バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
沖野ヨーコと比護選手の熱愛報道があったらしい。
ちなみに今知ったのだが、その理由は風見さんと連絡を取ったからだ。
いつも生真面目でお堅い風見さんが、明らかにかつ電話越しに分かるくらい萎れていたからな。
というか、あれは明確に魂が抜けていた。
「どうした風見。何かあったのか」
『……いえ。私事ですのでお気になさらず…仕事に影響は出しませんので……」
「身内の訃報でもあったのか?気の落ち込みは大きなミスを呼ぶ。もしあまり辛いなら休暇を取れよ」
『……いえ。訃報などではなく。その、はい。そう大したことでもないので』
煮え切らない態度に降谷さんが不信感を覚えたあたりで、街頭のニュース番組が目に入った。
沖野ヨーコ熱愛発覚!!お相手はビッグ大阪の比護選手か!
───おい、まさか
───まさかですねぇ、これは。沖野ヨーコの熱烈な大ファンですから、この落ち込みようも当然ということでしょう
降谷さんが咳払いした。
「前言撤回。あとで追加の資料を送る。調べて欲しいことがあるから今日中に対応しろ」
『ええっ!?そんな、まだ作業班の進捗確認も終わってませんよ!?』
「頼んだぞ風見。アイドルに入れ込むのは良いが、不確かな情報に右往左往するくらいなら自分で真実を確かめろ。それが公安だろう」
『そんな無茶な……うぅ』
「ま、今日中は冗談だ。今週中に俺宛でメールを送ってくれ。───風見さんもそう気を落とさず。今度毛利探偵の関わりで沖野ヨーコさんに会ったらサインをいただいておきますから」
『!?!?本当ですか降谷さん!ありがとうございます!!!』
私のフォローで多少復活したらしい風見さんが、電話の向こうでぺこぺこ頭を下げている気配が伝わる。
まったく、降谷さんは厳しすぎるんだ。
この手のショックは、それだけ他に入れ込んでいるものがないことの証拠だ。
公安として健全と言っても良い。
下手な女に引っかかるぐらいなら、こうした感情の発散先を設けるのは正しいというのに。
とはいえ、降谷さんも私のフォローを見越して厳しく当たっているようだから問題はないか。
───風見へのフォロー助かった。あいつも落ち込んでいるのは確かだったからな。あまり引きずってもらっても困る
───そんなに気にするならあなた自身でフォローすれば良いのでは?
───飴と鞭は上手く使わないとな。お前は飴にぴったりだ。甘く爽やかな安室透。だろう?
とまあ、そんなこんなで本日、いつも通りに家事手伝いのために毛利探偵事務所に向かったのだが。
探偵事務所に入って早々、生ける屍みたいになった毛利探偵と遭遇することになった。
屍は「ヨーコちゃん…ドウシテ……」などと呟いている。
その哀れな屍の面倒を見ているのは蘭ちゃんだ。
「毛利先生、やっぱり例の熱愛報道が原因で?」
「あっ、安室さん!そうなんです!お父さんったら朝からこんな調子で」
試しに「毛利先生!」と降谷さんが呼びかけてみるが、返事がない。
ダメみたいですね……。
そこから追加で鬼気迫る表情の哀ちゃんがダイナミックエントリー。
こちらは「あの女が比護選手と熱愛だなんて!これは確かめるしかないわ!!!」とのこと。
ゾンビと鬼が手を取り合い熱愛カップルに向かう様はこれぞ戦国時代。
愛とはかくも奇妙なものであることよ。
『これから毛利探偵と一緒に熱愛報道の真相を確かめに向かう』と風見さんにメッセージアプリで連絡を入れれば、『結果分かりましたらぜひ教えてください!!!』と秒で返信が来た。
こちらも必死らしいことがわかって笑いが込み上げる。
そうして目撃証言を元にやってきたイタリアンレストランは、比護選手の先輩が営む店らしい。
店構えはシック。
知る人ぞ知る、という趣の外観だが中は華やかで客も意外と大勢いる。
繁盛しているのだろう。
サッカー選手の第二の人生としては充実しているように見えた。
出てきたイタリアンのコース料理も、どれも実に美味しい。
比較的お求めやすい値段帯でこのクオリティなら十分すぎるほどだろう。
……とはいえ、隣の席では話題沸騰中の超有名人、比護選手と沖野ヨーコのカップルが座っている。
二人の動向が気になって仕方がない毛利さんと哀ちゃんには、味なんて分からないとは思うが。
降谷さんがほうれん草とベーコンのペペロンチーノを口の中で味わいながら難しい顔をした。
───この調味料が決め手か。やはりどれも質が高いな。茹で時間も知りたいところだが
───それは難しいですね。僕の味覚は精度が高いですが、茹で時間までとなると
───まあいいさ。今度このレシピで試してみてくれないか?
