と真っ黒なことを考えていたら、ウォッカに肩をポンとたたかれた。
いたわるようなそれに心が洗われるようだ。
「俺も教育役として鼻が高いぜ、バーボン。お前は本当によく頑張ってるからなぁ」
「……ありがとうございます。ウォッカ」
それで鼻が高いってどういうことなの、とか。頑張ってこの結果は普通心が折れるんじゃ、とか。
いろいろ言いたいことはあれど、私はウォッカの手前すべて飲み下して笑顔を作った。
おお、滅びよ黒の組織。
光の魔人にあること無いこと言いつけてやるんだからな。
負け犬の遠吠えと言うことなかれ。この犬は凶悪なのでガブッといくぞ。
さて、そんなわけでやってきました喫茶ポアロ。
この世界の主人公、光の魔人・江戸川コナンに会うためにとやってきた野次馬根性だ。
とはいえ仕込みは一週間も前に終わっており、彼がアポトキシン4869で小さくなる前から既にポアロでのバイト面接を受けていた形になる。
出迎えてくれたのはここで長らくバイトをしている先輩の榎本梓だ。
朗らかではあるものの、熱心な怪盗KIDファンとして最近はアンチルパン三世に目覚めつつある。
ルパンファミリーに新しく増えた狐面で顔を隠した金髪褐色肌の鉄爪の使い手が、キャラ付けが露骨で癪に障るとのことだ。
ですよね!?と同意を求められ、わたしは神妙にうなずくほかなかった。
───違います、降谷さんが和風がいいって言ったから狐面にしたのであって、私は悪くないですよね!?
───俺のせいにするのは止めろ。悪気ないサイコパス系ワンコって強烈なキャラはお前の作品だろ!
などと醜い言い争いを内側でしつつ、表では優雅ににっこりと。
「あっ安室さん。今日シフト入ってましたっけ?」
「いや。たまにはお客さんとしてここのコーヒーを楽しみたくて私用で来てみたんです」
「なるほどぉ。美味しいですもんね、マスターのコーヒー」
梓さんの問いに応えたのは私の方、つまりはバーボンの人格である。
協議の結果、ポアロにおける安室の役は私と降谷さんの二人でシフト制とすることになった。
理由は主に降谷さんと私の人格の整合性を取る練習のためだ。
私の演じる安室は原作とはかなりかけ離れていて、組織の任務では天然の殺人鬼、それ以外では人懐っこい好青年というキャラ付けとなっている。
緊急事態があった時のため、せめてその人懐っこい好青年の部分だけでも二人ともが演じられるようにしよう。
そのように相談して決めたのだ。
とはいえ、言うは易く行うは難し。
バイトを開始から初めて降谷さんが表に出てすぐ、梓さんに「安室さん、髪とか切りました?」と言われてしまう痛恨のミス。
どうやら素人目に見ても雰囲気が違い過ぎたらしく、変な違和感となっていたらしい。
その場は「ははは、分かります?髪の量を梳いただけなんですけど」と言って事なきを得たが。
要訓練には違いあるまい。
ちなみにだが、毛利のおっちゃんにも弟子入り済みだ。
話はサクサク進めねばならんからな。
無論、毛利小五郎への弟子入りとかいう私の突然の奇行に、「お前の未来予知は一体何なんだ?極まった直感から派生した何かとかか?」と降谷さんに首を傾げられはした。
私の方も「そんな感じだと思います。僕もはっきりとは分かりませんが」とは答えておいた。
そりゃ突然無名のおっさんに弟子入りしたら疑問過ぎるわな。
彼は足で行う捜査は得意なものの、頭を使う推理は全くのトンチンカンだし。
噂をすれば影。
私がポアロの窓側の席に座ると、ちょうど上の階からやってきた毛利小五郎が私の姿に気付いて声をかけてきた。
「よお、安室。昨日はビギナーズラックを許したが、次はそうはいかねぇぞ」
「あ、毛利先生。おはようございます。……あれは本当にたまたまですから、勘弁してください」
実は昨日、毛利探偵に誘われて雀荘に行ってきたのだ。
私はギリギリルールを知っているだけの素人だったから本当に仕込みなしに打っていたのだが、偶然ビギナーズラックで良い牌が揃ったらしく。
内側で降谷さんが助言していたのもあったけれど、根本的に麻雀は運の要素が強いゲームだ。
初心者に運で負けた毛利探偵は麻雀仲間とそれはもう盛り上がった。
毛利探偵と仲良くなるなら飲みに加えてこっちかな、と思って手を出したのだが正解だったらしい。
「そういやよぉ、昨日から一人俺のところでガキの面倒を見ることになってな」
「蘭さん以外にですか?」
「ああ。江戸川コナンっつーんだが、またこまっしゃくれたガキでよ、お前も見かけたら構ってやってくれねーか」
主人公の名前が出て、私は思わず肩をピクリと動かしそうになったのを何とか堪えた。
世界の中心がここに来た。
その事実が否応なく私の緊張を高める。
「ははは。僕がその子に気に入られるかどうかはまだわかりませんが。できる限りのことはしてみます」
「おう、悪いな安室。今日ももうすぐ上から降りてくるはずなんだが」
今日は祝日だ。もう学校に通っているかは定かではないが、通っていたとして今日は休みだろう。
とことこと小さな足音がモルタルの階段を踏む振動が鋭敏な感覚器に伝わってくる。
からん、と涼やかなドアベルが鳴る。
そこにいたのは、小さな小さな名探偵。
黒髪に深い青の瞳を持つ、たった一つの真実を映す偉大なる姿見。
かのタイトルロールは、子供のように首をかしげて毛利探偵を見やった。
「毛利のおじさん、ここにいたの?」
「おう坊主、良いところに来た。こいつは俺の弟子で探偵の安室ってんだ」
「探偵?お兄さん、探偵なの?」
屈んで視線を合わせれば、江戸川コナンは生き生きと目を輝かせて好奇心を顔いっぱいに表出した。
本職の探偵が珍しいらしい。
いや毛利探偵だって本物の探偵だしずっと身近にいただろ、と思わなくはない。きっとカウント外だったのだろう、哀れ毛利探偵。
「そうだよ。僕は探偵の安室透。毛利先生には探偵の師匠として色々教わってるんだ」
「へー。僕、江戸川コナン。よろしくね!」
「よろしく、コナン君」
へー、には「あのポンコツ探偵に弟子入りって、この人見る目ねーな」的な空気が多分に含まれていた。
気持ちはわかるが止めて差し上げろ。
彼だって安楽椅子探偵の適性こそ無いものの、足で証拠を集めてくるタイプの仕事は得意なんだからな。
そんなふうに雑談を続ければ、我知らず口元が弧を描く。
目の前には江戸川コナン。あるいは工藤新一がいる。
これからきっと、彼を中心に様々な事件が幕を開ける。
それを私はなるべく補佐し、ひいては組織壊滅の手助けをしよう。
そのために私はここまで尽力してきたのだ。
待ち遠しい日々に、私は鼻歌でも歌ってしまいそうな気持ちであたたかなコーヒーに口を付けた。
そろそろ速度が落ちてきたので日に一度の更新になります。
俺も老いたな……。