バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
今日も今日とて百人一首の競技カルタ練習だ。
元々は子供達を連れて大阪観光のはずだったが、これはこれで乙なものだ。
依然として和葉ちゃんの取れる札の枚数なんて高が知れているが、それでも喰らい付いていく精神力は見事の一言。
ちなみに、同時並行して京都府警との合同捜査本部の内容を風見さんから流してもらっている。
その中には、カルタ札の映った不審なメールが情報源として含まれていた。
これは真犯人、阿知波会長が全ての犯行を名頃という人物の犯行に見せかけるために仕組んだ罠である。
まぁ、罠については特に今回私たちが警告する必要はあるまい。
どうせ爆発するのは阿知波不動産の私有物の建物だ。
犯人が自分の建物を爆発させたからって、そこまで目くじら立てることもあるまい。
流石に警備の人間が爆発で吹っ飛ぶのは可哀想だから、それは助け出さねばならないが。
また、コナン君が持っている盗聴器からも情報は滞りなく来ている。
様子を見に来た服部君とイチャイチャ話をする和葉ちゃんを見ながら、私は降谷さんの内で各種情報を総合しながら次の一手を考えていた。
幾度目かの休憩の折、彼女の様子が気になった服部君がホテルの部屋にやってきた。
事件の合間を縫ってどうにか様子を見にきたらしい。
事件に遭遇したら一直線の工藤君と違って、この辺り気が利くのが服部君という感じである。
どことなく引け目に思っているかのような声色で、服部君は頭を下げた。
「すまんな、安室さんが和葉の相手にしてんやろ」
「いや。このぐらい別に構わないさ。僕程度でよければいくらでも力になるよ」
「あのオバハンからなんやえらい強いって聞いたで。意外な特技もあるもんやなぁ」
「ははは。所詮は素人の横好きだけどね」
などと謙遜して見せながら、「趣味が顔に見合ってない」とストレートに言われたように思って若干ムッとする降谷さんである。
洋風の色合いだから言われ慣れてるだろうが、やはり心情としてムカつくのは別のことらしい。
───お前も意外だと思うか?俺が百人一首好きってこと
───ゼロらしい趣味だとは思いますが、僕は別に意外には思いませんでしたよ
───だよな。よし
何が良しなのかはわからないが、とりあえず納得したようだ。
そんなわけで、大会当日。
二日間の特訓の成果やいかに、と私も子供達と共に観客として応援する次第である。
和葉ちゃんの一回戦突破はすぐだった。
2回戦もスムーズに勝ち上がり、あっけないほどにすぐに決勝戦到達となった。
どうも相手の力量に拍子抜けしているような顔の和葉ちゃんが印象的だが、そりゃ降谷さんとずっと相手してきたんだからな。
そうなるのも仕方あるまい。
決勝戦をすぐに控え、私は降谷さんと代わって「僕は少し出るよ、和葉ちゃんの戦いぶりを見ておいてほしい」と子供を置いて席を立つ。
そろそろ爆弾の処理に動かないとな。
───やはりこの決勝戦で犯人が動くと思うか
───ええ。多分狙いは皐月堂。阿知波会長と大岡紅葉のスマホに犯行予告が入ってきていることを踏まえれば、恐らく
───残りの一人は遠山和葉。一網打尽にするつもりというわけか
瞬間、遠く裏山から爆発が起こった。
轟音と地の揺れる音がここまで響いてくる。
───警察を狙った陽動か。それとも、犯人を偽装したか?
