バーボンなオリ主と降谷さん【現在公安ルート連載中】   作:ラムセス_

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明日の更新はおそらくお休みです。


飲み会

 

 なんでも、今日から三日間、コナン君こと工藤新一は修学旅行で京都に行くのだそうだ。

 

 今朝、良い笑顔で工藤新一へと戻ったコナン君は上機嫌そうに旅行バッグを抱えて登校していった。

 何気に工藤新一の姿は初めて見る。

 

 もしかしたら記憶を失う前の私なら見たことあったかもしれないが、今の私に知る由もなく。

 ただ、彼は聡明でイケメン、程よく筋肉がついた姿は実に女の子にモテそうだなというのが第一印象だ。

 これならメディア映えもするだろう。

 

 なお、私は別件があるので京都へはいっていない。

 学友とのひと時を邪魔したくなかったというのもあったし、ジンとの飲み会とバッティングしていたからと言うのもある。

 

 夜。

 軽く支度してメゾン木馬の自宅に鍵をかければ、本日のお仕事スタートだ。

 つまり飲み会ってことだが、職場飲み会なので仕事のうちということで一つ。

 

 この程度の安アパートの鍵なんて降谷さんなら一秒もかからず突破してしまいそうだが、心配しても無駄だろう。

 中には納品予定の宝石花10個、時価総額にしていくらになるのか概算もしたくない高額品が詰まっているが……。

 まあ、盗まれたら盗まれただ。

 

───鯛料理、たのしみですね。今月のお通しは若竹中華炒めだそうですよ

───ジンとウォッカとの飲み会で料理なんてろくに楽しめないだろ。心にもないヨイショを連発して、反吐が出る

 

 降谷さんはイライラしているようだ。

 大抵は飲み会中降谷さんは暇なので読書や内職に勤しんでいるが。

 しかし、何かあった時のために一応は話している内容を確認していると聞いている。

 

───おべっか程度で組織に潜伏しやすくなるならそれ以上の妙手はないですよ

───それは、そうだが

 

 ぶすっと降谷さんが不機嫌そうに深層心理の内にある座卓に肘をついた。

 自分の顔で飼い主に懐く子犬みたいに振る舞われるのが嫌なのだろう。

 だがそれは仕方ないと諦めてもらうしかない。

 

 思えば原作バーボンもジンと仲が良さそうにはとても見えなかった。

 根本的に人嫌いのプライドエベレスト男な降谷さんだ。

 表面をなぞる以上の人付き合いをしようとするのは難しいのだと思われる。

 

 約束の店に着くと、時間は集合時刻の10分ほど前だった。

 先に入って席につき、メニューを確認して美味しそうなものをピックアップしていく。

 それと最近のジンの勤務をもう一度確認して、話題になりそうなものを脳内で列挙した。

 下準備はこれで完了。

 

 席について五分ほどすると、ウォッカが私に少しばかり遅れてやってきた。

 ウォッカは走ってきたのか額に浮いた汗をハンカチで拭い、ニカっと顔つきに見合わない明るい笑みを浮かべる。

 

「お、バーボンじゃねぇか!早いな!」

「ウォッカ!お久しぶりですね、健勝そうでなによりです」

 

 隣の席について、ウォッカがふぅーむ、とメニューを吟味した。

 おそらく本日のメニューにジンの好みそうなものがないか確認しているのだろう。

 

 カウンター席に黒づくめかつサングラスのウォッカが座ると、どうにも圧迫感が拭いきれない。

 

「聞いたぜ、ジンの兄貴から。オメェ記憶喪失なんだって。本当に大丈夫かよ」

「ええ。体が覚えているのか、任務には特段の問題はありません。ウォッカの値千金の教えを思い出せないのは惜しい気持ちでいっぱいですが…」

「はっ、そんなんまた教えてやっから、気にすることはないぜ!兄貴だってオメェのことは心配してる。オメェは自分の体調の心配だけしてりゃいいんだよ!」

「ウォッカ……」

 

 あったけぇなぁ…幼馴染ウォッカ概念はありがたいの一言だ。

 

