バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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風見さんの心配事

 

 その後、長野県警の尽力により犯人は無事逮捕されたらしい。

 

 ライオットシールドと一緒にトランクの中で犯人を捕える機会を伺っていた大和警部も無事だった。

 しかし、今考えるとなかなかにシュールな絵面だな。

 トランクに詰まってる強面警官とかさ。

 

───信州そばのセットを買って帰ろうか。日が経ってからもう一度俺が茹でて食いたい

───分かりました。粉からじゃなくて大丈夫ですか?

───本音をいえば粉から打ちたい。けど用具を置く場所がな。これ以上台所を圧迫したくない

───別にそのぐらい気にしなくていいのに。ゼロは綺麗好きですからね

───お前が散らかしすぎなんだ。ちょっと目を離すと服でもなんでも出しっぱなしにしやがって

 

 てへぺろ。

 子供達へあげるための長野土産のお菓子缶を買いながら、私は降谷さんと主婦じみた雑談をしながらお土産コーナーを巡る。

 

 なお、信州そばは買って帰るものとは別に、きちんと事件解決後にお店で食べた。

 毛利さんも蘭ちゃんもおいしそうに啜っていて大満足だ。

 

 降谷さんが「風見はいつもエネルギーバーで昼飯を終わらせようとするからな。作ったらお裾分けしてやるか」などと呟いている。

 こうして一部公安の仕事をしているだけで、かの職場が恐ろしく忙しいことが伝わってくるからな。

 間違いなく風見さんは寝れていない。

 

 

 

 

 さて。

 今日はめずらしく登庁してのお仕事の日だ。

 

 降谷さんは白鳥警部補と同じキャリア組で、いわゆる警察官僚になる。

 ちなみに、現在の階級は警視。

 原作だと警部だったような気がするが、まぁ、出世の道を歩んでいることはいい事だ。

 

 というか、警察庁に採用された警察官僚が行くのは警察大学校のはずだから、ノンキャリの松田さんや萩原さんと警察学校で同期なのは間違いなくバグっているのだが。

 その辺は気にするなという天のお声が聞こえてくるようだ。

 

 もっと言うと警察庁の人間が現場に潜入捜査するのは何かがおかしいが……その程度些細な違いである。

 

 なにせ昨日は12/22の冬だったのに今日は8/3の夏だからな。

 階級とか警察大学校とか、そんなレベルではないSF級の異常があるのだから、気にするだけ無駄というものだ。

 

 閑話休題。

 警察庁にも仕事は多々ある。

 法改正の素案作り、国会対応、各県警の調整エトセトラ。

 降谷さんの場合は警備公安畑で、つまり作業班の統括管理になる。

 

 これはつまり書類ベースの戦場ということで。

 この辺りになってくると私には到底太刀打ちできない高度技能の領域だ。

 つくづく私が頭空っぽで現場を生き抜いてきているかが分かる。

 

 一応、潜入捜査中ということで定期報告程度をこなすだけでいいよう仕事量は調節されている。

 今日一日机に向かえばあとはしばらく登庁しなくていいはずだ。

 

 朝、庁内の自席へと降谷さんが座れば、ざわりと周囲の空気がざわめいた。

 

 恐れの籠った視線、悪意、不快感、そういったおよそ穏やかでない感情にさらされる。

 そりゃ私の悪逆非道…殺人の罪を知っているのだから、この反応も当然といえば当然だ。

 降谷さんもまるで気にした様子もなく、どかりとバッグを横に下ろしてPCを立ち上げる。

 

 ピリピリとした空気の中、私語の一つもない静まり返った空間でただPCのタイプ音だけが響いている。

 そんな中で三時間。

 時刻は昼に近くなった頃、警察庁警備部警備企画課のオフィスに一人の来客が姿を現した。

 

 硬く威圧的な雰囲気に、黒い短髪に角張ったメガネ。

 風見裕也警部補だ。

 

「降谷さん、少しお時間いいでしょうか」

「……風見か。警察庁(こっち)まで来るとは珍しいな。何かあったのか?」

「いえ。昨日都内で逃げたホシの件なのですが」

 

 淡々と情報を交換する姿は風見さんも降谷さんもまさしく公安、まさしく刑事といった趣だ。

 テキパキと指示を出し終えると、降谷さんは背もたれに体重を預けてやや表情を和らげた。

 

「ところで、このあと時間があるか?」

「……なにか問題でもありましたか」

「いや、久しぶりに飯でも食いに行かないか?というか、お前また痩せたんじゃないか?昼はきちんと食っているか」

「う、その…………」

 

 風見さんが口籠った。

 どうやらまたチョコレートなど甘い菓子だけで昼を済ませていたらしい。

 以前からそれはやめろと降谷さんに言われていたのに。

 忙しいから時間が取れないのは分かるが、体を壊しては元も子もないないだろうに。

 

 降谷さんは時計をチラリと確認し、椅子から立ち上がって財布をカバンから取り出した。

 

「時間もないし、牛丼でいいな」

「……はい」

 

 それはそれでどうなのとは思いつつ、まぁキットカットの空袋が大量にゴミ箱に入れられていた惨状よりはマシかと思い直す。

 

