バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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ギスギスしたお茶会①

 

 京都から帰ってしばらく。

 

 今日も私たちは探偵としての実績を作るためにせっせと任務の隙間に仕事を入れている。

 降谷さんも「気分転換にちょうどいい」と乗り気で、調子も好調。

 

 浮気調査やら遺産相続関係の仕事も多いが、そこで生きてくるのが降谷さんの諜報スキルだ。

 さすが降谷さん、ルパンから学んだスキルを思う存分活かして怪盗さながらの動きで標的のデータを奪っていく。

 

 正体が公安って言われても「それはちょっとジャンル違いじゃないか…?」と思われるであろう身のこなしは、私も尊敬の念が絶えない。

 

 また、人間関係的なコネクションも地道に整備を続けている。

 毛利探偵とも定期的に飲みに行ったりしており、仲は良好だ。

 

 本日も毛利探偵の付き合いで近場の潰れかかったパチンコに来ている。

 

 隣でジャカジャカと毛利探偵の玉が排出されている。

 店中に満ちるジャラジャラと金属球の弾ける音が死ぬほどうるさいが、ここは我慢我慢。

 五感が敏感な私には少々きつい空間だ。

 

 降谷さんなどは耐えかねて、良い笑顔で音の届かない深層心理の奥の方に引っ込んでしまったからな。

 私一人取り残しおって……この恨み晴らさでおくべきか……。

 などと恨みつらみを轟々と燃やしている次第である。

 

 どうやら今日は調子が良かったらしい毛利探偵が、あたりの連続に盛大に高笑いを漏らしている。

 

「大量大量!!!っかー、ツキが巡ってきたァ〜!」

「いやぁ、今日は僕はまるでダメみたいです」

「俺がこのあと奢ってやるから元気出せ!なっはっは!!このパチンコ大王に任せろってな!」

 

 なんだか知らんが随分な有頂天だ。数万とか当たったのだろうか。

 パチンコは毛利探偵の付き合いでしかやらないからようわからん。

 というより、主観だと毛利探偵と話すこともそう多くない。

 

 前の私にならい、定期的に蘭ちゃんの代わりに家事を手伝っているものの。

 まだ主観では彼らとの付き合いは1ヶ月と少ししかない。

 

 まぁ、とはいえ流石に華の女子高生が家事労働で消費されて友達とカフェにも行けないのは悲しすぎるからな。

 家事手伝いに勤しむのは悪くない選択肢だと思っている。

 

 一応「安室透」がいつ居なくなっても良いように定期的に毛利探偵にも家事を叩き込んではいるものの、どこまで覚えてくれたのやら。

 例え妃弁護士とよりを戻すことになったとして、営業形態的に家事をするのは毛利探偵の方になるのだろうから良い加減覚えれば良いのに。

 

 そこでふと、毛利探偵の胸ポケットのスマホがやけに静かなことに気がついた。

 

 転生者として霊的感度が高く、電波的なものも感じ取れる私が「静か」と感じたのだ。

 つまり電源が入っていないのだと思われる。

 

「それより、スマホの電源切ってて大丈夫なんですか毛利先生。もし緊急の連絡があったりしたら」

「いーからいーから。どうせ掛けてきても蘭のやつからぐらいだしな!」

 

 依頼人からという選択肢はないらしい。

 本当に大丈夫か毛利探偵事務所。

 

 などと考えていればこちらのスマホにも電話の着信だ。

 「僕も電話のようで、失礼します」と言って席を立ってトイレへ駆け込む。

 ここなら少しは音がマシだからな。

 

 画面を見れば、それがベルモットからの電話であることがわかった。

 組織の依頼か?

 

 「はい、ベルモットですか?何か用ですか」と出れば、電話の向こうでベルモットが顔を顰めたような気配が伝わってきた。

 

「何キティ、あなたパチンコ屋にいるの?」

「毛利探偵との付き合いですよ。うるさいですし、今外に出ますね」

「パチンコだなんて!やだ、キティったら。教育に悪いわよ!」

「教育も何も、重ね重ね言いますが僕は成人済みですよ…?」

 

 ベルモットはプリプリと怒っている。

 音でパチンコ屋にいることがバレてしまったようだ。

 

 昔からベルモットはこうして私を可愛がってくれているのだが、子供扱いしてくるのが玉に瑕だ。

 私を揶揄うのも親愛の情が基礎なのだろうから特に不満には思っていないが。

 