 なお、降谷さんは中で南極も身震いな極寒の冷笑をしているものとする。

 「お前如きが俺の何を知っているんだ?」って、気持ちはわかるがステイ、ステイ。

 親身になってくれる分にはこちらはありがたい限りなのだから、文句をつけない。

 

 特にウォッカは万能型で各種スキルの宝庫で、教えを乞う人間としてはこれ以上ない人材だ。

 鍵開け、諜報の基礎から人事総務スキル、組織運営の基本まで学びになるスキルはよりどりみどり。

 

 私がまだ新入りだった頃に彼の元に付けたのはこの上ない幸運だった。

 私のことを見どころありと見たウォッカがあれこれと教えてくれたおかげで、トントン拍子に成り上がることができたし。

 

───というわけなので、ええ。ウォッカは有用性の塊です。ジンが連れ歩いてるのも納得の超有能人材なんですよ

───そうか

 

 私の力説に、降谷さんはフーンという興味なさげな顔をした。

 いかにも「俺の方が各種スキルは上だ」とでもいいたげだ。

 少なくとも人格的な扱いやすさは降谷さんより上だよ、という言葉が喉まででかかるがお口にチャック。

 

 これを言ったら、私は深層心理の屋敷から前言撤回するまで閉め出されることになるからな。

 言わぬが吉というものだろう。

 

 そうしていくつか雑談を続けることもう5分。

 

 約束の時間ぴったりに現れたジンは、私たちの姿を見つけて凶悪に微笑んだ。

 一人二人ぶっ殺したような笑顔だが、これは単純に嬉しいだけだろう。

 

「遅れて悪ィな、バーボン、ウォッカ」

「いやいや兄貴!俺らが早く着きすぎちまっただけで兄貴の気にすることじゃねぇや!なっ、バーボン!」

「ええ。イタリアの任務もお疲れ様でした。蜻蛉返りで今までずっと飛行機の中だったでしょう?お疲れではありませんか?」

 

 私の言葉に、ジンは「フン」と鼻を鳴らしただけだった。

 これは心配してくれてありがとう、少し疲れたが俺は問題ない、ぐらいの意味合いだ。

 

 ジンのために椅子を引いたウォッカがそのままメニューを差し出す。

 店員さんかよという手慣れた動きだ。

 

 いくつか注文すると、目の前の寡黙なオヤジさんというような見た目のマスターが奥へと引っ込んでいく。

 この人も組織の息がかかっている人らしいが、作る料理が絶品なんだよな。

 組織ってシェフの採用とかやってるんだろうか。

 

 ジンが最初の一杯を口に含んだのを見て、私たちも同じく酒を飲みにかかる。

 

 ジンはチラリと私を見てから、既に上機嫌そうな様子を隠しもせずにニヤッとしながら私に話しかけてきた。

 

「それにしても、だ。K-23のホールでRUMが主催したっていうイベント、動画を見させてもらったぜ」

「………ああ、あの」

 

 一瞬、反応が遅れてまった。

 

 ジンとウォッカが気にした様子はない。

 少しばかり油断した。RUMが相手でなくて本当に良かった。

 

 私は一段、気を引き締め直して強く瞬いた。

 ジンがもう一口酒を口に運ぶ。

 

「RUMの取り組みは評価する。だが、どうしてもウルフドッグへの理解が足りてねぇのが気になってな」

 

 渾身のドヤ顔と共にフッと笑った。

 「おお、さすが兄貴!」ととりあえずウォッカが持ち上げる声を背景に滔々とご高説を垂れ始める。

 

「狼犬は野で自由に狩りをするもんだ。檻に入れて活き餌を与えるなんざ、テメェの良さを殺す害にしかならねぇよ。そうだろう、バーボン」

「なるほど!兄貴の言うとおりですぜ!!RUMも耄碌したもんだ!」

 

 わあっと場が盛り上がった。

 ちっともわからんが私も「ジンはいつだって鋭い!」とやんややんやと囃し立てる。

 

