バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
駆けつけた捜査一課の面々の動きは迅速だった。
捜査のため個別に話を聞くことになったのだが、私たちももちろんその対象……とはならず。
「あ、安室さんじゃないですか!」と朗らかに高木刑事に話しかけられ、バックヤードに案内されるだけで済んだ。
まあ、この事件についてはコナン君に任せておけば問題ないか。
順次聞き取りとなるため、私達の順番はしばらく先だ。
ぼんやりと深層心理の底で青い水面の空を見ながら明日の予定について考えていると、降谷さんも目を瞑って下に降りてきた。
降谷さんが縁側まで来て、私の隣に座って腕を組んだ。
水底が波打ち、清涼な冷たい水が流れ込んでくる。
───朝のトレーニングの後は毛利先生の家に作り置きの食事を渡しに行って、その後はお前に変わるとするか
───任されました。今回の組織の任務は極々軽いものなので、昼中には終わるでしょう。ちょっと遠出して大きなスーパーに行きますか?
───そうだな。この店で使ってるのと似た調味料がないか探したいし
雑談しながら降谷さんが靴を脱いで部屋に上がり込み、畳の上でゴロゴロし出した。
慌てて軽くタックルして表へ戻そうとしたのだが、降谷さんはちゃぶ台の端に張り付いて拒否している。
───まだ聞き取り調査中でしょう!すぐ表へ出れるように準備しとくべきでしょう!
───取り調べ対応なんて俺じゃなくてお前でもいいだろ
───面倒臭いからって僕に頼むのは無しですよ。安室を演じるならきちんと最後までやってください
───チッ
───舌打ちもしない
渋々戻っていく降谷さんがこちらを振り向きしきりに威嚇している。
不満なのはわかるがいいから早く行け。
降谷さんを叱りつけて押し返したので、空には外の景色が再び映るようになった。
視界の先ではコナン君が捜査に集中している。
家探しを止めたい高木刑事をまるっと無視してロッカーを開けたり部屋中をうろついたり。
可哀想に、高木刑事が右往左往している。
と、その時スマホに着信があった。
スマホの画面を確認すれば、相手は風見さんであった。
「電話が来たみたいなので少し失礼します」と言ってトイレに駆け込めば、濃厚なタバコの香りが鼻をついた。
どうやら全室禁煙であるにも関わらずトイレで喫煙する不届者がいるようだ。
降谷さんがやや表情を厳しくして電話に出る。
「どうした風見」
『どうしたじゃないですよ!突然メールの連絡が途絶えたので気が気じゃなくて!!!』
「………っぷ、くくく、そうか、悪かったな風見。こちらもそれどころじゃなくてな」
『っ沖野ヨーコさんに何かあったんですか!?』
声の必死さが普段とは段違いだ。
流石、ライブには欠かさず行く───行けるとは言っていないが───風見さんと言えるだろう。
出てきた背後の部屋で、どうやら推理ショーが始まったようだ。
変声機で作られた毛利探偵の声が聞こえてくる。
とはいえ、私たちには関係はないし別にコナン君に任せておけばそれでいい。
眠りの小五郎の成果をあまり横取りしても良くないしな。
「いや、今ちょうど殺人事件に巻き込まれていてな。その沖野ヨーコは容疑者の一人だ」
『ええっ!?!?そんな、沖野ヨーコさんが!?何かの間違いですよ!!!』
「それは毛利小五郎も言っていたな。何かの間違いだって。お前達、気が合うんじゃないか?」
『それ、私は何て答えれば正解なんです…?』
「ま、取り調べが終わったら詳細は追って連絡する」
『承知しました、お待ちしています』
降谷さんが話している裏で耳を澄ませて背後の推理を聞いていれば、その事件の全容が耳に入ってくる。
どうも犯人は偽ソムリエの人らしい。
ワインの銘柄偽装をやらかして、あげく身分詐称がバレたからと元Jリーガーの店主を殺害したようだ。
詐欺罪と殺人罪なら詐欺罪の方がよっぽど罪が軽いだろうに、馬鹿な犯人である。