───心得ました。作ってから、できる限りレシピを書き出して書庫に入れておきますね
ピリピリとした灰原さんと毛利さんが穴でも開きそうな様相で比護選手と沖野ヨーコを凝視している。
そんなに見てはバレるぞ…いや、一般人は視線で監視に気づいたりしないか。
というか、そろそろ二人が恋人同士でないって教えた方がいいな。
この距離から観察していればすぐに分かる。
二人の間に甘い空気はなく、また、親密そうには見えるがそこに情熱らしきものは見当たらない。
つまり、彼らは友人、しかも意外と距離のある友人であって熱愛という言葉とはまるで当てはまらないのだ。
「あの、毛利さん。あの二人、恋人関係じゃないと思いますよ。空気に甘さがありません」
「そんなのカップルによっては千差万別だろうが!純粋なヨーコちゃんがあの男に騙されてるかも知れねぇ!」
「そうよ!あの女に比護選手が言いくるめられてるって可能性も残ってる!」
「………」
だめだ、聞く耳持たねぇ。
コナン君が呆れたように耳打ちしてくる。
「それってほんと?二人が恋人同士じゃないって」
「うん、間違い無く。この程度の機微がわからないなら、組織でとっくに脳天ぶち抜かれてるよ───なんだ、恋人同士じゃないのか。つまらないな」
「ゼロさんは面白がらない。付き合う僕の身にもなってよ」
コナン君のジト目も気にすることなく降谷さんが内心でニヤニヤしている。
ほんと人の色恋沙汰になるとこの人性格悪くなるな。
さて。
コース料理を終えて香り豊かな紅茶が出る頃。
沖野ヨーコと比護選手が動いた。
スタッフに先導されてバックヤードにいく後ろ姿を、目を釣り上げた哀ちゃんが睨め付けている。
「なんだぁ?」
「いかがわしいことする気じゃないでしょうね!」
「そんなまさか。比護選手の先輩のお店だよ?そんなことするわけないと思うよ」
コナン君の冷静な言葉も届いていないのか、二人とも不埒な想像に怒りをたぎらせている。
ちなみに、面白そうなので降谷さんはこの様子を風見さんにメールで逐次連絡している。
今頃魂が完全に抜け切っているのだろうと思うと笑いが止まらない。
あーあ、降谷さんの性格の悪さがついに私にまで移ってしまった。
だから私は悪くねぇ!などと供述しており。
瞬間。
キャァアアアアア!と女性の叫び声が店中に響き渡った。
止める間もなくコナン君と毛利探偵、そして哀ちゃんが悲鳴の元を目指して走り出す。
いつもは静観を決める哀ちゃんまで全力疾走なあたり、「愛の力は偉大だな…」と降谷さんが明らかに使い所の違う名言を漏らしている。
三人の姿を追っていった先には、男性の遺体が一つ。
悲鳴の元は第一発見者の沖野ヨーコさんだったと判明して、私たちはすぐさま警察を呼ぶこととなったのであった。