バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
太閤名人に話を聞いていけば、どうも彼女である由美さんが攫われたらしい。
すぐさま食い付くコナン君の事件ヲタク感は相変わらずだ。
道中、馴れ初めも交えて聞いていけば、わーお、と子供達と共に盛り上がった。
なお、降谷さんの内心はフーンぐらいのそっけないものとする。
なのに表面ではニコニコなのだから、まったく器用なことだ。
───恋バナ、降谷さんは興味ないタイプですか?
───ないわけじゃないぞ。風見あたりに彼女ができたらこっそり後をつける自信がある
───それ、気になってるのは風見さんの恋の行方じゃなくて、下手な女に引っかかって情報抜かれてないか確認してるだけじゃないですか
───重要なことだろう?
───そうですけど。可哀想な風見さん……
ん?
……いや、そっけないんじゃなくて、恐らくこれは余裕がないんだ。
降谷さんは軽口をいえるぐらい平静なようでいて、その実ひどく余裕を欠いている。
何故か、そんなの自明の理だ。
やはり彼個人の心情としても、私のあの軽々な弱音が大きく影響を与えているに違いない。
早く記憶を取り戻さねばならない。
降谷さんの記憶にある以前の私は、殺人程度で弱音を吐くことはなかった。
動揺することもなかった。
そのような強さが、今の私には必要だ。
貼り付けたような硬い笑みを浮かべる降谷さんを、名人はしきりにチラチラと見てきている。
何か感じ取っているのか、それとも警戒しているのか。
明治神宮の井戸のそばから犯人の残した暗号が見つかっても、羽田名人はどこか焦ったような顔でこちらを見ていた。
そして出し抜けに一言。
私に焦りの浮かぶ顔で声をかけてきた。
「なにか?」
「……悪い人じゃ、ないんですよね?」
「!」
降谷さんが咄嗟に動揺を喉の奥まで押し込んだ。
流石、推理の速度ではコナン君以上の逸材だ。
降谷さんのピリピリした様子を見破って、そこに警戒を抱いたに違いない。
「やだなぁ、言ったでしょう。僕は毛利先生の弟子で、怪しい人間じゃありませんよ!」
「そ、そうですよね!すみません、なんだか神経が尖っていて」
本当はここは私が出るべきなのに、私も記憶喪失の身。
下手なことを喋ってこの賢人に齟齬を出してもいけない。
もどかしい思いについ歯噛みする。
私たちの静かな腹の探り合いはそのままに、推理は順調に進んでいく。
井戸にある将棋の駒を見つけてからは、お次は戦国武将の供養塔だ。
供養塔の裏に将棋盤が隠してあるのをコナン君が見つけ、思わず降谷さんも感嘆符を漏らした。
見れば見るほど、かなり手が込んでいる暗号だ。
わざわざ将棋盤を使って、こんな東京にまで隠して、細工までして。
それはそのまま、犯人が羽田名人に向ける恨みの深さに通じている。
ただ、それにしては……殺意というか、ドス黒さが足りない雰囲気だ。
言葉にできないが、ねちっこくはあっても有害ではない気配というか。
さらりと鮮やかに謎を解いたコナン君が、羽田名人を見上げて問いかける。
「もう時間がないよ。山梨の会場に戻ることも考えたなら、あと三十分が限度だ」
「それは仕方ないかな。もう僕も戻れるとは思ってないし……」
一応コナン君がミニパトを待機させているとはいえ、太閤名人が会場に間に合うかと言えば否だろう。
原作のようにパトカーに送り届けられれば別だが。
由美さんが囚われている場所は、杯戸町のホテルプライド。
由美さんというのは警視庁交通部の人だとは思うが、現状私とは面識がない。
以前の私とも会ったことが無いようだし、私達がこのまま流れで関わっていいものやら。
人が命の危機に陥っていると言うのに、私の心は驚くほど動かなかった。
大丈夫と分かっているからというのもあるが、やはり組織での1年間で心が他人に対して冷えてしまったのも大きいだろう。
子供達が必死になっているのを見ると、強くそう思う。
杯戸ホテルプライドに向かう道すがら、子供達を一番バックミラーで確認しながら、私は己の心を顧みて小さく笑いを漏らした。
いつの間に私はこんなに薄情になったのやら。
ため息をグッと堪え、前を走るコナン君に耳打ちする。
「僕が踏み込んで制圧してもいいけど…その必要はなさそうだ」
「……どうして?」
「暗号の手の混み具合からは、犯人の強い執着が感じられる。だというのに、悪意が薄い。根がいい人なんだろうね」
「なるほど……なら、羽田名人に任せたほうがいいのかな」
今回、私必要だったかな……と思いながら、降谷さんがレンタカーを運転する裏で私は思い耽った。
RUMにも一応連絡入れてあるが正式に話をしていないし、記憶喪失の件で組織の手が入った病院をかかると言う話も出ている。
仕事は減っているので今のところは問題ないが、有事の際のために肉体の記憶でどこまで戦えるのかも確認しなければならない。
こちらは石川五エ門の手を借りる必要があるだろう。
やることは山積みだ。
あるいは、私の仕事が減ったからこそ起こる無力感によるものかもしれないが。
降谷さんは無言で、ただホテルプライドへと皆を乗せた車を進めていく。
きっとこのまま事件は解決し、羽田名人はギリギリのところで名人戦に間に合うのだろう。
全てが原作通りに進む中、集中できていない私に無力感は増すばかりだった。
・風見さん
この後、電話で「お前、彼女いるか?」と降谷さんに出し抜けに聞かれることになる人。
大量の書類にまみれた三徹の彼は、遠い目で「私の恋人は、この国……ですかね」などと答えたらしい。