沖野ヨーコと比護選手に関しても、高校の恩師の定年退職祝いに二人で時計を買おうとしていただけのようだ。
つまり、やはり熱愛報道は誤解でしかなかったということだ。
───ゼロ、どうやら沖野ヨーコさんは本当に比護選手とは付き合ってないそうです
───そうか、風見にすぐ教えてやろう。これなら魂の抜けた俺の右腕ももう少しシャキッとするだろうからな
───風見さんの様子、本当に面白かったですねぇ。ハニワみたいになってましたし
───だな。記念に写真でも一枚撮りに行っておけばよかったか
───それはイジメというものですよ
すでに電話は切ってしまっているから、降谷さんが軽くメッセージを打っている。
「沖野ヨーコと比護選手だが、やはり付き合ってはいないそうだぞ」と短文で送れば、風見さんから号泣するスタンプが音速で返事代わりに送られてきた。
そしてしばらくしてから「ありがとうございます!!!」と何に感謝しているのかよくわからない返信が届く。
風見さんって沖野ヨーコが関わるとこんなに面白い人なのかと笑いが止まらない。
いや、本人は必死なのがわかるだけに余計に笑えるというか。
千客万来。
再びスマホが着信音を鳴らしたてて、降谷さんが眉間に皺を寄せた。
次の着信は、まさかのジンからだ。
素早く私にバトンタッチして、降谷さんが深層心理に沈んでいく。
スマホを耳に当てれば、ジンの冷たく情のない声色が耳を打った。
『よぉ、ウルフドッグ。明日の任務について少し話があるんだが、今から埠頭に集まれるか?』
「いえ、申し訳ありません。今、殺人事件の事情聴取に時間が取られていまして。終わったらこちらからかけ直しますので、しばし時間をいただいてもいいでしょうか」
『!………殺ったのか?』
にたり、とジンが電話の向こう側で悪質な笑いを漏らす気配がした。
私事で人を殺すなんて私はしないのだが……ジンは私に日常でも人を殺して欲しいような口ぶりだ。
いや、これは「ウルフドッグはのびのびとしていて欲しい」というジンなりの友情なのだと分かってはいるが。
情がない声色とは何だったのか。
「流石に仕事に支障の出るような趣味は控えていますから、殺人事件の犯人は僕ではありませんよ」
『テメェは時々利口すぎるきらいがあるからな。たまには我儘も言っていいんだぜ?証拠程度なら綺麗さっぱり消す力が俺たちにはある』
「違うか、ウルフドッグ。狂犬と名高い組織の牙」とジンは静かに謳い上げた。
今日もポエムが決まってるなぁーとちょっとばかり現実逃避。
ようは「殺すんなら俺が手伝ってやるから言ってくれよな⭐︎」と言ってるわけだが、まったく好感度高すぎかよ私。
これは上っ面でも感謝の言葉を述べておかねばなるまいよ。
私はできる限りふんわりした声で親愛の情を伝えた。
イメージは飼い主にだけ懐いているドーベルマンだ。
「いつもありがとうございます、ジン。僕はいつもあなたに助けられてばかりだ」
『フン。次の飲み会は再来週の末だ。忘れるなよ』
「ええ、勿論です。次はちょうど魚が仕入れの日なので、新鮮な鯛のカルパッチョが出るそうですよ」
『……そうか。飲み会、楽しみにしている』
それだけ言ってブツリとジンは電話を切った。
ジンデレなんだよなぁ。
コナン君に聞かせたら宇宙猫になってそのまま帰ってこなさそうな字面の酷さだ。
オエー鳥のアスキーアートみたいな顔をした降谷さんを小突いて表に戻す。
降谷さんが心底吐き気を催すみたいな表情で吐き捨てた。
───塩撒こう塩。盛り塩でもいい
───ジンを疫病神みたいにいうのはやめましょう?僕らを嫉妬した下っ端が変な気を起こした時は率先して処分してくれてるんですよ
───でも厄介な任務持ってくるのもアイツじゃないか
───それはそうですけど
というか、ウルフドッグに嫉妬のあまり罠を仕掛けてくる下っ端とか、ガッツの塊すぎて逆に有望まであるんだけどなぁ。
などとどうでもいいことを考えつつ。
手錠をかけられて連れて行かれる犯人を見送りながら。
私たちは何食わぬ顔でポケットにスマホをしまって、部屋へと戻ったのだった。