バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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領域外の妹

 

 旅行から帰って2日。

 

 事件はあるわ、赤い女がなんだとか色々事件まみれの旅行を終えてのようやくの帰宅である。

 まったくもって、息抜きのはずが飛んだ事件続きの血生臭い休暇になってしまった。

 

 あとはいつもの仕事のお時間だと思うと憂鬱でしかない。

 

 まだジンと電話してから一週間も経ってないのに、事件の遭遇密度が半端ない今日この頃。

 ジンとの飲み会の最中で飲み屋が爆薬で吹っ飛んだりしないといいな…などと益体もないこと思ったりなどする。

 

 全然関係なかったのに事故で爆破されたテキーラとかいう可哀想な幹部もいることだし、普通にあり得るからな。

 

 ちなみに、今回の仕事は探偵としてのものだ。

 不自然でない活動実績づくりのために受けていたもので、内容は浮気調査。

 一応調査自体は済ませているので、今回は結果報告だけになる。

 

 これが発端で殺人事件とか起きそうなドロドロ具合だったが、深く考えないで行こうと決意済みだ。

 後日またクライアントが殺されたとかで警視庁から電話がかかってくるかもしれないが、それはそれ。

 

 仕事の方はといえば、100%降谷さんの独壇場であった。

 

 数秒にも満たぬ時間で標的のマンションの鍵を開けて室内に盗聴器を仕込む手腕はまさに早業。

 「あの大泥棒、腕は確かだからな」とのことだが、どうやら降谷さんもあのルパン三世に色々技術を仕込まれている様子。

 流石は降谷さん。

 頑張ってものになるような難易度の技術じゃないように見えたが、この程度ならお茶の子さいさいということらしい。

 

 まぁ、それはともかく。

 恋人が親友と浮気していたと知ったクライアントは激情にか苦しみにか細く長く嗚咽を漏らしていた。

 降谷さんは特に声をかけることもなく、また何を言ったところで外野の言葉が心に響くはずもなし。

 私たちは依頼完了ということで静かに部屋を出るのみである。

 

 というか、それで心機一転、私達に言い寄ってもらっては困るし。

 

 そうして部屋から出ると、同フロアに何故かちょうどいた女子高生諸君──たぶん世良真純の泊まっているホテルなのだろう──があんぐりと口を開けてこっちを見ていた。

 

 凄い、見られてます……。

 てかどんなタイミング?なんでいるの君たち。

 

 しばらくの沈黙の後、代表して世良さんがこちらへと歩み寄り、話しかけてくる。

 その視線は鋭い。

 まさかこちらを探りに来たのか?とでも言わんばかりの視線だ。

 今前に出ているのは降谷さんだ。一瞬私が変わるべきか悩んだが、ここは任せたほうがいいだろう。

 

 つか、いやマジで偶然なんだが、これなんなんだ一体。

 星の巡り合わせが悪すぎないか?

 

「どうしてここにいるんだ?」

「クライアントがこのホテルに泊まっていましてね。今回は頼まれていた調査の報告に来たんですよ。つまり、探偵業の一環ですね」

「へぇ、奇遇だな」

「嫌だな、疑ってるんですか?僕、あなたに何かしたかなぁ」

「別に、なにも?」

 

 嘘つけ、何が狙いだ?と言わんばかりの視線をバッシバシに叩きつけられる。

 本当に何もないのに。

 

 というより、張り付き調査とかそういう繊細な業務をウルフドッグが任せられるのは極めて稀だから心配いらないというのが正しいか。

 むしろ下っ端に見張られる心配をしたほうがいいと思うのだけどね。

 

「……なら、僕は帰るよ。どうやら偶然の邂逅のようだし、女子高生たちの憩いの時間を邪魔しちゃ悪いからね」

「いやいや、せっかくだし僕の泊まってる部屋に来なよ!仕事終わりだし、ちょっとぐらい休憩していけよ」

 

 そう言ってもう一歩踏み込んだ世良さんの瞳がギラギラと輝いている。

 逃すか!と声が聞こえるようだ。

 

 でも正直な話、このメンツで話せることとか恋バナぐらいしかないからマジでやめたほうがいいと思う次第である。

 私なんて降谷さんの初恋を勝手に開帳することしかできないし。

 

 と、次の瞬間。

 

 静かなホテル内に絶叫が響き渡った。

 

 悲鳴だ。それも尋常でない。

 瞬間走り出したコナン君と、それを追いかけるように蘭ちゃん、園子嬢の二人は走っていってしまった。

 一瞬躊躇した世良さんは、しかし眉間に皺を寄せながらも悲鳴の元へ遅れて走ってゆく。

 

 これでこの廊下に残っているのは二人のみ。

 

「出てきたらどうです?さっきからこちらを確認していたでしょう」

 

 降谷さんの凍えるような声色に、きぃ、と小さなドアの軋む音と共に姿を現したのは未だ幼い少女の影だ。

 名は世良メアリー。

 イギリスの諜報機関、MI6のエージェントであり、アポトキシン4869を飲まされて幼児化した被害者の一人。

 

 そんな彼女は、慎重に出方を伺うように咳を堪えたようだった。

 

「なんのことだ?私は先ほどの真純に世話になっている親戚の女だが」

「幼児化ならすでに前例を知っていまして。今年イギリスでベルモットが始末したというMI6の人員ですよね、あなた」

「………知っていて、その前例を生かしている理由は?」

 