 融通がきくし、何かと庇ってくれる彼女に気に入られているのは私にとっても降谷さんにとってもプラスに違いない。

 

 ただ、やはりというべきか降谷さんも静かにキレているのが笑いを誘う。

 降谷さん、自分を小動物扱いしてくるベルモットが大嫌いだもんな。

 根本的に女を武器にするベルモットと女嫌いの降谷さんでは性格も合わないし。

 

「それで、要件はなんだったんですか?」

「楠田陸道とかいう下っ端が行方不明になったのは知っているわね」

「ええ、噂程度なら。FBIに殺されたという疑惑があるとかなんとか」

「そうよ。それで、幹部のあなたに米花中央病院に行って最終確認だけして欲しいのよ」

「珍しいですね、その手の雑用は久しぶりです」

「ごめんなさい、警察も絡むし幹部の確認が必要となったのだけれど、ちょうどこちらが手一杯で」

「問題ありませんよ。米花中央病院ですね」

 

 拳銃自殺した黒の組織からのスパイ、楠田陸道。

 杯戸中央病院で拳銃自殺したが、その遺体は赤井秀一の死亡偽装に使われたのだったか。

 

 たしか、深層心理にある図書館によると組織として掴んでいるのは杯戸中央病院で連絡を絶ったことのみだと記憶している。

 

 この手の雑用はとっとと終わらせるに限る。

 毛利探偵には連絡を一言入れて、私はすぐさま行動を開始した。

 毛利探偵の隣の席に戻り、「すみません毛利先生、急用ができてしまい…」と言い掛けたところで、毛利探偵が片眉を上げた。

 

「大丈夫か、お前。調子悪いんじゃねーか」

「………」

 

 真摯な顔で、こちらを見ないまま一言告げられた。

 これだから毛利探偵は油断がならないんだよな。

 

 私が、組織の任務に恐怖しているのを読み取られたようで、恥ずかしさと温かさが同時に込み上げる。

 

「………いえ。問題ありませんよ。気持ち頭痛があるだけですから」

「そうか?無理するなよ」

 

 毛利探偵は見た目よりずっと聡い人だ。

 詳しく聞かずにそっとしておく姿勢も、それでも気にかけ続ける男親の視線も、私には持ち得ぬものばかりだ。

 

 私は深く一礼して、病院へそのまま向かうこととした。

 

 

 

 病院に到着すると、なぜかコナン君が当然のように通路の待合椅子に座っていたり。

 

「何しにきたの?」

「僕としてはむしろなぜコナン君がここにいるのか疑問なんだけど」

 

 さも病院にいるのが当然みたいな顔をしているが、私からしても行く先々でコナン君に遭遇するの普通に謎だからな?

 

「僕は蘭姉ちゃんのお母さんの妃さんが入院したって聞いたから、その付き添い」

「!それは大変だね。あ、僕に関しては野暮用で来ただけだよ」

「ふぅん」

 

 コナン君が不審気に口をつぐんだ。

 思わず隠してしまったが、別に隠す必要もないのだし後できちんと説明するか。

 

 ああ、それと。

 そろそろコナン君には私の記憶喪失を打ち明けておかねばなるまい。

 ここまでズルズル慣れてきてしまったが、今後組織戦において決定的な隙を晒しかねないからな。

 

 ごほん、と咳払いしてちらりとコナン君の様子を伺う。

 

「あと、実はね」

「う、うん」

「少し前から僕、ちょっと記憶喪失になってしまったみたいで。四年くらい記憶がすっ飛んでるんだよね」

「はぁ!?!?また!?!?!?」

 

 またって何!?!

 

 あ、そうか、記録によると降谷さんも記憶喪失になったんだっけか。

 瞳の中の暗殺者の一件で、原作では蘭ちゃんが記憶喪失に陥っていたが。

 なんとこの時空では頭を打って降谷さんが全生活史健忘になっていたのだとか。

 

 私は頷いてコナン君の疑問に答えた。

 

「うん。というわけで主観だと君は最近会ったばかりの謎の子供になる」

「にしては僕のこと知ってそうだね」

「ゼロの方は記憶もしっかりあるしね」

 

 記憶の図書館についてはややこしくなるので説明を省くこととする。

 あくまで深層心理のイメージの話だし、実体を持つわけじゃないからな。

 

 コナン君がむむむと腕を組んで悩み出した。

 

「いつから記憶がないの?」

「京極さんが犯人にされ掛けた事件で、君とは初めましてな気持ち」

「結構前じゃん!!!なんで今まで黙ってたの!というかそれ、仕事とか大丈夫なの?」

「今のところ何とかなってるよ。と言うか今も仕事中だし」

 

