バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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容疑者か京極真②

 

 京極さんはその後、時差ぼけで眠いからと私たちのミニバンを借りて寝に行ったようだった。

 

 どうやら武者修行の旅から帰ってきたばかりらしい。

 というか高校生が武者修行とか、旅の間は出席日数扱いで猶予されてるんだろうか…などと疑問に思ったり。

 杯戸高校の制度はよくわからないが、きっと問題ないのだろうと思われる。

 園子嬢の手前留年なんて情けない真似はできなさそうだし。

 

 それより危ないのはコナン君の方だな。

 

 工藤新一が失踪して半年。このままだと留年は確実である。

 帝丹高校は金持ち系私立のようなので、場合によっては組織壊滅の功労者として単位を認めてもらえるかもしれないが。

 

 などと失礼なことを考えていたのがバレたのか、目の合ったコナン君に半目で「なんだよ」と言われてしまった。

 

「いや、コナン君は出席日数大丈夫かな、と思って。高校のさ」

「なんのことぉ?僕小学生だよー?」

「留年してる高校生探偵とか、正直推理に疑問符が出てくるというか……」

「うっせ!!!というかその軽口、アンタ安室さんだろ!なんで今までずっとゼロさんがアンタのフリしてたんだよ!?」

「なんのことか分からないなぁ」

 

 私たちはくすくすと笑ってうら若き高校生探偵を揶揄うことに終始した。

 降谷さんもにやにやと質の悪い笑みを浮かべている。

 うーん平和平和。

 

 

 その後一時間ほど経った後、京極さんに絡んだという教師の男性が行方不明だとかで、隣の女性教師二人組が騒ぎ出した。

 

 とはいえ。

 なんだろうね、という話はしながらも私たちがそれに絡むことはなかった。

 コナンくんも耳をそばだててはいるものの声をかけなかったようだし。

 まぁ、絡む口実がなかったともいうけれど。

 

 毛利探偵ならナンパも兼ねて「一緒に捜索しますよ!」と堂々と話しかけられたのかもしれないが、私たちではちょいとそれをするには押しが弱い。

 

 しかし。

 

 警察のサイレンと救急車のけたたましい音が近づくにつれ、そうと言っていられなくなった。

 まずコナン君と世良さんが、雨のざあざあとふりしきるボウリング場の駐車場へと飛び出していく。

 次にそれを止めようと「コナン君!」と叫ぶ蘭さん、園子嬢。

 

 目的地はすでに警察が大勢屯していて、その中心地には今回の現場を担当する警部が顎に手を当てて考え込んでいた。

 

 あれは……たしか群馬県警のへっぽこ警部、山村ミサオだったか。

 

 たしか諸伏景光の幼馴染なのだが、そうであることは降谷さんは知ってるんだかどうなのか。

 降谷さんの表情に特に変化はないから、もしかしたら知らないのかもしれない。

 兄貴である諸伏高明警部とは顔を合わせたことがあるようだが、流石に幼い頃の幼馴染までは知らなくても仕方ないか。

 

 ちなみに、死体は駐車場の仮設トイレから発見された。

 死因は溺死。

 原作漫画に関してはあまり覚えてないが、理科実験のようなトリックで仮設トイレ内を水で満たしたんだったか。

 トイレで溺死とはまた、考えたくない惨状であることよ。

 

 さて。

 推理パートに関しては飛ばそう。

 

 私の専門ではないし、へっぽこ警部に疑われて手錠をかけられ、目を白黒させていた京極さんは哀れではあるが。

 コナン君がいることだし、間違いなく容疑は晴れるからな。

 

 なお、誤認逮捕まっしぐらの有様に降谷さんは機嫌悪そうに息をついた。

 

 犯人は屈強な男ということだったが、降谷さんが一ミリも話題に上がらないのが少々笑いを誘うことよ。

 片手で成人男性の全体重を支えて、しかも車のフロントガラスを破るんだから屈強の一言なのに。

 降谷さん自身、ニコニコ私のフリをしつつ深層心理で「なんで男の俺に容疑が向かわないんだ」「いや、向かっても困るが」「でも屈強な男なら俺も当てはまるだろ」などとぶつぶつ漏らしていた。