───なんにせよ、あの爆発に惹かれたコナン君は呼び戻した方が良さそうですね。あまり長居しても得られるものはなさそうだ
───そうだな
軽くスマホを取り出し、通話を繋げる。
盗聴器から漏れ聞こえる音から察するに、向こうでは爆死死体が発見されており、その身元について話し合われているようだ。
電話に気づいたコナン君が「安室さん!?どうしたの、何かあった!?」と緊迫した声を出した。
「皐月堂だコナン君、ターゲットを一箇所に集めるんじゃなくて、皐月堂に集まった人をターゲットにしているんだ」
『!!!ということは、つまり、真犯人は……なら早く会場に連絡しないと!』
「皐月堂へつながる無線には爆弾が仕掛けられていたから、今解体中だよ。相手は防火システムにも小細工をしているらしい。まったく、手が込んでいる」
『どこに次の起爆スイッチを仕掛けているか分からないってことか!なら安室さんは爆弾を探して!僕は皐月堂に向かうから!』
「コナン君ッ!!危険すぎる!おい!」
降谷さんが「ったく、あの子は…!」と舌打ちした。
あの鉄砲玉みたいな動きでウルトラCを繰り出すのがコナン君だからな。
まさにスーパーマン。少年誌が誇るヒーローであることよ。
───これで二個目の爆弾は解体済み!残りはあるか、安室!
───僕の感じる範囲ではもう無さそうです。コナン君のところに急ぎましょう
───下手に皐月堂に連絡を繋げば大岡紅葉と遠山和葉を人質に取られかねない……公安はすでに動かしているから、そちらから県警には伝えるとして。俺たちはどう動く、
と、そこまで口にしたところで2回目の爆発音。
どうやら皐月堂の足場に仕掛けた爆弾を阿知波が手動で爆破したらしい。
降谷さんが仕掛けを解体してしまったからな。なんともはや、用意周到なことだ。
コナン君があの裏山から戻るまでまだしばらくかかる。
───崖上から皐月堂に降りるので体貰います!
───頼んだ、安室!
皐月堂のある山の崖上まで、私が表に出て全力で直走る。
降谷さんが日々鍛え、メンテナンスした肉体に私の埒外の膂力が乗り、恐るべき速力となって森を駆け抜ける。
崖上まで約5分。
そこから見下ろす皐月堂は足場が燃え盛るうえ、周囲は大きな池で囲われていた。
これでは救助は困難を極めるだろう。
防災システムも破壊されてしまったし、今すぐに復旧とはいかない。
崖の上から巻取り式フックを伸ばして、さっさと下へと降り始める。
そうして音もなく皐月堂に降り立って、私は正面の扉をサバイバルナイフで切り落とした。
動揺に目を見開いた阿知波会長が狼狽えたように一歩踏み出す。
「ッ!?なんや君は!?」
「失礼、阿知波会長」
何かいう前に踏み込んで腹に一撃。
それだけで、「なに、を……」と言って阿知波会長は意識を失った。
上手く手加減できたようで何よりだ。腹をぶち抜いてしまってはコナン君に申し訳が立たないからな。
不審者が決勝会場に乗り込んでくるわ、阿知波会長に乱暴するわ、窓の外はもうもうと黒い煙が立ち上るわで戦慄する女子二人に「早く避難を、このままでは…」と言い。
そこで三度目の爆発音が響き渡る。
こちらはどうやら時限式のようだ。
阿知波会長の懐から、爆弾四つの制御装置が発見できた。
一括管理とかお前、なかなか高度な爆弾をつかってるやんけ……。
和葉ちゃんが泡食ったように私に飛びついてくる。
「な、なんなん!?なにがどうなっとるん安室さん!」
「一言で言えば君たちの命の危機だ。この皐月堂は爆破される。早く脱出しよう!」
「なんやてぇ!?!?」
紅葉さんは阿知波会長と私とを交互に見て、困惑したように眉を顰めている。
まだ事態が飲み込めていないようだ。
私は事前に木に括り付けてきたアンカーを引っ張り、今いる人員を見てもう一度思案する。
気絶した人間一人、女子二人の三人は流石に手が足りないし、火がこちらに来すぎている。
