バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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鬼ごっこ

 

 その夜。

 K-23アジトにて、私は下っ端の接待を受けながら足を組んで革張りのソファに座っていた。

 

 ここは幹部など比較的高位の組織員が出入りする極秘中の極秘アジト。

 最近改修があったらしいが、それでも高級感がそこかしこに見えるのは変わらない。

 ソファの皮も本革だろうし、名のある職人が手作業で作った品だろう。

 

 向かいに座るのは隻眼の大男、組織のNo.2。

 コードネームはRUM。

 

 RUMはうっそりと目を細め、そのいつだって読みきれない片瞳に意志を込めた。

 

「それで、ここのところの調子はどうですか、バーボン」

 

 ねっとりとした声色はどこか試すような色が見えているようで、どうにも油断ならない。

 RUMは長年この組織に居ただけあって、ベルモットと同じく腹芸が非常にうまい。

 私が少しでもボロを出せば、そこからあらゆる秘密を探り出すだけの力がRUMにはある。

 

 私はできるだけ気軽な様子を保ち、肩の力を抜いて笑みを作った。

 

「あまり進展はありません。過去の記憶の想起に時間を要し、一部記憶はすっぽりと抜けている。期間は4年前の夏から2ヶ月前までの、約4年間」

「……そうですか」

「少しばかり記憶の想起にかかる時間は短縮しましたが…これは長期戦になりそうです」

 

 一応、今現在私たちは組織の手配する病院でも治療を受けている。

 

 既に公安でも病院に通っているが、それを公にできない以上、RUMの手前断るわけにもいかず。

 敵対組織への弱みにならないように極秘で手配されたそこへ通うこと数度。

 

 ただやはりというべきか、原因不明の記憶喪失は未だ回復の兆しを見せない。

 

 RUMがふむ、と顎に手を当てた。

 

「医療班には逐次報告をあげさせていますが、やはり原因はストレス性のものである可能性が高いとか。なにか心当たりはありますか?」

「いえ。……まぁ、そうですね。職務上派手に動けることが少ないのが玉に瑕ではありますが」

「やはり、そうですか」

 

 目の前の大男は得心がいったように頷いた。

 組織員が考える「バーボンのストレス」といえば、やはり自由に殺せる任務の少なさが一番に思い浮かぶことだろう。

 

 バーボンが人を解体すること、特に幼い子供を解体することを好むのは組織では有名なことだ。

 嘘八百とはいえ、それがNOCである真実から皆の目を背けることになっているのは間違いない。

 

 ただ、いくら黒の組織に敵が多いからって、敵対組織のアジトに直接攻め入って何十人も殺す任務が多いはずもない。

 

 殺し方的に暗殺任務はあまり向かないし、よって私ことバーボンの運用は核爆弾と同じ。

 見せ札、つまり牽制としての武力に終始しがちとなる。

 

 RUMがするりと手を挙げれば、後ろに控えていた下っ端が書類を私に差し出してきた。

 

「そこでものは相談なのですが、貴方の早期回復のために少しばかりこちらで用意したプログラムがあるのですが、試してみませんか?」

「プログラム?」

 

 渡された紙は期間と概要が書かれているのみ。

 期間は一年半。

 贄プログラム同意書?

 

 RUMはニコリとも笑わずに立ち上がり、部屋の端にあるスイッチを押した。

 以前はなかったボタンだ。改修の時につけられたのだろうか。

 

 目の前にある壁兼シャッターが開いていき、隣の部屋とつながったようだ。

 隣の部屋は野球スタジアムのような巨大な空間になっていた。

 いや、これは闘技場か。

 

 その中央に転がっているのは、今回使われる哀れな餌。

 手足を機械仕掛けの枷で縛られた名も知らぬ男女5名だ。

 

 黙ってことの成り行きを見守っていた降谷さんが驚愕と絶望に息を呑んだ。

 どうやら予想だにしていなかったらしい。

 私としては、記憶を失ったと報告してから「いつ来るだろうか」とビクビクしていたというのに。

 

 まあ、なんだ。

 つまり私のストレス解消のために、自由に掻っ捌いていい生贄が用意されたというわけだが。

 