 

 コナン君はといえば推理に夢中で不満そうな降谷さんには気づいておらず。

 途中途中で「だよね!安室さん!」とか「って安室さんが言ってたんだよ!」とか毛利探偵がいないからと不自然な推理の嵐を私たちに押し付けてきていた。

 

 おかげで山村警部に「流石毛利先生のお弟子さん!推理が冴えてますねぇー!」などと持ち上げられることになってしまった。

 うーん理不尽。

 

 合間合間でこそこそとスマホで外部に連絡を取るのは世良さんだ。

 たぶん相手はメアリーさんだろう。

 

 どうやら私の情報についてメアリーさんから聞いていると思われる。

 刺すような視線とともに世良さんは口を開いた。

 

「……なぁ、アンタ。少しいいか?」

「なんだい、世良さん」

 

 世良さんが私を見上げ、警戒しているのかいつでも動けるように僅かに重心を落として問いかけてくる。

 

「アンタさぁ、昨日の夜どこにいた?」

「家にいましたが。………それが、何か?」

「ふぅん?」

 

 降谷さんが目を細めて世良さんを睨め下す。

 

 昨日の夜は組織の仕事があったので、ちょいと忙しかったのだ。

 幸いウォッカの背後でにっこりするだけの簡単なお仕事だったのでそこまで負荷ではなかったが。

 それに、ウォッカも仕事が詰まってたので怪しまれる前に解散することもできた。

 

 きっとメアリーさんの情報筋から、私が仕事をしていた事実を世良さんも知ったのだろう。

 だがその情報源を口に出せない以上、ここから先に踏み込むことはできない。

 だから現段階では「お前が怪しい動きをしているのは知っているぞ」と伝えるにとどめた……というのが、世良さんの思考か。

 

 まったく危ない橋を渡る子である。

 私が本当に危険な組織の幹部なら、そのまま口封じされるとは思わないのか。

 

 そんなギスギスした空気を出していれば、取調べからようやく解放された京極さんが後ろから駆けてきた。

 

「あ、こんなところにいたんですね。それで、考えていただけましたか?」

「ああ、京極さん、取り調べお疲れ様。考える……というと?」

「あのお話ですよ。自分と手合わせする、という」

 

 人目のあるところで組織の話をするわけにはいかないのか、すっと世良さんが引いていく。

 わくわくと目の輝いている京極さんは普段落ち着いている分年相応に見えた。

 どうやら本当に楽しみにしていたらしい。

 

 降谷さんがややげんなりとした顔で私に目線を寄越してくる。

 そのまま素早く降谷さんとバトンタッチして、私はそれをおくびにも出さず言葉を続けた。

 

「では、少しだけ、ここでできる範囲内でお願いします」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 空手風の改まった礼をして、若き空手の達人、京極真は私の前に立つ。

 

 競技会場はこのぼろくさい田舎の駐車場。

 双方構えて、僅かな睨み合い。

 

 外野ではなんだなんだと様子を見に来た蘭ちゃんと園子嬢、コナン君が駆けつけた。

 世良さんだけは少し離れた反対側で、私の方のみをじっと見つめている。

 

 ゆったりと京極さんが構えた。

 

 構えを見るだけでわかる。

 あまりにも強い。これはともすれば、全力でやっても素手では負けてしまうかも、と思わせるほどの覇気と生命力。

 

 特に今現在、私のスタイルは肉体の記憶に任せた本能じみたものだ。

 記憶ありなら互角に立ち回れる可能性も残っていたが、今の私は幾分か獣寄りの立ち回りな分不利が強い。

 

 すっと深く腰を落とし、こちらも両手をゆったりと構えて。

 

 今!

 

 いつもは爪をスイングする動きを無理やり正拳突きに変えて、鋭く中央突破を試みる。

 が、受け流される。

 この速さで受け流すか!化け物だな、京極真!

