バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
公安からの連絡が途切れがちになっている。
やはり私達の切り捨てにかかっているのだろう。
だが、やはり内部で揉めているのか方針が定まらないのか、姿勢は一貫しないままだ。
私の記憶も未だ戻らない現状、焦りだけが静かにじっとりと背筋を撫ぜていく。
今日はコナン君と阿笠邸にいた私は、子供達のお守りとパトロンとしての見回りも兼ねて阿笠博士と雑談をしていた。
どうやら今回はドローンを自作したようで、30km先まで操縦できるガチガチの本格派ドローンを子供達に与えて喜んでいた。
サイズもそこそこ大きく、航空法に引っかからないか……などとちょっと不安になる今現在。
ちなみに、私たちもドローンは一応操縦できる。
軍用ドローンの操縦ならキャンティやコルンの方が得意だが、ルパン達と行動する時使うことがあるから嗜み程度は習得している。
庭をぶんぶんと飛行させてわちゃわちゃ楽しんでいた子供達が、ふと静かになったあとみんなして私たちの方に走り寄ってきた。
「安室さんもやる?楽しいよ!」
「僕たち十分楽しみましたから、安室さんもどうぞ!」
「……いいのかい?」
「おう!安室のにーちゃんの飯いっつもうめーからな!」
優しい子達だ。
これだけ楽しそうにしていてなお、こうして私にお裾分けしようというのだから。
私がこの子ぐらいの歳の時、ここまで優しくあれたかどうか。
表に出ていた降谷さんは、歩美ちゃんの頭をそっと撫ぜた。
「僕は見ているのが好きなんだ。みんなが楽しく遊んでいるのをもっと近くで見ていていいかい?」と優しく微笑む。
こういう楽しいことは子供達がやるべきだからな。
子供達は「うん!!」と元気よく返事をしてから、降谷さんの腕を引いて走り出した。
ずいぶん降谷さんも表情が優しくなってきた。
馴染んできたと言えるだろう。
この場にいないコナン君は、ドローンに興味がないようで家の中に篭ってニュースを見ているようだ。
しかしドローンが縦横無尽に飛ぶ中、不意にコナン君が阿笠邸の中から鋭い声で私達を呼んだ。
「安室さん!これ!」
「どうしたんだいコナン君。大声をだし……ッ!!」
それは国際会議場、エッジオブオーシャンの爆破のニュースであった。
黒煙を上げる建物が、撮影ヘリから映しているであろう映像から見えている。
私はしばし絶句して、同時にギリ、と奥歯を噛み締めた。
アンテナが貼れていなかった。
酷い失態だ。まさかこんな重大事件を見逃すなんて。
この時空の日付異常もあったし、ここ最近黒の組織の動向に気を取られすぎていたのもあった。
……いや、所詮醜い言い訳だ。
救えたはずの同胞の、警察官の命を無為に散らせてしまった。
私は無意識のうちに焦っていた、と言い換えてもいい。
早く記憶を戻さねばならないと自ら選択肢を狭めていたのだ。
降谷さんが眉を顰めて考え込んでいる。
───事故か?サミット会場を狙ったテロならまだ時期が早すぎる
───いいえ、テロでしょうね。狙いは……まだわかりませんが。立ち上る悪意が濃厚すぎます
───!!
風見さんに電話したいが、今彼は情報が封鎖されている可能性がある。
当時公安部が警備しているか確認したいが、そんな情報も入ってこない現状がそれを裏付ける。
それに、もしそうでなかったとして大怪我を負った風見さんは病院で治療中という可能性も高い。
スマホを取り出し、降谷さんがかけるのは黒田管理官の電話番号だった。
コナン君が鋭い目でこちらをちらりと確認した。
こちらは一コールですぐに繋がった。
向こうも私から電話が来ることを察していたのかもしれない。
『降谷か。どうした』
「先ほどのエッジオブオーシャンの爆破の件、テロの可能性があります」
『お前も気付いたか。こちらでもその可能性を議論中だ。だが証拠がない……ならばそれに足る情報を作らねばならんと言うことはわかるな』
「手を残すために犯人を作るということですね」
『そこで、お前を犯人にするという案が上がっている』
「!」
降谷さんが息を呑んだ。
「安室透」を犯人にする?
