バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】 作:ラムセス_
本日は米花デパートの最上階にあるレストランでベルモットとランチである。
本場ミシュラン二つ星を獲得したフレンチが食べられるとあって、客足の絶えない店だ。
有名ハリウッド女優が入るに相応しい格を持つ店というか。私が場違いというか。
意外とカジュアルな服装に身を包んだ「お忍び女優」そのものな姿のベルモットが、優雅に微笑んで私に話しかける。
「ねぇキティ、この後なんだけど」
「はい。買い物ですよね?もちろんご一緒させていただきますよ」
ベルモットは「ありがとうキティ。勿論、タダで付き合わせたりはしないわ。貴方の分の服も買ってあげるから」と心底嬉しそうにリップ音を響かせた。
また着せ替え人形か……。
バーボンの服のバリエーションが増えるのは喜ばしいことだが、散々試着を繰り返すのは結構な重労働なのだ。
降谷さんも中で知らんぷりするし。
ふと、運ばれてきた食前酒を軽く口の中で転がすベルモットの爪に目がいく。
「先週もその色のネイルをつけてらっしゃいましたね。上品であなたに合っている。ディオーラの春の新色ですか?」
「あら、よくわかったわねキティ。そうよ、この深みのある色が気に入ったの」
「香水も……ジャスミンが甘く香っていて、ネイルとよく合っている。流石ベルモット、ご自身の引き立て方をわかっている」
「ありがとう、あなたぐらいよ、この組織で私のこだわりをわかってくれるのは」
ベルモットが一段、上機嫌になった。
息を呑むようなプロポーションと妖艶な大人の美が香り立つ。
私のお世辞をベルモットは高く評価したようだ。
観察力が見えてGOOD、ということらしい。
下手な世辞は「あらそう、ありがと」で流されてしまうからな。
加点がされたのは素直に嬉しい。
少女のようにくすくすと笑ってマリネを口に運ぶベルモットは、至極リラックスしているのが分かる。
この人はハリウッド女優として、世界でも最高峰のものを山ほど触れてきた逸材。
その磨き抜かれたセンスは超一流だ。
学ぶことは数多く、特に「己をいかに周囲に見せるか」に関しては他の追随を許さないと言えるだろう。
降谷さんが、深層心理の底で心底嫌そうな顔をしてため息をついている。
───よくあんな腐った魔女と楽しくお茶会なんてできるな。心にもないおべっかも。吐き気がする
───ベルモットのこと本当嫌いですよねゼロは……比較的無害だし話のわかる良い幹部じゃないですか
実際、キャンティとかと比べてベルモットは穏当な方の幹部である。
キャンティなんかはマジで人を銃の的にすることしか興味がないからな。
銃弾的当て大会──的は私だ──で仲良くなることはできたが。
もしもがあれば嬉々として私に鉛玉をぶち込むことだろう。
ベルモットが優雅に私へと視線を向けた。
「ねぇキティ、あなた最近はどうなの?」
「どう、とは?」
「前は跳ねっ返りの下っ端によく絡まれていたでしょう?あなたのその甘いマスクに騙されたお馬鹿さん」
「ああ、そのことですか。それなら問題ありませんよ。僕にちょっかいをかけるとジンが激怒すると下っ端の間で話題になりましたから」
そう、バーボンは舐められやすい。
その原因は見た目が十割になるのだが、こう甘いマスクで童顔だと仕方あるまい。
バーボンとしてカジュアル系のスーツを着て黙ってればほぼほぼホストだったし。
どうせ見目で幹部に取り入って成り上がったのだ、と反感を募らせる底抜けの馬鹿が出てくるのも仕方ないと言えば仕方ない。
新人教育に使われているウルフドッグの残虐動画も、あまりに人間離れした映像だからか、「どうせフェイクの撮影もの」と舐められることが増えた。
私がまがりなにもルパンの一味ということがどういうことなのかまるで分かっていない馬鹿にはため息しか出ない。
それでも、何かにつけて下っ端を気軽にキルしていくジンという脅威は身近な分かりやすい脅威だ。