 「前例」とやらが示すのが江戸川コナンその人であることはすでに察しがついているのだろう。

 油断なくいつでも逃走できるようにメアリーさんが四肢に力を込めている。

 

 そういえばメアリーさんとこ、つまりMI6のウルフドッグに対するスタンスがいまいちよくわからないんだよな。

 MI6の人員も幾人か助けてはいるが……同時に殺してしまったこともある。

 

 司法取引を持ちかけられたこともあるし、暗殺されそうになったこともある。

 おそらく上層部でも意見が割れているのだと思われるが、果たして。

 

 濃厚な疑念を纏った言葉を、ウルフドッグの皮をかぶった降谷さんは悪辣極まりない笑みでもってあしらった。

 

「僕、楽しみは最後まで取っておくタイプなんですよね」

「……どういう意味だ」

「わかりませんか?食べるなら年老いた鳥より若く新鮮な子羊でしょう。血も臓物も、若いに限る」

 

 メアリーさんが心底見下したように舌打ちし、「下衆が」と漏らした。

 

 えっっっっっ降谷さんそんな血生臭い趣味が……でなくて、え、なにそれ、サイコパス殺人鬼のモノマネ降谷さん上手いですね???

 

「それで、血に濡れた獣が何の用だ」

「別に、偶然会ったので挨拶しているだけですよ?それに獣とは酷いな。そちらのNOCを助けて送り届けているというのに」

「獣の気まぐれ以外のなにものでもあるまい。

公安に潜入しているようだが、人の知恵を持つ狡猾な獣など、害悪でしかない」

 

 本格的に信用ゼロらしく、メアリーさんの瞳は鋭い。

 下手にコナンくんに肩入れすれば彼の言動の信用性が損なわれるとあれば、下手な発言もできない。

 

 とすると、こうしてコナン君とは付け狙うもの・付け狙われるものの関係性を装ったほうがいいのは確かだ。

 それもあって、降谷さんもあのドン引きサイコパスムーヴをかましているのだろう。

 

 え?かつての私が発案の仕草だった?

 ちょっとよく言ってることがわかりませんね……。

 

「嫌だなぁ、誤解がありますよ。そこまで警戒せずとも、僕と貴方がたが敵対する理由がない」

「言っていろ、獣。貴様をここで消せばその憂いも一つ消える。そう言ってもすまし顔をしていられるのか?」

「………へぇ。面白いことを言うんですね」

 

 心底悪党でしかないみたいな顔で降谷さんが笑みを深めた。

 いますぐにでも黒タイツ姿が務まりそうな犯罪者顔だ。

 とても私には真似できそうにない。

 

 メアリーさんへそんなふうに心労をかけたくないが、銃口を向けられても記録のように避けて弾く自信がないからな。

 万が一にでも被弾すれば、苦しむのは体の持ち主たる降谷さんだ。

 

 とすれば、舌戦で引いてもらうのが最善。

 

「幼児化についてどうも貴方はのんびりとしているようですが。あの様子ではRUMも気づいていますよ。自身で飲むまいか考えていそうでしたから」

「!?」

「あまり組織を甘く見ないことだ。貴方の立場も安全とはとても言い難い。それに……」

 

 降谷さんは言葉を切り、すうっと目を細めた。

 殺意の乗るような極寒の瞳。

 しかしそれに反し、殺気が出ていないようだったので咄嗟に水面ギリギリまで浮上して降谷さんの視線に私が殺気を乗せた。

 

 降谷さん、こんな演技できるのに殺気を出すのが苦手なのか?

 

「この距離で僕に敵うとでも思っているんですか?このウルフドッグ、組織の処刑人に」

 

 鋭く乗せられた殺気に慄いたらしく、メアリーさんは一歩下がって愕然とこちらを見上げたようだった。

 

 というか、まるで知らん恥ずかしい二つ名がたくさんついていたからな、私たち。

 だが、それだけ誇張され恐れられるほどに実績を積んでいたということでもある。

 その実績が、相手を怯ませることもある。

 

 実力行使するかしないか迷っているようで、メアリーさんの瞳に焦りが見える。

 特にこのホテルには娘も一緒に泊まっているのだ。

 ここでことを構えれば巻き込むのは必至。

 

 私はぱっと殺気を霧散させ、それと同時に合わせるように降谷さんがにっこり微笑んだ。

 

───助かった。俺は殺気を出すのがいまいち得意でなかったからな

 

「なんて、冗談ですよ」

「……どういうつもりだ」

「今ことを構える気はない、ということです。この邂逅も本当に偶然ですし。何より面倒臭い」

 

 気まぐれな雰囲気を全面に押し出し、降谷さんが首を振る。

 もともとNOCを助けたり惨殺したりと不可思議な印象を抱かれているし、気まぐれ、という発言も一定程度納得させる力を持つと踏んだのだろう。

 

 特に、相手も今ここで戦闘特化の幹部と対決するには装備が足りないわけだし。

 

「……いいだろう。こちらも引かせてもらうとする」

「では、そう言うことで僕は行きますね。どうやら下階で殺人事件があったようですし。僕もあまり長居はしたくない」

「………」

 

くるりと車のキーを取り出して手の中で回転させ、降谷さんは無邪気そうな演技でもってホテルを後にしたのだった。

 

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