 

 返す手で無防備な横っ腹を凄まじい迫力の蹴りが私を襲うも、上体を逸らしてかわしきる。

 

 そのまま追撃が来る前にバク転の要領で踵蹴り上げ。

 予想外だったのか大きく一歩京極さんが後ろに下がる。

 ちっ、と僅かに掠った一撃が京極さんの頬に一筋の傷を残した。

 

 濡れたアスファルトに手をついて、私もバク転の勢いをそのままに体勢を立て直す。

 

 両者、まだ様子見の状況だ。

 観客の蘭ちゃんが「強い……ッ!」と漏らしている。バトル漫画の解説役はやめてもろて…。

 というか、これ以上はどちらかが骨折してしまう。

 ということで短い手合わせは次で終了。静かにストップの合図を送る。

 

「では、次の一手で終わりということで」

「ええ」

 

 お互いのレベルを実感したのか、京極さんも私の提案に異論はないようだ。

 園子嬢だけは「え、もう終わり?」と瞬いているが、ここで終わらせないと本当にやばいから仕方あるまい。

 

 構え直せば、向かい合う京極さんの瞳に闘志がメラメラと燃えているのが見えた。

 

 ああ、気が引ける。

 さっきも引きがてら思わず横なぎに手を振るって、鉄爪がある前提の動きをしてしまった。

 純徒手空拳はまだ体の記憶に慣れない私では荷が重いのだ。

 

 一歩。

 

 間合いを幻惑するような足捌きで素早く距離を詰めれば。

 それでもなお京極さんは彼我の距離を正しく把握していたらしい。

 

 私の動きに合わせるように前へ出て、鋭い正拳突きを一発。

 咄嗟に腕で防いだが、ともすれば骨折していたかもしれないほどの重くビリビリとした一撃であった。

 

 だがこちらもただでは負けない。

 京極さんの拳と同時に足払いを一つ。

 それは読んでいたのかかわされたが、それで体勢が崩れた所に、ボクシングの動きを混ぜたフックを一つ。

 

「ッ!」

 

 息を呑んだ京極さんが腕を差し込んでガードしたが、こちらも一撃決まったので痛みわけだろう。

 

 沈黙が落ちる。

 

「ここまで、ですね」

「ええ、ありがとうございました」

 

 というか京極さんが強すぎる件。

 おかしいだろ、もう少し命の取り合いを覚えればルパンの世界観でも通用するレベルだったぞ!?

 コナン君などは「二人ともすっげぇ…」の一言だったが、凄いのは京極さんの方である。

 

 京極さんがこちらへゆっくり歩み寄ってから、ばっとおもむろに頭を下げた。

 

「本分でない徒手空拳での手合わせ、本当にありがとうございます。無理を言って申し訳ない」

「……なぜ、徒手空拳が本分でないと?」

「あなたの動きからして、本来は近距離で両手にごく短い刃物を握るような闘い方がメインだと思いましたので」

 

 そこまでわかるとか本当に世界観がYAIBAじゃんけ。

 呆気に取られて目を点にしている私に気づかず、にこにこと興奮に流れた額の汗を拭い、京極さんは微笑んだ。

 

「ところで、我流とおっしゃっておりましたが、基礎は空手ですよね。それと…ボクシング、でしょうか」

「ええ、まぁ」

「素晴らしい腕前でした。海外を見たつもりで、世界の広さを知らないのは自分だったようです。一層精進しなければ」

 

 ホクホク顔で「タオルを取りに行ってきます」と言って去っていく京極さんの後ろ姿を見ながら、私はほへぇと声を漏らしそうになった。

 

 多分あってるんだろうが、私も分かってない身体の癖を見抜くとかほんとどうなってんだよこのバトルヲタク。

 

 ボクシングは言わずもがな降谷さんの得意分野で、日課の手合わせの時うつったものだろう。

 空手に関しては石川五エ門の得意技だ。彼に師事しているらしい以前の私なら、その動きを取り入れていてもおかしくない。

 

 車から取ってきたタオルで汗を拭いながら、京極さんが園子嬢に抱きつかれている。

 

 色々あったが、まあ。

 「真さんカッコよかったわよ!」「えっ!?いえ、その、自分はまだまだで…」などとラブラブしているのを見るのはいいものである。

 

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