 ひゅっ、吐息を飲む声。

 コナン君の瞳に鋭さが戻る。

 

「ッ!?……なんの、仕事?」

「楠田陸道の行方探し。ついでぐらいの重要度だから見つからなくても何も問題はないんだけど」

 

 どうせFBIに始末されたんだろうという扱いだからな、コレ。

 下っ端1人消えても何も構わないというか、一応FBIが何か企んでないか最終チェックがてら幹部を派遣しただけだ。

 

 コナン君の顔が一気に緊張感を帯びる。

 私が記憶喪失だということは、今までの絆や人格認識が通用しないことと同義なのだと悟ったらしい。

 私は特に変わっていないつもりではあるが、あの組織での4年間は重い意味を持つことに違いはない。

 

 コナン君の警戒はある種、正しいものに違いない。

 

「ふぅん…組織にはどう報告するつもり?」

「別に、杯戸中央病院に行方を知っている人はいなかった、って報告するよ。実際、ここには何もないのは君だって知ってるだろう?」

「………、そっか」

 

 コナン君の顔が憂いを帯び、曇る。

 

 あれは死者の尊厳を奪うトリックだった。

 楠田陸道の拳銃自殺した死体を赤井秀一の代わりに車ごと燃やす、あのトリックは。

 一人の人間の死後の尊厳まで奪う、立派な犯罪である。

 

 発案者としてやはり──それ以外に赤井さんを助ける方法がなかったとはいえ──思うところは残ってしまうのだろう。

 

 降谷さんが呆れたように深層心理の内で首を振った。

 

───お前は本当にコナン君には隠し事しないな……

───まぁ、コナン君は僕の上司ぐらいに思ってますから。ホウレンソウは欠かさないようにしてるんです

───くく、あの子が上司か。それはまた随分苦労しそうだ

 

 情報は抱え落ちしたくないタイプなので、コナン君への連絡はしっかり欠かさずにね。

 あとはコナン君がよしなにしてくれるだろうという確信もあるし。

 

 ここは愛と事件が交差するサスペンスラブコメディ。

 天下の主人公さえ情報を握っていれば、そこに間違いなど起きようはずもない。

 

 …………結局のところ。

 

 私はこの世界が二次元の延長線上にあると自分を偽って、この凄惨な任務に耐えているだけなのである。

 

 希望の光よ、輝ける主人公よ。

 どうか早く、一刻も早くあの組織を壊滅させてくれ。

 

 そうすれば、私もようやく───。

 

 

 

 「おい、無事か英里ーッ!!」という声がドカドカという歩みと共に近づいてくる。

 先ほど別れた毛利探偵だ。

 どうやらようやく妻の入院を知ってパチンコ屋から駆けつけてきたらしい。

 

「って、なんだ?安室お前、どうしてここに…」

「僕は知り合いがここに入院していると聞いてきてみたんですけど、誤解だったようで」

「そうか、そりゃよかっ……じゃねぇ!英里だよ英里!早くしねぇと!」

「奥様がどうされたんです?」

「今手術してるとかで、俺は気付いてなくて、くそっ!英里ーッ!」

 

 慌ただしく病室の扉をガラッと開いたらそこには、あら不思議。

 普通に元気な妃さんの姿が。

 

 なお、手術は成功していたそうで。

 元気な妃さんはちっとも来ない夫に怒り全開で轟々と覇気を燃やしているものとする。

 

 すぐさま妃さんの怒号が飛び交い、私はそっと気配を消して退散した。

 ここにいても割れ鍋に綴じ蓋な痴話喧嘩に巻き込まれるだけで百害あって一理なし。

 というか、だからスマホの電源入れておいたほうがいいって言ったのに、まったく毛利先生ってば。

 

───さて、帰るか

───ですね。今日はたけのこハンバーグにしましょう。久しぶりに僕が作っていいですか

───明日は俺だからな。とはいえ、お前が作る洋食はどれも美味いから楽しみだ

───僕はゼロの和食も好きですよ?まぁ、腕によりを掛けて作らせてもらいますね

───任せた、安室

 

 調査結果をベルモットにメールで送りながら、そんなふうに雑談して。

 

 キャァアアアアア!!!と。

 少し離れた病室から、凄まじい悲鳴と絶叫が聞こえてきた。

 

 また殺人事件かよ、米花町の治安終わってんな、などと思う今日この頃なのである。

 

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