最近では組織内の規律の乱れを危惧したRUMの指示もあり、ジンが下手な動きをする組織員の処刑に動いて、問題は随分と減った方だ。
まあ、今もまだ馬鹿は残ってはいるが、相当ガッツのある奴だけだ。
逆にこのぐらいタフなら上へ取り立ててもいいんじゃないかと思う私なのである。
ベルモットは眉を顰めて大袈裟な調子で悲しそうな顔を作った。
「ならいいけれど。万に一つもあなたが傷を負ったらと思うと、私は心配でたまらないわ」
「ベルモット。あなたの心を僕が占めていると思えば、その心配も甘美なものではありますが……そう心を痛めないで。僕だって幹部の一人ですよ?この程度、問題にもなりません」
私もベルモットに合わせて甘く恋人にするように囁いてみせる。
言葉遊びの一環だ。
ベルモットの側もこれが可愛らしいじゃれあいの一環だと分かっている。
だからこそこんなにもリラックスして戯れ合えるのだ。
彼女も人の機微に聡いたちだ。
その分彼女と話していて随分と楽で、阿吽の呼吸で遊びも織り交ぜて会話を楽しむことができる。
ベルモットが私のことを気に入っているのは本心なのだろう。
私が感じているのと同じ心地よさをベルモットが感じているとするなら、だが。
食事が運ばれて来る。名も知らぬ凝った前菜が三つだ。
一つはサーモンを薄くスライスして何かを巻いている美しい見た目が特徴的。
滔々と流れるようにウェイターさんが解説してくれるが、具体的に何なのかはよくわからない。
ベルモットが食べているのを確認した後、そっと口に運ぶ。
滑らかに解けていくように旨みが口の中に広がる。
降谷さんが内側で感嘆の声を上げた。
───あー、ホタテとタラをムースにしたものをサーモンで巻いているのか
───凝ってますねぇ。こっちはエビと鰯の酢漬けをビスケットに乗せたものでしょうか。ワインに合いそうですね
───使う調味料と手の混み具合からしてとても家では再現できないが、こういうのを見ると悔しくなるな
勝手に対抗心を燃やす降谷さんが拳を握っている。
超高級レストランのフランス料理に並ぶものを作ろうとしたら、普通に本職のシェフになっちまうんよ。
ベルモットがふぅ、と憂い顔で俯く。
「それにしてもキティ、聞いたわよ。記憶がないんですって」
「あ、はい。RUMから連絡がありましたか?日常生活に支障はない程度ですから問題ありませんよ」
「気をつけるのよ。あなたには敵も多いんだもの。無理をせず、しっかり休養してコンディションを戻して頂戴」
こちらは先ほどと違い、割とマジの忠告だ。友人として心からの言葉というべきか。
これには私も身を小さくするしかない。
彼女は根はいい人、というには悪事を働き過ぎている。
だが、彼女が心配して私の任務を一部肩代わりしてくれているのも確かなのだ。
埋め合わせは後々しなければならないだろう。
「ええ。いつもベルモットには助けられていますから。それだけで十分すぎるぐらいです」
瞬間。
男の悲鳴がレストラン外の階段の方から響き渡った。
うーん、さっき視界の端に映ったような気がした少年探偵団は見間違いではなかったようだ。
漏れ聞こえて来る噂話に耳を傾ければ、どうやらシェフが刺されたようだ。
ベルモットがフォークを置いて席を立つ。
「帰りましょう、キティ」
「そうですね。あまり警察にあれこれ騒がれても面倒ですし」
会計を済ませ、するすると騒ぐ人並みをすり抜けていけば内側から降谷さんが話しかけてきた。
───いいのか
───さっきコナン君の姿をちらっと見ました。彼がいるなら任せてもいいでしょう
───そうか。彼も……つくづく死神だな、あの子。必ず事件現場にいるというか、事件の方から寄ってきている節があるというか
───探偵のあるところに事件あり。相思相愛ということなんでしょうね
───なかなか辛辣だな、お前
最近普通に人のことを言えない事件遭遇率になってきている気がしないでもないが、それはそれ。
私のせいではないので悪しからず、という奴である。