確かに、それなら冤罪をかけられ傷つく市民はいなくなる。
だが……組織はどうする。ウルフドッグである私たちであったとして組織に少なくない弱みを作ることになる。
もし普通の潜入捜査官なら、そのまま失態として命を奪われかねないというのに。
「……そうですね。そういうことならば、僕も同意します」
『いいのか。お前も動きづらくなるが』
「ええ。問題ありません」
これは、間違いなく公安側の思惑が働いている。
あわよくばそのまま私を逮捕して、檻に入れておきたいという思惑がだ。
それに、向こうで事件の可能性を掴むのが早すぎる。
これは元々テロの可能性を読んでいたというより、私の逮捕ありきのこじつけに近いだろう。
通話を切ってから、降谷さんは感情の読めない瞳で俯いた。
私に想像がついたことぐらい、降谷さんはもっとずっと早く思い至っているはずだ。
すなわち、これが公安の降谷零切り捨ての策略の一環だなんて。
コナン君も降谷さんの様子に気づいたのか、慎重に口を開く。
「どうしたの?」
「あの爆破テロの犯人は僕だ、と言うことになった」
「!!!つまりそれは、この爆発事故を事件化するための仮の犯人として安室さんを、でもそれじゃ安室さんはどうするの!?」
「……」
もちろん組織の仕事はできなくなる。
だがそれ以上に私を危険視している公安の動きを一時的に抑えれるのならと、公安はそのように考えているはずだ。
RUMの動きが読めなくなるのは辛いが、どうせいろは寿司に来るだろうしこちらはあまり心配していない。
「いいんだ。そもそも、僕は否やと言える立場に無い。こうして教えてもらえるだけでも温情だろうさ」
「ゼロさん……」
色のない冷徹な瞳で降谷さんが言い切った。
自身すらも駒として扱う、私も身につけねばならぬ冷たさに満ちている。
こうあらねばならない場所が、あまりに遠い。
合わせる顔がなくて浮上もできず、私は黙ったまま静かに水面を揺らすのみだった。
その後の動きは迅速に。
そのまま自宅へ向かったのは、自宅内にある不審物を処理するためだ。
踏み込むのは今日の夕方だそうだから、それまでにこのセーフハウスからあってはならぬものを撤去しなければならない。
がさがさと部屋をかきわけ、散らかった私物を整理していく。
宝石花練習用の石などは別のセーフハウスに車で一時的に移送すればいい。
鉄爪も同様に隠しておけば、それだけでやや味気ない「安室透の自宅」の完成だ。
料理道具や服は多いし、車用品もいくつかのこったままだが、こちらは探られて痛いものではないのでそのままにしておく。
探偵としての書類は全て頭の中のため整理は不要。
正確には深層心理の大図書館に入っているため、紙の資料はほとんど無いのだ。
流石に契約書などは残っているが、そちらも無いと不自然なのでそのままに。
PCは私用のものが一つあるだけ。
これは基本的に博士が作ったゲームを入れるようにしか使わないため、押収されても構わない。
スマホも押収される可能性があるから、こちらは移動させる必要があるか。
それと、組織用スマホを隠す前にRUMには連絡を入れておかねばならない。
降谷さんとバトンタッチし、私が表に出て通話する。
相手は組織幹部にしてNo2、RUMだ。
「すみません、突然。バーボンです」
『どうしました、バーボン。あなたから連絡とは珍しいですね』
「TVでエッジオブオーシャンの爆破事故については見ましたか?」
『ええ。それなら確認していますよ。それが?』
「……件の事故の容疑者として、公安が安室透の逮捕を狙っています。そのため、今後連絡ができなくなります」
『!犯人としてでっち上げて、あなたの身を封じようというわけですか。逃げないのですか?』
「ええ。真犯人の当てがありまして。逃げて今後動きづらくなるより、無罪放免を狙おうかと」
『そうですか。もし人員を貸す必要が出てきたら気軽に相談してください。貴方は組織の顔なのですから。ただでさえ貴方は今記憶がないのですし』
「わかりました、ありがとうございますRUM」
全く平凡な会話の裏で、私はかなりの緊張に声が震えないよう注意する必要があった。
RUMの観察眼は半端なものではない。
もし降谷さんが出れば瞬く間にバレるほどの、異能に近い注意力なのだ。
だが、これで組織の方はOK、と。
RUMも不審がっている様子はなかった。
まあまさか「潜入捜査官が別件逮捕される」なんてバグみたいな事象に陥るなんて思いもよらないだろうし、ある種怪我の功名か。
そのまま通話を切り、スマホと宝石と鉄爪、あといくつかの見られてはならない私物を車に詰めて、近場のもう一つのセーフハウスへと向かう。
しばしの無言の後、降谷さんがじっとりと重苦しく口を開いた。
───これで俺たちは公的にお尋ね者か
───今までとそう変わらないでしょう。殺人も窃盗も脅迫も、悪いことはたくさんしてきました
───……そうだな。叩けば埃がどっさりだ。ここまで叩きがいのある被疑者もなかなかないだろうさ
車で十分。
オンボロアパートの一室を倉庫代わりにして、二往復分の荷物達をどさりと下ろせば身辺整理は完了だ。
しばらくカフェによって一服してから、時間を調整して帰宅する。
夕日が街並みを赤く染め、反対側を暗闇が侵食する頃。
帰宅する私達を待ち構えていた警視庁捜査一課の面々が、ゾロゾロとメゾン木馬の駐車場に姿を現した。
降谷さんがいかにも困惑したような表情を作り、車を降りた。
佐藤刑事が進み出て癖で警察手帳を取り出そうとして、顔見知りだと気づいてやめた。
「どうしました?みなさんお揃いで。この近くで事件でも起きましたか」
「安室さん。貴方には本日朝に起きたエッジオブオーシャン爆破の嫌疑がかかっています」
「………それは、穏やかではないですね。僕はやっていない、と言えば信じていただけますか?」
「っ、捜査のご協力をお願いします」
佐藤刑事の表情は険しい。
高木刑事も、目暮警部も。皆一様に険しい表情でこちらを見ている。
警察官として毅然とした態度に見えて、その実裏ではこの状況に疑念を抱いているのが丸わかりだ。
踏み込まれ、荒らされていく室内を見ながら、私達はただ呆然とした演技をもってその場に佇んでいた。
これは逮捕ありきの家宅捜索だ。
押収したPCもあるため、これならアクセス履歴をでっち上げることも容易だろう。
降谷さんがややぼんやりと踏み荒らされる室内を眺めながら、ポツリと言った。
───仕事、少なくしておいてよかったな
───そうですね
きっとこの手にかけられる手錠は随分と重いのだろう。
そのような無意味な感情を、私たちは抱いていたのだった。