 というか、牛丼を掻っ込む降谷零。

 安室透のイメージとはかすりもしないが、不思議とこの男のイメージには合致する。

 

 そこまで考えたところで、やっぱり看過できなくて私は会話に口を挟んだ。

 

「───というか、牛丼はないでしょう牛丼は。せめて普通の洋食屋にしましょうよ───早いしボリュームもある。いいだろ別に」

「降谷さん、自分と言い争いしないでください」

「安室がガタガタとうるさいのが悪い」

 

 うるさいとはなんだうるさいとは。

 

 まあ、降谷さんの考えでは自分で作らないのならなんでもいい、という自分の料理への絶対の自負に基づいた発想である。

 自分の料理以外はどれも同じだ、的なプライドエベレストな世界観というか。

 元来は外食もあまりしないようだし、なんというか、難しい男である。

 

 

 結局、やってきたのは牛丼チェーン店である。

 早い安いが売りのそこはまだ時間が早いのか待たずに入れそうだった。

 

 風見さんがいかにも緊張したふうにおずおずと話しかけてくる。

 

「降谷さんは普段どこで食べてらっしゃるんですか?」

「俺か?俺は自炊ばかりであまり外食はしないな……安室に連れられて最近は割とくるようになったが───ポアロで食べることも多くなりましたね───そうだな」

 

 「ポアロはコーヒーが美味いよな、なかなか家では再現できない」などと話していると、風見さんがほへぇと口を開けて私たちを見ていた。

 降谷さんが訝しげに眉を顰める。

 

「……どうした?そんな顔をして」

「あ、いえ。何というか、こんがらがったりしないんですか?自分と会話するというのは」

 

 どうも風見さんは私たちの会話に疑問を持っていたようだ。

 こんがらがる、か。考えたこともなかった。

 深層心理内において降谷さんと私は明確に別の肉体を持ったものとして現れるから、どちらかといえば二人用コックピットに座っているイメージが近いだろう。

 

 降谷さんも言葉がうまく出てこないのか、あー、と気の抜けた声で間を繋いでいる。

 

「主観だと、肉体に頭だけ二つついているイメージだ。ケルベロスのような、自分以外の頭がある感じで、ごっちゃになることはまず無いな」

「怖ッ………あっ、す、すみません!」

 

 正直か。

 風見さんは口に出すつもりではなかったのか、ぶるぶると小さくなってしまった。

 こんな威圧的な見目の人間なのに、こうしてみると小動物さながらだ。

 

「ははは、いいさ。通常の乖離性同一性障害とも異なった感覚だ。怖いと思うのは不思議なことじゃない」

「……治療の方は、どう、でしょうか」

「進捗なし、だな。人格が分たれて日常生活で困っていることもないし、そういう意味でも方策がない状態だ。併発している気分障害などもないし」

「………」

 

 風見さんがしばらく押し黙った後、喉の奥から搾り出すように、言葉を選びながら降谷さんを見た。

 牛丼チェーン店内は賑やかで、家族連れの姿もある。

 

 そこにあって、まるで時が止まったような不可思議な緊張がそこにはあった。

 

「降谷さんご自身は、苦しくないのですか?」

「苦しい?」

「人格が分たれるほどの、苦境に。……苦難に、苦痛が。あったと。……私は、そう思いました」

「ないと言えば、嘘になるが」

 

 運ばれてきた牛丼が湯気を立てている。

 パキッと割り箸を割れば、それは綺麗に真っ二つに割れた。

 

「俺は安室に助けられ、安室を俺は助けている。二人だからこそできる方策もある。俺は今の状況を僥倖だと思っている」

「……僥倖、ですか」

「そうだ。まぁ、相棒が生えてきたみたいなもんだな。気が合わなかったなら地獄だが、幸い俺と安室の相性は至極良いし。そう気にするほどのことでもないさ」

 

 そういって降谷さんは笑い、牛丼をかっこんだ。

 つゆだくな牛肉が飯に絡まって美味しい。

 普通に降谷さんと話したがっていたっぽいから私は無言に徹してしまったが、何か言った方がよかっただろうか。

 

「───風見さんはゼロを心配しているんですね。ゼロも良い部下を持ったものだ───お前の部下でもあるんだが」

「はい、私は降谷零の部下ですので。上司が二人に増えたと思って頑張りたいと思います」

「ああ、この調子でこれからも頼む。───でも菓子を昼飯にするのは今後もやめましょうね───そうだな。風見、お前も気をつけろよ」

「う……精進します」

 

 風見さんが遠慮がちにぺこりと頭を下げた。

 どうやら疑念はひとまず払拭できたようだ。

 

 牛丼が無くなる頃には腹も満ち、私たちはもう一度書類の山と格闘するために庁舎へと戻ることになる。

 風見さんはひとつ、どこかやる気を取り戻したような顔で一礼した後、警視庁へと戻っていった。

 

 まだ日は高い。

 私たちは天高く空を見上げ、少しだけ伸びをしたのだった。

 

───俺たちもとっとと仕事を終わらせて帰るとするか

───ええ

 

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