それに、できれば事件の証拠になる皐月会のカルタも回収するべきだろうし、ここに隠された人骨も写真くらいは撮っておくべきだ。
降谷さんが「まず大岡さんと遠山さんを連れ出せばいいだろう」とそっけなく言い放った。
爆破テロ犯など死んでもやむなし。そういいたげだ。
瞬間。
「和葉ァア!」という声と共に派手な破壊音が皐月堂を揺らす。
どうやら服部君達も到着したようだ。
予想より早いお着きだが、バイクで山を駆け下りたのだろうか。
到着してすぐ、コナン君が素早く消火作業へと移った。
膨らませたボールで近場の滝の流れを変え、水を流し込む作戦だ。
あのボールはすぐ萎むため完全な消火は難しいが、一気に人工滝からの大量の水を浴び、火はみるみるうちに鎮火していった。
コナン君が汗を拭ってこちらに駆け寄ってくる。
「安室さん、阿知波さんは!?」
「一応確保済みだよ。懐からこの皐月堂に仕掛けた爆弾のスイッチも見つけてある」
「やっぱりそうか…ありがとう安室さん」
「あとは脱出だけど。流石に五人を抱えては難しいよ?」
「安室さんは僕のサスペンダーを持って、阿知波さんを抱えて上へいってほしい」
「ああ、なるほど。サスペンダーを木に巻き付けて下ろしてほしいというわけか。了解した」
頷いて気絶した阿知波さんを抱えて手早く上へと登る。
阿知波さんを適当にそこらに放り落とし、サスペンダーを丈夫な木の幹にくくりつけて下へとおろす。
火の手はすでにだいぶ収まっているが、早くしなければ崩れ落ちてしまうだろう。
作業は合わせて数秒で済んだ。
覚えはないが、体に染み付いた動きがそれをスムーズにこなさせたのだ。
恐らくはルパン関係でこうした動きをすることが多かったのだと思われる。
そして間髪入れずコナン君へと電話を繋ぐ。
「サスペンダーは受け取れたかい?風に流されて少し位置がずれているけど」
『うん、このくらいなら大丈夫』
まず第一陣は和葉ちゃんを抱えた平次君だ。
二人が登ってくるのを見ながら、ぐらつく足場が傾き始めているのに歯噛みする。
これではコナン君が登ってくるまで持たない。
気絶する阿知波さんを置いて、ひょいと飛び降りてアンカーを崖に射出。
そのまま皐月堂の屋根に飛び乗って、私は人骨の写真を撮りながらカルタを確保するコナン君を抱え上げた。
何をしているのかと思ったら、今回の事件の証拠を確保していたらしい。
さすが抜け目ないというかなんというか。
「安室さん!?」
「この方が早いからね。さ、コナン君は僕の方に掴まって。大岡さんも失礼して」
「うん。紅葉さん、手を握って!」
「……え、ええ」
無事二人とも崖の上に上がる頃には、皐月堂は崩れ落ち、藻屑となって池の水底に沈んでいった。
間一髪、と言ったところか。
紅葉さんは深く深くぺこりと私に一礼して、感謝の言葉を述べたようだった。
「ありがとうございます。ウチ、あんたさんがいなかったら死んでました」
「君たちが無事でよかったよ。このあと事情聴取があるから少しばかり時間を取られるけど、その前に病院だね」
「ずいぶん無茶しはりましたからな。これから…」
「お嬢様!!!」と聞くものが一瞬振り返らざるを得ないような、切羽詰まった絶叫が耳に届く。
伊織無我。
彼女に心を救われた元公安の男が、森の奥から警官を引き連れて駆けてきたようだ。
「お怪我はございませんか!?」
「あの方が助けてくれはりましたから、うちは無事です」
「あの方……?」
訝しげな顔であたりを見回し、私の姿を目に留めた伊織さんは目を見開いたようだった。
「………」
「どうしたん伊織?」
「………、いえ」
伊織さんは警官達に先導される紅葉さん達に付き添いながら、無言で小さく頭を下げた。
信じられないような、困惑した瞳が印象的な、そんな事件の終わりであった。
───伊織無我。元公安で、風見の同期だった男、か
───優秀な人のようですから、今後何かに使えるかもしれませんね
───そうだな。覚えておこう