「どうです?題目は健康維持の運動も兼ねて『鬼ごっこ』とする予定ですが、変更もできますよ」

「いえ、これで十分すぎるぐらいですよ。本当にいいんですか?獲物も安くはないでしょうに」

「貴方のポテンシャル維持のためならば、そこまで高い経費ではありませんよ」

 

 実に事務的にRUMは頷いた。

 これは個人的な親切というより「堅実な組織運営のために福利厚生を充実させた」みたいなニュアンスだ。

 

 持ってきた鉄爪を両手にはめて、ペロリと唇を湿らせる。

 癖になった笑み──恍惚とした悪辣なそれ──が自然と頬を歪ませる。

 

「スタートの合図は?」

「入場して扉が閉じればアラームが鳴りますので、それと同時に獲物の枷が外れます。獲物には『30分逃げ切れば自由にする』と言ってありますのでご自由に」

「制限時間は30分ということですか?それとも…」

「ええ。気の済むまでごゆっくり。30分を過ぎて絶望に翳る顔を嬲ってよし、競技性を楽しむもよし」

「わかりました。では」

 

 ─────お言葉に、甘えて。

 

 ゆっくりとホール中央へと歩み出る。

 かつ、かつ、と革靴の足音がホールに反響して、怯えた男女が距離を取ろうともがき出す。

 

 よく見ればあちこちに大量のカメラが設置してあるのが見えた。

 どうやら撮影もしているらしい。

 この動画を使って新しい商売販路の開拓も計画しているのかもしれない。

 

 背後で扉が閉まった。

 

 ビーーッ、とスタート合図を告げる無機質な電子音。

 同時に枷が落ちてモルタルの床に重い音を立てて転がり落ちる。

 

 被害者達は動けない。

 私を恐怖に満ちた目で見るばかりで、どうしていいのかわからないようだ。

 

 その中で最後尾の男が一人。

 突然、猛烈な勢いで後ろへと走り出した。

 「たっ、助けてくれぇぇえええ!!」と絶叫をあげて逃げようと先ほど閉まったシャッターの方へと突進している。

 それを皮切りに、わたわたと四方八方に逃げ始めた。

 

 それでも動けない、中央の妙齢の女性にまず踏み込んで。

 

「なんっヒギャッ!?!?」

 

 腹を掻っ捌き、中身を引き摺り出す。

 罪のない女性は崩れ落ち、ビクビクと不随意に痙攣して大量の血を噴水のように撒き散らす。

 

 私はその血を頬になすりつけ、妖艶に淫美に微笑んで見せた。

 

 心を殺せ。情を捨てろ。

 今、私に選択肢などないのだと理解しろ。

 ガタガタと手が震えるなど許されないと魂にまで刻み込め。

 

 RUMがこの話を持ってきた段階で、おそらく組織としてはこの催しは決定事項。

 断るには相応以上の理由が必要になる。

 それがない私に、できることは全力でバーボンを演じ切ることのみ。

 

 返り血を浴びてぐしょぐしょになった服が鉄臭くて不愉快だ。

 

 二人目。泣き喚く髪の毛をビビットカラーに染めた男性を心臓ごと刺し貫いて脊髄を引き摺り出す。

 三人目。中国語で助けを乞うているまだ若そうな女性の首を刎ねて全身に血を浴びた。

 四人目と五人目は壁の扉をこじ開けようとしていたから、そのまま壁に叩きつけるように血染にする。

 

───もういい、もういい安室

───………

───いいんだ。もう殺しただろ、これ以上する必要は、

───………、………

───安室!!!

 

 降谷さんの叫びが耳を打つ。

 彼の慰めを極力無視して。

 今はただ残虐な行為に身を浸すバーボンとして、愉悦すら己の心に映すよう暗示をかけて淡々と殺しをおこなっていく。

 

 だって、ここで足を止めたらもう私は立てないだろう。

 今立てなくなることだけは避けねばならない。

 私の護るべきは降谷さんである。

 優先順位を間違えるわけにはいかない。

 

 およそ五分足らず。

 全てを肉片に変えた私は、カメラを意識してものたりなさげに見えるよう足元の肉片を念入りに解体してみせる。

 抜き出した骨で少しばかり彫刻してみたり。

 背骨を綺麗に取り出してみたり。

 