 前回も前々回も終始この調子なので、ジンの機嫌は良くなるばかりだ。

 野で自由に狩りって何だ。私は何をすればいいんだ…ポエムレベルが高すぎる……。

 

───抜かせ、犯罪者風情が。安室がどんな思いで、あんな非道を為したと思っている

 

 降谷さんが深層心理で、憎しみすら籠った声色でつぶやいた。

 言い訳のしようもなく、私こそがその犯罪者であると分かって、それでも消えぬ憤りをもって怨嗟の声をあげている。

 

 ジンが最後の一口を傾けて口の中で転がした後、鷹揚に言葉を紡いだ。

 ジン、酒のペース早いな。相当ご機嫌のようだ。何かあったのか?

 

「だが、あの頭蓋骨の彫刻は見事だった。安全圏だからこそできる美ってのは確かにある」

「あ、俺も見たぜバーボン!やっぱ美的センスあるよなオメェ!」

「あの時僕が獲物の頭蓋骨に彫った本人の死に顔ですね。あれ、下っ端が回収していきましたけど結局どうなったんです?」

 

 あの時私が演出で作った人骨でできた彫刻作品のことだ。

 シャワーを浴びたあと出てきたところで、回収してケースに入れて運んでいる下っ端を見たのだが。

 もしかしたら闇の市場で芸術品として売りに出すのかもしれない、とその時は思ったものだ。

 

 流石にあんな悪趣味なもの売れないような…いやワンチャンやばい好事家がいる気も…うーん。

 

 ジンが運ばれてきた旬の若竹煮を一つ摘んでいる。

 おっ、私も貰おう……おお、美味しい。

 この絶妙な濃い目の味付けが酒に合うんだよな。

 

「シリーズものにするらしい。次からは少しテメェの殺しに注文がつくはずだ」

「あー、死に顔の刻まれた頭蓋骨を一揃い作ってセットものとして売るんですね。RUMも商魂逞しいなぁ、売り先はもう決まってるんでしょうね」

「伝手を辿ってその日に話を付けたそうだ。しばらく窮屈な思いはするだろうが、軽い仕事の一環と思って取り組め、ウルフドッグ」

 

 酷薄そうな面だというのに、やや眉を下げて申し訳なさそうにすると実にしょげかえって見える。

 キューキュー鳴く犬を忙しくて構ってあげられない飼い主みたいな様相だ。

 私のイメージ戦略が完璧すぎて自画自賛な今日この頃。

 誰が犬やねん、とセルフツッコミする内心を知るものは降谷さんだけである。

 

 そうしてしばらくは話をして、夜も段々と更けていった。

 

 月が煌々と輝く夜、日付が変わった頃に私たちは解散した。

 明るい夜だ。

 月を見上げれば、肌寒い風が背筋を撫ぜる。

 

 ジンたちと話した内容が頭の中で反響して、ゆっくりと心に沁みてゆく。

 

 あの被害者たちがどうやって調達されたのか。

 どのように廃棄され、家族がどんな思いをして、今どう嘆いているのか。

 それら全てが「作品」の背景として消費される事実を、嗤いあって酒のつまみにして。

 

───疲れましたね。帰ったらシャワーだけ浴びて、すぐ寝ましょう

───そうだな。俺がシャワー浴びておくから、お前は中で先に寝てていいぞ

───いいんですか?…それでは、お言葉に甘えて

 

 優しげな降谷さんの声を最後に、私は深層心理に入り、倒れ込むようにベッドへと身を沈めた。

 

 ごめんなさい。ごめんなさい。

 謝って済むものではないのに、届かない無意味な懺悔を繰り返すことしかできない。

 

 

 

 魘される思考の裏で、降谷さんがそっと私の額に手を当てたのがわかった。

 




・ジン
死に顔頭蓋骨彫刻の存在を聞いてRUMに直談判したが、その時には既に販売先が決まっていたのでしょぼくれて帰ってきた人。
まぁでもどうせ活き餌で遊んでただけでウルフドッグの本懐とは違うし…ウルフドッグの良さをわかってるのは俺だけだし…(捨て台詞)
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