 十分すぎるほど遊んでから、ようやく鉤爪を外した。

 同時に入ってきたのと同じ扉が開き、RUMが拍手と共に私を手招きした。

 

「お見事。どうでしたか、少しは気が晴れましたか?」

「ありがとうございますRUM。ちょっと運動不足ですがだいぶスッキリしましたよ」

「運動、ですか。難しいですね、予算的にこれ以上人数は集められませんし…」

 

 RUMが難しい顔をして眉を顰めた。

 ここだ、とすかさず言葉を繋ぐ。

 

「例えばなのですが、武器を持たせてはどうでしょうか?希望が出てきて獲物も生きが良くなりますし、僕もいいレクリエーションになります」

「危険なのはあまり賛成しかねますが……いいでしょう。少し執行部と協議します」

「お願いしますね」

 

 例えば贄が武器を持っていて「仕留め損ねた」なら、彼らを生かす道もあるかもしれない。

 その末路が死んだほうがマシとすら言えるものだったとしても。

 可能性があるなら、目指すのが私の義務だ。

 

 血でぐしょぐしょに濡れた髪をかきあげて、私はうーんと軽く背伸びをした。

 

「ところで、毛利探偵事務所の隣の寿司屋にバイトに来ていたそうですね」

「おや、耳が早いですね。毛利小五郎について調査をしたかったというのもありますが、貴方が心配になったので様子を見たかったんですよ」

「わざわざお手数をおかけしてすみません…ですがそこの子供…江戸川コナンにちょっかいをかけるのは無しでお願いしますね」

 

 私の言葉にRUMがすう、と目を細めた。

 

「ジンから報告は上がっていましたが…随分入れ込んでいるみたいですねぇ、その少年に」

「………」

 

 お前の弱みか、とでもいいたげな声色だ。

 これだからRUMは油断ならないのだ。

 私がコナン君を獲物として大切にしているとジンから聞いていて、その上で「情がうつったのではないか」と問うている。

 

 私は先ほどの殺戮の延長線上、人を人と思わぬ軽薄な笑みでもって応えた。

 

「ははは。接しているうちに情がうつってしまったのは否めませんね。養豚場の牧場主がいかに偉大か考えさせられましたよ」

「そうでしたか。それで、子供はどうする気です?」

「本当は5年の計画でしたが、3年に縮小する予定です」

 

 本来なら5年間親身に接して、仲良くなったところで収穫する手筈だったが。

 情がうつりそうなので3年で収穫するつもりだ、と。

 

 そのように、私は恥ずかしげな笑顔で返事をした。

 

 RUMの探るような視線が途切れる。

 どうやら納得したらしい。

 

「あまり入れ込まないようにしてくださいよ。貴方に弱点があるのは、私としても好ましくありませんから」

「勿論。でも、もし別の誰かに収穫を横取りされたら…ちょっと憂さ晴らしすることぐらい許してくれますよね?」

 

 甘えるように、ねだるように私はRUMにごろにゃんと鳴いてみせた。

 RUMが大きくため息を吐く。

 

「わかりました。その時は貴方に一任します。その代わり、仕事には響かないようお願いしますよ」

「勿論。公私混同はしませんとも。それでは、僕はシャワーを浴びてきますので失礼しますね。今回は僕のために場を設けてくださってありがとうございました」

「少しでも気晴らしになれば十分ですよ。それでは」

 

 RUMと別れ、シャワー室に直行する。

 すれ違う下っ端達が恐れ慄き、壁へ張り付いて私を避けようとする。

 

 内側で降谷さんがポツリと、あらゆる懺悔を混ぜ合わせたような声で言った。

 

───すまない

 

 謝ることなんて、何もないのに。

 

 




・RUM
社員満足度を上げようとしている良い役員。
給料も上がるし病気休暇も設けたし、ストレスチェックも欠かさない。
バーボンは組織には過ぎた兵器だと思っているが、居ないと色々な組織に舐められるので難しい舵取りを迫られている。

・バーボン
メゾン木馬のトイレで吐き戻してた。
胃液まで吐くので降谷さんが強制的に表に出た。
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